第60話 迷宮の中で輝いて
日間総合5位、週間総合9位になりました。
そして100万PVを突破しました。
ランキング効果もかなり……すごく……絶大に(震え声)……ありますが、そのランキング効果が落ちないのは皆様がこの作品を評価してくれたおかげでもあります。沢山の人に読んで頂けるのは、やはり作者冥利に尽きるというものです。
本当にありがとうございます。拙い作品ではありますが、今後ともよろしくお願いします。
あと評価8000pt、ブックマーク4000も越えております。前回の数字と見比べてみてください……(震え声)
「あら、アルマさん。奇遇ですわね」
「ああ。おはよう、ルティア」
ジャベリンウルフの討伐から数日後、森の入り口でまたばったりとルティア達に鉢合わせした。
当然ながら全員フル装備で、普段と変わらない服装なのはルティアだけ……というのは先日と同じだが、あの時とは違うことがふたつある。
ひとつは、ユズの装備だ。
シオンさんに注文していた装備が出来上がって、全身にぴったりと張り付いたようなタイトなレザーになっている。
しかしながら蛇の革はかなり伸縮性があるらしく、動きを阻害したりはしないようだ。
金属質だったアンフィスバエナの鱗は、特殊な仕上げ加工によって光を反射しないマットな質感になっており、より自然に暗闇に溶け込むことが出来るようになっている。
ユズ自身もかなりお気に入りの様子である。
なお、身体のラインがはっきりと出る装備ではあるのだが、色っぽいというには、その、色んな起伏とかボリュームとか……うん。
もうひとつは、ルティアの装備だ。
服装は普段通りの高級そうな純白の衣装なのだが、腰に細身のレイピアを差していた。
鮮やかな朱色の鞘に納められた剣は、柄から伸びる護拳が渦巻く水や風の流れをイメージしたような金色の装飾になっていて、実用性よりは装飾性を重視したデザインになっている。
ルティア自身はまだ剣のスキルも身に付けていないし、剣も実戦向きではないようだが、剣を身に付けようとするその姿勢そのものが、以前の彼女とは大きく異なっているところだろう。
『うむ。成長速度補正マイナスも……一息に解消とはいかぬが、かなり軽くなっているようだ。あとは時間が解決するであろう』
と、天龍も太鼓判を押す。
いい方向に変化してくれたようで、これにはクロードもにっこり。
「そっちは、今日も牙狼か?」
「ええ。よろしければ、アルマさんもご一緒しませんか?」
「いや、今日は深森に行く予定なんだ。
協会からも、同じ場所にばかり籠らないように、って釘を刺されてるしな」
「あら、まあ……振られてしまいましたわ。
相変わらず連れない方ですこと。今度はきっと、ご一緒しましょうね」
残念そうに唇を尖らせるルティアだが、口調や表情はそれほどでもない。すぐににこやかな笑みを浮かべてみせた。
別々の迷宮とはいえ、途中の別れ道までは同じ道行きだ。
短い間だが、歩きながらとりとめもない雑談に興じることになる。
なんと、驚くべきことにクロードとルティアが何やら話し込んでいる。
しかも、声を荒げて口論になっていない。
あまつさえ、互いに笑顔さえ時折飛び出していた。
「あれから二年、またあんな光景を見れるとはのう……」
「いや、下手すると二年前より仲良いんじゃね?」
「クロードが反発してたのは、ルティアが何も出来ないことにだったからな。もうあの二人が喧嘩する理由も──」
「──いい加減、その上から目線は勇儀王でわたくしに勝ってからにしてくださいます?」
「ふうん? たまたま一回勝ったくらいで調子に乗ってるんじゃないかい?」
……あっれ?
さっきまで和やかだった二人が、張り付けた笑みはそのままに剣呑な雰囲気になっている。
仲直りした…… と思ったのは気のせいだったらしい。
「ええ、では今晩、ドラゴンの大牙亭にお邪魔しますわ。
そこで改めて決着をつけようではありませんか」
「望むところだ。今度は前のようなミスは無いと思ってもらおう」
「お前ら、すっかりデュエリストだなあ……」
ちなみに勇儀王でのデュエルは少しずつ広まりを見せており、全然知らない探索士が大牙亭でデュエルを楽しんでいるのを見かけるようになってきていた。
俺は新しいカードを作って広めたりしてないので、自分でカードを買ってきて複製して遊んでいるようだ。絵の上手い人が一枚いくらで描いてやろうか、みたいな話をしているのも聞いた。
オリジナルカードを作って遊んでいる人もいるようだが、バランス無視の強すぎるカードが原因で喧嘩になりかけたり、それでミーシャや店長に怒られたり放り出されたりする人も稀にいる。
まあ、公式ガイドラインとかないしな。俺がそこまでやる気も無いし。
自分達で遊ぶためなら新しいカードを考えたりもするんだが。
「ところでアヅマ、新しく防御に使える魔法カードが欲しいんだけど」
「あ、でしたらわたくしは新しい罠カードのアイデアがありますわ!」
「わかったわかった、詳しい話はまた今夜、大牙亭でな」
丁度、迷宮へ向かう道の分岐点に差し掛かってきていたので、ひとまず二人をなだめて別れることになった。
まあ、前よりは友好的な雰囲気になっているとは思うんだけど、本当にこの二人は仲がいいのか悪いのか、よくわからない。
「……クロード、なんでそんなにルティアと仲が悪いんだ?
少しは仲直りしたかと思ったんだが……」
「さあね、口論のきっかけはいつも些細なことなんだけど」
「ルティアのパーティから抜けるときに何かあったっていうけど、そのせいか? ……一体何があったらああなるんだか」
「……僕の口からは、言えることじゃないな」
ふい、と視線をそらしてあからさまに拒絶されてしまう。
原因の根がそこにあるのは確かなんだけど、クロードは何があっても言うつもりはなさそうだ。いずれルティアに聞いてみるか。
「なんだか、別れ話をこじらせたカップルみたいだね」
「いや、僕とルティアはそういう仲じゃない、というか……」
ユズの冗句に珍しく曖昧に言葉を濁しながら、クロードは困ったように耳のあたりを掻いた。
『クロードの側に好意が無いわけではなさそうだな。
……好きだの嫌いだの、人間というものは本当にややこしいものだ。まあ、見ていて飽きはせんが』
……天龍は天龍で、まるでトレンディドラマでも観ているかのような感想である。
人間の感情が理解しがたい、なんてまるっきり人間ではない宇宙人か神様めいた台詞だな。実際、龍……という自己申告……なんだけど。
「いいから、ほら。早く行くよ」
「あははっ、もしかして照れてる? めっずらしい!」
早足で先に行くクロードとユズを追いかけて、俺も足早に深森の迷宮へと向かうのであった。
「それじゃ、行ってくるね!」
深森の第三層に差し掛かったあたりで、ユズとは別行動になる。
がさっ、と暗い色の繁みを揺らすと、その姿はもう見えなくなった。
隠密を鍛えるため、そしてアサシンスネークの牙を手にいれるため、アサシンスネークに対して奇襲を仕掛けるのだ。
レベルを考えれば、奇襲に失敗したところで負けるはずもないのではあるのだが…… 念のため、定期的にソナーをかけて様子を見ることになっている。
アサシンスネークの牙は、麻痺毒があることで知られている。
これを細かな粉末状になるまで砕き、特別な水溶液に溶かすと成分が反応して、白っぽい結晶が出来上がる。
これを目の細かい布で濾して取り除くと、より強力な麻痺毒が出来上がるのだ。
これもティエナの教えてくれた、ちょっとした錬金術の応用である。
精製した麻痺毒は現代なら資格がなければ取り扱いが出来ないレベルだが、幸か不幸かこの世界にそんな制度は無い。自由市場で売りに出すとマズいらしいけどな。
三日月党との戦いで使うつもりなので、そもそも売る気はないが。
……ところで、普通にユズを送り出したけど、別行動で離れてても成長速度補正や魔力集束率補正のアビリティは効果があるんだろうか?
そういえば検証したことはなかったな。戻ってきたユズに聞いてみたらわかるだろう。
「よし、それじゃ僕達も始めようか」
「ああ、そうだな」
待っている間、俺とクロードもぼーっとしているわけじゃない。
魔物相手に新しい魔法の試し撃ちをしたり、二人で立ち合いをしたり、と訓練に専念している。
三日月党はなんだかんだ言っても、こちらより格上だ。
真っ正面から地力を比べれば敗北は目に見えている。
ならば、意表を突く手札がいる、ということで様々な魔法を覚えているのだが……
「一通りの魔法を覚えてみたけど…… どうも、どれもパッとしないね」
「まあ、普通に攻撃魔法って感じだな」
キノコやトレントに一通りクロードの魔法を叩き込んでみたが、どれもオーソドックスな魔法の域を出ない。
火属性は、お馴染みのフレイムピラーだ。
水属性は、水の球を生み出してそれをぶつけるウォーターボール。威力はともかく、これで水には困らないな。
風属性は、風の刃を飛ばすエアカッター。風の刃って軽く言うけど、空気で物を切断するとか科学的に可能なんだろうか。真空でトレントの枝やキノコまでスパスパ切れるのはおかしい気もする。
氷属性は、対象を凍らせるチリングタッチ。タッチとつく通り、直接触れた物をゆっくり凍らせる魔法だ。……氷には、火の燃素とは違い氷素みたいなものがないので数秘学的には難しいらしい。冷凍保存には便利だ。
雷属性は、掌から短い雷撃を放つライトニング。雷属性は制御が難しいとかで、数メートル以上飛ばそうとするとどこに行くかわからなくなるとか。
地属性は、岩の塊を打ち出すアースバレット。ガイウスも使える魔法らしい。
天属性は、光の球を打ち出すライトバレット。……もちろんキノコやトレントに効果は無い。アンデッド系の魔物などに効果があり、特にゴースト系によく効くとか。
無属性は、対象に当たると破裂する目に見えない弾を打ち出すインパクト。威力はガンシューティングよりも高いが、弾の速度と速射性は比べるべくもない。
……というか、この短期間で何をさらっと全属性を制覇してるんだ、こいつ。器用にも程がある。
『まあ、殆どLv1だがな…… 実用的とは言い難い魔法もあるし、使いこなしているとは言えぬ』
「まあわかってはいたけれど、広く浅くよりも狭く深く修得した方がものになりそうだね。とりあえず覚えてみた、ってところかな。
……アヅマは、何かいいアイデアが無いかい?」
「うーん、そうだなあ……」
この中で使えそうなのは、というとチリングタッチとライトニングなんか凶悪なんじゃないかと思う。
チリングタッチは触るだけで効果があるので、相手の鎧などを無視して凍傷を起こすことができる。
ライトニングも、スタンガンのように相手を痺れさせて無力化できそうだ。
……現状、どちらも出力が全然足りなくてそこまでの効果が見込めないのが難点だが。
スキルレベルを上げていけばいいのだろうが、Lv2くらいならともかく、Lv3以上となるとそれなりに時間がかかるし、どこまで上げればいいのかもわからない。
「アヅマは独特な魔法が得意だからね。その発想力に期待してるよ」
「って言われても、俺の場合は逆にオーソドックスな魔法が覚えられないからな。どこまで力になれるかわからないが……」
俺の魔法は、現代にあるものを再現する魔法だ。
まあ、実在するものじゃなくゲームの中などで存在するものの再現でもあるんだけど。
今回は対人戦なので、協力プレイや対戦も盛んな戦争もののゲームから着想を得るのがいいかもしれない。
銃……の再現は高いレベルがいる、というのは俺のガンシューティングの性能を見ればわかることだ。
爆弾や重火器などは、尚更高いレベルが必要だろう。
ならば、いわゆる補助兵装から選んでみるのはどうか。
只……もとい、対人兵器として有名なクレイモア、地雷の類いがまず思い浮かんだが、直接的な破壊力を求めるのはやはりレベルがネックになる。
だとすると、次に思い浮かぶのは……
「閃光弾みたいな魔法とか道具ってのはないのか?」
爆発的に光を発生させて相手を無力化させるやつだ。
戦争ものだけでなく、すっかり新しいジャンルとして定着したハンティングアクションでもお馴染みである。
近代ものだと、光だけでなく大音量で聴覚や平衡感覚まで奪ってくる機能がついていたりする。
「閃光……弾? ライトバレットとは違うのかい?」
「いや、ぶつけなくていいんだ。強い光と大きな音だけで」
「んん? 光って音が鳴るだけで、何になるんだい?」
「えっ」
「えっ」
……もしや、閃光弾という概念が、無い?
これは…… 意外な威力を発揮するかもしれないぞ。
「光と音を出す魔法って、出来そうかな?」
「まあ、なんとかなるとは思うよ。
でも…… それが本当に効果あるのかい?」
「おそらく、絶大な効果を発揮する」
未知の概念を魔法として形にするのは難しいかもしれないが、クロードなら案外ものにしてしまうかもしれない。
それに、これは俺も一緒に覚えて損はないだろう。
なんといっても定番の、それだけに効果の高い補助兵器だからな。
そんなわけで、ユズが戻ってくるまで閃光弾の魔法を二人で編み出すことになったのだった。
その日、深森の奥で強烈な閃光と破裂音がしたのを多くの探索士が目撃した。
「アズマ! クロード! 何があったの、大丈……」
がさっ、と空を覆う深森の迷宮の枝葉が鳴って、ユズが音もなく降ってきた。
いや、音は立てたんだろうけど……
「…………いや、ほんとに大丈夫……?」
「ふぐおおお、め、目が、耳が……っ」
「ああああ、耳痛ッてえぇ……」
二人してのたうち回っている俺とクロードにはろくに聞こえていなかった。
閃光弾の魔法が手の中で暴発して、自爆してしまったのだ。
咄嗟に目をかばった俺は耳を少し痛めた程度で済んだが、初めて経験するクロードはろくに防御もせずに直撃。どこぞの大佐みたいな台詞を言いながらのたうち回る羽目になっている。
ちなみに、発動したのは俺の方だった。
これでクロードも、光と音で何が出来るのか、なんて言わないようになるだろう。
「う、うう、ユズか……?」
「うん、すごい音と光が走ったんだけど、あの破裂音はアズマの魔法だって思ったから飛んできたよ」
「あ、ああ、ちょっと威力が予想外で…… 怪我はしてない、大丈夫だ。ちょっと耳はきこえにくいけど」
痛む耳を揉みつつ、しばらく休んでいると少しずつ回復してくる。
クロードも、ふらつきながらも立ち上がってきた。
……いや、それにしてもやばかった。閃光弾なんてせいぜい数秒の優位が取れれば、と思っていたが、実際は数十秒、影響が抜けきるには数分はかかるな。
「ああ、ひどい目にあった…… おや、ユズ、戻ってたのか」
「そういえば、ドロップアイテムはどうだった? そっちこそ怪我したりしてないか?」
「うん、ばっちりだよ。アサシンスネーク狩りはなんだかゲームみたいでちょっと面白かった」
アサシンを暗殺し返すのを面白いとは、恐ろしい子!
ともあれ、少しくらい離れていてもアビリティは効果を発揮したようで、ユズのカバンの中にはアサシンスネークの皮や牙、その他キノコ肉や鳥モモ肉、黒い羽根といったドロップアイテムが詰まっていた。
「よし、じゃあ収納するか」
と、俺は自分の懐から魔石を取り出した。
ごほん、と咳払いして喉の調子を調える。
「あー。……ディメ~ンジョ~ンポケ~ットぉ~!」
声高らかに宣言し、魔石をお腹のあたりにすとんと落とす。
魔石は見えないポケットに吸い込まれるように、ふっと消えた。
続いて、ユズから受け取ったドロップアイテムをぽいぽいと投げ込んでおしまいだ。
ここ数日で形になった大規模収納魔法、ディメンジョンポケットである。
何をイメージした魔法かは言うまでもない。
原理的には、天龍が言っていたように、魔力を集中させて小さな迷宮を作り出している。
維持に必要な魔力は、魔石の魔力を利用することで賄っている。
これを安定させたり、ちゃんと保管できるように調整するのに手間がかかるとのことだったが、あえてそのあたりは無視することで簡易な使用を可能とした。
そのかわり、連続使用は半日が限界だ。ゴブリンの武器やジャベリンウルフの大牙のような大きなドロップ品や、かさばったり重かったりする物を一時的に収納して持ち運ぶのが目的だな。
あの大牙を持ち帰るのは結構大変だった。
「相変わらず便利だけど…… なんでお腹にしかポケットを作れないんだい?」
「それと、間延びした甲高いダミ声でないとダメってのも変だよね」
「それには深い訳があるんだ……」
まあ、あまりにイメージが強固すぎるおかげで、左手を振る動作やキーワードがなくても使えるのだが、毎回モノマネするのはちょっと恥ずかしい。
初めて使った時は、天龍まで忍び笑いを漏らしたしな!
『いや、いきなりあれは誰でも笑うだろう……くくっ』
「ともかく! ……まだ時間が早いから、もう少し魔法の練習をしよう。自爆には気を付けてな」
「まあ、自分でくらったし、効果的なのはよくわかったよ……
数秘学での再現には工夫がいりそうだけど」
「じゃ、ぼくはもう一回、アサシンスネーク狩りに行ってくるね。
またしばらくしたら戻ってくるよ」
ひらひら、と手を振るユズだったが、こちらが手を振り返していたらいつの間にかいなくなっていた。
……おかしいな、特に目を離したつもりはなかったんだけど。隠密スキルのレベルでも上がったか……?
「よし、それじゃ続きをやろうか」
「あ、ああ、そうだな。
……クロード、なんでそんなに離れてるんだ?」
「いや、少しでも被害を減らそうと思って」
「暴発するの前提かっ。ま、まあ、次は大丈夫、のはず。
目を閉じて、耳をふさいで、口を開けておけばやりすごせるぞ」
口を開けておかないと、圧力が逃げなくて鼓膜を痛めてしまうのだという。
……鼓膜を痛めたのも回復魔法で回復できるだろうか? 夜にはルティアと一緒に来るだろうし、念のためガイウスに頼んでおくとしよう。
暴発事故に気を付けつつ、その後も閃光弾弾の魔法……フラッシュバンを何度か放ち、完成させたのである。
なお、激しい閃光と爆発音が何度も響き、深森の奥に雷光をまとったとんでもない魔物が現れた、という噂を後に聞くことになるのだが、知らんぷりしておいたのは言うまでもない。
次回予告
本格的に三日月党との戦いに備えるため、ユートは偵察に赴く。
三日月党の実力を、天龍眼が垣間見るが──
次回、第61話「三日月を見る龍眼」




