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第82話 天龍魔法講座・属性編

前回81話の一部を、後の話との整合性を取るために一部修正しています。

具体的には、この世界における飲酒可能な年齢に関して、15歳からだったのが明確な制限はなしになっています。ご了承ください。

『そもそも、属性とは何か。

 魔法とは魔力を思い通りの形に操り、現実をねじ曲げるものだが…… 例えば火を生み出す魔力と水を生み出す魔力は、同じ魔力でも全く別の形となる。

 その形の違いを一言で現したものが、属性なのだ』


 火を生み出す魔力は火属性、水を生み出す魔力は水属性、ということだな。

 当たり前のようだが、定義の確認は大事だ。


 となると、魔力を火属性の形にして操るのが魔法・火のスキル、ということだろうか。


『うむ、その通りだ。

 魔法スキルのレベルが高ければ、より早く、より効率良く、より精密に、より大規模に、魔力をその属性に変換することができるということだな。

 極めれば、自分自身を火の魔力に変換し、意志ある炎と化して戦うこともできるだろう』


 そんなことまでできるのか。

 炎の塊なら、水や酸素不足が致命的にはなるが、物理的な攻撃を完全に無効化してしまえそうだな。

 自分自身が魔法の炎だから、触れるだけで相手を攻撃できる。自分は無敵でやりたい放題だ。


『一歩間違えれば、炎になったまま元に戻れず消えてしまうがな』


 こわっ!

 元に戻れたとしても、うっかり体の一部だけ戻せなかったりとかしたら……想像するだけで怖いな!


 ともあれ、属性とは魔力の形だということはわかった。

 では、人や魔物の属性とは何なのだろう。


 今まで、属性を持った相手というと……

 まず、ミーシャが天属性。

 ルティアのパーティメンバーの魔法使い、アルバートが火属性。

 アルバートが召喚したサラマンダーも、当然ながら火属性だったな。

 そうそう、牙狼の迷宮のボス、ジャベリンウルフは風属性だった。

 そして、三日月党の魔法使い、ヴォルフガング・ウォフ・マナフことジョン・ケインズが雷属性。

 最後に、クレセントベアが謎の月属性だ。


 彼らは勿論、体の一部が燃えていたり放電していたり……天とか月ってなんだろな、天も大概謎だな……ともかく、そういった異常はない。


『うむ。人や魔物など、生命を持った複雑な存在となると、単一の属性だけで構成されてはおらぬ。様々な属性を内包しているのだ。

 そして、それは人が一人一人違う人間であるのと同様に、それぞれ異なった構成をしている。

 ほとんどの場合は干渉しあって無属性となるのだが…… 極端な環境に適応した魔物や、偶然あるいは何らかの理由で属性が片寄った者などは、生来の魔力が特定の属性に近しくなるのだ』


 なるほど。

 そういえば、火を出す魔法に苦戦していたミーシャが、光を生み出す魔法に切り換えた途端にうまくいったな。

 ミーシャは天属性なので、魔力を天属性に変換して魔法を使うのが先天的に得意だということなのだろう。

 逆に、別の属性の魔法を使うのは不得手になるのかもしれない。


 アルバートは火属性、ジョン・ケインズは雷属性に特化した魔法使いだし、ジャベリンウルフは風を槍にして放つ能力があった。

 クレセントベアの月光浴も、月属性だからこその能力ということか。

 今後も、属性を持つ魔物の特殊能力には注意が必要だな。


 そういえば、ゲームなんかだと火属性のモンスターは冷気に弱かったりするが…… こちらではどうなんだろう?


『いや、別にそういった属性間の優劣は無いな。

 勿論、火属性の魔物が冷気を苦手としていたりすることはあると思うが、それは生態であって魔力の属性とは直接的な関わりは無い』


 無いのか。

 属性から弱点を割り出して攻略する、というわけにはいかないようだ。

 そもそも月属性の弱点って何だって話だが…… 星とか太陽とか?


『どちらの属性ともそういう関係ではないな』


 って、星属性とか太陽属性もあるの!?

 無属性を入れて属性は八つ、という話だった筈なんだが。


『ふむ。……そもそも、属性には何種類あると思う?』


 無属性と、地、天、火、水、風、氷、雷の、あわせて八属性……

 ……と聞いた筈なんだが、謎の月・星・太陽が出てきたな。

 あわせて11種類……?

 いやいや、まだまだあって20種類くらい?

 それとも、属性は108種類まであるぞ、とか言うのか?


『いや、実際の答えは……わからない、が正解だ。

 魔力の形は複雑だ。その形ひとつひとつに名前をつけるなら、それこそ108種類など軽く越えてしまうやもしれぬ。我が天龍眼に月属性と表されるものなど、そのひとつに過ぎぬ。

 ……だが、八種類しかない、というのも間違いではない』


 まるで禅問答だな。

 人間が八種類しか知らないだけ、とか。

 いや、マルチクラス方式みたいな感じで、メイン属性とサブ属性があるのかも。メインは天属性でサブが月属性、みたいな。

 あるいは天属性と火属性が合体して太陽属性になる、みたいな?


『くくくっ、お前は色々と面白いことを考えるな、ユート。

 魔力とは互いに影響しあうものだが、何種類かの魔力が集まったとき、その影響が拮抗し合って安定する組み合わせというものがある。

 この世界では、それが七つの属性なのだ。

 そこへ後から別の属性の魔力を足しても、七属性はほとんど影響されず揺るがぬが、その他の属性は安定することができずに形を失い、無属性へと変じてしまう。

 故に、無属性を含めた八つの属性しか存在していないのだ』


 なるほど、つまり月属性も安定せず消えてしまう属性のひとつなのか。

 では、その月属性を持つクレセントベアが、迷宮のオーバーフローで外に出るとどうなってしまうんだろう?


『そもそも、安定しない魔力を属性として持つこと自体が異常なのだ。

 おそらく三日月の迷宮の中は、特異な環境が保たれることで外の世界とは異なる属性バランスを持ち、その中で月属性が安定しているのだろう。

 無属性であった他の魔物はいざ知らず、生来月属性である奴にとって月の魔力がほとんど無い外の世界に出ることは、魚が陸に飛び出すようなもの。弱体化で済めば良いが、この街にたどり着く前に死んでもおかしくはない』


 SFなんかで別の惑星に降り立った人が、人間が呼吸できない大気なのでヘルメットを取ることができない、みたいな感じか。

 迷宮の中は別世界なんだな……と、改めて感じる。

 逆に、人間が入った途端にもがき苦しんでしまうような迷宮もあるのだろうか。


『ありえぬ……とは言わぬが、そもそも迷宮そのものが周囲の魔力の影響を受けて生まれるもの。三日月の迷宮のように僅かな違いがあることさえ稀なはずだ。

 人間が生きていけぬほど属性バランスの崩れた迷宮など、まず存在するまい』


 ふむ、そういうことならその心配はする必要はなさそうだな。


 ともあれ、そういうことなら確かにクレセントベアもそれほど怖れることはないだろう。街の外壁はかなりしっかりした造りで、アンフィスバエナが突っ込んでもそう簡単には崩れなさそうだ。


『だが、お前はそれをわざわざ迷宮まで倒しに行くのだから、迷宮の外に出た後の話など関係ないな』


 ……それを言ったらおしまいだよ。

 結局、月属性が何なのかわかっても、クレセントベア攻略の手がかりにはならなさそうである。


 となると、やはり正攻法でやるしかないな。

 真っ正面から剣と魔法で打ち倒すのだ。


 といっても、闇雲に突っ込むのではない。

 防御力の高い相手には、物理ではなく魔法で挑めばいい。

 その戦術の有効性は、戦士が足止めして魔法使いが倒すという、これまで幾多のパーティがクレセントベアを倒してきたセオリーが証明している。


 幸い、うちは俺もクロードもクラスこそ学士だが、共に戦士でもあり魔法使いでもある。

 ユズは魔法を使えないが、クレセントベアもナイフで切りつけて全くの無傷というわけではない。僅かでも傷がつくなら、麻痺毒を使う手もある。メインのアタッカーは俺とクロードが務めればいい。


 とはいえ、まだレベル1~3程度の魔法では歯が立たない。

 せめてレベル4、できればレベル5までスキルを上げたいところだが、そのためには属性を決めて重点的に上げなければ。

 

 クロードはさらっと全属性を覚えているが、明りがわりによく使うライトボールと、攻撃魔法としてよく使うフレイムピラーのおかげで、天属性と火属性が比較的伸びている。

 ここは火属性を重点的に伸ばしてもらえばいいだろう。


 さて、では俺の方はどうだろうか。

 自分自身のステータスは天龍眼で確認できないが、普段よく使っている魔法を確認すれば、どの属性が伸びているか推測はできる。


 俺の覚えている魔法といえば……ソナー、ガンシューティング、ディメンジョンポケット、ロケットスタート、フラッシュバンの五つか。

 ガンシューティング・二挺拳銃(ダブルプレイ)というのもあったが、これは全然使ってないな。威力が低すぎてゴブリン相手にも牽制くらいにしかならないからだ。


 まず、一番よく使っているのはやはりソナーだ。

 迷宮で魔物を倒してドロップを回収したらソナー、がルーチンになってるしな。

 これは無属性、でいいのかな。魔法と言っていいのかも微妙な魔力感知の延長線上なんだが。


『魔力の波を放つアクティブソナーは無属性魔法としていいだろう。

 己の魔力を無形の魔力の波として放っているのだからな。

 変換と操作、それが重要だ』


 なるほど。

 なら、魔力を無属性の弾丸として放つガンシューティングも間違いなく無属性だな。

 ディメンジョンポケットも…… 魔力の変換なんてしてないし、無属性だと思っていいだろう。


 ロケットスタートは…… 炎を噴き上げて飛ぶから、火属性か?


『いや、あの魔法の本質は推進力にある。

 つまり無形の力、無属性だ。強力な推進力を得られるのも無属性のレベルが相応に高くなっているからだろう。火属性ではそうは行くまい』


 あれ、じゃああの炎は一体何なんだ?

 てっきり、炎の噴射で飛んでると思ったんだが。


『一言で言えば、無駄だな。魔力消費の激しさを助長してすらいる。

 尤も、その無駄がなければ魔法が使えぬ、ということはままあることだ。

 火属性魔法のレベルが上がれば、消費の激しさも少しはましになるだろう』


 無駄……だと……!?

 まさか、無駄に魔力を垂れ流していたなんて。天龍もわかっていたなら教えてくれれば良かったのに。


『くくっ、良いではないか。派手で面白くて、私は好きだぞ、あの魔法』


 うーむ、ロケット噴射という元のイメージが悪かったのかもしれない。

 刀を壊さないためにも鳳翼一閃は多用できないとわかったし、ロケットスタートの改善は今後の課題としておこう。


 さて、最後にフラッシュバンだが、これは戦争モノFPSの定番である閃光手榴弾をモデルにした魔法だ。

 ええと、確か何か混ぜ物(マグネシウム)を入れた火薬を炸裂させて閃光と轟音を放つもの、だったかな。つまり間違いなく火属性。


『……ではないな。天属性と無属性の複合だ。効果時間がほんの一瞬だからこそ、お前のレベルでも強い光を生み出せるのだろう。

 ちなみに、ユートのフラッシュバンとクロードのフラッシュバンは属性が異なる。あちらは天属性と火属性と雷属性の三種複合だ。あやつは器用すぎだな』


 複合属性の魔法なんかあるのか。

 もしかしたら、火属性と氷属性を合体させて、極大消滅魔法が使えるようになる可能性が……?


『いや、その組み合わせは溶けて水になるのではないか?

 ともあれ、やはりというかなんというか、ユートの魔法は無属性に片寄っているようだな。今後も無属性を中心に伸ばしていくといいだろう』


 俺の魔法は、現代にあった物や概念を再現するものが多い。

 そうなると、必然的に無属性になりがちなのだろう。

 ロケットスタートやフラッシュバンのように、天属性や火属性を伴うことも多いだろうから、そちらの属性を鍛えるのもアリだろうが、やはり無属性がメインだな。


 さて、魔法のスキルを鍛えるといっても、どうすればいいものか。

 闇雲に魔法を使いまくってもいいし、それでも俺とクロードがそろっていればアビリティの効果で普通の魔法使いより早くレベルを上げられるだろうが、折角なら効率的にやるべきだ。


 ヒントは既に天龍が言った通り。


『む? 私が何か言ったか?』


 魔法のスキルが高ければ、より早く、効率的に、精密に、大規模に魔力を扱うことができる、と言っただろう。

 つまり、より早く、効率的で、精密で、大規模な魔法を使うようにすれば、効率的にレベルを上げられるということだ。

 ……そうだな、そういう魔法を編み出してみるか。


 別に、強いとか役立つとか実用的とか、そんなものはなくていい。

 レベル上げのためだけの魔法を作るのだ。

 属性を変えたり、大きさや形を変えることで難易度を調節できるような魔法だとなお良い。


『なるほど、逆転の発想だな。

 目当ての魔法を使うためにレベルを上げるのではなく、レベルを上げるための魔法を編み出すのか。

 ……くくくっ、ユートらしい面白いアイデアだ』


 そうか? ピアノの練習曲とか、絵画のデッサンとか、算数のドリルとか、そんなものと一緒だろう。

 むしろ、もっと早くやっておけば良かったと思うくらいだ。

 具体的にどんな魔法を作るかはこれから考えないといけないしな。


 よし、道筋が見えてきた。

 練習用の魔法を考える、クロードと共に魔法のレベルを上げる、新たな魔法……攻撃魔法もそうだが、できれば月を隠す魔法も……を覚える、そしてクレセントベアに挑む。

 一ヶ月を目処にやってみよう。


 ……先にミーシャの誕生日が来るが、何か起こるといってもまさかラディオンが崩壊するわけでもなし、それからでも問題ない筈だ。


「どうしたの、アルマさん。ぼーっとして。

 まだクレセントベアで悩んでるの?」


 いつのまにか空になっていたお茶のおかわりを淹れながら、ミーシャが俺の顔をのぞきこんだ。


「いや、それはなんとかなると思う。

 それよりミーシャ、もうすぐ誕生日だな」

「あら、おとうさんから聞いたの? プレゼントなら大歓迎よ?」


 そう言って、ミーシャは歯を見せて快活に笑った。


 そういえば、さっきお好み焼き食べたよな、と思いながら俺はお茶を一口すする。


「ミーシャ」

「なあに?」

「歯に香草のかけらがついてる」

「……!!」


 その途端、ミーシャは口元を押さえて、ばっ、と離れた。

 顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けてから、洗面所に走っていく。


 粉ものあるあるだよなー、と思いながら、俺はお茶をもう一口すすった。

次回予告

 魔法を練習するための魔法、モデリングを開発するユート。

 クロードと二人でその魔法を習得し、無心になってこねまわすのであった。

 次回、第83話「いくつになっても子供のように」

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