第40話 引鉄遊戯
遠距離攻撃は便利だ。
奇襲に、先制に、逃げるゴブリンの追撃に、ユズの投げナイフは大活躍しているし、クロードもまず魔法を撃ってから近付いて斬りかかっている。
俺はというと、その二人の援護を受けながら急いで走って斬っている。
今まではそれで何の問題もなかったのだが、第三層に降りて以来そうもいかなくなってきた。
魔法を使うゴブリンシャーマンの登場である。
炎の玉は連射はきかないが、威力は侮れない。
炸裂する時の衝撃も厄介だ。
直撃すれば転倒は免れないし、この前のように剣で斬ってもダメージは受けるし、剣にも負担がかかる。
剣が歪んでしまっていたのも、切り方が悪かっただけでなく、それによる負担の蓄積もあったのだと思う。
これに対抗するために、俺も遠距離攻撃を手に入れたい。
ユズのように投擲スキルを覚えるという手もあったのだが、実戦で使えるようになるには時間もかかるし、ナイフを何本も買い込むのも馬鹿にならない負担だ。
それに、ユズのように的確に急所に当てられないと、威力も弓や魔法には及ばない。
だが、現代人である俺は、もっと強力な飛び道具を知っているのだ。
「ガンシューティング、開始!」
第三層のゴブリンの群れは一度に10体前後。
その先頭の二体にクロードの魔法とユズの投げナイフが命中した直後、俺は素早く左手で十字を切った。
その人差し指でコインを落とし込むイメージ。
目の前のグリップを引き抜き、ゴブリンの群れに駆け寄る。
十分な距離に近付いたところで、左手を前に突き出して半身に構え、トリガーを引いた。
ガン、ガン、ガン、バァン!!
「ゲギャァッ!?」
連続した炸裂音が響き渡り、シャーマンが杖の先に作り上げていた炎の玉が爆発した。
周囲のゴブリンがその衝撃に少なくないダメージを受け、特にシャーマンは体力バーのほとんどを失って吹っ飛んでいる。
「グゲッ、ガッ、ギャッ!」
さらに距離を詰めながら続けてトリガーを引くと、シャーマンの身体が二度、三度と跳ねて体力バーを失い、絶命した。
左手を振って手にしたものを投げ捨て、両手で剣を持ち、ゴブリンたちに斬り込む。
先制攻撃を受け、魔法の暴発でふらついていたゴブリン達は、そのままろくに反撃できずに全滅した。
『なかなか奇妙な魔法になったな。魔力の弾を放つ魔法自体はそう珍しいものではないのだが……』
俺の新しい魔法、ガンシューティングである。
そう、銃だ。
イメージの銃で魔力の弾丸を撃ち、攻撃する魔法だ。
といっても、俺は銃にはあまり詳しくない。
なので、イメージするのは銃は銃でも、ゲーセンのガンシューティングゲームである。
コインを入れて、筐体から大きめの拳銃を引き抜き、敵を撃つ。そういうイメージで形作られた魔法だ。
この魔法の長所は、なんといっても連射速度だろう。
一回の魔法で5~10発は撃てる。
本物の銃でそんな連射をすればひっくり返るような反動があるのだろうが、ゲーセンの銃で上の部分がスライドするギミックくらいの反動しか感じない。
射程距離は10m弱くらいだろうか。それほど長くはないが、距離を詰めながら撃てるのでそれほど不自由には感じない。
左手での射撃になるが命中精度もそれなりで、シャーマンの魔法に当てれば衝撃で暴発させることもできる。
だが、流石に本物の銃のように一撃で相手を殺すような威力はない。
ダメージを与えてゴブリンをよろめかせることはできるが、この魔法だけで倒そうと思ったら、全弾ぶち込む必要があるだろう。
これに関しては、魔法のスキルが上がれば改善されていくだろう、とのことなのだが……
「アズマ、やっぱその魔法うるさすぎ!」
「洞窟で音が反響して…… 耳が痛くなるね」
と、二人には不評だった。
耳を押さえたり、小指を耳の中に入れたりしている。
俺は割と平気なんだけど。
そういえば練習で大牙亭の屋上で初めて使ったときも、ミーシャが驚いて洗濯物をひっくり返したり、足の悪いはずの店長が血相を変えて屋上まで飛んできたりしてたな……
そのあと滅茶苦茶怒られた。
本当の銃じゃなくて魔法なのだから、炸裂音がするのはおかしいのだが、ゲーセンの銃というのは派手な射撃音がするもので、こちらは元のイメージから改善しないと駄目そうだ。
うーん、サイレンサーを取りつける魔法でも覚えるか……?
『魔法の欠点を改善するための魔法……などと言い出すときりがなくなるぞ。クロードほど器用に魔法を操れるわけでもあるまい』
それもそうだ。
例えばガンシューティングと、飛距離を伸ばす魔法と、命中精度を高める魔法と、貫通力を高める魔法の、四つを組み合わせるとする。
最初からそういう弾を撃つ魔法を作った方が早い。
ちなみに、今のところガンシューティングは「イメージの銃で弾を撃つ魔法」だが、天龍によればいずれは実体の銃を出現させることもできるだろう、とのことである。
原理的には精霊や魔物を生み出すのと同じらしい。
「うーん、静かに攻撃できる魔法を考えた方がいいかな」
ボウガンとか、レールガンとか…… レーザーガンとか?
ちなみに遠距離攻撃できる魔法を覚えようとした時に気付いたことだが、俺は「何かの道具の機能を再現する魔法」の方が覚えやすいようだ。
ソナーレーダーや拳銃など、実物を使ったことがなくとも、ゲームやドラマで馴染みがあってイメージできれば、おそらく使える。
まぁ、スキルレベル不足もあるので、たとえば火炎放射機の魔法を作っても最初はチャッ○マンくらいの火しか出ないだろうけど。
逆に、クロードのフレイムピラーのように好きなところを突然発火させたりする、魔法らしく理屈を蹴っ飛ばして思い通りにするような魔法はどうにも使えない。
こればっかりは向き不向きというものだろう。
クロード的には、あれもちゃんと数秘学の理屈に添った魔法らしいんだけどな。
「ここで使うとうるさいというだけで、強力な魔法だとは思うけどね。
連射が利くし弾も速い。大きな音でゴブリン達を怯ませる効果も見られた。そのまま使ってもいいと思う」
「ぼくとしてはクロードの提案に反対であーる!
それだけ大きい音は近くの魔物を引き寄せちゃうよ。あんまり使わない方がいいと思う」
ユズとクロードの意見が食い違う。
高レベルの隠密スキルを持っているユズには、大きい音を立てて目立ってしまう魔法、というのは忌避感が強いのかもしれない。
「魔法といえば…… 今まで使ったところを見てないけど、ユズは、どんな魔法を使えるんだい?」
「えっ」
「えっ」
何気なく、という調子で聞いてきたクロードに、俺とユズの声が重なる。
どんなも何も、ユズに魔法関連のスキルはひとつもない。すなわち魔法は使えないはずだが……?
「いや、えっ? エルフといえば、全員が精霊使いとしての才能を持っている種族だろう?
ユズも何か使えるんじゃないのかい?」
「そうなのか?」
『別に精霊使いに限らず、魔力を感知する器官を持っているエルフは魔法使い向きではあるな』
そういえば、耳の先端がその器官になっているからエルフの耳は長いんだったか。
他種族との混血であるハーフエルフだと、耳の形は似ていてもその器官が無いので、半分くらいの耳の長さになるのだという。
「あーっと…… ほら、その、ぼくは斥候だからね。役に立つようなレベルの魔法は覚えてないんだよ、うん。魔法使いになるつもりもないし、さ?」
「魔法が苦手なら、特訓でもするか。
以前も、他のパーティの魔法使いに頼んで、みんなで魔法を勉強したことがあるんだ」
「違うから! エルフが魔法苦手とかありえないし!?
そんなことより、ドロップアイテム拾わなきゃ、ね? 迷宮の中で油断していつまでも雑談してるわけにはいかないでしょ!」
全くもってその通りなのだが、強引に話を打ち切られてしまった。
念のためソナーを使っておくが、幸いにも奇襲を危惧するほど近くには別のゴブリンはいないようだ。
「……何か事情でもあるのかな、彼女」
「ま、このことには触れないでおこう。魔法がなくても強くて優秀な斥候なのに変わりはないからな」
それにしても、ユズがあの調子ならアルバート魔法ブートキャンプ第二弾の開催はなさそうだな。
エルフなのに魔法が使えないのは、恥ずかしいことなのかもしれない。
今回はゴブリンが逃げ回ったりすることなく全滅したので、ドロップアイテムを回収するのはそれほど手間がかからなかった。
じゃらじゃらと鉄鉱石を集めて、バックパックに詰めていく。
一番小さいが一番数が多いやつは俺のバックパックに詰める。ひとつひとつが小さいとはいえ、鉄を含んだ石だし十個もあると結構重い。
ちなみに、これらドロップアイテムを清算した収入は三人で等分ということになっている。
鉄鉱石ひとつひとつは高いものではないが、いかんせん数が多いので結構な収入だ。おかげで大牙亭の宿泊費もまとめてお得な先払いで払えている。
「……前から思ってたけど、なんかおかしいよね?
ぼくが昔ここに潜ってた時、第五層まで制覇したけど、ドロップアイテムが重いから今日はここまでで帰る、なんてことなかったよ? ドロップ率良すぎじゃない?」
「俺のパーティじゃこれで普通だ。そのうち慣れるよ」
「アヅマの話だと、学士がいるパーティはドロップアイテムが出やすいなんてジンクスがあるらしいけど……」
「ふーん? 初めて聞いたけど、ならクロードのおかげなのかな?」
「俺も学士だけどな」
「えっ」
ユズが信じられないような顔で俺と腰の剣を見てきたけど、実際に色龍晶は学士を示す緑色になったしな。
天龍眼が影響していると思われるので、今測っても緑色になるはずだ。
たぶん、今後もずっと緑色だろう。
「今日はまだ、体力も魔力も治癒の霊薬も、余裕があるな。
このまま第四層に降りてみようと思うんだけど、いいか?」
「第四層なら問題ないと思うよ。
むしろ探索士が減るぶんだけ、先日みたいなことに巻き込まれる危険性が低いんじゃないかな」
「あれは本当に、嫌な……事件だったね……」
流石のユズも、アラームトラップに巻き込まれて死にかけた件を思い出すと表情に陰が過る。
酷いトラウマにはなっていなさそうなのが幸いだ。
そういえば、あの探索士たちはどうなったのやら。
逃げ切れたのかもしれないし、ダメだったのかもしれない。俺にはそれを確認する術はない。
「それはそれとして、ぼくも第四層は平気だと思う。
でも、落とし穴にだけは気を付けてね。第五層にはホブゴブリンが出るから、落ちたら今度こそ誰か死ぬよ?」
「ホブゴブリンってのはそんなに強いのか?」
「普通のゴブリンの倍くらいの背丈があるんだよ。
力任せに暴れるだけだから、一対一ならぼくもアズマも勝てると思うけど、クロードは辛いかも」
いくらゴブリンが小柄とはいえ、その倍……となると、2m以上にはなる。下手すると天井に手が届くほどだ。
それに、層を降りるごとに数を増やすゴブリンが、第五層で少なくなるはずもない。間違いなく一対一なんてさせてくれないだろう。
それは確かに、一人で落ちたら死ねるな……
「たとえ誰か落ちても、追いかけて落とし穴に飛び込むような無茶はなしだからね。
……いいね、アヅマ。振りじゃないよ? 本当だよ? 絶対だからね?」
「わかってるよ、クロード」
そもそもユズの罠感知と、俺の天龍眼と、俺の視界を通した天龍のトリプルチェックなのだ。余程のことがない限り、うっかり落ちるなんてことはないだろう。
それに、第四層からさらに下に落ちたら、今度は前より大変な第五層だ。無茶はしない。
……しないよ? なんでクロードもユズもそんな揃って疑わしげな顔してるんだ?
『自分の胸に聞いてみるといい』
天龍までそんなことを。解せぬ。
「あと、前みたいにアラームトラップに巻き込まれたら、ガンシューティングを使って応戦するから、うるさいのは我慢してくれ」
「……まあ、第二層くらいならともかく、斥候なしで第四層まで降りてくる探索士はまずいないとは思うんだけどね」
そうだといいんだけど、あんまり言ってるとフラグになりそうだから、この話はここまでだ。
「えっと、確か道はこっちだったかな……」
ユズに道案内を任せて、俺たちは巣穴の迷宮の第四層へと降りていった。




