100.兄ちゃん、将来を考える
僕はベッドで横になりながら、さっきまでの時間を振り返る。
「やっぱり早く帰りたいなー」
コンラッド団長の家は居心地が悪いわけではなかった。
さすが貴族だからか、執事やメイドもいるし、料理人もいた。
パンはレオの店で買っているのもあり、全体的に味は薄めだったけど、まずいわけではない。
それに僕がお客さんだからか、みんな親切に接してくれる。
だけど――。
「やることがないって暇だね……」
いつもは家事に追われていたり、弟のような騎士たちに声をかけていることが多い。
ゼノさんとか僕がどっかにいくと、僕を探して庁舎の中を徘徊しているからね。
でも、そんな騎士たちのおかげで僕は自分自身の存在意義を感じていたのだろう。
この世界の人に生まれ変わったけど、僕が僕として生きていけるのは、黒翼騎士団の騎士たちがいたからだと改めて実感する。
――トントン!
「ソウタ、今いいかな?」
「はい!」
返事をすると、コンラッド団長が入ってきた。
お風呂に入った後なのか、首にはタオルのような布がかけられ、まとめられた髪が解けて濡れている。
僕はベッドをポンポン叩くと、コンラッド団長は首を傾げていた。
「どうしたんだ?」
「髪を拭いて……あぁ、すみません!」
僕はすぐにコンラッド団長に謝る。
「普段みんなの頭を拭いていたので……」
いつものように騎士たちの頭を乾かすつもりで、体が勝手に動いてしまった。
僕が布で拭きながら、隣でゼノさんがドライヤー魔法で乾かすのが日課だもんね。
ゼノさんの膝の上に僕が座り、そこに騎士たちが頭を置いて、毎日騎士に挟まれてサンドイッチ状態になっている。
まあ、その影響かはわからないけど、今では黒翼騎士団の騎士たちは、前よりも髪の毛の絡まりはなくなり、指通りのいいサラサラヘヤーになった。
「くくく、それなら俺もやってもらおうか」
コンラッド団長は僕に布を渡すと、ベッドの近くで座り込んだ。
ここにきてやっと僕の仕事があって、つい嬉しくて笑みが溢れる。
布を両手で持ち、コンラッド団長の頭を優しく撫でるように髪を拭いていく。
「あー、心地いいな……」
コンラッド団長は声が漏れ、全身の力が抜けていく。
僕の力だとまだ弱いけど、一緒に頭や首筋をマッサージしているからね。
「こんなに尽くしてくれたら、離れられなくなるな」
「そうですか? まあ、その時は僕がずっと面倒を見ますよ!」
僕の方がみんなよりも年下だから、長生きできれば最後まで面倒を見られるかもしれない。
介護経験はないけど、弟妹のオムツ交換もしていたから、僕でもできるような気がする。
コンラッド団長は頭を僕の膝の上に預けて、ジーッと僕を見つめる。
「ソウタは将来どうしたいか考えているのか?」
「将来ですか……」
ふと、コンラッド団長に将来について聞かれた。
この世界にきて将来のことを考えたこともなかった。
そもそも、前世でもあまり将来のことに深く考えたことはない。
勉強はクラスで一番か二番になるぐらいそこそこできていたし、好きなことは家事と弟妹の面倒を見るぐらいだった。
両親は進路のことは特に何も言わなかったけど、父さんはいつも医師はやめとけって呪文のように言ってたな……。
父さんは社畜のような生活をしていたし、僕たちと一緒にいる時間がほぼなかったから、後悔していると言っていた。
「ソウタの頭なら城でも働けるだろうし、今から訓練に励めば前衛騎士にもなれるはずだ」
きっと貴族は早い段階で将来を見据えるのだろう。
僕は将来の姿を想像してみる。
例えば、勉強して城で働く姿を想像すると――。
「んー、宰相や財務卿のような姿は想像できないですね」
二人ともどこか父さんの疲れた顔にそっくりだからね。
そんな人たちみたいになりたいかと言われたら、憧れは抱かないだろう。
だけど、コンラッド団長みたいな前衛騎士かと言われたら――。
「僕が戦う姿って想像できます?」
「あー、剣を持っている姿というより、バリーみたいなやつを手懐けている姿は想像できるか……」
「くくく、別に僕はバリーさんを手懐けているわけではないですよ」
僕が微笑むとコンラッド団長はキョトンとした顔をしていた。
「コンラッド団長、その顔やめてくださいよ」
「ははは、すまない」
まさかコンラッド団長も僕がバリーさんを手懐けたと思っているのだろうか。
僕はただ仲良くしてもらっているだけなのに。
「僕はみんな一人一人とちゃんと見つめ合える人になりたいですね」
「見つめ合う……?」
「ええ、今まで色んな方と関わってきて、すごく生きづらそうに感じました」
黒翼騎士団の騎士たちは、町の人たちから嫌われていた。
青翼騎士団の騎士たちは、貴族という鎖に縛られていた。
孤児院の孤児たちは、生きる自由を奪われていた。
貴族たちは、選択の自由がなくなっていた。
「僕が出会った人たち、みんなが少しでも幸せな選択ができるようにお手伝いしたいですね」
「……ソウタは女神みたいな人になりたいんだな」
「くくく、神様じゃなくて女神なんですか? 僕、男ですよ」
「ははは、それもそうか」
コンラッド団長は顔を上げて、立ち上がると僕の頭を優しく撫でた。
「どうかしました?」
「いや、ソウタは思ったよりもしっかり将来を考えているんだなと思って」
どこか父さんのように優しく微笑む姿をコンラッド団長から感じた。
きっと僕のことを心配しているからこそ、こうやって聞きにきたのだろう。
黒翼騎士団で、こういう話をしたことがないからね。
そもそも忙しくて、ずっとバタバタとしていた。
「何か助けが必要になったら、貴族の俺を頼ればいい」
「また養子にならないかって話ですか?」
僕はクスリと笑う。
コンラッド団長って僕に会うたびに養子にならないかと冗談混じりに言ってくるからね。
「ああ、俺はいつでも本気だからな。選択肢の一つとして考えておくといい」
いつものような冗談混じりな笑顔はなく、コンラッド団長の顔は真面目だった。
まるで僕の将来を本当に心配しているような瞳をしていた。
「心配してくださりありがとうございます」
僕はニコリと微笑むと、コンラッド団長はいつも通りの顔に戻り、部屋から出て行った。
ちゃんと将来のことは考えないといけないと、僕は改めて感じた。
ついに100話となりました!!
ここまでありがとうございます!
連載当初は100話までには完結するつもりが、全くその兆しが見えず……。
書きたいものがあると、完結からかなり離れていきますね笑
ただ、商業にならないものをずっと連載するわけにはいかないので、どこかで一度区切りはつけるかと思います。
それまでは応援していただけると嬉しいです!




