82.兄ちゃん、魔法が気になる
「本当にソウタくんは変わっているね。私なんて食器魔法って言われているぞ」
「へへへ、いつも助かっています」
この世界にあるのはほとんど平皿ばかりだ。
コンラッド団長にはいつも新しい食器を作ってもらっている。
「青翼騎士団長をそんな使い方するなんて、末恐ろしい」
「後務騎士の一人もソウタの手にかかれば有能な使い手になるからな」
リヒャルト殿下とコンラッド団長はきっとキッシュさんの話をしているのだろう。
木魔法って植物関係の成長を促す便利な魔法だ。
僕たちが孤児院の管理を任されるようになったら、あの大きな庭で家庭菜園をするのもいいね。
自給自足ができれば、食費も減るし、そのまま農家として仕事をする未来があるかもしれない。
「さっきの話に出た後務騎士は何魔法の使い手なんだ?」
「キッシュさんですか? 彼は木魔法を使えるって言ってましたよ」
「木魔法か……」
ユリウスさんにキッシュさんの魔法を伝えると、苦い顔をしていた。
そこまで木魔法は魔法の中でも使い勝手が悪いって印象なんだろう。
「美味しいパンを作るために、天然酵母が必要だったので木魔法で助けてもらいましたね」
「くくく……ってことはパン魔法か」
リヒャルト殿下は手で口元を隠して笑っていた。
頑張って隠そうとしてもバレているからね。
「パン魔法ではなく、天然酵母魔法です!」
キッシュさんの魔法は僕にとってかなり助かる魔法なんだからね。
「まぁ、ソウタが作るパンは貴族が食べるものより格段に味と食感が美味しいからな」
コンラッド団長の言葉にバリーさんとエリオットさんは大きく頷いていた。
やっぱり兄弟だから似ているんだね。
「ほぉ、それは私も食べないといけないな」
あぁ、リヒャルト殿下がさらに興味を示しているよ。
リヒャルト殿下、宰相、財務卿と僕は城に営業に来たのだろうか。
「黒翼騎士団と青翼騎士団の分を作るってなると、酵母の発酵が間に合わなんいですよね……」
キッシュさんのおかげで、天然酵母ができる時間が半分に短縮された。
そこまで結果を出していたら、天然酵母魔法と言ってもいいでしょ?
チラッと見ながら、そんなにお弁当は作れないと遠回しに伝える。
「そうか……」
おっ、これは良い反応だぞ。
「ならコンラッドの分を私のところに持ってきてくれ」
「はぁん!? 唯一の楽しみを奪う気か!」
コンラッド団長はリヒャルト殿下の襟元を掴んで振り回していた。
リヒャルト殿下って思ったよりもお茶目な人のようだ。
レオのお店を紹介しようと思ったけど、急に王族が来たら腰を抜かしてしまうだろう。
せっかくハンナさんの病気が治ったのに、ギックリ腰にでもなったら、さらに手が回らなくなる。
「ソウタ、また何か考えてないか……」
「魔法師団で便利そうな魔法を見つけようとしているのかもしれないですね」
エルドラン団長とエリオットさんは、僕のことを家電量販店に来た人だと思っているのだろうか。
さすがにそんな失礼な人間じゃないよ。
もうここは諦めて、コンラッド団長のパンをリヒャルト殿下に渡そう。
もしくはキッシュさんにたくさん働いてもらおうかな。
「ユリウスさん、少し魔法について質問しても良いですか?」
「構わないですよ」
せっかくだからユリウスさんに気になっていることを聞くことにした。
「木魔法と治癒魔法って似てますよね。同じような原理ですか?」
「それは私を侮辱しているのか? 木魔法と一緒にしてもらっては……少し困るぞ」
ユリウスさんは眉間にシワを寄せた。
ただ、すぐに表情を戻した。
チラッとエルドラン団長の顔を見たら、任侠映画に出てきそうな顔をしていた。
それもエルドラン団長だけではなく、会議室にいるほぼ半数がユリウスさんを睨んでいる。
「僕の言葉が足らなかったですね」
僕が謝るとユリウスさんも納得したのか、腑に落ちた顔をしていた。
「木魔法は植物の成長を促しますよね。さっき使った治癒魔法は皮膚細胞の成長を促したんですよね」
「……皮膚細胞の成長とは?」
「えーっと……皮膚って、下で新しい細胞が作られて上に押し上げられ、最後は垢として剥がれるんですよね。だから治癒魔法でムズムズしたのは、その再生が一気に進んだせいで――」
気づいた時には僕の肩をユリウスさんが掴んでいた。
ユリウスさんの目が黒翼騎士団の騎士たちが料理を目の前にした時と同じだ。
まるで獲物を狙うような獣――。
その目は、好奇心で理性を焼き切った者。
「よし、今すぐに魔法師団の研究所に――」
「おい、ちょっと待った!」
僕の体をエルドラン団長が掴み、ヒョイっと持ち上げた。
「ソウタを渡すわけにはいかない」
「魔法師団にも目をつけられたら厄介ですからね」
エルドラン団長とエリオットさんがユリウスさんを睨みつける。
いや、正確に言えばこの会議室にいる他の人たちを見ていた。
まるで俺たちのソウタを奪うなと言いたげな――。
「俺たちのソウタだ」
「私たちのソウタです」
……うん。気づいたらすでに言っていたね。
僕は二人を安心させるために何度も伝えているが、いなくなると思っているのだろうか。
「これでソウタの用事は済んだな?」
「ええ、エルドラン団長。今すぐに帰りましょう」
僕はそのままエルドラン団長に抱えられながら、会議室を後にしていく。
せめて挨拶をした方が良いかと思い、手を振ると全員が手を振りかえしてくれた。
みなさん、良い人たちでよかったですね。
急いで帰ることになったため、どこかに寄ることもなく、僕たちは貴族街を歩いていた。
「エルドラン団長、そろそろ下ろしていただいても大丈夫ですよ?」
「何言ってるんだ? ソウタは気づいた時にはどこかに行くし、誰ふり構わず声をかけるだろ」
「まるで僕がナンパしているみたいですね」
僕はエルドラン団長の肩でジタバタする。
別に僕から声をかけているわけではない。
ただ、魔法に関しては知らないことばかりだから、色々と気になっちゃうだけだ。
あわよくば新しい家電製品……いや、家事魔法が見つかるかもしれないからね。
とりあえず治癒魔法が便利なのはわかった。
孤児院の子どもたちは元気いっぱいだから、すぐに治療できるように救急箱として在籍してもらいたいぐらいだ。
「エルドラン団長、またソウタが考えごとしてるますよ」
「くっ……お前ってやつは!」
考えごとをしていた僕の脇腹をエルドラン団長はくすぐる。
「あひゃひゃ!」
僕の笑い声が貴族街に響く。
「やめてくださいー。ここは貴族街なんですからね」
「ははは、俺たちは元々嫌われ者なんだから気にすることない」
エルドラン団長は楽しくなってきたのか、僕をずっとくすぐってくる。
だけど、何度もするとかゆみよりも、痛みを感じてくる。
それにいくら嫌われているからって静かな貴族街で、はしゃいでいたら周りに迷惑をかけてしまう。
映画館では私語厳禁と同じようなものだ。
「やめて……エルドラン! ご飯抜きです!」
僕が声を張ると、エルドラン団長の動きが止まる。
やっぱりご飯抜きなのが効いたのだろう。
「エリオット聞いたか?」
「ええ……」
なぜかエルドラン団長とエリオットさんはお互いに目を合わせていた。
そんなにご飯抜きって言ったことが驚くことだろうか。
たまに言っている気がするんだけどね……。
「ははは、やっとソウタが俺の名前だけで呼んだぞ」
「いつもはエルドラン団長でしたからね」
そんなにエルドラン団長は〝団長〟って呼ばれるのを気にしていたのか。
確かにエリオットさんはエリオット副団長ではないし、みんな〝さん付け〟で呼んでいるね。
「わーい、今日はお祝いだー」
気づいた時には僕の体は宙に浮いていた。
その後も黒翼騎士団の庁舎に戻るまで、僕はエルドラン団長に投げられていた。
今日ぐらいは我慢してあげよう。
「ああ、投げられ過ぎて吐きそうだな」
段々と視界がクルクルしていた。
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