擬似世界:ミラージュ
さぁ爺さんとの長くない話し合いが始まります。
暖かく見守ってやってください!
ーーまずは...何故義遊魔王軍に入ろうと思ったのかの?
ーーそれに答える意味は...?
その質問を聞いた瞬間俺は真剣に答えなければならないと直感で感じた。それで少し探ってみようと思ったのだが...
ーーなに、別に意味はない。ただ純粋に儂が知りたいと思っただけじゃよ。なにせ引退した者たちによって作られたものだとしても、実態は元魔王が率いるれっきとした魔王軍だ。面倒事も度々起こるだろう。それなのになぜ入ったのかの?
内心ほっとした。てっきりお前はどこかのスパイか?みたいな取り調べ受けるのかと思ってたからだ。でもそんなことも無くただの質問だったようで肩の力も抜けた。
まぁここであなた達と敵対するためです♪とか言ったら殺されると思うか...いや言うはずないんだけどさ?
ーーそれはただ面白そうだと思っただけですよ。
ーーほう面白そうだとな?それは恐怖の裏返しではなく?
ーーえぇ、面白そうです。俺は、まぁここではない世界である事故に合いました。そのせいで一時期感情に欠落が生じてしまったのですよ。カッコイイとも可愛いとも、ましてやつまらないとも思えなくなったんです。その時に俺の心の中にあったのはただの『無』だったんです。
あぁ、感情が...
ーーその後ある奴のおかげで感情が芽生えましてね?それは最初は些細なものでしたよ?あ、そこに何かあると興味を示すようになったんです。そこからの回復は早かった。簡単な『楽』、『嬉しい』という感情が戻り今では昔通りの感情を持ち合わせることができました...でも怖いんですよ。また感情が無くなったらと考えると。
だから...だから俺はひたすら刺激のあるものを求めた!時には息を我慢して『くるしい』という感情を高めたり、時に戦って『楽しい』という感情を高め!...と色々試したんですよ...でも上手くいかなかった。どうしても心が満たされないんだ。
そこで俺はこのユッカを知った。あなたの努力しだいでなんにでもなれるというのなら、感情を持ち続けられる方法を見つけられるんじゃないかって...だから面白そうだと思った義遊魔王軍にはいったんです。
これがその理由ですよ...どうでしたか?
そう言い切った俺の心からはすでに怒りと焦りの感情は消え去り、ただただ普通を感じるのみであった。
「ネクトよ...。」
そう言うと爺さんは立ち上がって俺に近づいてきた。途中ほとんど素で話していたのが悪かっただろうかと気になったが、その間等雰囲気は怒りではなくただ悲しみによって支配されていた。
がしっー
え?一体どうした...むぐ。
「ネクトよ本当にすまなかった。さっきの儂の純粋な興味というのは嘘ではないがもう一つ理由があったのだ。それは単純に敵対の意識があるかどうか、いい加減な気持ちでやっていないか。ということを見抜くつもりじゃった。だが、そんなのを疑った儂が馬鹿だったの。本当に、すまなかった。」
そうお爺さんは身体を震えさしながら俺に謝った。上を見上げて見える爺さんの瞳からはとめどなく涙が流れ出し、その顔もしわくちゃになっていた。
だが俺は分からなかった。まぁ、俺の事を心配して涙を流してくれているのはわかる。だがまだ会って少しばかりの奴にこんなに涙を流すほど悲しんでくれるんだ?
ーーなぁフェイルさん、涙を流してくれるのは有難い...。けどそんなにもなんで泣いてくれるんだ?まだ会って数分しかたっていないだろう?
「そんなの...決まっておる!確かにネクトだけに泣いているわけではない。だがの、ネクト。そなたは儂の愛する孫が選んだ大事な家族じゃ。そんな家族が悲しみ傷ついておったら悲しむに決まっておるだろう?!」
ーー爺さん...それでだけって他に誰に泣いてるんだ?
「もちろん儂に決まっておるだろう?そなたの事情を考えずに無粋な質問をしたのだ。そんな自分が不甲斐なくて涙を流すのは仕方なかろう!」
・・・ほんとに、この爺さんは。そうか、これが悲しみに溢れた優しさってやつか。
そう俺は感じた。確かにリアルでも母親は悲しんでくれた。だが、それは哀れみともとれるものであった。あの事故にあったのだからこんなふうになってしょうがないという哀れみの視線が混じった悲しみ...
だがこの爺さんは違う。その涙を流す目には慈愛と優しさが詰まっており、本気でこちらを心配してるようであった。だが母親が悪いとも言えない。それが母親の悲しみ方であり、またこの爺さんの悲しみ方も爺さん特有のものなのだ。
悲しみ方なんて色々ある。感情が千差万別のようにな...。
あぁ、俺も泣きたい。だがこの身体は涙を流せない。例え頭があったとしてもこの身体から涙は流せないだろう。だから気持ちの中だけでも嬉し涙を流そう...。爺さん、ありがとう。
そう俺は心の中でお礼を言った。言葉にすると爺さんの涙の流れる量が増してしまいそうだからだ。
それに...さっきからドアから除くプレルの視線も気になるしな...。まぁ目がどこかは分からんが。
こうして俺達はしばらく抱き合って泣き過ごした。
ーーーーーー◇
「フェイル様何してたんです?」
「いやの?ネクトの過去話にとても感動してしまってのぉ。それで我慢できず抱きついてしまったのだ。」
ーー不甲斐ながら俺もだ。
「不甲斐ながらってなんじゃい!儂は悲しいぞ!」
ーーふん...
『なんだ相棒照れてんのか?』
『うるせぇ!てかこのタイミングで出てくるな!』
『そんなカッカすんなって。相棒も嬉しかったんだろ?あんな言葉を言ってもらえて。そなたは家族だ!なんて言葉、俺も言ってもらいたいぜ。あー言ってくれるやつはいないかな。ちらっちらっ。』
『そんなちらちらと口で言うんじゃねぇ。はぁ、お前も十分家族の一員だよ。例え目に見えなくても俺の中にいる、俺だけの家族だ。』
『それは嬉しいこった!俺様感激!』
『んだよあざとらしい。とっとと戻れ!』
『へいへい、戻りますーっと。あと嬉しいってのも感動したってのも別に冗談でもないからな?じゃ、アディオース!』
そう言ってキチとの会話を終えた。たくっ、いっつもいいタイミングで出てきやがって...。
「なんじゃ照れておるのか?可愛いのぉ。」
ーー照れてねえよ!
「ほう、素で話してくれる気になったのかの?それなら儂も大歓迎だ!ほら言いなさい、ほら!」
あっ、さっきのノリで言っちまった。
ーーいやほんの気の迷いで言ってしまったことなので...
「遠慮はいらぬ。気軽に爺ちゃんとでも呼ぶがよい。だが『お』爺ちゃんはダメだぞ?それはナージャちゃんが儂を呼ぶ名前じゃ。」
ーー・・・分かりましたよ、爺さんありがとう。これでいいですか?
「まぁまだぎこちないがいいかの。そうだプレルちょうどいい、こちらに来なさい。」
「え、ええ。分かりました。」
そう言ってプレルは半開きだった扉を開けて中に入ってきた。
「プレルよ、ここの庭を案内してあげなさい。そして雑草刈りを手伝わしてやれ。ちょうどネクトの職業がグラスチョッパーだったしの。これを機会に職業のレベルも上げてくるといい。」
またこの爺さんは...!まぁ、体内鑑定で全部見られたから今更か...
「あら、ネクトさんの職業はグラスチョッパーだったのですね。それではちょうどいい場所に案内します。くれぐれも...覚悟しておいて下さいね?」
か、覚悟?草刈りってそんなにきつい仕事だったっけ?そりゃリアルじゃ腰が痛くなって辛いと聞くがここはユッカでありあくまでゲーム。肉体的な痛みは戦闘以外で発生しないはずなんだが?
そんな考えを脳裏に浮かべながら俺はプレルの触手に引っ張られて置物のように連れてかれた。
どうやら俺の考え込んでしまう癖に呆れて自ら連れてってくれるようだ。まぁ触手でがんじがらめにして絶対に落とさないぞーっていう意識が見られるのはいいんだが...キツすぎて身動きすらできない。まぁこれを機会に道中鑑定でもしてようかな。
だが俺は知らなかった。今は家の中だからいいものの、外に出たら地獄を見るということに。
「気をつけて逝ってきてのーー。」
ん?なんかイントネーションが違うような...。まぁ気のせいだろう、うん。
そして、俺の地獄への入口が目の前に迫ってきた。
ーーーーーー◇
うぉぁぁぁぁあ?!早い早い早い!ぎやぁぁぁぁ?!
場所は草むらの上。俺はそこをプレルの触手に縛られながら高速で走っています。感想?ははは、こんな乗り物あったら爆破してやる!
「大丈夫ですか?ネクトさん。それと絶対動いたりしないでくださいよ?落としたら大惨事になりますから。」
ーーあぁ、絶対暴れたりしないよ。まだプレルの触手に大人しく縛られてた方が安心だ。
「そう、ですか。まぁ本当にきつくなったらどうぞ言ってください。さらにきつく縛りますので。」
いやきつく縛るとかしないでね?さっきちょっと強くなった瞬間に障壁割れちゃったんだから。今より強くされたら骨折れちゃうよ?まぁ溶骨操作で柔らかくできるけどそれじゃ俺触手からスルッと抜けちゃうしな。
てか障壁が役に立った覚えがないんだが?スラむの攻撃が掠っただけで割れ、龍の唾液に絡まれただけで割れ、きつく縛られただけで割れる...。いつ役に立った?まぁ...毎度毎度俺を瞬殺できるレベルだからしょうがないとは思うがな?それでも、もう少し踏ん張ろうぜ?
〈【風圧耐性】を会得しました。〉
いやまぁ、そっちもありがたいんだけどな?はぁ、まあいい。てかスキルまでに発展する風圧を出しながら移動できるこのプレルは何者なんだ?なにせあの神海龍の元で働く奴だ。普通のクラゲなわけないしな...あ、クラゲじゃなかったか。
ーーてかこんなに速いのにまだつかないってどんなに広いんだここはー!てかここどこだよ!
「ここはフェイル様の手のひらの上に作られた世界ですよ。形は本来の大きさだと直径10km、高さ5kmのドーム状になっています。ですが...」
ーーですが?
その位の広さだったらもうとっくに着いているはずだ。なのにつかないってまさか...
「この場所に入る際私達にはある魔法がかけられるのです。無効化不可能、回避不可能な魔法が...。そう世界神より作られし『縮小』の魔法が...。」
ーーな、なんだってー!ってそれだけじゃまだよく分からんのだが。具体的にどのくらい縮ませられているんだ?
多分世界神とはGMのことだろう。まぁ、それよりもどんだけ縮ませられたんだ?神によって作られたって言ってたから50分の1ぐらいかな?
「それは...あぁ、聞いても取り乱さないでくださいね?落としちゃいそうになりますから。フェイル様によると私達の身体は100分の1に縮ませられているそうです。そのおかげでこの世界は実質私たちにとって、直径1万km、高さ500kmという広大な世界になります。」
ーー1万?!それは...なんて広いんだ。
「でしょう?それに私はそんな世界を管理するためにフェイル様に育てられた身ですから。このぐらい早くなくてはいけないのです。」
ーー管理?こんな広大な世界を一人でか?!
「ええ、まぁやることと言えば魔物の間引きや環境を整えるだけですけどね。それにいつでも家には転移できますし楽なものですよ。」
ーーそうか...。でも俺に、まぁできることは少ないと思うけどなんでも言ってくれよな?できる限りのことはするから。
「ふふ、そこはなんでも任せろって言うところじゃないのですか?」
ーーそんな無責任なことできるかよ。変に期待させるのも悪いしな。
「左様ですか...あぁ、そう言えばいい忘れていました。」
なんだ?
そう少し焦らしながらいうプレルの口調は楽しそうで、そして俺を歓迎するかのような声だった。
「ようこそ【擬似世界:ミラージュ】へ。私とフェイル様はネクトさんを歓迎致します。」
そう言ってプレルは俺に優しく覆いかぶさってきた。それはハグされているかのようでひんやりと冷たく、また心が暖まるものであった。
だから俺はこう言おう...
ーーあぁ、こちらこそよろしく頼む。
『もっとお礼をいえよ相棒!言葉すくねえぞ!』
「はい!」
その嬉しそうなプレルの声に被ってキチの声も聞こえてきた...。
・・・空気読めや!!!
さぁ、この世界の秘密を知った主人公は生きて帰れるのか!
というか未だ冒険という冒険ができてないきがする...:( ; ´꒳` ;):
暫くしたら冒険させますのでお待ちください!!




