70.色男、小さな治癒魔法使い ※ゼノ視点
「そっちは何か情報はあったか?」
「これがあれば証拠になるかと……」
指輪を返しに行く前にエリオットさんと合流した私はすぐに国庫管理局から持ち出した帳簿を見せる。
「ゼノ……帳簿を持ち出したのか?」
私はこくりと頷く。
これがあればソウタも喜んでくれるからな。
だが、エリオットさんの反応は違った。
「おまっ……今すぐに返してこい!」
「えー、せっかく持ってきたのに……」
エリオットさんは中を見ずに戻してこいと言ってきた。
別に国庫管理局の帳簿なんてなくなってもバレないだろう。
それぐらいあそこの倉庫は管理されていないからね。
「ひょっとして……別のゼノなのか?」
私の頬をエリオットさんは叩く。
そんなに叩かなくて変わるものでもないのにね。
「んー、どうだろうねー」
「はぁー、やっぱり公爵家に帰すんじゃなかったな……」
エリオットさんは心配そうに私の顔を見ていた。
昔はこんな顔をする人じゃなかったのに、ソウタと出会ってエリオットさんも変わったな。
「それよりもこっちを見てください」
私は帳簿に視線を向けると、エリオットさんは驚いた表情をしていた。
それだけ帳簿の数字が異様に増えているからね。
誰が見ても怪しいのはすぐにわかる。
「こっちも念の為に孤児院について調べてみたけど……」
「何か見つかりましたか?」
「数年前に院長が変わっているぐらいだ」
「それって……」
「ああ、この年からだね」
エリオットさんの情報では孤児院の院長が数年前から変わっているのがわかった。
孤児院は貴族が管理することになっているが、予算管理や人員は貴族側が判断して行う。
しかし、孤児のことを考えて院長を変えることはあまりない。
それなのに管理する貴族が変わった途端に院長を変えているのが現状だ。
「院長と手を組んでいる可能性があるってことか……」
「黒翼騎士団に協力者がいなくて良かったですね」
「そうだな」
別に私も黒翼騎士団の騎士が関わっているとは思ってない。
ただ、証拠がなければ信じられるものも信じられなくなるからね。
「これでソウタも安心して寝られますね」
「私は安心できないけどな」
エリオットさんは帳簿を持ってニヤリと笑っていた。
「ゼノ、今すぐに返してきなさい」
「えー、今はソウタの癒しがないと……」
「返してくるまで庁舎にはいれないですよ」
いつの間にかエリオットさんも怒ったソウタみたいになっている。
さすがに庁舎に帰れないのは私も困るからな。
「そういえば、コンラッド団長も孤児院について調べているような気がしたけど、何か知ってるか?」
「いや、キッシュには聞いていないし、偶然じゃないかな」
「そうか……」
まさかソウタが私たちより青色翼騎士団を頼っているわけないよね?
そんなことがあったら、一生ソウタにくっついてやる。
「じゃあ、暗くなる前に返してこいよ」
「はーい……」
私は帳簿を持って国庫管理局の倉庫に戻ることにした。
すぐに倉庫に戻ると、相変わらず管理者はいなかった。
帳簿が書き換えられないように念の為にメモもしたから問題はないだろう。
「おい、何をしている!」
声を聞いた瞬間、嫌な記憶が蘇る。
あの時、私を前王妃に売ったあの人の声が……。
「父様……」
「ゼノか。なぜお前がここにいる」
もう会わないと思っていた父が目の前にいる。
突然の出来事で私は頭が真っ白になった。
なぜ父がここにいるのか私が聞きたいぐらいだ。
「これを拾ったので父様を探しておりました」
私は何事もなかったかのように指輪を取り出す。
きっと落ちていることはないが、咄嗟に出た言い訳はこれしか思いつかなかった。
「そうか……。私も歳を取ったからな」
指輪を受け取る父の手がわずかに震えた。
それが寒さのせいなのか、年齢のせいなのか、私にはわからない。
だけど、久しぶりに見た父の指は痩せ細って、指輪のサイズが大きくなっていた。
偶然かはわからないが確かに落としたと思うかもしれない。
「では、私はこれで失礼します」
「ああ……二度目はないからな」
立ち去ろうとした瞬間、微かに父の声が聞こえた。
きっと屋敷から取り出したことはバレているのだろう。
ただ、今は気づかないふりをするのが一番良い選択のはず。
「二度目はない……のは俺の方か」
閉めた扉の奥でわずかに父の声が聞こえた気がした。
私はとにかく急いで黒翼騎士団の庁舎に戻った。
さっきまで平気だったはずなのに胸の奥がざわつく。
あの人の声がまだ耳に残っている。
「ソウタ……」
今にも崩れそうな心は小さな彼を求めていた。
黒翼騎士団の庁舎に入ると、小さな靴が目に入る。
「あっ……おかえりなさい」
今すぐにでも抱きつこうとしたが、テーブルに顔を伏せてグッタリとしたソウタがいた。
顔が見たことないほど疲れているが、何かあったのだろうか。
「……大丈夫?」
「魔物って結構凶暴なんですね」
魔物の討伐を見学して疲れたのだろう。
最近は各地で魔物の出現が増えたから仕方ない。
ただ、私はソウタの顔を見たら、少しだけホッとした。
「それよりもゼノさんの方が大丈夫ですか?」
「いや……」
「朝と夜のゼノさんになってますね」
ソウタは一瞬見ただけで、別の私が表に出ていることに気づいた。
やはりソウタには敵わないな。
「ソウタアアアアア!」
「はいはい。本当に甘えん坊ですね」
抱きつくとソウタは優しく私の頭を撫でる。
自然と息がしやすくなり、心が軽くなっていく。
治癒魔法では治らないと言われたのに、ソウタがいれば私には何もいらないな。
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