表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/42

24【選抜と評価】~織田壮一~

玉竜旗大会のレギュラーメンバー選抜に悩む、織田のお話。

織田視点で、お送りします。

 翌日、織田は市立船戸高校剣道部員をマイクロバスに乗せて、錬成会の会場に指定されている市内の総合体育館へと向かった。到着するなり、部員たちに着替えてすぐにウォーミングアップをするように言うと、アリーナへ入る。アリーナではすでに錬成会参加校が集まり、それぞれアップを始めていた。何百人もの剣士たちから発せられる気合いの声が、体中に響く。明日、いよいよ玉龍旗大会が開催されることもあり、彼らの声には異常ともいえるほどの迫力があった。


 織田は昨日までの練習試合で世話になった福岡海城学院高校の顧問、吉岡を見つけ、あいさつをした。彼に各学校の顧問を紹介されたあと、アリーナの上座にずらりと並べられたパイプ椅子に座る。それは見学者や顧問用に用意されたものだ。


「で、どうだよ。チームの調子は」

「まずまずですかね。初めての大会にしちゃあ、みんなリラックスしてますよ」

「そうか」


 吉岡とは長い付き合いだ。高校の頃から九州で剣道をやることに憧れ、織田は十八で単身、この地へやってきた。それまで縁もゆかりもなかった九州の大学を受験し、剣道部の寮に入ったのだ。そのとき、面倒を見てくれたのがこの吉岡という男だった。


「いやぁ、嬉しいよなぁ。織田がこんな所まで来られるようになったんだから」

「吉岡さんが声かけてくれなかったら、勇気がなくって来れませんよ。うちは本当、まだまだ弱小ですからね」


 織田がそう言うと、吉岡はかぶりを振って笑った。


「よく言うよ。そうそう、一年にイキがいいのが入ってきてるじゃないか。えぇっと、朝比奈っていったかな。大砲みたいな面打つ奴」

「朝比奈はね。これから本当に楽しみです」


 今、アリーナでウォーミングアップを始めた自チームを眺めながら、織田は答える。航は二年生の羽柴と同じ中学で、しかも、彼には相当、(なつ)いていたので、市立船戸への勧誘をするのにはさほど苦労しなかった。ただし、それでもひょんなことから心変わりして他校に進学し、敵チームとなることはあり得ない話ではなく、航が願書を出すまで、織田は相当、ドキドキしたものだった。

 朝比奈航を敵にはしたくない。敵となればそれは恐ろしい。航にはそう思わせる実力も剣士としての魅力も充分過ぎるほどあった。特に、彼が得意とする面打ちに関して言えば、織田は今現在でも、県内で右に出る者はいない、確実にトップだと信じている。同じことを、吉岡もまた感じているようだった。


「うん、あいつはなかなかいい。お前、いいのを入れたよ。それとあれだ。あのちびっちゃいのも、うちとしては怖い」

「あぁ、浬ですね。小笠原浬」

「そうそう。ちびだけど、あいつには戦うセンスがある。いやぁ、一年が強いと二年が引き締まっていいな。見たところ、まだ二年はバタバタしてるだろ」

「そうですね……」


 吉岡は実によく見ている。全く彼の言う通りで、我が市立船戸高校剣道部の二年生は極めて不安定だった。新部長の羽柴はともかくとして、副部長となった斎藤はいまだだに調子が安定しないことが多い。佐伯に関しては怪我から復帰したばかりで本調子が出ておらず、その佐伯の怪我が原因で長期間休んでいた雑賀も同様だった。


 そういった中で、航や浬、また楓の存在があることはありがたいと言うべきだろう。彼らは二年生がちょっとでも気を(ゆる)めれば、簡単にその実力を追い越してしまうほどの強者だ。

 どんな人間にもそれなりにプライドはあるもので、二年生が一年生に追い抜かれたくないのは、考えずとも想像できること。だから、三年生が引退した今、不安定ながらにも二年生は気を(ゆる)めるわけにはいかず、必死になって稽古や試合に励んでいる。それを織田は確かに感じていた。ただし、実際に評価する際には、やはり実力と結果を優先して選手を見てやらなければならない。

 明日、大会に出場させることのできるメンバーは全部で七人。当然だが、全員をレギュラーにはできないのだ。


「選抜メンバーは決まったか?」

「まぁ、はい」

「なんだ、不安そうだな」

「こればっかりは、年功序列ってわけにはいきませんからね」

「当たり前だ。ひと昔前のサラリーマンじゃあるまいし」


 年上だから、レギュラーになれるわけではない。強い者、一本を取る力を持つ者が、それには優先的に選ばれる。そんなことは当然、部員全員が理解しているはずだ。しかし、大会に出場するメンバーを選ぶというのは、織田が部員たちを天秤にかけて評価するようなもの。だからそれには必要以上に神経を使う。先輩を差し置いて、後輩がレギュラーになる場合なんかは余計だった。


「まだ一年ですし、経験こそ浅いけど、航と浬は使ってみたいんですよね」

「だろうな。あのふたりは面白そうだもんなぁ」

「えぇ」


 航と浬を使ってみたい。それは織田の欲望だった。ふたりが選抜の五人の中に入ると、彼らの勢いに巻き込まれるようにして、不思議とチームの士気が上がるのだ。ただし、一年生を二人も入れるとなると、残りの枠は当然、五人になる。――とは言っても、三年生である市鷹や、彼とほぼ同等の実力を持つ双子の弟の将鷹は一軍のチーム編成には欠かせないので、残りの枠はさらに少なくなって三人。あとは、昨日までの試合結果を考慮すれば、羽柴、毛利、雑賀。自然とこの三人に(しぼ)られてくるのだった。


「浅井兄弟と……、羽柴も安定してていいんじゃないか。オレとしては上段を一人、入れておきたいから、あと二人選ぶとしたら、雑賀と……毛利だな」

「やっぱりそうですか」

「毛利は三年だろ。最後の試合じゃないのか?」

「えぇ、そうなりますね」


 この遠征においては、三年生の参加は自由だと、織田ははじめに告げている。受験や就職活動で忙しいのなら無理をしなくていい――と。それでも、毛利は高校生活最後のこの福岡遠征に参加してくれた。その彼に対して、ベンチで応援組に入れ、とは織田はどうしても言えない。


 もちろん、彼の実力を比較して考えても、それが順当だった。ただし、これから先のことを考えれば、二年生の斎藤や佐伯を選抜して、強豪校との実戦経験を積み、学んでほしいという気持ちも織田にはある。特に斎藤はこの夏から副部長を務めることになるので余計だ。

 しかし、彼はこの遠征が始まってから、最も調子にムラが出ている。しかも、大会でなるべく多く勝ち進むことを考えればやはり、毛利を七人の選抜メンバーから外すわけにはいかない。ほかのメンバーにおいてもそれはまた同様だった。


「斎藤にはもう少ししっかりしてもらわないとな……」

「斎藤?」

「うちの新副部長なんです。羽柴とはいい相性なんですけど、どうもムラがあるんですよ」

「ほぉ……」

「今回、一年二人と、雑賀を入れるとすると……、斎藤は初めて選抜から外すことになるんで、ちょっと心配してるんです。これを機に、あいつに火がついてくれたらいいんですが」

「そういうのは本人が一番やばいと思ってるだろうけどな。まぁ、ベンチにいないと学べないこともあるさ。それもまた勉強だ」


 やがて、ウォーミングアップの時間が終了し、広いアリーナには六つのリーグが分けられ、準備が進められた。どうやら我が市立船戸高校は、目の前にある第一リーグに組み込まれているようだ。

 不意に、市鷹が駆けてくるのが見えて、織田は立ち上がった。彼はメンバーを聞きにやってきたのだろう。


「航、毛利、マサ、羽柴、イチ。あとはローテーションで行け」

「はい」


 市鷹が去ったのを見計らって、吉岡はふふ、と笑みを(こぼ)す。


「……なるほど。それが明日のオーダーか?」

「さぁ」

「なんだ、ここまで来てナイショかよ」

「そりゃあ、そうでしょう。明日戦うかもしれないってのに」

「ははは……! それもそうだ」


 互いに笑みを(こぼ)して(うな)る。ほどなくして互いに自チームの試合が始まった。吉岡は航の試合にちらちらと目をやりながら「今日もいいねぇ、朝比奈は。いやぁ、うちに欲しいわ」と羨ましそうに冗談を言った。


 吉岡は自チームの先鋒の試合を観ながら「うちの一年はどうもまだナヨナヨしてんだよなぁ……」とぼやいている。どうやら彼のチームで、今、戦っている先鋒も一年生のようだ。


「吉岡さんとこも、先鋒は一年ですか」

「さぁてな。ナイショだ」


 吉岡がさっきの仕返しだ、とでも言うかのように、ニヤリと口角を上げる。織田は(まゆ)を上げて、再び自チームの試合に目をやった。今、戦っているのは同じく先鋒。航だ。


 航は錬成会でも好調に結果を出していた。相手が強豪であっても、彼は決して(ひる)まずに、なかなかいい戦い方をする。見る限り、調子が崩れることも極めて少なく、勝ち負けはさておき、戦い方にもセンスがあった。誰しもがただ稽古をするだけで、彼のような選手になれるわけではなく、織田としてもやはり、航はレギュラーには入れておきたいところだった。


 たとえ勝てなくても、いい試合をして帰ってくるかどうか。織田は普段から、部員たちにそれを重きにおいて戦ってほしいと思っている。結果はもちろん大事だが、それと同等に重要なのは、どうやって勝ったか、あるいはどうやって負けたかなのだ。同じ二本負けだとしても、一分足らずで、自分の見せ場を全く作れないまま打たれて負けてしまうのと、ギリギリ四分間(ねば)って、惜しい技も出しながら、それでも力及ばずに負けてしまった、というのは絶対に得るものが違う。いや、むしろ勝敗よりも、そっちの方が次に戦う仲間をはじめ、チームに与える影響は大きいかもしれない。


 航は強い相手と戦っても、当たり前にそれができた。たとえ負けたとしても、必ずチームの勢いを殺さない戦い方をして帰ってくるのだ。しかも、彼はどこか楽しそうでもあり、そこに関しては浬も同じだった。

 もしかしたらあのふたりにとって、強豪校と当たって戦うということは、難しいゲームをあーでもない、こーでもないと作戦を立てながら攻略していくようなものなのかもしれない。


 やっぱり……、あのふたりはチームに欠かせないな……。


 織田の考える明日のオーダーには、航、浬をレギュラー七人の中に入れることは、ほぼ決定している。あとの五人は羽柴と雑賀。そして三年生三人。これが明日行われる玉龍旗大会で勝ち抜く最善のオーダーだ。あとは、この七人の中から、今日の錬成会の戦い方次第でさらに五人を選ばなければならない。それは、全部員から七人を選ぶことよりもずっと難しかった。

 




 その日、錬成会が終わってホテルへ戻ったあと、織田は自室に部員全員を集合させた。二日間の練習試合から、本日の錬成会での全試合を通してみても、毛利、将鷹、市鷹はさすが三年生ともあって落ち着いていた。羽柴は攻め方がやや消極的にも見えるが、慎重に相手を探っていたのだろう。彼は決して(ひる)んでいるのではなく、吉岡が言った通り、安定していた。やはり、この四人は確実だった。

 そして、残るは一人。これが本当に苦しい選択となったが、散々悩んだ結果、織田は航を先鋒に選び、浬、雑賀を補欠とした。もちろん、織田はこの補欠のふたりにも活躍を期待している。


「明日のオーダーは、先鋒が航、次鋒に毛利、中堅がマサ。副将、羽柴。大将はイチだ」

「はい……!」

「控えは雑賀。それから浬」


 そう言ったあと、ほんの少し間があってから、「はい!」と、(そろ)った返事があった。浬は目を輝かせて織田を見つめている。雑賀は少し驚いているようだったが、それでもしっかりとこちらへ視線をくれていた。ふと気になって、織田は斎藤に目を向ける。しかし、彼は(うつむ)いてしまっていて、織田を見てもいなかった。いつも飄々(ひょうひょう)としている彼にも、プライドというものは当然あるのだろう。


 さすがの斎藤も、後輩に抜かれるのはショックだったか……。


 そうは言っても、斎藤は航や浬、また雑賀に取って代わることはできない。今の彼には三人と同じだけの活躍は見込めないからだ。


「佐伯、大地、斎藤はしっかり応援頼んだぞ。サポートも抜かりなくな」

「はい……!」

「以上で解散。夕食まで自由時間にするが、ストレッチマッサージはしっかりやっとけ。ノートは九時まで」

「はい! 失礼します!」


 部員たちは、あいさつをすると立ち上がり、それぞれの部屋に戻っていく。その中で、どこかしょぼくれた顔を見せたまま、斎藤も立ち上がった。これはどうも話をしなければならないようである。もちろん今日、こうなることは想定していたが。


「あー……、斎藤」

「はい……?」

「お前はちょっと残れ。話がある」


 斎藤を残し、部員たちが去っていく。やがて、静かになった部屋の中で、織田は鏡台の前にある椅子を出して斎藤を座らせ、自分はベッドの上にあぐらを()いて向き直った。斎藤はやや緊張した面持ちで、こちらを見つめている。


「斎藤」

「はい」

「お前、この大会で自分が七人の中に入る可能性があると思ってたか」


 斎藤は(うつむ)いて、弱々しくかぶりを振る。やはり、自分が選抜メンバーの七人から外されてしまうことは、彼にもわかっていたようだ。織田は腕を組み、低く(うな)ってから頷いた。


「お前は技術的には浬にも、雑賀にも劣っていない。体力的に言えば、羽柴なんかとも同等だともいえる。でもな、戦うときに一番大事なのは、普段持ってるお前のそういう力を、いざとなったときにお前自身がどれだけ出せるか、だ。ここに尽きるんだ」

「はい……」


 普段の校内試合で勝率が良くても、稽古でいい技を出しても、それが試合に出せなければ意味がない。試合とは「試し合い」と書くが、それは戦いなのだ。失敗してしまったからといって、その試合のやり直しは二度ときかない。本番に弱いとか、場所が変わることで影響されてしまうようでは、レギュラーには向いていない、と織田は評価するしかない。たとえ、それがすべてではないと理解していても、だ。


「自分の実力を安定して本番に出せるやり方を身に付けろ。そうでないうちは、三年生がいなくなったあとも、試合には出せない」

「はい」

「オレが言いたいのは、それだけだ。今回はサポートに回ってもらうが、しっかり頼むぞ」


 織田がそう言うと、斎藤は顔を上げて(たず)ねた。


「先生……。一つだけいいですか……」

「なんだ」

「どうして、先生は副部長をオレに指名したんですか」

「副部長にふさわしいのがお前だと思ったからだ。そんなことは当たり前だろう」

「はぁ……。オレが、ですか……?」

「俺はふさわしくないと思った奴には任せない。斎藤、お前はこの一年間で、自分が積み重ねてきたものがどんなものか、もっとよく考えろ。お前は今、その上に立ってるんだからな」


 そう言ったとき、斎藤の目が一瞬、ハッとしたように大きく見開いた。






 織田は斎藤と話したあと、羽柴が全員分の部活ノートをまとめて部屋へ持ってくるのを待った。この夏から新部長となる彼にもまた、斎藤のことは話しておかなければならないと思ったからだ。

 風呂に入り、明日の大会の準備を終える。赤いネクタイ、半袖の白いワイシャツにグレーのスラックス、紺のソックス。これは明日行われる玉竜旗大会で定められた、審判の服装である。大会に参加する監督はたいてい、その大会の審判の役割を任されることが多かった。明日、織田もその任に就いているのだ。


 準備を終え、羽柴を待つこと数時間。午後八時半を回った頃、不意に部屋をノックする音が聞こえた。織田が返事をしてドアを開けると、羽柴がノートを(かか)えて立っていた。


「今日の部活ノートです。お願いします」

「おう。羽柴、お前斎藤と同じ部屋だったよな?」

「はい」

「ちょっと」


 織田がそう言って手招きする。羽柴は首を(かしげ)げたが、「失礼します」と言って部屋の中へ入ってきた。


「あいつ、しょぼくれてなかったか」

「ものすごく、しょぼくれてました」

「そっか……。まぁ、仕方ないか……」

「はい。斎藤はこの遠征来てから、ずいぶん調子悪かったですから。元々、かなり神経質みたいなんで、遠征は苦手なんだと思います」


 羽柴は織田の心配をすでに理解しているかのようにそう言った。さすがは一年間、彼の一番近くでともに稽古に励み、切磋琢磨してきただけのことはある。しかし、あの斎藤が神経質というのは初耳で、織田は(まゆ)をひそめた。


「神経質……? 斎藤が?」

「そうなんです。部屋でも枕が低いとか高いとか、結構、細かいこと気にしてます。夜もたぶん……、あまり眠れてないんじゃないかと……」

「あいつ、そういうタイプなのか……」

「プライドなのか、本人もあんまり見せないようにしてるのかもしれません。プロのスポーツ選手じゃあるまいし、枕とかマットレスとか持ち歩くわけにいかないんだから慣れるしかないだろって、つい昨日話したばかりでした」


 意外だ。織田が見る限りでは、斎藤は真逆のタイプだと思っていた。いつも飄々(ひょうひょう)として、ふざけて誰かを茶化してばかりいる斎藤は、無頓着で、気分屋で奔放(ほんぽう)な方なのだろう、と。しかし、どうやら見誤っていたようだ。


「そういうのが原因なのか……。なるほどよくわかった。羽柴」

「はい」

「斎藤はそのうち、絶対にいい副部長になって、お前の助けになる。だから、もう少し信じて待っててやってくれな」


 織田はそれを確信した。すると、羽柴もそれを元より理解していたように答える。


「もちろん。そのつもりです」


 その頼もしい返事に織田は満足して、羽柴を部屋へ返した。やはり、彼は大したものだ。物事を深く見ていて、落ち着いていて、賢い。聡明、というのはああいうのを言うのだろう。部長を務めるのには、彼はまさに最適といえる。

 ただし、彼のような人物がリーダーとなるとき、どうしてもチーム全体は生真面目になって、雰囲気が硬くなりがちだ。真面目なのも精神面で落ち着いているのも良いことではある。――が、何事もバランスが大事なのだ。しかし、そこに斎藤がいることで、少しくだけた雰囲気も、(あわ)せて作ることができる。

 たとえば、チームの調子が上がらなかったとき、負け続きになってチームが精神的に鬱々(うつうつ)となったとき、あえて空気を読まずに、無理やりにでも気持ちを切り替えるスイッチが必要になるときがある。その役目を彼が果たしてくれるのではないか。織田はそう考えていたのだ。


 あいつは気分屋で奔放(ほんぽう)な奴なんだと思ってたが、もしかしたら、わざとそう見せてるのかもしれない……。


 そうであれば、斎藤は見えない所で、かなり細やかにみんなに対して気配りをしてくれているのかもしれない。このチームの中で、自分がどういう存在でいるべきか。どういう立ち位置でいれば、自分がチームにとってプラスになるか。それがわかっていて、いつも懸命にバランスを取ろうとしているのかもしれない。

 おそらく彼には、自分が目指す理想像があるのだろう。しかし今、彼の実際の能力はその理想像に届いていない。それどころか、遠征という環境の変化が、それを余計に大きくしてしまっている。斎藤はそれに自ら気付いていて、密かに悩み、自分の心と闘っているのだ。


 ちょっと時間はかかるかもしれんが、斎藤(あいつ)は面白い副部長になるかもな……。


 これからが楽しみだ。織田はそれを感じながら、部員の部活ノートを開く。そうして、いよいよ明日行われる玉竜旗大会へと思いを()せた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、続きをお楽しみいただけますと嬉しいです。


いなば海羽丸

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ