65.兄ちゃん、猫の気持ちを知る
バリーさんの言葉に二人ともわずかに震えていた。
「バリーさん、とりあえず思ったことを口にするのはやめましょうね」
「なっ!? 俺に話すなと言いたいのか!」
「はぁー、もう極端過ぎますよ!」
カイとルカがなぜ孤児院にいないのか、見た目からして事情があるのはわかるはず。
バリーさんの率直な性格が場合によっては相手を傷つけてしまう。
悪意がないからこそ、なおさら始末が悪い。
「バリーさん、思ったことをそのまま言うのは悪いことじゃありません。でも、相手がどう受け取るかまでは考えないと」
「受け取り方なんぞ、そいつの問題だろ」
「半分はそうですけど、もう半分は言う側の責任ですよ」
きっぱり言うと、バリーさんは眉をひそめた。
でも、表情からして怒っているわけではないようだ。
「ソウタ、大丈夫か?」
「ソウにい、あの人怖いよ」
二人とも怖がって僕の後ろに隠れている。
ただ、今のバリーさんはツーンってしているだけな気がする。
「それでバリーさんは何を伝えようとしたんですか?」
「俺はここじゃ冬が越せないって言っただけだ」
うん、絶対にそんなことは言ってなかったからね?
カイとルカもお互いに顔を見合わせていた。
さすがに「孤児院に帰れ」だけじゃ、何も伝わらない。
そっぽ向いているバリーさんを見て、二人とも嘘ではないと気づいたようだ。
でも、二人にとって孤児院は帰りたくても帰れない場所だからね。
「バリーさんは本当に言葉足らずですね」
「うっせー! 俺の用事は済んだから帰るぞ!」
どうやら本当にバターの用量のみ聞きに来たようだ。
バリーさんはその場から立ち去ろうとしたが、途中で止まり振り返った。
「おい、お前は帰らないのか!」
「一緒に帰りたいんですか?」
「なっ!? 誰もそんなこと言ってないだろ!」
怒って帰っていくが、止まってはチラッと振り返り、なぜかイライラしたように頭を掻いていた。
「ソウタも帰った方がいいんじゃないか?」
「あの人も素直じゃないからね……」
僕はチラッとカイを見ると、恥ずかしそうに俯いていた。
ここにも素直じゃない人がいたね。
「またお弁当持ってくるね!」
「ありがとう……」
そう伝えて僕はバリーさんの元へ走り出した。
「なぁ……なんであいつらはあんなところに住んでるんだ?」
「二人にも色々あるんですよ」
「そうか……」
バリーさんにカイとルカの話を聞かれたが、僕が勝手に答えられることはないだろう。
孤児院についての話はどこまでしていいかわからないからね。
「気になるなら自分で聞いてみたらいいんじゃないですか?」
「はぁん!? 別に気にならない――」
「うわっ!? なんですか?」
突然、バリーさんに襟元を掴まれて引き寄せられた。
初めはついに手を出してきたと思ったが、チラッと顔を見ると周囲を警戒している。
「食いものを……」
「そんなものはない!」
バリーさんは周囲の人を追い払うように手を振り払い、そのまま僕を抱いたまま歩き出した。
路地裏の奥はあぶないのか、僕を見てはパンを強請ってくる人たちが多くいた。
さっきパンを落としたことがきっかけになっているのだろう。
ひょっとしたらこうなることを予測して一緒に帰ろうとしていたのかもしれない。
これでも青翼騎士団の騎士だもんね。
「なぁ、お前も飯を食べてるのか? 軽すぎだぞ」
「食べてますよ? まぁ、作る方が多いですけど」
あまりにも運ばれている僕が軽くて心配しているようだ。
元々痩せ細った体はすぐには大きくならない。
それにあまり動かないのもあり、体も小さいのだろう。
運動する習慣を作った方がいいのかもしれないね。
「ほら、ついたぞ」
路地裏を抜けると、バリーさんはすぐに僕を下ろしてくれた。
「バリーさんって本当に騎士だったんですね」
「やっぱり俺をバカにしてるのか?」
「いえ、再確認しただけです」
運び方は雑だったが、ちゃんと危なくないようにしゃがんで下したところもさすが騎士だ。
今も文句を言っているが、ちゃんと僕の顔を見て話している。
ただ、コンビニの前に集まっているヤンキーみたいなしゃがみ方は騎士ぽくないね。
「ここまでありがとうございます」
「おう……」
僕は黒翼騎士団の庁舎に帰ろうとしたら、また体がふわりと浮いた。
「ほら、帰るぞ!」
「へっ? 黒翼騎士団の庁舎に帰るんですよ?」
「それぐらいわかっとるわ!」
バリーさんは無言のまま黒翼騎士団の庁舎に向かっていく。
ただ、帰るには商店街を通らないといけない。
初めはバリーさんの姿を見て商店街の人たちは驚いていた。
レオのお店でバリーさんの姿を見た人は少なからずいるからね。
「あっ、この人思ったよりもいい人なので気にしないでくださいー!」
だけど、僕が声を出しながら手を振っていると、商店街の人たちは安心したように笑っていた。
「おい、恥ずかしいからやめろ!」
「バリーさんのイメージ改善のためにやってるんだからね」
「くっ……」
せっかくならバリーさんのことを知ってもらった方が良いだろう。
それに顔を赤くして商店街を歩くバリーさんを見るのが楽しかった。
いまだに運ばれている理由がわからないから、しっかりとやり返さないとね?
しばらくバリーさんの顔を見て楽しんでいると、黒翼騎士団の庁舎が見えてきた。
「ほら、着いたぞ」
バリーさんは再びしゃがんで僕を下ろしてくれた。
だが、立ち上がることなく、ジーッと僕を見つめている。
「ありがとうございます」
「ああ」
お礼を伝えてもぶっきらぼうな言葉しか返ってこない。
どうしたらいいのかわからず、僕はそのまま帰ろうとしたら、終いには舌打ちが聞こえてきた。
「もう! 何かあるなら言ってくださいよ! 率直な性格のバリーさんはどこにいったんですか!」
さすがに舌打ちされたら、僕もイラッとしてしまう。
問い詰めるとバリーさんは再び舌打ちしながら頭を向けてきた。
「騎士として護衛したんだから褒めろよ」
「えっ……」
まさかの言葉に僕は時間が止まったような気がした。
これじゃあ、撫で待ちの猫じゃないか。
僕は両手を伸ばして、バリーさんの頭をガシガシするように撫でる。
「おりゃおりゃ!」
「ななな、なんだよ!?」
それでも頭を上げずに撫で続けられているところを見ると、何とも言えない気持ちになる。
今まで人に甘えることができなかったのかな……って。
でも、僕みたいな小さな子に甘えるのも心配になるけどね。
「撫でてほしいって言ったのはバリーさんですよ」
「はぁん!? 俺はそんなこと言ってないし!」
バリーさんは慌てて立ち上がり、ぶっきらぼうに否定する。
けれど、口元はわずかに緩んでいた。
そういえば、路地裏を抜けた時も、しばらくしゃがんだままだったな。
きっとあれも撫でてほしかったからだろう。
「じゃあ、俺は帰るからな!」
「わかりましたよ」
そう言いながらもバリーさんは、僕が庁舎に入るまでずっと見続けていた。
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