第74話 決戦開始
モーニングスター大賞の二次選考に、なんと残ってしまいました。
何なのだこれは…… 一体どうすればいいのだ……
ま、まさか最終選考には残るまい…… いや、残ったら受賞ですねどうしよう(錯乱)
「待たせたな」
「いや。……むしろ、普段より早いぐらいだ」
斥候から戻り、行ったのとは逆の方から姿を現したザイードに、ガルシアは眉をひそめた。
本当にきちんと斥候をしてきたのか、と疑ったわけではないだろう。ザイードはパーティから距離を取ってはいるものの、自分の仕事に手を抜く男ではないからだ。
「何かあったか」
「いや、何も。周囲に魔物の姿はなかったぞ」
「待て。……止まれ」
無造作に歩いてくるザイードに、ガルシアは鋭く声をかける。
「鎧だ。傷ついているな。それも、熊や山猫の仕業ではない。剣の傷だ。
……何を隠している、ザイード」
「おっと…… これは迂闊。だが、この夜の森で黒肌の俺の黒い鎧の傷に気付くとは、目敏いことだ」
浅く切り裂かれた革鎧の腹部を手で隠しながら、ザイードは数歩下がる。
ガルシアとレリックは剣に手をかけ、マリアベルがハルバードを手に立ち上がる。リアナが懐に指を滑り込ませ、ヴォルフガングは呆けたようにザイードとガルシアを見比べていた。
「ん、え、何で? ザイードは味方じゃ……」
「おいおいヴォルフ、すっとぼけンなよ! そいつぁよ──」
ミスリルの清冽な輝きを引き抜いて、レリックはにやりと笑う。
「──もう斬っていい奴だってことさ。そうだろ旦那?」
「ああ。……好きにしろ」
ため息混じりにガルシアが言うが早いか、レリックは地を蹴った。
ザイードは逆にくるりと背を向けて、距離を取る。
その後を追う形で、ガルシア達が駆け出す。
リアナはなけなしの触媒カードを取り出して魔法の準備をしているが、ヴォルフガングは現状に理解が追い付かず、戸惑いながら最後尾を追った。
「逃げんなよ、てめえ!」
「逃げるとも! 貴様とまともに斬り合ってはいられん!」
「逃がすな。裏切者は仕留めろ! 魔法を放て!」
ガルシアの号令と共に、リアナが魔法を唱え始める。
ヴォルフガングも、戸惑いながらも半ば反射的に魔法の詠唱を開始する。
だが、先に発動したのはどちらの魔法でもなかった。
「──フラッシュバン、弾けろ!」
レリックの目の前に、突然、魔法の光を灯す光球が飛び込んでくる。
それに対するレリックの反応は素晴らしかった。
ミスリルソードの剣身を盾のように掲げながら急制動をかけ、のみならず背後に向かって飛ぶ。それでいて、光球をしっかりと見据える。
それが爆発して炎や衝撃を撒き散らす類いの攻撃魔法だったなら、一秒にも満たない瞬間で取った対策としては満点だ。ダメージを最低限に抑えられただろう。
だが、この場合はそうではなかった。
直後、真夜中の森の中に落雷のような閃光と轟音が駆け抜けた。
「くぉっ……!?」
近くの茂みに隠れていても感じた、耳の奥がジンとなる痛痒感に耐えながら目を開く。
ザイードには、防ぎ方を教えてはあったが……
「こ、これはたまらんな……!」
「がああぁっ……!?」
目と耳をふさいでいたにもかかわらず、ザイードがふらついていた。
だが、それ以上にダメージを受けているのが、至近距離でまともにくらったレリックだ。
獣のような咆哮をあげて膝をつき、項垂れて地面に手をついて起き上がることができないでいる。平衡感覚が一時的に麻痺したのだろう。
後ろに離れていたガルシア達には、それほどのダメージはない。
目映い光に視界を焼かれてはいるが、咄嗟のガードが間に合ったらしい。特にガルシアは盾で防いだようで、轟音に少しふらついている程度だ。
巣穴の迷宮のような閉鎖空間ならともかく、やはり開けたフィールドでは至近距離でもないと閃光弾の音による効果は十分に発揮されないな。
ただ、魔法使い二人は驚いたのか、思わず魔法を中断してしまっている。
ともあれ、これは好機。
隠れていた場所から飛び出し、うずくまるレリックに向けて刀を振るう!
「があぁっ、くそがぁっ!」
「っ……!?」
目も耳も塞がれているはずなのに、レリックは降り下ろされた刀をミスリルソードを掲げて受けとめた。
のみならず、剣を横に一閃して反撃してくる!
どうにか、その一撃は後ろにさがって回避したが、レリックはふらつきながらも立ち上がり、剣を構える。
しきりに頭を振っていて、目が見えていないのは確かなようだ。
『殺気を感じて反応した、ということか? やはり一筋縄ではいかんぞ、ユート!』
まあ、これで倒せたらラッキー、くらいのものではあったが……
それにしたって、なんで今のを防御して反撃までできるんだよ!? 理不尽な奴!
だが閃光弾の影響が全く無いわけではないのも確かだ。
「舐めんじゃねェぞ、この野郎ォ!」
「うおっ、と……!」
ミスリルの青ざめた煌めきが、一呼吸に二度、三度と振るわれる。
速さだけなら店長にも勝るとも劣らない。ひとつ、ふたつと刃を弾き返すごとに、クリスタルを爪弾くような甲高い音が鳴った。
俺の刀は真っ正面から打ち合えばミスリルの名剣には敵わないとされたが、それこそ真っ正面から打ち合えばの話。
店長がモップの柄で俺の刀を弾いたように、防御に専念してうまく力を反らしてやれば、受け止めることならできる。
「くそがっ、何だこりゃ! 死ねやァッ!」
「引け! レリック、突出しすぎだ、自重しろ! ……聞こえんのか!」
ガルシアが声を張り上げるが、レリックはまるで聞こえていないかのように、俺に刃を打ち込み、押し込んでくる。
いや、実際聞こえていないし、ろくに見えてもいないのだ。
……それでこの剣の鋭さかよ! 一発弾き間違えたら死ぬぞこれ!
前日に、店長の攻撃をひたすら防ぐ訓練をしてなければ、とてもじゃないが受けきれなかっただろう。
だが、その甲斐もあってレリック一人が孤立しつつある。
ガルシア達が追い付くべく前に出たが、その間にクロードが飛び出し、ザイードと並んで盾を構えた。
『いいぞユート、そのまま後ろに引くのだ。奴を引き離せ!』
「笑止。たった二人で塞き止めるつもりか!」
「──雷鳴の公式に我は介入する。燃素をくべろ、音の波よ荒れろ! 地上の雷鳴を、ここに再現せよ!」
朗々と唱えるクロードの詠唱を聞きながら、レリックを巧みに誘導し、くるりと位置を入れ換える。
レリックが閃光弾に耳と視界をやられていて、苛烈ながらも一直線に押し込んでくるからこそ、どうにかうまくいった。
俺とクロード、そしてザイードが、レリックとガルシア達に挟まれる形だ。
つまり、レリックもガルシア達も、クロードの方を見ている。
クロードが頭上に掲げた手に、魔法の光球が生まれた。
「また来るぞ! 防げ!」
「フラッシュバン!」
ガルシアが叫ぶのと、クロードが魔法を完成させるのはほぼ同時だった。
最初のは俺、今度はクロードの魔法だが、二度目だからか今度はレリックもガルシア達も耳をふさぎ、目を閉じて防御する。
まあ、そうだよな。プログラムで動くゲーム内のモンスターじゃあるまいし、同じのが来ると思ったら二度目からは対策する。
狙い通りだ。
轟音と閃光が轟き、再び三日月の迷宮を駆け巡る。
しかし今度は誰も直撃を受けることなく……流石に魔法使い達は再び詠唱を中断したが……素早く復帰した。
「くそがっ、バンバカうっせぇんだ……よ……!?」
悪態をつくレリックの声が驚きに変わる。
ほんの一瞬前まで、そこにいたのは俺とクロード、そしてザイードだけだった筈だ。
だが、今はそこに6人の人影が増えていた。
純白の衣装を着た美しい少女を中心に、五人の男達が扇状に広がって壁を作っている。
驚くガルシア達に、少女は微笑みながら一歩進み出て、スカートをつまみ優雅に一礼した。
「ごきげんよう。我ら、義により参上致しましたわ」
「馬鹿な。瞬間移動か……!?」
突然現れたルティア達に、流石のガルシアも驚き警戒する。
瞬間移動なんて高度でレアな魔法を使ったわけではないのだが、あちらにそれを知る術はない。
さて、ではどこから来たかというと、実は俺のディメンジョンポケットからである。
ルティア達には迷宮に入る前からポケットの中に入ってもらっていたのだ。
三日月党を発見した時にポケットに落とした勇儀王カード……英霊召喚のカードは、準備してくれという合図。
二度目の閃光弾でガルシア達が目を閉じた隙に、戦闘体勢で飛び出してきたのだ。
「皆さん、陣形を! 奥から来る槍に気を付けてくださいまし!」
ルティアの号令に各員が口々に返事を返し、後ろに下がるルティアを覆い隠すように陣形を取る。
大剣を構えるゴルドさんと、盾を構えるクロードを中心に、左右から魔法や飛道具で援護する形だ。
「アルマさん、背中はお任せしますわ」
「ああ、こっちも任せる」
平均レベル30以下のルティアたちに、ザイードとレリックがいないとはいえ平均レベル35付近の三日月党を任せるのは、一抹の不安を拭えないが……
それを言うなら、俺の方こそ、だ。
「あぁ、ようやく見えてきやがった…… くそ、まだ耳鳴りがしやがるぜ。
お前、三日月剣のなんたらって奴だったな。面白ぇことしてくれんじゃねぇかよ、ああ?」
怒りと笑みが混じった表情で、獣のように牙を剥いてレリックは笑う。
……こいつを俺一人で倒さないといけないのか……
失敗すれば皆後ろから斬られる。責任重大だ。
『今更逃げるわけにはいかぬぞ。積み上げてきたものを使い尽くし、死力を尽くすがいい!』
興奮の色を隠しきれない様子で天龍が声を上げる。
ああ、ああ、そうだとも。こいつを倒すために色々準備をしてきたんだ。
霊薬は、既に飲んでおいた。
天龍が命名するところの、鳳翼一閃の準備はできている。
俺にはまともに戦ってレリックに勝てるほどの剣の腕は無い。
勝負は、鳳翼一閃がこいつに通用するかどうか、という一点にかかっている。
「覚悟しろよ、真っ二つにぶった斬ってやらぁ!」
「──是非もなし!」
クロードやルティア達と三日月党。
俺とレリック。
戦場を二つに割いて、ついに決戦が幕を開けた。
次回予告
ルティアとガルシア、二人の指揮で二つのパーティが激突する。
知恵と実力を振り絞りガルシアを追い詰めるルティアたちだが、そこに乱入者が現れた。
次回、第75話「背中側の決戦」




