55.兄ちゃん、劇ごっこはプロ級です
テーブルに置かれるお菓子やケーキにエルドラン団長は目を輝かせていた。
「うぉー、見たことないものばかりだぞ!」
あまり甘いものを食べたことがないのだろう。
「砂糖漬けですか……」
「俺も苦手なんですよね」
しっとりとしたケーキを目の前にしたエリオットさんとキッシュさんは苦い顔をしていた。
「砂糖漬けってことはシュガーコーティングがされているんですね」
見た目もどことなくクリスマス前に食べるシュトーレンに似ている。
あれもバターを塗った上からたくさんの砂糖を振りかけるシュガーコーティングだもんね。
「ソウタ、食べていいか?」
「僕に気にしなくて食べても大丈夫ですよ」
「いただきます!」
ソワソワとしていたエルドラン団長の声が店内に響く。
よほど気になっていたのだろう。
ケーキにフォークを突き刺すと、そのまま口の中に入れた。
「「「あっ……」」」
まさかケーキを一口で食べようとするとは思わなかった。
あまりの大きさに僕たちは驚いていた。
「なんだこの甘さは……」
だが、エルドラン団長は半分だけ食べて、フォークを刺したままのケーキを皿の上に置いた。
僕はエリオットさんに視線を向けるが、そっぽ向いている。
どこでマナーを覚えたのだろうか。
この場に赤翼騎士団しかいなくて、内心ホッとしている。
「はぁー、エルドラン団長。行儀悪いです!」
「おっ、すまない。あまりにも衝撃的で……」
「こういうのは少しずつ食べるものですよ」
僕はケーキに刺さったフォークを抜いて、一口サイズに切り分ける。
シュトーレンも小さく切り分けたケーキを毎日ちょっとずつクリスマスまでに食べるものだからね。
ただ、明らかに違うのは、中からジワッと液体が出てきたことだ。
何かが染み込んでいるのだろう。
「はい、紅茶を飲んでから食べてみてください」
「うっ……わかった……」
さっきまで喜んで食べていたのに、エルドラン団長は覚悟を決めた顔をした。
紅茶を一口飲むと、小さく切ったケーキを食べる。
「あぁ、これぐらいならいけるか……」
だが、エルドラン団長は渋い顔をしていた。
「そんなに甘いですか?」
僕は一口サイズに切って、ケーキを口の中に入れた。
その瞬間、全身がゾワゾワとして鳥肌が立つ。
「うっ……甘すぎる」
あまりの甘さにすぐに紅茶を飲むぐらいだ。
ひょっとしたら赤翼騎士団の騎士たちは、食べられなくて残して帰ろうとしていたのだろうか。
そう思うと、彼女たちを引き止めて申し訳なくなってきた。
「ローズ団長、すみません……」
僕はローズ団長の方へ体の向きを変える。
「どうしました?」
ローズ団長たちは気にすることなく、ケーキを食べていた。
フォークを咥えて嬉しそうにしている姿は、かっこいい女性でも可愛らしく見える。
他の騎士たちにも視線を移すが、特に気にすることなく食べている。
赤翼騎士団は甘党集団なんだろうか。
「ローズ団長は甘いものがお好きなんですね。それもかなりの甘党――」
「ぐふっ!」
僕の言葉にローズ団長は紅茶を吹き出しそうになっていた。
僕は急いでハンカチを取り出して、濡れた制服を拭いていく。
「貴殿は何を言っている。私が甘党なわけ――」
「だって、これ相当甘いですよ?」
ローズ団長は自身のお皿にあるケーキと僕たちのテーブルのケーキを見比べる。
置いてあるのは同じケーキだ。
明らかに減っていないケーキを見て、すぐにフォークを置いた。
それに紅茶で服が濡れても、フォークを持っているぐらいだから、よほど甘いものが好きなんだろうな。
「よかったら今度作ってきましょうか?」
ただ、こんなに甘すぎるものばかり食べていたら体に悪いだろう。
ケーキ以外にクッキーも砂糖の塊に近かったからね。
「「なんだって!?」」
ローズ団長とエルドラン団長の声が重なる。
なぜか二人は睨み合うように視線をぶつけていた。
「エルドラン団長はいつでも食べられるじゃないですか?」
「毎日作ってくれるのか?」
「いや、それは遠慮しておきます」
お菓子作りって道具もたくさん必要だから、そんなに数はできないだろう。
ただ、久しぶりにお菓子を食べたら、自分でも作りたくなってきた。
「本当に私のために作ってくれるのか?」
「別に構いませんよ。せっかくなら一緒に作ってみます?」
「本当か!?」
ローズ団長は嬉しそうに僕の両手を握っていた。
こうやって見るとただの甘い物好きの綺麗なお姉さんだよね。
それに他の赤翼騎士団たちも羨ましそうに、僕とローズ団長を見ていた。
ひょっとしたら赤翼騎士団って乙女騎士団なのかもしれないね。
「ソウタはやらないからな!」
エルドラン団長は相変わらずローズ団長を警戒していた。
すでに青翼騎士団に誘われているからね。
ただ、いくらなんでも僕は女性になれないから誘われても無理だよ?
――カラン!
お店の扉が開くと、みんなの視線は入り口に向いた。
それと同時にローズ団長は僕から手を放して、椅子に座った。
まるで他の人には見られないように配慮した動きなんだろう。
ここには僕たちと赤翼騎士団の人たちしかいなかったからね。
「あら、赤翼騎士団の方々もお越しになっていたんですわね」
綺麗なドレスを着た女性たちが近づいてきた。
中央の一人がドレスを広げて、ローズ団長に挨拶をする。
ローズ団長も片膝をつき、女性の手を取ると甲にキスをした。
まるで童話に出てくるお姫様と王子様みたいな光景だ。
僕はジーッとエルドラン団長を見る。
「なんだ? ソウタもあれをして欲しいのか?」
「いや、遠慮しておきます」
うちの騎士団長と比べたら全く別物だ。
「ごきげんよう、カリスマ侯爵夫人。今日のドレスも実にお美しい。花さえも嫉妬するほどの美しさとはあなたのような人を言うんですね」
「あら……ローズ団長も素敵よ」
ローズ団長に挨拶された女性は頬を赤く染めて嬉しそうにしていた。
その後も赤翼騎士団の騎士たちは、女性たちに挨拶をしていく。
まるで劇の一部を目の前で見ているようだ。
「んっ……これなら食べられそうだな」
隣にいるエルドラン団長はクッキーをたくさん詰めてモグモグとしているからね。
本当に料理にしか興味がないのだろう。
「赤翼騎士団の騎士たちが女性が集まるお店にいるなんて珍しいわね」
一瞬、ローズ団長の表情が曇ったような気がした。
「それは――」
「僕が女性への礼節を学ぶために、勉強させていただいておりました」
僕は立ち上がると、一礼して女性に近づく。
「ご挨拶させていただきます。黒翼騎士団所属、ソウタと申します。こんなにも綺麗なご婦人方にお会いできて……僕がもう少し早く生まれていれば言葉選びにも余裕があったのでしょうね」
最大限の笑みを浮かべて挨拶をする。
これでも妹と劇ごっこで培った技術を、精一杯披露したんだからね!
「クスッ、あなた面白いわね」
「まさか黒翼騎士団にこんなに将来が楽しみな方がいるとは思わなかったわ」
どうやら僕のアドリブは上手く言ったようだ。
女性たちは感心したように微笑んでいた。
「それでは皆さま、どうぞ良いひとときを」
そう言って、ローズ団長を先頭に赤翼騎士団の人たちはお店から出ていく。
その姿はピシッとしていたが、どこか速足のような気がした。
「では、僕たちも綺麗なお姫様に巡り会えたので、またお会いできる日を楽しみにしております」
残された僕たちだけでは居心地が悪くなると思い、続くようにお店を出ることにした。
「なぁなぁ、全部食べてなかったけど、ソウタに怒られないか?」
エルドラン団長は残りのクッキーをポケットに入れていた。
「ほら、早く行きますよ」
エリオットさんはそんなエルドラン団長を引きずるように連れてきた。
こんな状況でも食べることしか考えていないエルドラン団長に僕は驚いた。
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