表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

第五話 会話

暴走獣との戦いが終わった後。


森には静かな夜が戻っていた。


倒れた獣の近くで、レイガは興奮したままゼクトの周りをうろうろしていた。


「なあなあ!」


「なんだ」


「その武器どうやって出したんだ!?」


いきなりだった。


レイガの目はキラキラしている。


「急に出てきたよな!?」


「出てきたな」


「何も無いところからだったぞ!?」


「そうだな」


「すげぇ!!」


ゼクトは少しだけ後悔した。


助けた相手が予想以上に騒がしい。


レイガは止まらない。


「盾も出してたよな!?」


「出した」


「銃も!」


「出した」


「どうやって!?」


ようやく本題だった。


ゼクトは答える。


「能力だ」


「能力?」


「そうだ」


レイガは首を傾げた。


意味が分からない顔だった。


ゼクトも首を傾げる。


「……能力だぞ?」


「いや、能力ってなんだ?」


今度はゼクトが黙った。


数秒。


沈黙。


「お前、界徒だろ」


当然のように言う。


だがレイガはまた首を傾げた。


「かいと?」


「界徒」


「なんだそれ」


「……」


ゼクトの思考が一瞬止まった。


レイガは本気で分かっていない。


冗談でもない。


からかっている様子もない。


純粋に知らない顔だった。


「待て」


ゼクトが確認する。


「界徒を知らないのか」


「知らない」


「衝気は」


「しょーき?」


「衝気だ」


「知らない」


「異能は」


「いのう?」


「……」


ゼクトは額を押さえた。


なんだこいつ。


目の前の少年は先程まで暴走獣と戦っていた。


しかも鉈一本で。


そして途中から明らかに衝気を扱っていた。


なのに。


本人は何も知らない。


レイガは逆に不思議そうだった。


「その衝気って何なんだ?」


「知らないのか」


「知らない」


「本当に?」


「本当に」


即答だった。


ゼクトは倒れた暴走獣を見る。


レイガを見る。


もう一度暴走獣を見る。


やっぱり意味が分からない。


「お前、今その獣と戦ってただろ」


「戦ったな」


「途中で鉈が光ってただろ」


「光ってたか?」


「光ってた」


「気付かなかった」


「……」


ゼクトは無言になった。


レイガは楽しそうだった。


「なあなあ!」


また始まった。


「その能力って誰でも使えるのか!?」


「いや」


「どうやって覚えるんだ!?」


「説明が長くなる」


「聞きたい!」


「……」


ゼクトは深く息を吐く。


どうやら。


思っていたより面倒な相手らしい。


そして同時に確信した。


目の前の少年は異常だ。


異常なくらい強い。


異常なくらい何も知らない。


そんなレイガは全く気付かず、


「なあゼクト!」


「今度その銃もう一回見せてくれ!」


「断る」


「なんでだよ!?」


「面倒だからだ」


「そんな理由か!?」


レイガが不満そうな顔をする。


ゼクトはそれを無視した。


これ以上話していても進まない。


というより。


今は別にやるべきことがある。


ゼクトは倒れた暴走獣へ視線を向けた。


巨大な亡骸。


放置すれば他の獣が寄ってくる。


最悪、周辺の生態系にも影響が出る。


「……」


ため息を吐く。


「レイガ」


「ん?」


「会話は一旦終わりだ」


「えー」


露骨に残念そうだった。


「まずはこいつを片付ける」


ゼクトは暴走獣を指差す。


レイガもそちらを見る。


「ああ」


「討伐した後の処理も必要だ」


「そうなのか」


「そうだ」


レイガは少し考えた後、


「埋めるのか?」


と聞いた。


「それもある」


ゼクトは答える。


「放置するわけにはいかない」


するとレイガは腕を組んだ。


「確かにな」


妙に納得している。


森育ちらしい感覚だった。


獲物を獲ったら処理する。


それが当たり前。


ゼクトは頷いた。


「手伝え」


「おう」


即答だった。


そして次の瞬間。


レイガはにやりと笑う。


「手伝ったら教えてくれるのか?」


「何をだ」


「界徒とか衝気とか能力とか!」


ゼクトは数秒黙った。


そして観念する。


「……手伝ったらな」


「よし!」


レイガの目が輝いた。


「やる気出てきた!」


「さっきまで十分出ていただろ」


「今はもっとだ!」


意味が分からない。


だがやる気があるなら問題ない。


ゼクトは暴走獣へ近付く。


すると。


レイガが片腕で前脚を持ち上げた。


「お、結構重いな」


「!?」


ゼクトの動きが止まった。


暴走獣の前脚は人間一人では持ち上がらない重さだ。


少なくとも普通は。


だがレイガは当然のように持ち上げている。


「こっち運べばいいのか?」


「……そうだ」


ゼクトは何事もないように返した。


だが内心では思う。


(やっぱりおかしいだろこいつ)


衝気を知らない。


界徒も知らない。


異能も知らない。


そのくせ暴走獣と戦える。


さらに怪力。


意味が分からない。


レイガはそんな視線に気付かず、


「なあゼクト!」


「なんだ」


「終わったらちゃんと教えてくれよ!」


「……ああ」


「約束だからな!」


「分かった」


ゼクトはまたため息を吐く。


暴走獣の処理は思った以上に時間が掛かった。


巨大な穴を掘る。


亡骸を運ぶ。


土を被せる。


普通なら何人も必要な作業だ。


だが。


「よいしょ!」


レイガが暴走獣の胴体を引きずる。


「そこ置け」


「おう!」


そして再び運ぶ。


ゼクトは途中から考えるのをやめた。


どう見てもおかしい。


だが本人は普通だと思っている。


いちいち反応していては疲れる。


やがて作業は終わった。


最後の土を被せる。


静かな森。


先ほどまでの戦いが嘘のようだった。


レイガは額の汗を拭う。


「終わったな!」


「ああ」


ゼクトも小さく頷いた。


これでひとまず問題はない。


後は本来の目的地へ向かえばいい。


そう考えた時だった。


「なあゼクト」


「なんだ」


「どうせなら俺の家で話そうぜ」


「……家?」


「おう」


レイガは当然のように言う。


「衝気とか界徒とか教えてくれるんだろ?」


「ああ」


「立ち話もなんだしさ」


確かに森の中で説明する話でもない。


ゼクトは少し考える。


今夜中に移動する予定だったが、多少遅れても問題はない。


何より。


目の前の少年について聞きたいことが山ほどあった。


「……まあいい」


「よし!」


レイガは嬉しそうに笑った。


「こっちだ!」


そう言うなり走り出す。


「待て」


「早く来いよ!」


「だから待てと言っている」


結局。


ゼクトも後を追うことになった。



しばらくして。


森を抜けた先に一軒の家が見えてきた。


月明かりに照らされた木造の家。


決して大きくはない。


だが手入れはされていた。


周囲には小さな畑。


積み上げられた薪。


物干し竿には洗濯物が揺れている。


人が暮らしている温かみのある家だった。


レイガが振り返る。


「ここ!」


「……」


ゼクトは家を見上げる。


思っていたより普通だった。


もっと山小屋のような場所を想像していた。


「俺の家だ!」


誇らしげに言うレイガ。


「一人で住んでるのか?」


「そうだぞ」


「……」


さらっととんでもないことを言われた気がした。


だが今は突っ込まない。


レイガは玄関へ向かう。


そして勢いよく戸を開けた。


「ただいまー!」


当然返事はない。


それでもレイガは気にせず振り返る。


「入れ入れ!」


ゼクトは一瞬だけ躊躇した。


だが結局、家の中へ足を踏み入れる。


これから。


衝気も界徒も知らない謎の少年への説明会が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ