69.色男、調査を始める ※ゼノ視点
「あー、ここには戻ってきたくなかったな……」
私は重たい体を動かし、ヴァルディエール公爵家の屋敷に向かう。
今頃本当ならソウタに私のかっこよさをアピールするつもりがエリオットさんに連れ出されたからな。
そんなエリオットさんも自分の仕事をするために貴族街の図書館に行っている。
孤児院について調べているのだろう。
「ゼノお坊っちゃま!?」
静かに屋敷に戻ってきたつもりが執事に見つかったようだ。
相変わらず私を見つけるのが早い。
「久しぶりだね。元気だった?」
「はい。ゼノお坊っちゃまの元気そうな姿を見れて感激です」
今にも泣きそうな顔をする執事に少し笑いそうになってしまう。
私が面倒を見てもらっていた時は若かったのに、今では目尻のシワが特徴的だ。
よく彼に逃げるのを手伝ってもらっていたな。
「父はいるか?」
「セドリック様は今国王様のところにいます」
きっと冬が近くなってきたから、国庫について話しているのだろう。
調べるなら今がチャンスってことだな。
「父には帰ってきたことは伝えないでくれ。それに他の家族にもな」
「わかりました」
執事はゆっくりと頭を下げて、そのまま私を見送った。
私は目的の場所まで周囲を警戒しながら歩いていく。
他の家族に会ったらめんどくさいからね。
特に父の求愛を受けた〝紅の姫〟たちに会うと厄介だ。
「あんっ……」
艶を帯びた女の声が廊下にまで零れている。
吐き気を催すほど、聞き慣れた音だ。
きっと同じ求愛を受けた女性に自分の方が価値があるとアピールしているのだろう。
「はぁー、呆れる」
私が女性を苦手になったのも無理はない。
父の寵姫たちの〝相手〟を務めるのが、ヴァルディエール公爵家の男に生まれた役目という狂った家法があるのだから。
今は私の兄が傀儡のように使われているのだろう。
そもそもヴァルディエール公爵家は子を身籠りにくい血筋だ。
そこまでして爵位を繋ぎたい理由が、私にはわからない。
私の母も祖父の寵愛を受けた女性の一人だ。
父が相手を務めた時に身籠ったのが私だからね。
この家は代々そうやって血を繋いできた。
そして今は父が同じことをしている。
この呪われた血を、それでも欲しがる女たちにも嫌気がさす。
「確かここにあったはず」
私が取りにきたのは屋敷に置いてあるヴァルディエール公爵家の紋章が入った指輪だ。
これがあれば父が管理している国庫管理局の帳簿を見ることができる。
まさかこれを使う日が来るとはね。
私はそのままの足ですぐに国庫管理局がある城に向かった。
久しぶりに城に来て、少し身が引き締まる。
白翼騎士団に所属していた時は毎日通っていたからな。
「なぜ、黒翼騎士団がここにいるんだ?」
声がした方に振り向くと、白翼騎士団所属の騎士がいた。
「父の使いで用があっただけだ」
「あー、お前はヴァルディエール公爵家の使えない弟だったか」
その言葉に過去の私なら苛立ちを覚えたであろう。
騎士としては白翼騎士団の方が上という認識が貴族である騎士にはあるからね。
だが、今となっては何とも思わない。
私を必要として見てくれる存在が黒翼騎士団にいるからね。
むしろ、最近は青翼騎士団にちょっかいをかけられている方がムカつく。
私の愛するソウタを奪っていこうとするからね。
「ははは、何もいえないか。ヴァルディエール公爵家なのに前王妃の誘いを断った無能だもんな」
「えーっと……話はこれで終わりですか? 私は忙しいので失礼します」
何か下品なことを言っていた気もするが、そんなことを未だに覚えているやつがいるとはね。
そもそもご高齢の前王妃に寵愛を受けるほど、ヴァルディエール公爵家は困ってない。
それなのに王家の後ろ盾を得るために、父は私と前王妃の仲を深めようとしていたからね。
断った私は前王妃に不敬罪だと訴えられ、公爵家から離れるきっかけになったから今は感謝している。
「くそ……黒翼騎士団のくせに……」
私はそのまま気にせず国庫管理局がある行政区画に向かう。
行政区画は城の中でも奥にあり、帳簿があるのはさらに奥になる。
私が帳簿管理しているところに入れるのも、この場所が関係していた。
「相変わらず管理者もいないのか」
魔導具に指輪を当てると、扉の鍵が開く。
入るのには国庫管理局の役職者が持つ貴族紋章の指輪が必要になる。
だから、私は実家の屋敷に戻ってこの指輪を取りに行った。
中は埃臭く帳簿が置かれているだけで誰もいない倉庫。
情報を探るにはこの中から探さないといけない。
「孤児院の帳簿は……あった」
私は帳簿を開き、孤児院への支出額と国庫補助金の内訳を照合する。
「特に問題はないな」
孤児院から提出されている毎月の支出も特に変わり映えなく、国庫もしっかり生活できるように割り振られていた。
さすがに孤児院で奴隷売買が行われていることなんてないだろう。
何かおかしな点がないか、帳簿を読み進めていく。
「在籍人数は……減っているのか?」
報告書によれば数人の孤児が毎年卒業していた。
孤児は年齢とともに働き場所を見つけたら孤児院から出ていく。
ただ、町の見回りをしている黒翼騎士団から新しい住人を見かけたとの話はない。
基本的に誰がどの辺で働いているかは把握しているし、ソウタが来てからは町の人との距離感は近くなったから、尚更話を聞く機会が増えるはず。
「孤児と奴隷売買……ひょっとしてソウタも孤児院から抜け出したのか?」
ソウタはゴミ捨て場で魔物に襲われているところを発見した。
私たちはソウタが奴隷売買されるところから逃げ出したと思っている。
「んー、そうなると黒翼騎士団に関わっている人はいなさそうだけどな」
もし黒翼騎士団の騎士が関わっていたら、奴隷売買から逃げ出したソウタは始末されるだろう。
バレたりでもしたら厄介だからな。
いくらバカなエルドラン団長もそれぐらい気づくだろう。
黒翼騎士団が関わっていない可能性が高く、私もついホッとする。
それだけ仲間が疑われるのは嫌だったのか。
ソウタが落ち込むのも今となっては理解できる。
「あとは孤児院を管理している貴族の帳簿を……」
孤児院は数年置きに貴族が交代で管理をしている。
「……なるほど、これは良いお土産になるな」
明らかにここ数年で増えた領地収入が多かった。
どこの地域も昨年は不作だと聞いているのに、明らかに領地収入が増えているのはおかしい。
他の貴族の帳簿も目を通すが、ここ最近の領地収入は下がっていた。
何か新しい作物を育てたり、領地を広げたりしないと領地収入は増えないはず。
しかも、内訳はほぼ他国との取り引きだ。
「ソウタの喜ぶ顔が楽しみだな……」
私はコソッと帳簿をカバンに入れて倉庫を後にした。
早く指輪を戻さないと、私もどうなるかわからないからね。
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