第十話 『王族暗殺計画 中編』
――アイン視点――
階下から響く爆音に意識を削がれながらも、俺は廊下を慎重に走る。
(大丈夫か……)
階下で戦闘が始まってから、既に二十分以上が経過していた。アレフはかなりしぶとい男だが、それでも三十分程度で限界を迎えてしまうだろう。兵士の多さを加味すれば、それも甘く見積もり過ぎかもしれない。
刻一刻と迫るリミットを意識し、焦りを募らせる。現時点で仕留めた標的は、第二王子と第三王子だけだ。
二人共、典型的な王族のボンボンといった様子で、短剣を見せただけで泣き出してしまう始末。護衛の兵士も数人しか付いておらず、王国から死んでも良いと、そう判断されているのが明白だった。
故に二人の処理はものの数分で終わったのだが、その後が問題だった。
盗み聞きした兵士の話から察するに、新国王として即位したのは第一王子。奴は玉座の間にて多くの家臣を侍らせ、踏ん反り返っているらしい。
率直に言うと、奴を仕留めるだけなら可能だ。アレフがかなり派手に立ち回っている御陰で、未だ俺の存在は悟られていない。故に奴を射程圏内に捉え、毒矢で身体を打ち抜けば目標達成である。
では何故、仕留められる最優先目標を放置しているのか。
答えは単純、第一王女を発見出来ていないからである。
王族の居住階は、四~五階。その殆どに目を通したが、第一王女らしき人物は見つけられなかったのだ。
全員処理しておいた方が報酬も高くなるため、始末しておきたかったのだが……。まあ、それで肝心の国王を逃したら元も子もない。
俺は一呼吸置いた後、最上階にある玉座の間へ向けて進み続けた。
*
「ご報告します‼ 侵入者は現在、玉座の間へと進行している模様‼ 痺れを切らしたのか、天井を突き抜けながら移動しています‼」
突如、玉座の間に響く兵士の大声。本来であれば無礼千万と切り捨てられる所だが、現在は未曾有の非常事態である。
玉座の間に居た人物は例外なく、視線を床面へと向けた。
徐々に大きくなる、兵士たちの怒号と城内が破壊されていく音――。
『――――トスッ』
その刹那。放たれた一本の矢が、国王の頭部に突き刺さった。
『『『――――!?』』』
命中。俺はそれを確認すると、懐から『転移結晶』を取り出し、床面へと叩き付ける。途端溢れ出す、淡緑色の光。その奔流に身を包まれながら、一気に騒がしくなった玉座の間を後にした。
ようやく現状を理解した兵士たちが、俺を逃がすまいと攻撃を仕掛けてくるが、時既に遅し。俺の身体はもう、そこには存在していない。
「守りてェモンがあんなら、目ェ離すんじゃねえよ」
僅か十秒にも満たない、一瞬の出来事だった。
*
「はぁ、疲れたな……」
王都「レヴィアルス」外周に存在する洞穴。予め『転移結晶』を登録しておいたその場所へと、俺は転移していた。
現在、帝都の外周には対外用の軍隊が待機しており、目下の戦闘に向けて精神を研ぎ澄ませている。と言っても、他国の軍が到着するまで少し余裕がありそうなので、各々自由に時間を過ごしているようだが。
さて、俺にはまだ一つ仕事が残されている。面倒だが、かなり重要な仕事だ。
俺はコッソリと洞穴から顔を出すと、王国兵のふりをしながら人目の付かない所まで移動した。そして持っていた発煙弾の導火線に、調理用の魔道具で火を付ける。
その数秒後――、黄色の煙が勢い良く空へと打ち上げられた。これはアレフに作戦完了を伝えるためのサインである。
緑なら、全員処理。
黄色なら、国王以外の欠け。
赤なら、国王欠けをそれぞれ表している。
煙は凡そ二分間、空に残り続ける。その間にアレフが視認出来れば良し、出来ない場合は限界を迎え次第、転移する運びとなっているのだ。
(死ぬんじゃねぇぞ、アレフ……)
空を染め上げる黄色の煙を眺めながら、俺は相棒の無事を切に願った。




