101.兄ちゃん、過去を知る
「おはようございます」
翌日、普段通りに目を覚まし、衣服を整えて部屋から出ると、使用人たちは驚いた顔をしていた。
「ソウタ様はいつもこんなに早起きなんですか?」
少し眠そうな顔をした執事が声をかけてきた。
「そうですね……。皆さんの食事の準備や掃除をしたり、あとはお弁当を作らないといけないので……」
「まるで使用人みたいな生活ですね」
「ふふふ、僕もそれが性に合ってますからね」
昨日は寝るまで将来のことを考えていた。
僕が好きなことは家族のために世話を焼くことだと思った。
だから、今の黒翼騎士団での後務騎士のような働き方は僕の性格に合っている。
今頃だけど、僕にとって天職なんだと気づいた。
「よかったら僕も手伝っていいですか?」
「いえ……ソウタ様はお客様です。そのようなことはさせられません」
どうやら僕が何もしないように、徹底されているような気がした。
まあ、僕が手伝ったら、使用人の仕事を奪うことになるもんね。
「それに小さな体ではしっかりと睡眠を取った方がよろしいかと思います」
執事にそう言われて、僕は押し込まれる形で部屋に戻されてしまった。
「二度寝するにも眠たくはないしなー」
僕はベッドの上に寝転びながら、周囲を見回す。
「本でも読んでみるか!」
黒翼騎士団にはあまり本は置いてなかった。
ただ、この部屋にはたくさんの本が置いてある。
「こっちは絵本で……こっちは文字の教科書なのかな?」
本棚から取り出すと、どれもが小さい子向けの本ばかりだ。
僕のために用意してくれたのかと思ったが、埃が被っているから、元から置いてあるのだろう。
「コンラッド団長に奥さんと子どもはいないのかな?」
コンラッド団長から家族の話は一度も聞いたことがない。
なのに、子ども向けの本が置いてあることに違和感を覚えた。
「そういえば、この部屋ってそもそもお客さんの部屋にしては家財が小さいよね」
机やベッドも僕の体とサイズが合うかといえば嘘になるが、小さめにできている。
この世界の人たちはとにかく大きい人が多い。
エルドラン団長やジンさんは僕の父さんよりも背が高そうに感じるから、190cm近くはある気がする。
正直、ジンさんに振り回された時は死を覚悟するからね。
それにちょうどゼノさんやエリオットさんが父さんと同じぐらいだろう。
僕は椅子に座り、本を一枚ずつめくっていく。
「んー、やっぱり読めないけど、ローマ字や韓国語に近いのかな?」
文字の構造はあまりわからないが、母音と子音で分けられているのは理解できる。
その隣には代表的な食べ物の絵が書いてあるから、そこに当てはめていけば、何となくは読めそうな気がしてきた。
そもそもゲームの世界だからこそ、存在するものの名前が同じなのが助かった。
これで見た目がりんごなのに、レモンとかだったら、混乱して母音と子音の組み合わせも気づかなかっただろう。
絵本を手に取って、母音と子音を当てはめていく。
「えーっと……これはドラゴンとお姫様の話ってことかな?」
絵本の表紙と見比べて、大体合っているような気がした。
僕はページをめくると、中に一枚の紙を見つけた。
「コンラッド……フィオナ……?」
コンラッド団長の名前とフィオナという女性のような優しい名前が書いてあった。
そして、その下にもたくさんの名前が書かれている。
「フィンにフィオル……フィリオ、コンフィ……?」
まるで両親が弟妹の名前を決めたときに、書き出していたものに似ているような気がした。
ただ、どれかに丸を書いたわけでもなく、名前のみがたくさん書かれていた。
そんな中、扉をノックする音が聞こえてきた。
「ソウタ、起きているか?」
「はい!」
僕が急いで返事をすると、コンラッド団長が部屋に入ってきた。
髪の毛はいつものように整えられており、見慣れた姿をしている。
「こんな朝早くから起きているんだな」
「早起きは癖みたいなものですよ」
「ははは、どこかのじいさんみたいだ」
言われてみたら寝られないお年寄りみたいだね。
寝るのも体力を使うから、自然と早起きになるって聞いたことがあるぐらいだ。
「それにしても朝から何をやってたんだ?」
「あっ……本があったので、勝手に勉強してました!」
「やはり自ら勉強するとは優秀だな。わからないところがあれば俺が教えてやろう」
そう言って、コンラッド団長は机の横に椅子を持ってきた。
「どれがわからないんだ?」
「えーっと……初めて本を読んだんですけど、文字は一つから二つの基本の形を組み合わせて一文字になってますか?」
僕の言葉を聞いて、コンラッド団長は目を見開いていた。
「本を読んだことないのに、それがわかったのか?」
「なんとなくそんな感じがしたので……。例えば、この絵本は〝呪われたドラゴンと捨てられた王女〟という題名で合ってます?」
僕はそのまま読んだ題名を伝えるが、コンラッド団長は時が止まったかのように絵本を眺めていた。
コンラッド団長は、絵本を手に取ると、どこか懐かしむように笑みを浮かべた。
「ああ、合っている」
「それならよかったです」
青翼騎士団にいる時のコンラッド団長は、どこかピリピリしているけど、今は穏やかな空気が流れている。
あの元気いっぱいな騎士たちを前にしたら、ピリつくのも仕方ないけどね。
「そういえば、絵本の中に紙が入っていたんですけど、フィオナさんは奥さんですか?」
「なんで妻の名前を……」
僕は絵本の中に入っていた紙を一枚渡すと、次第にコンラッド団長の目には涙が溜まっていった。
まさかあのコンラッド団長がそんな姿を見せるとは誰も思わないだろう。
もちろん僕もびっくりだ。
僕に奥さんの存在を知られたくなかったのだろうか。
どうすればいいのかとあたふたしていたら、コンラッド団長は涙を拭い、僕の頭を優しく撫でた。
「俺にも子どもができるはずだったんだ」
「はずだった……?」
「ああ、妻は出産のために自身の領地に戻るときに事故に遭ったからね」
コンラッド団長は視線を逸らして、窓の外を眺めていた。
きっと奥さんのことを思い浮かべているのだろう。
「何も知らずに聞いてすみません……」
「いえ、気にしないでくれ。もう昔のことだ」
僕が両親や弟妹たちに会えないのと同じように、コンラッド団長にも会いたい人がいるのだろう。
辛いのはみんな同じなんだね。
僕はそんなコンラッド団長を優しく抱きしめた。
「コンラッド団長は一途で優しい方なんですね」
「ははは、こんな年になっても新しい妻もできない困ったやつだけどな」
「ずっと一人の人を愛し続けられるのはかっこいいですよ」
「そうか……」
コンラッド団長は、ニヤリと笑うとそのまま僕を抱えた。
「なら、次はソウタを本気で落とさないといけないな」
「……えっ?」
「今日から俺の息子になれ。部屋もこのまま使って構わないぞ」
やけに真面目な声に僕はどうやって答えればいいのか戸惑ってしまった。
昨日も同じことを思ったけど、きっとコンラッド団長は本気で言っているのだろう。
だけど、今の僕にはその選択はできない。
「ごめんなさい。僕には大事な家族がもういるので……」
「ははは、昨日のうち丸め込んでおけばよかったか」
僕の言葉にコンラッド団長は、どこか残念そうな顔をしていた。
「でも、コンラッド団長は僕の大事な家族の一員ですよ」
「はぁー、ソウタは本当に人たらしだな」
「僕ですか……?」
「ああ、君以外にこんな人たらしを見たことがない」
どうやら僕はコンラッド団長の中では、人たらしという扱いのようだ。
そんなつもりは一切ないんだけどね。
「まあ、俺もソウタを養子にするのを諦めるつもりはないけどな」
「えっ……?」
「一途の男がかっこいいって言ったのはソウタだからな」
そう言って、コンラッド団長は清々しい笑顔を見せて部屋を後にした。
ひょっとしたら、コンラッド団長ってめんどくさいストーカー気質の人なのかもしれない。
どこか悲しいコンラッド団長の過去でしたね。
それでもソウタは黒翼騎士団を優先する。
今後どうなるか……私も考えてないのでわかりませんwww
そして、別の宣伝になりますが、6月上旬に新シリーズの発売が決定しました。
出版レーベルは……アルファポリスです!
ってことでこちらがそのタイトルです。
『無才能で孤独な王子は辺境の島で優雅なスローライフを送りたい』
きっと発売する頃にはレンタルに切り替わるかと思います。
そして、web版を読めるのは今のうち。
なんと……年齢設定が青年からショタになりますwww
全く別物に生まれ変わるので、読むなら今ですよー笑
またあちらの方で書影とか公開しておきますね!




