63.兄ちゃん、料理は命がけでした ※一部バリー視点
あれから野菜克服のために羊乳を使った野菜スープを作った。
玉ねぎの甘みと肉の旨みを閉じ込めて、濃厚な羊乳を入れることでシチューに近い味わいになっている。
「バリーさん、帰ったらバターを入れるんですよ! 覚えましたか?」
バターはレオの店には置いてなかったため、青翼騎士団の庁舎に戻ったら入れてもらえば完成だ。
「おい、俺をバカだと思ってるのか?」
「ただ料理ができないから心配なんですよ」
ついでだからとバリーさんに無理やり手伝わせてみたら、包丁を持たせたらいけない人だった。
黒翼騎士団の人たちは手を一緒に切りそうになるぐらいで危なっかしいで済む。
だが、バリーさんは違う。
玉ねぎを半分に切るだけなのに、構えたと思ったら頭上から振り下ろした。
戦場にいるのかと思わせる風格で周囲ごと切り伏せそうだった。
「誰もバカって言ってないし、思ってないですよ。人には得意不得意があるから仕方ないって言ったばかりじゃないですか!」
「うっ……」
それに勢いのあまり包丁が手から放れて、こっちに飛んできた時は死を覚悟した。
コンラッド団長が咄嗟に土魔法を発動して、どうにか怪我をしなくて済んだ。
やはり土魔法は便利だね。
「バターを入れるまで完成じゃないから、任せましたよ!」
危ないから手伝わなくてもいいと言ったのに、「頼られたら最後までやる」と僕の話は聞かず、変なところで頑固さを発揮していた。
だから、バターを入れる作業を託したのもある。
「これぐらい一人でやれるからな!」
そう言って、バリーさんは両手で鍋を持って貴族街に戻っていく。
青翼騎士団の騎士が鍋を持って貴族街を歩くって、中々シュールな姿だろう。
貴族街を通る人たちは基本的に綺麗な装いをしているのにね。
「ソウタくんには驚かされることばかりだ。じゃあ、また明日も来るよ」
「えっ? 明日も来るんですか?」
「ここのパンが美味しかったからね」
そう言ってコンラッド団長率いる青翼騎士団の騎士たちは庁舎に戻って行った。
やはり最後に驚かされるのは僕の方だ。
「これからもっと大変になりそうだね」
「お客さんがいないよりかはまだいい」
僕と出会う前はレオもかなり苦労していたからね。
昔と比べてお金にも困っていないから、精神的にも安定しているのだろう。
「ほら、これ今日のパンだぞ」
レオは時間が経過した売れ残ったパンをカゴに詰めて渡してくれた。
だけど、カイとルカに渡すために、わざと残しているのも僕は知っている。
「ありがとう!」
僕の周りには優しい人がたくさんいるね。
お礼を伝えると、僕はそのまま路地裏に向かった。
♦︎
俺は鍋を持って青翼騎士団の庁舎に帰っていた。
貴族街を横切っていくが、視線は俺の手元に向いている。
だが、今日の俺は睨むことなんてしない。
そんなことしたら、あいつに怒られそうだしな。
「バリー、えらい機嫌がいいな」
「そんなことないです」
コンラッド団長から見ても、今の俺は機嫌が良く見えるのだろう。
否定はしたが、俺も機嫌が良いのはわかっている。
まさか生まれて初めて褒められたからな!
自慢ではないが、俺は生まれてから一度も褒められたことがない。
思い出そうとしても、浮かぶのは叱責ばかりだ。
そもそも厳しく育てられるのが当たり前の貴族が子どもの頃から褒められることはない。
俺はその中でも特に怒られたからな。
いつも比べられるのは弟のエリオットだ。
勉学や魔法は勝てないし、使える魔法も火魔法とこれまた弟と戦ったら勝てない。
魔法もコントロールできずに、爆発させるから火魔法より爆発魔法と呼ばれている。
そんな俺がまさか褒められるとはな……。
俺よりも小さなやつに頭を撫でられた時は驚いたが、悪い気はしなかった。
むしろ足りないと思ったぐらいだ。
今は早く帰って、あいつからの任務のバターを――。
「あっ……バターってどれぐらい入れればいいんだ?」
「聞いてこなかったのか?」
コンラッド団長の言葉に大事なことを聞き忘れたことを思い出した。
せっかく初めて作ったのに、こんなところで失敗するわけにはいかない。
「コンラッド団長、鍋を頼みます」
あいつならきっとまだあの店にいるだろう。
今日は休みだから暇になったって聞いている。
「はぁん!? 俺が持っていくのか……?」
「俺はソウタにバターの量を聞いてきます」
別にあいつのためじゃない。
俺が失敗したくないだけだからな。
あいつは一回も俺のことを責めなかった。
裏でバカだと言われている俺にだぞ?
俺にも胸を張って言える何かがあればいいんだが。
ひょっとして俺には料理の才能があったりして……。
あまりの嬉しさにチラッと振り返ると、鍋を持って少し恥ずかしそうに歩くコンラッド団長がいた。
少し申し訳ないことをしたと思いながらも、貴族街で鍋を持って歩く青翼騎士団の団長って想像以上に面白かった。
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