61.兄ちゃん、休みはやることがない
「今日はゆっくりしているんだぞ? これはソウタの弁当だ」
「ありがとうございます。いつもと違ってこういうのもいいですね」
僕は玄関まで見送りに行くと、お弁当をエルドラン団長に渡された。
騎士団の庁舎にいるから、自分でご飯は作れるのにわざわざ作ってくれたのだろう。
僕が見送りに来ているのに、お弁当を渡されるって少し不思議な気持ちだ。
お昼も楽しみになってきた。
「みなさん、お気をつけて」
「ああ、行ってくる!」
「ソウタもゆっくりするっすよ!」
黒翼騎士団は各々仕事に向かっていく。
朝から騎士たちが庁舎の掃除もしてくれたし、洗濯物もエリオットさんがやってくれた。
本格的に僕のやることはなさそうだ。
「さぁ、青翼騎士団にでも――」
「今日は俺が行くので、ソウタ先輩は休んでてください」
「えっ……」
青翼騎士団に一日一回行くつもりが、キッシュさんに止められてしまった。
完全に僕を何もしない一日にしたいのだろう。
「じゃあ、俺も行ってきますね!」
そう言って、キッシュさんも青翼騎士団に行ってしまった。
「二度寝はする気もないし……何をしよう……」
急に何もやることがなくなってしまうと、人ってどうしたらいいのかわからなくなる。
この世界で遊ぶものはないし、僕にとって家事はやらされているのではなく、やっていて楽しいものだったからね。
まるで趣味を取られたような気分だ。
「とりあえず、レオのところにでも行ってこよう……」
レオの店に行って、新作のパンやスープの打ち合わせに行くことにした。
「おっ、今日は一人なのか?」
「働きすぎたからってお休みをもらいました」
今日も相変わらず商店街で声をかけられた。
普段は誰かが一緒に歩いていることが多いからね。
「くくく、休みなのにちゃんと団服にしゃもじと鍋を持ち歩いているんだな」
「あっ……」
一人で何かあった時に抵抗できるように、武器と防具の代わりに鍋としゃもじを持たされている。
気づいた時にはそれが日課になっていたから、今日も持ってきてしまった。
「ついでだから肉でも持っていきな」
肉屋の店主は僕が被っている鍋を持ち上げると、中に葉で包んだ肉を入れてくれた。
「なら、お野菜も持っていくかしら?」
「果物もあるわよ」
次から次へと店主たちは野菜や果物を入れていく。
「今お金がないので後で――」
「ああ、そんなのはいらない! 俺たちの仲だろ!」
「そうよ! また新しいパン楽しみにしてるわね」
「今度旦那の汗臭い服の洗い方を教えてちょうだい!」
「えっ、それ私も聞きたいわよ!」
お金を後で払おうかと思ったが全部サービスしてくれるらしい。
本当に僕は恵まれた環境にいるようだ。
「ありがとうございます」
「おう! せっかくの休みを楽しめよ!」
僕は頭を下げて、商店街を抜けていく。
鍋に思ったよりも材料を入れてくれたから、重たくてふらふらしそうだ。
野菜と肉があれば簡単にスープは作れそうだし、果物を煮詰めてジャムパンにしても美味しいだろう。
何を作るか楽しみにしていたら、レオの店の前には中を覗く人がいた。
「バリーさん、中に入ったらどうですか?」
「なっ!? 別に中に入りたいわけじゃないからな!」
中に入りたくないなら、なぜ店の中を覗いていたのだろう。
僕も一緒に中を覗くと、青翼騎士団の騎士たちがお店の中で美味しそうにパンを食べていた。
ひょっとして入りづらくて、外でどうしようか見ていたのだろうか。
それなら――。
「バリーさんって食べている人を見る趣味があったんですか?」
「そんなはずないだろ!」
「なら入りましょうか。ちょうど荷物が重かったので助かります」
僕は持っている鍋をバリーさんに持たせて、店の中に入っていく。
「いらっしゃい……ませ!」
レオはバリーさんの顔を見ると、睨みつけるように挨拶をしていた。
店を汚したやつを普通なら入れたくはないからね。
「ソウタ、どういうことだ?」
「店の外で覗いていたからね。さすがに外で邪魔してお客さんが入れないのも困るからね」
あのまま外で見ていたら、他のお客さんの邪魔になってしまう。
バリーさんは居づらくなって店から出ようとしていたが、僕に託された鍋を持って戸惑っていた。
やっぱり僕から見たら、バリーさんって猫にしか見えないんだよね。
「バリーさん、レオたちに謝りましたか?」
「なっ……」
「謝らないと一生ご飯を抜きに――」
「すまない」
「「「へっ……?」」」
怒って鍋を置いていくかと思ったが、バリーさんの口から謝罪の言葉がすんなりと出てきた。
驚いたのは僕だけではなく、店内にいる人たち全員が思ったのだろう。
パンを食べているコンラッド団長も口からパンを落とすほどだ。
「別に謝らなくてもご飯は作りにいきますよ……?」
「なっ……お前嘘をついたな!」
どうやら本当にご飯抜きになると思ったのだろうか。
でも、あの早さで謝るってことは、少しは罪悪感を抱いて謝るタイミングを伺っていたのだろう。
本当に大きな猫さんだね。
「バリーさん、鍋をもらってもいいですか?」
「ほんとにいつまで待たせるんだよ!」
そう言って、バリーさんはしゃがんで僕に鍋を手渡そうとした。
やっぱりバリーさんは優しい人だね。
口ではぶっきらぼうなことを言っても、わざわざ僕と視線を合わせるためにしゃがんでくれた。
「バリーさん、頑張りましたね」
僕は両手でバリーさんの頭を撫でる。
もう猫をくしゃくしゃと撫でる勢いで手を動かしていく。
それでもバリーさんは僕が鍋を受け取らないから、ただジッと待っている。
撫でるたびに、ほんのわずかに肩の力が抜けていくような気がする。
「ここまでありがとうございました」
でも、あまり大人を撫でるのはいけないことだよね。
バリーさんは何か発することもせず、その場で静かにしていた。
僕はバリーさんから鍋を受け取ると、そのままカウンターの上に置いた。
「あとでスープとジャムでも……あれ? みなさんどうしました?」
なぜかみんなの視線が僕に集まってきているのは気のせいだろうか。
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