56.兄ちゃん、口が先に出てしまう ※一部キッシュ視点
お店から出た僕たちは貴族街を後にして、レオたちの家に向かう。
「赤翼騎士団も大変そうですね」
「令嬢の相手をしないといけないですからね」
「男性貴族を相手するのとは違うんですか?」
僕の言葉にエリオットさんとキッシュさんは頷いた。
「基本的に男性貴族には戦うための騎士が付きます。ただ、女性貴族には魅せるための騎士。いわば戦いもできて、主君を美しく見せる佇まいができるのが当たり前ですね」
きっと女性を喜ばすような騎士が令嬢たちには求められている。
恋をして綺麗に見せようって魂胆なんだろうか。
婚約前の令嬢なら騎士は男性よりも女性の方が安全って意味もありそうだしね。
それにエルドラン団長みたいな威圧感がある騎士がずっと一緒にいたら、令嬢も恐怖で何も出来なくなりそう。
「だから、あんなに無理しているように見えるんですね」
「無理ですか?」
コンラッドさんとキッシュさんは首を傾げていた。
赤翼騎士団の人たちが無理しているように二人は見えなかったのだろうか。
「きっと赤翼騎士団の方たちは甘いものやキラキラした可愛いものが好きですよ」
「いやいや、それはないだろ? あいつらかなりの腕前だぞ?」
僕はエルドラン団長の顔をジーッと見つめる。
「なっ……なんだ?」
「強さと好みは別ですからね」
前の世界でも霊長類最強と呼ばれたスポーツ選手がいたけど、誰よりも女性らしいものを好んでいたし、乙女なのをテレビで見ていた。
きっとそういうのを隠さないと赤翼騎士団ではやっていけないのだろう。
貴族たちも大変だが、騎士たちも様々なことを我慢している気がする。
異世界から来た僕は何となくそんな風に感じた。
「そうか?」
「ええ、現にエルドラン団長も甘いもの好きじゃないですか」
自分だってケーキを食べて甘いと言いながら、クッキーを口いっぱいに頬張っていた。
クッキーってそうやって食べるものだったのかと考えるほどだからね。
「そんなことないぞ? ソウタの料理なら何でも好きだけどな」
エルドラン団長は僕に何を期待しているのかわからないが、チラチラと僕をみていた。
褒めたら何か作ってもらえると思っているのだろうか。
「お店に着いたので、何か食べたらいいんじゃないですか?」
僕はニヤリと笑いお店の扉を開ける。
「「ソウにい!」」
ノアとノエルが駆け寄ってきた。
「今日も頑張って働いた?」
「「うん!」」
二人とも今ではしっかりと働いている従業員だ。
この世界では小さな子でも労働力だからね。
「売れ行きは問題ないかな。毎日大変だけど、お金の心配がない頃と比べたら辛くないよ」
嬉しそうに微笑むレオを見て、僕も嬉しくなる。
以前と比べてだいぶふっくらとしてきたから、前よりも生活が楽になったのだろう。
それに――。
「ソウタくん、今日もパンを持っていく?」
「ありがとうございます!」
母親のハンナさんが元気になったことが一番大きい。
ハンナさんが回復したことで、宿屋が再開された。
そのため、今は宿屋と飲食店をフルで家族経営していることになる。
今まで一人で切り盛りしていたハンナさんをレオたちが手伝う形になったが、家族全員で力を合わせてちゃんとした生活を送れているようで安心した。
「ソウタ、レオの店でパンをもらっているんですか?」
「きっとソウタも腹が減ってるんだろ」
「エルドラン団長じゃないんですから……」
いつものようにハンナさんの言葉に返事をしたけど、今日は騎士たちがいるのを忘れていた。
僕は自分で作ったものかレオたちの店で廃棄するパンをもらって、路地裏にいる人たちに配っていた。
それを今までエルドラン団長やエリオットさんたちに話したことがなかった。
勝手に僕がやっていたことだし、怒られる可能性もあるからね。
ただ、どうやって言い訳をするべきなんだろうか。
急なピンチに僕の頭も真っ白になる。
「いつも宣伝してもらって悪いわね」
「あっ……いえいえ問題ないですよ!」
チラッとハンナさんを見ると、ウインクをしていた。
どうやら僕の異変に気づいたのだろう。
「ほら、ソウタとエルドラン団長では違いますよ」
「そうか……。俺はもう腹が空いたけどな」
「えっ!?」
やっぱりお腹が空いていたから、さっきチラチラと僕を見ていたのだろう。
さっきまで貴族街でケーキを食べていたし、ポケットにクッキーを忍ばせているのは知っている。
あれだけ食べてお腹が空いているって、どれだけ消費が早いのだろうか。
「なら少しの間ここで食べててください。僕はパンの宣伝に行ってきますよ」
「おう! それなら俺はここにいるぞ!」
エルドラン団長は嬉しそうにどのパンを食べるか選んで……いや、あの人夕食前にパン全種類食べる気だぞ。
本当に呆れて何も言えなくなってくる。
「二人は青翼騎士団が来る可能性があることをハンナさんに説明しておいてもらいますか?」
「わかりました!」
青翼騎士団についての説明はエリオットさんとキッシュさんに任せれば問題はないだろう。
それにこれで僕が一人になるから、路地裏にいるあの子たちがバレる心配はない。
「じゃあ、行ってきますね」
僕はハンナさんにパンを受け取ると、路地裏に向かうことにした。
♢
「キッシュ、ソウタが心配だから護衛を頼む」
「俺がですか?」
「ソウタは面倒ごとに巻き込まれる体質だからね」
「あー、自ら首を突っ込んでいくタイプだもんな……」
俺はエリオットさんに頼まれて、すぐにソウタ先輩の後を追いかける。
まだソウタ先輩の後輩になって2日目だが、彼の凄さに驚かされるばかりだ。
あのコンラッド団長は気に入ってるし、バリーさんが文句を言いながらも従っていた。
バリーさんを制御できるのは、今までコンラッド団長だけだったからね。
それにみんなから恐れられているバリーさんを猫みたいって言えるソウタは黒翼騎士団の中でも一番肝が据わっているのは間違いない。
少なくとも俺にはそう見えた。
あの時専業シェフをかけて料理対決をしたのが、今となっては恥ずかしくなる思いだ。
「んっ? 商店街じゃなくて路地裏にいくのか……?」
ソウタ先輩はパンの宣伝に行くと言っていたが、向かった先は路地裏だ。
路地裏で宣伝するのかと思ったが、あそこにはお金のない人たちばかりだ。
それに犯罪に巻き込まれることは少なくない。
エリオットさんの面倒ごとに巻き込まれる体質という言葉が頭に引っかかる。
「そういえば、ソウタ先輩って迷子になりやすいって聞いたな」
ゼノさんにソウタは気づいたらどこかに行っちゃうと聞いていた。
単純にゼノさんから逃げるためだと思っていたが、本当に方向音痴なのかもしれない。
急いでソウタを引き留めようとしたが、路地裏で何か話している声が聞こえてきた。
そのままゆっくりと近づき、俺はソウタたちの会話を盗み聞きすることにした。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




