76.兄ちゃん、やっぱりおかんは最強
窓からはたくさんの黒翼騎士団の騎士たちが乗り込んでくる。
「貴様、ソウタを誘拐するとはな……覚悟しろ!」
エルドラン団長が僕たちの元へ近づいてくる。
一歩足を出すたびに地面が揺れるような気迫にバリーさんは後退りする。
「いくらバカな兄さんでも今回ばかりは許さないです」
エリオットさんの顔からも普段の優しさはなく、本当に兄であるバリーさんを殺しそうな勢いだ。
僕は逃げるようにバリーさんの腕から下りる。
「おい、ソウタ助けてくれ!」
「僕を騙した罰は受けた方がいいよ?」
「なっ!?」
バリーさんにはお仕置きが必要だからね。
僕の言葉にエリオットさんもバリーさんが味方だって気づいているはずだ。
「やっと兄さんを本気で潰すことができるね」
「おおおい! エリオット止まれ!」
たまには兄弟喧嘩も必要だね。
それよりも今は大事なことがある。
「犯人はあいつらだよ!」
僕は逃げ出そうとしている白翼騎士団の男と孤児院の夫婦を指差す。
それに気づいた、ジンさんやゼノさんたちがすぐに駆け寄る。
――バチン!
「私に近寄るとこいつらがどうなるかわかっているのか!」
しかし、周囲に光りを放ちながら音を立てる。
目では確認しにくいが一瞬だけ、稲光のようなものが見えた。
「それで脅しているつもりですか? ソウタを誘拐するのは私の役目だ!」
「ゼノ、ソウタを誘拐したのはあいつだぞ?」
「そんなことはどうでもいい。全員殺せばいいからね」
エルドラン団長も物騒だと思ったが、一番危ないのはゼノさんかもしれない。
……いや、彼が危ないのはいつものことか。
「私は伯爵家だ。お前たちみたいな平民――」
「何を言っている。私は公爵家だぞ? もう言い残すことはないかね」
剣を抜いたゼノさんは普段とは異なり、キリッとしている。
あれが騎士として戦う時の姿――。
「おい、ゼノ。ソウタの前でカッコつけようとしているだろ」
「一緒に魔物討伐へ行けてないから別にいいだろ」
やけにチラチラとゼノさんの視線を感じるのはそういうことか。
魔物討伐に行ってからも、僕と一緒に外で魔物討伐のデートがしたいって言ってたもんね。
「二人とも早く! 逃げちゃいますよ!」
「「なに!?」」
扉から逃げようとしていた孤児院の夫妻の前に大きな土壁が現れた。
「お前ら勝手に窓から入って行くからびっくりしたぞ」
「ソウタ先輩、お怪我はないですか」
今度は窓から青翼騎士団のコンラッド団長とキッシュさんが現れた。
なぜみんな窓から入ってくるのだろうか。
それにここは二階だったよね?
二階から降りるのは簡単かもしれないけど、登って入るのは難しい気がする。
そっちの方が僕はびっくりだ。
二人は僕の元へ駆け寄ってきた。
「やっぱりブラックマーケット伯爵家が裏で奴隷売買をやっていたのか」
「ブラックマーケット伯爵家ですか……?」
コンラッド団長の言葉に僕は首を傾げる。
名前からして明らかに奴隷売買をしていそうだ。
「ああ、あの騎士の家名で、この孤児院を運営担当になっている貴族だ」
「運営から直接関わっていた……あれ? コンラッド団長は何で孤児院が奴隷売買していること知っているんですか?」
そもそも黒翼騎士団のみんなは僕を助けにきただけで、奴隷売買を止めに来た様子はない。
コンラッド団長は元から孤児院が気になって調べていたのだろうか。
「あー、この間君が質問してきたのが気になってたからな」
コンラッド団長は気まずそうな顔をしながら、隣にいるキッシュさんを見ていた。
僕の異変をすぐに察知したのはさすがだ。
うちの食いしん坊騎士団長とは違うね。
「おっ、エリオットいけいけ! バリーはもうちょっと次の一手を考えて避けろよ!」
「エルドラン団長はどっちの味方なんですか!」
「俺か? 俺はソウタの味方だな」
今もエリオットさんとバリーさんの喧嘩を横で楽しんでいる。
「コンラッド団長を呼んだのは俺です。路地裏であの少年たちと話しているのを聞いたことがあったので……」
どうやら僕がカイやルカと話していたのをキッシュさんが聞いていたようだ。
僕と一緒に行動することが多いから、知らない間に付いてきたのだろう。
「もう逃げられないっすよ!」
ジンさんは犯人を追い詰めるが、周囲に稲光が走る。
青白い雷が床を走り、火花を散らした。
「雷魔法は厄介だな」
どうやらさっきから周囲を囲っているのは魔法らしい。
コンラッド団長も犯人の魔法に解決策を思いつかないようだ。
さすがに黒翼騎士団でも突っ込むバカはいないだろう。
「ソウタ、見ててねー!」
そう言って、ゼノさんは犯人に突っ込んでいく。
「ゼノさん!?」
「ソウタへの愛を……あばばばば!」
そのまま触れたゼノさんは、その場で思いっきり感電した。
「ゼノさんはバカなのかな?」
「あの人はバカか?」
僕とキッシュさんの声が重なる。
いくら何でも直接突撃したら、誰でも危ないのはわかるだろう。
「ゼノ、いい加減にしろよ」
「だってソウタにかっこいい姿見せたかったもん」
ジンさんがゼノさんを引きずって戻ってきた。
あの魔法をどうにかしないと、犯人は捕まえられないのだろう。
「白翼騎士団の魔法はどれも高火力だからな」
攻撃性の強い魔法を使える人や貴族のお偉いさんたちが白翼騎士団に所属しているのかもしれない。
ただ、解決する方法は僕の目の前にいる。
「コンラッド団長の土魔法であれ防げますよ?」
「……なに!?」
コンラッド団長は驚いて目を見開いていた。
貴族でも勉強が足りないことも多いのだろう。
さっき突撃したゼノさんも貴族なんだけどな……。
「例えば土の柱を出せば、雷を床に逃がせますよ」
「よし、それなら――」
「ソウター! 私はやっぱり役に立たないのか!」
ゼノさんが僕に抱きついてきた。
「うっ……」
ただ、強く抱きしめすぎて背中を叩かれた傷が痛む。
「ソウタ……?」
あまりにも我慢できず顔に出ていたようだ。
僕の表情を見ていたゼノさんは、僕をクルリと向きを変えて背中を確認する。
一番見られたらいけない人にバレてしまったようだ。
「ソウタに傷……てめぇ、ぶっ殺してやる!」
「俺たちのソウタになんてことを……許さないっす!」
ゼノさんとジンさんはすぐに剣を抜いて走り出した。
そして、僕の傷を見ていた人たちは二人だけではなかった。
「やっぱりあいつを殺さないといけないようだな」
「兄さんの相手よりあっちの方が先ですね」
「お前ら、いくぞー!」
「うおおおおお!」
黒翼騎士団の声が重なり、雷魔法に次々と黒翼騎士団の騎士が突っ込んでいく。
みんなさっきゼノさんが感電したのを忘れたのだろうか。
……いや、あの様子だと絶対忘れている。
「ぶっ殺す! お前の股間を切り取って、町中に飾ってやる」
当の本人も我を忘れて気にしていなさそうだし、今は近づいたらダメな気がする。
「あいつら大丈夫か?」
「体は丈夫そうですが危ないですよね……」
あまりにも危険な状況に僕も唖然としてしまった。
コンラッド団長は手を前に突き出す。
「コンラッド、手を出すな! これは俺たちの問題だ!」
「ソウタは絶対俺たちが連れて帰るっすよ!」
「死ね死ね死ね死ね死ぬ死ね!」
電気を全身に帯びた騎士たちはまるでゾンビのように倒れては手を伸ばしていく。
「お前ら……なっ……なんなんだ!」
「俺たちは黒翼騎士団だあああああ!」
エルドラン団長の手が犯人の襟元を掴むと、そのまま地面に押さえつけた。
そのまま騎士たちは馬乗りになって取り押さえる。
その中には顔を殴りつけるゼノさんもいた。
一人が殴ればそれは自然と波及していく。
「ソウタをいじめやがって!」
「毎日ベッドで泣いていたんっすよ!」
どうやら僕はベッドで泣いていたようだ。
あまりにも集団で殴られている犯人はその場で白目を剥き血を流していた。
さすがに僕もここまでは求めていない。
「あいつ死ぬぞ!」
コンラッド団長も止めようとするが、黒翼騎士団の騎士は止まらない。
もう、本当に手がかかる弟たちだ。
「みなさん、もうやめてください!」
僕は大きな声を出して止めようとするが、声が全く届かない。
誰も殴る手を止めないし、むしろさっきより勢いが増している気がする。
こうなったら――。
「それ以上やったらご飯抜きですからね!」
「「「……えっ!?」」」
黒翼騎士団の騎士はその場で手を止めて振り返る。
……いや、コンラッド団長もこっちを見ていた。
やっぱり弟たちにはご飯抜きが一番効果があるね。
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