50.兄ちゃん、コンラッド団長に物申す
朝食を食べ終えた僕たちはすぐに青翼騎士団に向かう。
もちろんコンラッド団長に業務改善をしてもらうためだ。
「別に青翼騎士団のことはどうでもいいんじゃないのか?」
「何言ってるんですか! キッシュさんの騎士団ですよ!」
「だって……俺たちのカツサンドが減っちゃうじゃないか……」
エルドラン団長は自分たちの昼食が減ることを気にしていた。
食べるものをすぐに準備ができないからと、昼食のカツサンドをいくつかお弁当箱に詰めて持ってきた。
「ソウタ先輩っていつもあんな感じなんですか?」
「そうだよ。出会ったばかりもとにかくおせっかい焼きでね」
「キッシュさんは僕の後輩で家族みたいなものですからね!」
後ろでコソコソと話しているエリオットさんとキッシュさんにそう伝えると、どこか嬉しそうな顔をしていた。
貴族たちって自分よりも大事な人を守るって感覚が薄いのだろうか。
そんなような雰囲気が二人から伝わっていた。
「あっ、小僧おはよ……青翼騎士団様が何の用ですか?」
商店街を歩くといつものように声をかけられるが、キッシュさんを見ると露骨に嫌な顔をしていた。
この間、バリーさんたちがレオの店で暴れたのがすぐに広まっていたもんね。
あまり良い印象がないのは仕方のないことだろう。
黒翼騎士団も初めはこんな感じで、街の人から冷たい視線を向けられていたのを思い出した。
「キッシュさんは僕の後輩です!」
「後輩……?」
「はい! 一時的に僕が預かって指導しているんです」
僕の言葉に少しずつ表情が和らいでいく。
まずは先輩の僕が紹介しないと、警戒心は強いままだ。
「そうか……、それなら安心だな。肉が欲しければいつでも俺のところに来いよ!」
「ちゃんと金は払うんだぞ!」
エルドラン団長の言葉にキッシュさんは驚いていた。
やはり平民の店では金を払わなくてもいいみたいな認識なのかな?
エルドラン団長も初めの方はもらえるなら気にしなくていいやみたいな感じだったからね。
「平民の方にお金が行き渡らないと、国自体に納める税金も増えないですからね。無理のない範囲でお金は使ってください」
「あぁ……そんなことも考えているのか……」
僕の言葉にキッシュさんは頷いていた。
さすがにバリーさんのように横暴な人ではないと思っているけど、大丈夫だろう。
部下のミスは上司のミスって聞くぐらいだからね。
ふと、頭を抱えていた父の姿を思い出す。
よく夜中にも電話がかかってきてたし、旅行に行っても病院から呼び出されて、一人だけ帰って仕事をしていたからね。
尊敬はしていたけど、僕も含めて弟妹たちは寂しかっただろう。
「ソウタ先輩って何者ですか?」
「僕ですか……? 見ての通り子どもですよ?」
「子どもですか……」
キッシュさんは不思議そうな顔で僕を見ていた。
そういえば、いまだに僕の前世のことを誰にも話したことがなかったな。
きっと誰も信じてくれなさそうだしね。
「またここに来るとは……」
商店街の人たちにキッシュさんを紹介すると、昨日に続いて貴族街に入っていく。
まさか二日連続で来るとは思いもしなかった。
「ソウタ、はぐれないように手を繋ぎますよ」
エリオットさんは相変わらず僕の手を握って歩いている。
貴族と関わるとそんなに厄介なんだろうか。
僕が知っている貴族は青翼騎士団の人たちとゼノさんやエリオットさんぐらいだ。
ひょっとしたらバリーさんみたいな人たちが、ウジャウジャいるのだろうか。
そう思うと近寄らない方が良い気がする。
貴族は無視……貴族は無視……貴族は虫……虫……。
「ソウタ先輩、青翼騎士団の庁舎に着きましたよ」
「はっ!?」
つい虫のことを考えすぎて、気づいたら目的地に着いていた。
「ソウタがうっかりしているって珍しいな」
「コンラッド団長に会うと疲れますからね」
「俺は苦手だな」
どうやらエルドラン団長とエリオットさんから見たら気難しい人って扱いなんだろう。
「いえ、別にコンラッド団長と会うのは楽しみなので大丈夫ですよ。ちょっと虫のことを考えてて……」
コンラッド団長は食器担当だから、特に気にすることもない。
作って欲しい食器はいくつもあるからね。
それにちゃんと話したら理解してくれるから、親戚のおじさんってイメージだ。
「コンラッド団長と会うのが楽しみってさすがソウタだね。私でも緊張するのに」
「虫か……ソウタは虫好きなのか……んー、虫かー」
前の上司なのにエリオットさんが緊張するってよほど怖いのかな?
ニコニコしている人には裏があるのかもしれない。
僕の上司であるエルドラン団長なんて……なぜか虫のことを考えていた。
やっぱりエルドラン団長は大型犬でもあり、弟って感じだね。
「おい、黒翼騎士団が朝から何のようだ?」
僕たちが青翼騎士団の庁舎に入ると、バリーさんを中心に青翼騎士団の人たちが詰め寄ってくる。
「あのおじいちゃん……えーっと……」
僕はチラッとキッシュさんの方を見る。
「カルロスさんです」
「カルロスさんの業務改善についてコンラッド団長にお話にきました」
「カルロス……誰だ?」
バリーさんは周囲をキョロキョロするが、他の団員たちも知らないようだ。
まさか調理場で働く人すら知らないとは思わなかった。
同じ騎士なのにそこまで扱いが全く違うとは……。
キッシュさんが自分は使えないと勘違いするのも仕方ない。
「カルロスさんは――」
「調理場で働く後務騎士だ」
騒ぎに駆けつけたのかコンラッド団長がやってきた。
その片手にはコーヒーのようなものを手に持っていた。
新聞を持たせたら、本当に親戚のおじさんにそっくりだ。
「それで後務騎士の業務改善をして欲しいってどういうことだ? うちの規則に文句をつけるつもりかな?」
コンラッド団長の言葉にエルドラン団長とエリオットさんは警戒を強めた。
だけど、コンラッド団長はニコニコ……いや、ニヤニヤとしているから話を聞く気はあるのだろう。
「僕は規則に文句を言いにきたわけではありません。後務騎士の業務改善についてお話をしにきただけです」
「ほぉ、それで?」
コンラッド団長は興味深そうな顔をしていた。
「現在、キッシュさんが黒翼騎士団に研修していることで、全て調理場仕事がカルロスさん一人で行うことになっています」
「それのどこが問題なんだ? 後務騎士の仕事はそれしかないだろう」
コンラッド団長の言葉に青翼騎士団の人たちも頷いている。
本当に騎士団長が現場のことを知らずに言っている言葉だろうか。
どこか裏があるような気もするし……僕はコンラッド団長の手を掴み、そのまま調理場に向かっていく。
その後ろには睨むようにゾロゾロと青翼騎士団の人たちも付いてきた。
「小さな手だな」
「まだ子どもだから仕方ないです!」
チラッとコンラッド団長の顔を見ると、なぜか驚きとともに嬉しそうな顔をしていた。
この人も少し変わった人のようだ。
ゼノさんと同じ貴族だもんね。
「あぁ……手が回らないぞ……」
調理場に着くと、カルロスさんが一人でバタバタと動き回っていた。
テーブルにはお皿がいくつも並んでいるが、料理が載っているお皿は一つもない。
「青翼騎士団の朝食って何時からですか?」
「朝食は8時からになっている」
今の時間はおよそ8時半ごろだ。
朝食を食べるために広間に集まっていたのに、誰もこの異変に気づかなかったのだろう。
後務騎士が全て食事の準備から運搬をしているからね。
ただ、いつもより遅いと思った程度だろう。
ちなみに黒翼騎士団は7時には朝食を食べて、8時には仕事場に向かうようにしている。
あまり夜遅くならないようにするには、早めに働かないと間に合わないからね。
「これが今の現状です。カルロスさんだけでは現場が回らないのを知って、キッシュさんを僕の元に付けたんですか?」
青翼騎士団の騎士やキッシュさんは驚いていた。
カルロスさん一人でどうにかなると思っていたからね。
「人員不足、属人化、業務過多の三点セットが重なれば、確実に何か起きた際はその集団は潰れます」
「難しい言葉まで知っているんだな」
「注目するところはそこじゃないでしょ!」
僕はビシッとコンラッド団長に伝える。
「まずはカルロスさんの業務改善……いや、後務騎士全体の改善検討をよろしくお願いします!」
これで少しはカルロスさんの仕事量が減ればいいけどな。
これで僕の役目は終わりだ。
次はこの状況をどうにかしないといけないからね。
「みなさん、手伝いますよ」
「おう!」
「まさか青翼騎士団の調理場に入るとはね」
エルドラン団長とエリオットさんは、どこか楽しそうに笑っていた。
まずは青翼騎士団の朝食を作らないといけないからね。
「ははは、これでソウタの料理も食べられるから完璧だな」
ボソッと呟くコンラッド団長の声が聞こえたが気のせいかな。
でも、ジーッと僕を見つめる視線が気になっていた。
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