53.兄ちゃん、こんなはずじゃなかった ※一部コンラッド視点
食器を洗い終えた僕はすぐにコンラッド団長の元へ向かった。
部屋の扉を開けると、コンラッド団長は満足そうな笑みを浮かべてコーヒーを飲んでいた。
「コンラッド団長、業務改善について対策はありますか?」
「それはソウタくんが毎日来てくれれば改善するよ」
「いや、だから僕は――」
「現に今も青翼騎士団の庁舎にいる」
ニヤリと笑ったコンラッド団長に僕はハッとした。
「ソウタ、どうだった?」
「どうにかなりそうですか?」
遅れてエルドラン団長たちがやってきた。
「まさか僕を騙して……」
「いやー、ソウタくんみたいな頭の回転が早い子なら気づいて来てくれるかなと思ってね」
その言葉に僕は計算通りに誘導されたことに気づいた。
「おい、どういうことだ?」
「私もどういうことか……」
エルドラン団長やエリオットさんはコンラッド団長の思惑に気づいていないのだろう。
それに遅れてきたから、今の話は聞いていないはず。
「僕がカルロスさんの状況に気づいて、またここに来ることを想定していたんです」
キッシュさんを僕に託すことは、コンラッド団長の中では決まっていたのだろう。
そこから僕の性格を読み取って、すぐに青翼騎士団の庁舎に来ると予測していた。
どうやらコンラッド団長は頭が回る人のようだ。
今の年齢も合わせて20年程度しか生きていない僕では敵わない。
「ただ、来るのが早すぎたね。せっかく青翼騎士団の制服を用意しようと思ったのに間に合わなかったなー」
コンラッド団長は嬉しそうに僕を眺めていた。
あの笑みにも他に何か隠している意図があるのだろうか。
「おまっ!? ソウタは俺たちのだぞ!」
「そうです。絶対に渡さないですからね」
エルドラン団長とエリオットさんが僕の前に出て、コンラッド団長の視界を塞ぐ。
僕はこんなにも黒翼騎士団に大事にされていたんだね。
直接僕に言った言葉ではないけど、聞いてて嬉しくなってきた。
僕は二人の腕を掴み、隙間から顔を出す。
「残念ながら僕は黒翼騎士団の所属なので移動する気はありません。ただ――」
「「「ただ……?」」」
部屋の中は僕の言葉を聞こうと静かになる。
そんな中、僕は人差し指を立てた。
「キッシュさんを借りているので、一食だけ手伝いにきます」
「ははは、さすがソウタくんだ」
僕の言葉にコンラッド団長は声をあげて笑っていた。
きっとコンラッド団長が求めていたのは、僕が青翼騎士団に出入りすることだろうからね。
でも、僕はそれだけで終わらない。
条件はつけさせてもらうからね。
「その代わり食事当番を戦闘騎士の方にも当番制で後務騎士の大変さを知ってもらいます!」
僕はキッシュさんに出会って気になっていたことがある。
それは戦闘騎士と後務騎士の格差だ。
戦闘騎士は後務騎士を雑に扱い、後務騎士は戦闘騎士と比べて劣等感を抱いている。
もちろん優先的に命をかけるのは戦闘騎士だろう。
ただ、仕事内容が異なるだけで、大変なのは変わりない。
後務騎士も同じ騎士だから、何かあれば戦うことをキッシュさんから聞いている。
「あとは魔法について知りたいです!」
それに僕は魔法について勉強がしたかった。
魔法は貴族しか使えないから、平民では知識もないと聞いている。
僕の知識で魔法の使い方がより深まれば、適材適所があるだろう。
できたら僕も使ってみたいけどね。
火魔法で中華料理とか氷魔法でフリーズドライとか面白そう。
「くくく、ソウタくんも魔法に興味があるのか……。やっぱり中身は子どもなんだね」
コンラッド団長の姿を見て、少し胸が締め付けられる。
どこか笑った顔が父さんに似ていた。
目尻に集まるシワを見て、父さんに会いたくなってきた。
でも……もう僕が父さんに会えることはないからね。
もっと甘えられるなら、父さんとどこかに出かけたかったな。
「ソウタ、大丈夫か?」
「嫌なら無理にやらなくてもいいですよ。全て悪いのはコンラッド団長なので」
僕はいつのまにか、二人の腕を強くギュッと握っていたようだ。
きっと僕が忙しくなることを心配してくれているのだろう。
「大丈夫ですよ! これからもっと楽しくなりますね!」
僕は心配かけないように優しく笑った。
この世界には父さんはいないけど、年上の弟たちがいるからね。
「そういえば、ソウタの休みはどうすんだ?」
「「あっ……」」
どうやら僕は自ら社畜の道に向かって歩きたいようだ。
まずは僕の業務改善をしないといけないね。
♢
「では明日のお昼頃にまた来ますね」
そう言って、ソウタは帰っていった。
私は大きく息を吐いて全身の力を抜く。
「本当に頭が回る子だ」
それでも私は嬉しくなって勝手に口角が上がっていることに気づいた。
まさか子ども相手に交渉する日が来るとは思わなかった。
「でもそれが今回は仇となったね」
私はただ単にソウタが来る日が増えればいいと思っていた。
なのに、ソウタは何を勘違いしたのか、毎日来てくれることになった。
これで少しずつ私との距離も縮まるだろう。
これからじわじわと青翼騎士団に勧誘していけば、私の養子という席も用意できるからな。
「それにしてもあの子は何者なんだ」
やっていることは私でも難しいことなのに、本人はあっけらかんとしていた。
青翼騎士団の雰囲気は一瞬で明るくなり、見たことない甥っ子の姿を目の当たりにした。
それに何と言っても料理が美味しかった。
これでも貴族として生まれたから、ある程度は良いものをたくさん食べている。
ただ、あの味は王族が主催する記念パーティー同等の美味さをしていた。
王族にはこの国で一番料理が上手なシェフが何人も在籍している。
むしろソウタの存在がバレたら、黒翼騎士団にいられなくなる日が近いような気がする。
それをあの黒翼騎士団の団長はわかっていないだろう。
「あー、明日もソウタが来るのが楽しみだな。まずはあのレオと言っていた子の店に顔を出してみるか」
あの柔らかなパンは今まで食べた中でも一番美味しかった。
そのパンが売っていると言っていたから、平民街に行く意味があるのだろう。
「君にもあのパンを食べさせてあげたかったな」
妻の姿絵が今日は一段と笑っているような気がした。
インフルエンザになりました(T ^ T)
更新忘れてすみません!




