77.兄ちゃん、黒翼騎士団の庁舎に帰る
気絶して床に倒れている犯人。
それに怯える孤児院の夫妻と孤児たち。
何かあったのかと土壁の奥からカイの声が聞こえてくる。
「みなさん、そこに座ってください」
僕はすぐに目の前に座らせる。
もちろん――。
「正座です!」
「イエッサアアアアアア!」
黒翼騎士団の騎士は怒られるのに慣れているのもあるため、誰一人文句も言わず正座をしていた。
その姿に青翼騎士団の騎士たちも驚いている。
「青翼騎士団も正座です」
「えっ……私たちもなのか?」
戸惑うコンラッド団長たちも見よう見まねで正座をする。
「バリーさんはここ!」
「あっ、はい!」
ひっそりと座っていたバリーさんを目の前に座らせる。
この人には本当に振り回されたからね。
「演技するなら一言何か言っておいてくださいよ」
「ははは、騙された方が悪いんだ」
ニヤリと笑うバリーさんに僕は呆れる。
本当にこの人は変わらないね。
だけど、この人がいなければ犯人が黒翼騎士団の中にいるか確認できなかっただろう。
一番の功労者はバリーさんで間違いない。
「バリーさん、助かりました。ありがとうございます」
僕は優しくバリーさんを抱きしめた。
まぁ、正座しているバリーさんは僕と同じくらいの背丈だから、頭を抱きしめる形になっている。
「おっ……おう」
「珍しく素直ですね」
「うっせーよ!」
どうしたらいいのかわからず、戸惑うバリーさんに少しクスッとしてしまう。
相変わらず彼はツンデレ猫さんだ。
エリオットさんに叩かれたのか、バリーさんの目元は少し腫れていた。
代わりに仕返ししてくれたから、僕の気持ちもどこかスッキリしている。
「ソウタ! 私も頑張りました!」
「そうっす! 俺たちも褒めてくださいよ!」
バリーさんを押し出すようにゼノさんとジンさんがやってきた。
感電して身なりもボロボロなのに満面な笑みで嬉しそうに正座をしている姿に呆れてしまう。
「本当にバカなんだから……。ゼノさん、ジンさんありがとうございます」
でも、僕のために戦ってくれたのは事実だからね。
僕が抱きつこうとしたら、ゼノさんから飛びついてきた。
「本当に無事でよかったああああ!」
たくさんの涙を流すゼノさんはいつもの甘えん坊モードだ。
ジーッと見つめるジンさんに微笑みかけると、彼も飛びついてきた。
「今日の夕飯は肉じゃががいいっす!」
さっきまで命がけで戦っていたとは思えないセリフだ。
やっぱりジンさんは食べることしか考えていなさそうだね。
その後も助けにきてくれた騎士たちにお礼を伝えていく。
ただ、エルドラン団長とエリオットさんの順番になると、二人は不満な顔をしていた。
「ソウタ、何で俺たちを頼ってくれなかったんだ? 黒翼騎士団を疑ってたんだろ?」
「……うん」
黒翼騎士団の中に犯人がいるかもしれない。
そんなこと、誰にも言えるわけがなかった。
「それでも俺には言えただろ。そんなに俺は頼りなかったか?」
「さすがにバカな兄さんに頼むとは、私も思わなかったですけどね」
二人に文句を言われても仕方ない。
僕は黒翼騎士団に所属している騎士だからね。
でも、家族に奴隷売買をしている人がいるとは疑いたくなかった。
僕は顔を上げて、二人の顔を見る。
その表情に僕は息を呑む。
本当に僕を心配している顔だった。
まるでいつも僕を優しく見守っていた両親のようだ。
その瞬間、胸の奥に押し込められていたものが一気に溢れ出てきた。
「僕だって……どうしたらいいのかわからなかったよ! 大好きな家族が悪いことをしていたら、止めなきゃいけない。でも疑いたくないし……ずっとずっと大変だったんだからね!」
堪えていた涙が目から溢れ出てくる。
本当は毎日ずっと一人で悩んで辛かった。
バリーさんがいたからどうにかなったけど、カイがいなくなった時はどうしたらいいのかわからなかった。
「ならすぐに俺に言えよ! お前は俺の弟分だ。そういう時こそ頼れよ。俺が殴り込んで解決してやるぞ!」
「エルドラン団長、それはどうかと思いますよ。でも、一人で抱え込まなくていいんですからね。今度は私たちがソウタに返す番です」
泣きじゃくる僕をエルドラン団長とエリオットさんは抱き寄せてくれた。
僕がどうにかしないといけないと思っていたけど、頼れる人たちが身近にいた。
弟みたいに思っていたけど、守られていたのは僕の方かもしれない。
これからはなるべく相談するようにしよう。
彼らは僕の大切な家族であり、弟のようで時には両親のような存在だと知った。
「もう今日は休ませた方が良いだろう。ここの処理は私たちがやっておこう」
コンラッド団長とキッシュさんは犯人や孤児院の夫婦を逃げないように縛り付けていく。
土壁が消えると、すぐにカイは部屋の中に入ってきた。
「ルカ!」
「兄ちゃん!」
カイは必死にルカに傷がないか確認すると、泣きながら嬉しそうにルカを抱きしめていた。
みんな本当に無事でよかったね。
「じゃあ、俺たちも帰るぞ」
そう言って、エルドラン団長は窓から飛び降りた。
「……えっ? ここから帰るの?」
「ソウタは私が抱きかかえるから、心配しなくていいですよ」
ゼノさんは僕を優しく抱きかかえた。
いや、そういう問題でもないとは思うけどね。
「そういえば、背中の傷は誰にやられたの?」
「あー、えーっと……」
「言わないと一生離さないよ?」
ジーッと見つめるゼノさんの顔がどこか怖かった。
それにまるでプロポーズみたいな言葉は僕に言うものではない気がする。
「孤児院の女性です……」
「よし! ぶっ殺す!」
ギロリと睨みつけるゼノさんに孤児院の女性は気づき震えていた。
またここで問題を起こしても大変だ。
「ゼノさん、僕は早く帰りたいなー。一生離さないって言ってたのは嘘――」
「嘘じゃないです。すぐに私たちの愛の巣に帰りましょう」
……うん。きっと選択肢を間違えた気がする。
このままだとゼノさんだけ、すぐに悪役になりそうだ。
ゼノさんがそのまま窓から飛び降りようとしたら、孤児院にある木の上でアルノーさんが手を振っていた。
エルドラン団長が入ってきたタイミングがよかったのは、あそこでアルノーさんが見張っていたからだろう。
軽い衝撃とともに孤児院の庭に降り立った。
近くに台があったから、そこから飛び乗ってきたのだろう。
「さぁ、今日から二人だけ――」
「ジンさんー! ゼノさんを止めてもらわないと肉じゃがが食べれませんよー」
「それは困るっす! ほらゼノいくぞ!」
黒翼騎士団の庁舎とは別のところへ歩き出そうとするゼノさんをすぐに止めてもらう。
「ソウタは俺が運ぶからな」
「いえ、ここは私の方が安心でしょう」
すぐにエルドラン団長やエリオットさんが僕を運ぼうとするが、怪しい雰囲気が周囲に漂う。
「団長たちばかりずるいですよ」
木から降りてきたアルノーさんもあまり話さないのに、今回に限ってはちゃんと意思を伝えていた。
ただ、僕を運んでくれるのは誰でも構わないよ。
「そーだ! そーだ! 俺もソウタを運ぶぞ」
「今日こそは俺たち番だ!」
活躍できなかった騎士たちが声を上げる。
本当に僕は誰でも構わないよ?
それに歩こうとしたら、普通に歩けるからね?
「それならみんなで運ぶのはどうですか?」
「よし、みんなで運んでいくぞー!」
「「「おー!」」」
気づいたら僕を神輿のように担ぎ上げ、黒翼騎士団の庁舎に帰ることになった。
あー、思いっきり商店街の真ん中を通るけど……。
「まぁ、今日だけはいいか」
僕は大切な家族たちに守られながら、今日も黒翼騎士団の庁舎に帰っていく。
これで第二章も終わりです。
なんと……日間ランキングに載りました!!
ここでしばらく更新中断しようとしましたが、続けないといけないパターンに笑
せっかくなので、ここまで読んだ人は評価をしていただけると嬉しいです| |д・)




