75.兄ちゃん、売られる
「孤児院は全員で十人なんだね」
「あなたがいた頃は二十人近くはいたわよ」
「十人も減ったのか……」
僕はオリーブに孤児院の現状を聞いていく。
孤児院の年長はオリーブで、年上の孤児もいたが最終的には奴隷として売られたらしい。
何でも貴族の愛玩奴隷って呼ばれる存在になると。
どういう意味かはわからないが、奴隷にも職種みたいなのがあるのだろう。
「ソウタがここに来たってことは騎士たちは助けに来るのか?」
「んー……そうだといいんだけどね」
バリーさんは僕を邪魔に思って売り払った可能性もあるからね。
あの時の笑った顔は完全に悪役だった。
唯一頼れるのは黒翼騎士団だけだが、奴隷売買に関わっていたら、僕は証拠隠滅のために売られるだろう。
「ソウにい、こわいの?」
「ううん、みんなは僕が守るからね」
あれだけ仲良くなったと思ったのに、裏切られるかもしれないって思うと胸が締め付けられる。
だけど、みんなより年上の僕がここにいる子どもたちを守らないといけない。
体は小さいけど黒翼騎士団の騎士なんだからね。
――ガチャ
大先生と呼ばれている男性と女性が扉を開けて入ってきた。
身なりが整っているから、ついにこの時が来たのだろう。
「お前たち、騎士様がお見えになったぞ」
きっと奴隷売買をしている黒翼騎士団の騎士のことを言っているのだろう。
大先生に指を差された孤児は一歩前に出る。
もちろんこの中で目立つ傷がない僕とルカも呼ばれた。
「ルカじゃなくて俺にしてくれ!」
「兄ちゃん、こわいよ……」
震えるルカをカイが守ろうとするが、カイは大先生に投げ飛ばされていた。
「いやだよ……兄ちゃんー!」
「あんたもうるさいわね!」
必死に抵抗するルカを女性は平手打ちする。
それを見ていた孤児たちは逆らえないと思い静かになった。
どうすることもできないカイはただ目に涙を浮かべて、大人たちを睨んでいた。
こうやって孤児たちは奴隷として売られて行ったのか。
そう思うと、僕は一瞬頭が真っ白になる。だが、今抵抗してもどうすることもできない。
僕は歯を食いしばって耐える。
手を縄で結ばれ、僕を含めた四人の少年少女が別室に連れ出された。
「ルカ、大丈夫だよ」
「ソウにい……」
僕はルカに寄り添って一緒に別室に向かう。
「いや……私が奴隷になるなんて……」
「お前みたいな傷ついた少女を痛ぶる物好きがいるらしいからな」
その中には年上のオリーブもいた。
一番年上だからって奴隷にならないわけではない。
「さぁ、お前たち愛想を振り撒くんだ」
扉が開いた瞬間、僕は息を呑む。
やはりあの人は部屋の中にいた。
僕は大先生に引きずり込まれるようにして部屋の中に入る。
「君たちを見に来た騎士様たちだ」
「バリーさん……」
部屋の中にはバリーさんの姿があった。
僕の方を見ると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべている。
どうやら騙されたのは僕だったようだ。
ただ、そこにはもう一人黒翼騎士団の団服を着た男もいた。
僕が立っているところからでは、彼の顔はバリーさんがいるから見えない。
「一人ずつ自己紹介しろ」
彼は僕たちにそう告げると、オリーブから自己紹介を始めた。
「オリーブです……。孤児院では一番の年上です」
僕はゆっくりと体をずらして顔を見ようとするが、バリーさんが邪魔で見えない。
動くたびになぜかバリーさんも一緒に動くからだ。
僕が強く睨むと驚いた顔をしているが、あの人は僕を裏切った人だからね。
「おい、次はお前だ!」
いつのまにか僕の順番が来ていた。
ゆっくりと一歩斜め前に出て、そのまま頭を下げる。
「ソウです。家事全般ができます」
「この子は床掃除が上手にできる優秀な子です。入り口が綺麗に磨かれていたのは彼のおかげですよ」
僕が売れるように大先生が説明を入れる。
あまり僕のことを知らないから、それしか言えないのだろう。
自己紹介を終えると、僕はゆっくりと顔を上げる。
「うちの騎士じゃない……」
もちろんただ顔を上げるだけじゃない。
斜め前に出たのはバリーさんが邪魔で後ろの黒翼騎士団の団服を着た男の顔が見えなかったからだ。
ただ、僕の見知った顔ではなく安心した。
やっぱり家族を疑うのは一番辛かったからね。
あとはどうやってここから逃げ出して、黒翼騎士団に助けを求めるかだ。
僕は元の場所に戻ってどうするか考える。
周囲を見渡すと、大きな窓が一つあるぐらいだ。
あそこから飛び出して、走って逃げるのが一番正解だろうが、今いるのは確か二階だったはず。
そこから飛び降りて、走って逃げるだけの体力が僕にはあるのだろうか。
「おい、ソウ! 前に出ろ!」
「はい!」
突然、名前を呼ばれて僕は一歩前に出る。
どうやら僕が奴隷として売られることが決まったようだ。
ふと、バリーさんを見ると目が合う。
なぜかバリーさんは、僕に何度もウインクをしていた。
さっきまで散々笑っていたのに、僕が奴隷として売られることがそんなに嬉しいのだろうか。
ただ、異様にウインクの回数が多いし、チラチラと後ろにいる男を気にしている。
確か孤児院に来る間に話していたが、バリーさんは黒翼騎士団の騎士を把握していないから、誰が騎士かはわからないと言っていた。
まさか本当に黒翼騎士団の騎士か教えろってことだろうか。
何かの理由で一緒に孤児院に侵入した可能性も考えられるけど……あの不気味な笑みは僕を裏切った人に違いない。
僕はプイッと顔を背ける。
「なっ!?」
バリーさんはなぜかその場でオドオドしていた。
「お前、静かにしろ」
後ろの男にそう言われると、バリーさんは肩を下ろして立っていた。
なぜ、そんなに落ち込んでいるのだろうか。
「おい、お前こっちに来い」
黒翼騎士団の団服を着た男が首輪のような物を取り出した。
よく顔を見ると、どこかで見たことある顔をしているのは気のせいだろうか。
黒翼騎士団の庁舎ではないければ、一度は会ったことがある人だ。
僕はゆっくりと彼に近づく。
「あっ、思い出した! 僕のお弁当に砂をかけた人だ!」
どこかで見かけたと思っていたが、魔物討伐の時に会った白翼騎士団の騎士だ。
つい思い出して声に出てしまったが、その言葉で男も僕の正体に気づいたのだろう。
警戒心を露わにしていた。
次の瞬間、僕は何かに体を引かれる。
「ソウタ、あいつは黒翼騎士団じゃないんだな! お弁当を粗末にするやつは敵だ!」
僕を引っ張ったのはバリーさんだった。
大事に僕を抱え込むと、そのまま窓から逃げようと走り出す。
まさか僕を助け出そうと孤児院に侵入していたとは思わなかった。
すっかり騙されていたのは僕だ。
演技派なのはバリーさんの方だったね。
――パリン!
「えっ……」
窓まであと少しと思った瞬間、突然窓ガラスが割れた。
太陽の日差しを遮断するかのような真っ黒な服。
まるでカラスのようなその輝く色に僕はホッとする。
「俺たちのソウタを奴隷にしようとしたやつは誰だ!」
低く怒った声が響く。
「全員ぶっ殺してやる!」
……いや、ある意味ホッとしてはいけないような気がする。
窓から入ってきたのは僕の大切な家族。
エルドラン団長率いる黒翼騎士団の騎士たちだった。
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