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第四話 共闘

引き金が引かれた。


パンッ!!


乾いた銃声が夜の森へ響く。


次の瞬間。


暴走獣の肩口が弾けた。


ガアアアアアッ!?


獣が苦痛の咆哮を上げる。


巨体が大きくよろめいた。


「!?」


レイガは思わず目を見開く。


今のは自分の攻撃じゃない。


獣の身体に何かが当たった。


しかもかなり効いている。


暴走獣もすぐに気付いた。


赤い瞳が別方向へ向く。


森の奥。


木々の隙間。


そこに一人の青年が立っていた。


銀灰色の髪。


黒いジャケット。


片手には見たこともない黒い道具。


その道具の先端から、わずかに白い煙が漂っている。


パンッ!!


再び音が響く。


今度は獣の前脚。


肉が裂ける。


巨体が大きく体勢を崩した。


「うおっ!?」


レイガが驚く。


弓でもない。


投げナイフでもない。


なのに遠くから攻撃している。


見たことのない戦い方だった。


暴走獣が怒り狂う。


標的を青年へ変更。


咆哮を上げながら突進した。


だが青年は慌てない。


冷静に横へ移動する。


その動きは無駄がなかった。


パンッ!!


パンッ!!


続けて二発。


弾丸が獣の顔面を掠める。


暴走獣が足を止めた。


その隙を見逃さない。


「おおっ!」


レイガが飛び出した。


地面を蹴る。


倒木を踏み台に跳躍。


獣の側面へ回り込む。


「もらった!」


ザシュッ!!


鉈が脇腹を切り裂く。


鮮血が飛び散る。


ガアアアアッ!!


暴走獣が暴れる。


しかし今度は前より戦いやすかった。


獣の意識が分散している。


レイガと青年。


二人を相手にしなければならないからだ。


「そっちも戦えるのか!」


レイガは楽しそうに叫ぶ。


だが返事はない。


青年は無表情のまま獣を見ていた。


むしろ少し呆れたような目をしている。


「今は喋るな」


短く言う。


「集中しろ」


「お、おう?」


レイガは素直に頷いた。


だが視線は何度も青年へ向いてしまう。


気になる。


知らない人間だ。


しかも見たことのない技を使う。


気にならない方がおかしい。


獣が再び咆哮する。


二人へ向けて突進。


地面が震える。


レイガは鉈を構えた。


青年は黒い武器を構える。


そして戦闘の最中だというのに、レイガは思わず叫んだ。


「なあ!」


パンッ!!


銃声が響く。


「なんだ」


青年は獣から目を離さない。


レイガは笑いながら言った。


「お前誰だ!?」


一瞬だけ。


青年の眉がぴくりと動いた。


どうやら本気で聞いているらしい。


こんな状況にもかかわらず。


青年は思わず無言になる。


ガアアアアッ!!


暴走獣が咆哮する。


パンッ!!


反射的に引き金を引く。


放たれた弾丸が獣の顔面を掠めた。


その隙にレイガが横から飛び込み、鉈を振るう。


ザシュッ!!


傷が増える。


だが獣はまだ倒れない。


青年は小さく息を吐いた。


(……まあ)


急に知らない人間が戦場へ入ってきたのだ。


誰なのか聞きたくなるのは当然か。


むしろ普通の反応だった。


問題は聞くタイミングである。


普通は戦闘後だ。


だが目の前の少年にそんな常識はなさそうだった。


「ゼクトだ」


短く答える。


そのまま獣から視線を外さない。


「お前は?」


レイガの顔がぱっと明るくなる。


「レイガ!」


元気よく返ってきた。


自己紹介とは思えない勢いだった。


ゼクトは一瞬だけそちらを見る。


黒髪。


琥珀色の瞳。


鉈を握った少年。


そして。


鉈に纏う衝気。


やはり見間違いではない。


(レイガ、か)


名前だけ頭の片隅へ置く。


その直後だった。


暴走獣が大きく後退する。


赤い瞳が二人を睨む。


傷だらけの身体。


流れる血。


しかし戦意は衰えていない。


むしろ怒りが増している。


グルルルルルル……。


低い唸り。


地面を爪が抉る。


ゼクトは眉をひそめた。


「来るぞ」


「おう!」


レイガは即答した。


次の瞬間。


暴走獣が地面を爆発させる勢いで突進する。


狙いはゼクト。


後方から攻撃してくる厄介な相手を先に潰すつもりだった。


だが。


「右だ」


「へ?」


レイガが首を傾げる。


「右から回れ」


短く指示。


レイガは理由も聞かず走った。


右へ。


一直線に。


その瞬間。


ゼクトの左手の周囲へ光が集まる。


幾何学模様。


設計図。


無数の線が空中へ展開される。


「――《兵装設計図アーセナル・ブループリント》」


光が収束する。


今度は細長い黒い杭のような兵装。


それを迷いなく投擲した。


ヒュンッ!!


杭が飛ぶ。


暴走獣の進路上の木へ突き刺さる。


そして。


ワイヤーが展開された。


「なっ!?」


レイガが目を丸くする。


暴走獣は気付かない。


そのまま突進。


直後。


前脚がワイヤーへ引っ掛かった。


ドガァァン!!


巨体が大きく体勢を崩す。


転倒こそしなかった。


だが隙ができた。


ゼクトが即座に叫ぶ。


「今だ、レイガ!」


「おおっ!!」


レイガが飛んだ。


まるで待っていたかのように。


鉈を握り締めながら。


暴走獣の懐へ一直線に飛び込んでいく。


「おおおっ!」


レイガが獣の懐へ飛び込む。


鉈が閃く。


ザシュッ!!


脇腹へ一撃。


続けて脚へ斬撃。


暴走獣が苦痛の咆哮を上げた。


だが倒れない。


むしろ怒りを増していた。


巨大な前脚がレイガへ振り下ろされる。


「っ!」


避けきれない。


そう思った瞬間。


レイガの目の前へ光が走った。


「――《兵装設計図アーセナル・ブループリント》」


幾何学模様が展開される。


設計図が空中へ描かれる。


そして。


ガギィィン!!


黒い大盾が出現した。


獣の爪が激突する。


衝撃で周囲の土が吹き飛ぶ。


だがレイガは無傷だった。


「おおっ!?」


驚きながら振り返る。


少し離れた場所。


ゼクトが冷静な顔で立っていた。


「前を見ろ」


パンッ!!


同時に銃声。


弾丸が獣の目元を掠める。


暴走獣が反射的に顔を逸らした。


その隙。


レイガは迷わない。


「サンキュー!」


飛び込む。


鉈を振る。


ザシュッ!!


肩口へ深い傷が刻まれた。


二人の連携は自然だった。


レイガが前へ出る。


ゼクトが後ろから支援する。


暴走獣がレイガを狙えば。


ワイヤーが飛ぶ。


足を絡める。


体勢を崩す。


暴走獣が突進すれば。


盾が出現する。


進路を塞ぐ。


レイガが隙を作れば。


銃弾が飛ぶ。


さらに傷を広げる。


戦況は完全に二人優勢だった。


だが――。


「しぶといな」


ゼクトが呟く。


暴走獣の全身は傷だらけだった。


血も大量に流れている。


普通の獣なら何度も倒れている。


それなのに。


まだ立っていた。


グルルルルルル……。


赤い瞳が濁らない。


むしろ狂気が増している。


レイガも額の汗を拭った。


「こいつ元気すぎるだろ」


「暴走しているからな」


ゼクトは短く答える。


そして獣を見る。


計算する。


残りの衝気。


距離。


地形。


討伐方法。


数秒。


結論は出た。


「仕方ない」


小さく呟く。


右手を前へ出した。


再び光が集まる。


今までとは比べ物にならない量だった。


空中へ展開される設計図。


複雑。


精密。


何重にも重なる構造式。


レイガも思わず目を丸くする。


「おお……」


設計図が完成する。


収束。


固定。


出現したのは。


長大な黒い銃。


人間の背丈に迫るほどの長さ。


重厚な銃身。


大型照準器。


圧倒的な存在感。


ゼクトの青灰色の瞳が細まる。


「これで終わらせる」


レイガはその武器を見て目を輝かせた。


「なんだそれ!?」


「狙撃銃だ」


短く答える。


そして銃口を暴走獣へ向けた。


その瞬間。


ゼクトは叫ぶ。


「レイガ!」


「ん?」


「動くな!」


レイガは反射的に足を止めた。


目の前には暴走獣。


背後には巨大な銃を構えるゼクト。


夜の森に緊張が走る。


そして次の瞬間。ゼクトの指が引き金へ掛かった。


ゼクトの指が引き金を引く。


――轟ッ!!


銃声ではなかった。


爆発だった。


凄まじい衝撃が森全体を揺らす。


発射された弾丸が空気を裂き、一直線に暴走獣へ突き進む。


次の瞬間。


ドガァァァァァン!!


暴走獣の胴体へ直撃した。


巨体が吹き飛ぶ。


数トンはあるはずの身体が地面を転がり、木々をなぎ倒しながら数十メートル先まで飛ばされる。


地面が抉れる。


土煙が舞い上がる。


森が震える。


「うおおおおっ!?」


レイガの目が輝いた。


「すげぇぇぇぇ!!」


完全に感動していた。


恐怖より興奮。


純粋な驚き。


「あんなデカいの吹っ飛んだぞ!?」


ゼクトは狙撃銃を下ろしながら答える。


「対物用だからな」


「たいぶつ?」


「大型目標を破壊するための武器だ」


レイガは半分も理解していない。


だが凄いことだけは分かった。


「なるほど!」


全然分かっていなかった。


ゼクトは小さくため息を吐く。


その時だった。


土煙の向こう。


ガサッ――


「……まだ生きてる」


ゼクトが眉をひそめた。


暴走獣が立ち上がる。


全身血まみれ。


右肩は大きく抉れ。


呼吸も荒い。


それでも赤い瞳は消えていない。


グルルルルルル……。


もはや瀕死だった。


だがまだ動く。


レイガは鉈を握る。


獣を見る。


そして駆け出した。


「おい!」


ゼクトが声を上げる。


「待て!」


だがレイガは止まらない。


一直線。


暴走獣も最後の力を振り絞る。


咆哮。


突進。


レイガは正面から飛び込んだ。


「おおおおおっ!」


獣の爪。


回避。


横へ滑る。


地面を蹴る。


鉈を振る。


そして。


ザシュッ――!!


首元へ深く刃が食い込んだ。


獣の動きが止まる。


赤い瞳が揺れる。


数秒。


静寂。


やがて巨体がゆっくりと傾いた。


ドォォォン――。


地面を震わせながら倒れる。


暴走獣は二度と動かなかった。


レイガは肩で息をしながら鉈を引き抜く。


「終わったか」


汗を拭う。


その顔には達成感しかない。


一方。


少し離れた場所で見ていたゼクトは無言だった。


普通ではない。


どう考えても。


あの暴走獣は危険度が高い個体だった。


それを鉈一本で戦い続けた。


しかも。


ゼクトはレイガの鉈へ視線を向ける。


先程まで確かに見えていた。


刃に纏っていた衝気。


それも決して弱くない。


だが。


本人に自覚があるようには見えない。


「……」


ゼクトは眉をひそめる。


レイガは振り返った。


満面の笑み。


「やったな!」


まるで狩りが成功したと言わんばかりだった。


ゼクトは数秒黙り込む。


そして小さく呟く。


「本当に何者なんだ、お前は……」

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