第二十話 捜査
「困ってる人がいるんだろ?」
レイガの一言だった。
その場に沈黙が落ちる。
ゼクトは額を押さえた。
「嫌な予感しかしない」
「なんでだ?」
「お前がそう言う時は大体面倒事になる」
「でも放っておけないだろ」
レイガは真面目な顔だった。
冗談ではない。
本気で言っている。
エルフィスはそんなレイガを見つめる。
そして小さく息を吐いた。
「……確かに」
「何十人も行方不明になっているなら見過ごせませんね」
「おっ!」
レイガの顔が明るくなる。
「エルフィスもやるか!」
「ええ」
「ただし調査です」
「突撃ではありません」
「わかった!」
全く分かっていない返事だった。
ゼクトは頭痛を感じる。
そして最後に。
三人の視線がヴェルドへ向いた。
「僕?」
ヴェルドは首を傾げる。
「別にいいよ」
「友達がやるなら僕もやる」
「その友達認定をやめろ」
ゼクトが即座に言った。
だがヴェルドは聞いていない。
こうして。
四人は失踪事件を調べることになった。
◇
まず向かったのは宿だった。
今の時代。
情報は警察署へ行くよりネットの方が早い。
ゼクトはノートパソコンを開く。
「便利だなそれ」
レイガが覗き込む。
「文明だ」
「すげぇ」
「お前本当に山育ちなんだな……」
ゼクトは検索を始める。
町のニュースサイト。
地域掲示板。
SNS。
動画投稿サイト。
失踪事件に関する情報を片っ端から集めていく。
エルフィスもスマートフォンを操作していた。
「こちらでも調べます」
「助かる」
ゼクトは頷いた。
ヴェルドはというと。
なぜかレイガと一緒に画面を眺めている。
「何もしてないな?」
「応援してる」
「帰れ」
◇
調査開始から一時間後。
四人の前には大量の情報が並んでいた。
「多いな……」
ゼクトが呟く。
想像以上だった。
失踪者は一人二人ではない。
十人でもない。
既に五十人を超えていた。
「五十人!?」
レイガが目を見開く。
「そんなに消えてるのか!?」
「しかも全員この半年以内です」
エルフィスが資料を見ながら言う。
年齢。
性別。
職業。
住所。
全てバラバラ。
共通点がない。
「子供もいる」
「老人もいますね」
「商人もいるぞ」
「旅人もいる」
ゼクトは眉をひそめた。
普通なら何か共通点がある。
だが見当たらない。
まるで無作為だった。
◇
さらに奇妙なことがあった。
「目撃証言ゼロ?」
エルフィスが呟く。
ゼクトも頷く。
「そうだ」
「一件もない」
五十人以上が消えている。
それなのに。
誰一人として誘拐現場を見ていない。
防犯カメラも決定的な映像はなし。
目撃者もなし。
争った形跡もなし。
血痕もなし。
足跡もなし。
「あり得るか?」
レイガが聞く。
「普通は無理だ」
ゼクトが即答した。
「人間が五十人も消えて証拠が残らないなんて」
「現実ならまず不可能だ」
その時。
ヴェルドがぽつりと呟く。
「つまり」
三人が見る。
赤い瞳が細められる。
「普通の犯人じゃない」
静かな声だった。
「界徒か」
ゼクトも同じ結論へ辿り着いていた。
一般人では無理だ。
能力を使えば話は別。
そして。
もし能力者だとすれば。
犯人は。
界徒。
「で?」
レイガが椅子へ座りながら言った。
「どうやって捜査するんだ?」
部屋に沈黙が流れる。
ゼクト。
エルフィス。
ヴェルド。
三人とも考え込んでいた。
そして。
「お前な」
ゼクトが呆れた顔をする。
「事件調べようって言った本人だろ」
「そうだぞ」
「で?」
「で、じゃない」
レイガは首を傾げた。
「俺そういうの分からねぇし」
「だろうな」
「だから聞いてる」
ゼクトは深いため息を吐いた。
◇
「まず整理する」
ゼクトはノートパソコンの画面を見ながら言った。
「失踪者は五十人以上」
「年齢も性別もバラバラ」
「共通点なし」
「目撃者なし」
「証拠なし」
「防犯カメラも決定打なし」
レイガは腕を組む。
「つまり?」
「犯人が上手い」
「なるほど」
「そして能力者の可能性が高い」
「それも分かった」
レイガは頷いた。
そこまでは理解できる。
◇
エルフィスが資料を見ながら口を開く。
「私は聞き込みをした方が良いと思います」
「聞き込み?」
「ええ」
「データだけでは分からないこともあります」
「例えば?」
「最後に失踪者を見た人物」
「周囲の噂」
「警察が公開していない情報」
ゼクトも頷いた。
「悪くない」
「現場を見るのも大事だ」
「現場?」
レイガが聞く。
「失踪した場所だ」
「足跡とかあるかも?」
「今さら残ってるとは思わないが」
「何か気付けるかもしれない」
◇
その時だった。
「ねぇ」
ヴェルドが手を挙げた。
全員が見る。
嫌な予感しかしない。
「囮になればいいんじゃない?」
沈黙。
数秒。
ゼクトが聞き返す。
「囮?」
「うん」
ヴェルドは楽しそうだった。
「犯人が人を消してるなら」
「消されそうな人を歩かせればいい」
「出てくるかもしれない」
レイガが頷く。
「なるほど!」
「なるほどじゃない」
ゼクトが即座に否定した。
「危険すぎる」
「でも効率いいよ?」
「それはそうだが」
ゼクトは頭を押さえる。
理屈としては正しい。
悔しいが正しい。
◇
エルフィスも考える。
「……ですが」
「犯人が能力者なら」
「待つより誘き出した方が早い可能性はありますね」
「お前まで言うのか」
ゼクトが驚く。
エルフィスは真面目な顔だった。
「ただし準備は必要です」
「無策は論外」
「それには同意だ」
◇
ゼクトは少し考える。
そして。
「まずは情報収集だ」
「聞き込み」
「失踪現場の確認」
「警察やネットの情報整理」
「それで何も出なかった場合」
レイガが身を乗り出す。
「場合?」
ゼクトは嫌そうな顔をした。
本当に嫌そうだった。
「囮作戦を考える」
「おお!」
「やったな!」
レイガとヴェルドが同時に喜ぶ。
なぜそんなに嬉しそうなのか。
ゼクトには理解できなかった。
◇
こうして方針が決まる。
第一段階。
情報収集。
第二段階。
現場調査。
第三段階。
必要なら囮作戦。
四人は席を立った。
事件の真相はまだ見えない。
手掛かりもほとんどない。
だが。
だからこそ動くしかなかった。
彼らはそれぞれの役割を確認した。
そして四人はすぐに町中へ散った。
まずは聞き込み。
そして失踪現場の調査。
少しでも手掛かりを探すためだ。
◇
数時間後。
夕方。
再び宿へ集まる。
「どうだった?」
ゼクトが聞く。
最初に答えたのはエルフィスだった。
「収穫はほぼありません」
「失踪者同士に面識は無し」
「生活圏も違う」
「職業も違う」
「やはり共通点が見つかりません」
ゼクトは頷く。
予想通りだった。
次にレイガ。
「俺も聞いて回ったぞ!」
「どうだった」
「みんな困ってた!」
「知ってる」
「あと怖がってた!」
「それも知ってる」
「以上!」
「お前何してたんだ」
ゼクトが頭を抱えた。
◇
ヴェルドは椅子へ座りながら言う。
「僕は失踪現場を見てきた」
「何か分かったか?」
「うん」
全員が顔を上げる。
ヴェルドは珍しく真面目だった。
「失踪場所が妙なんだ」
「妙?」
「全部バラバラに見えるけど」
机へ地図を広げる。
町の各所へ印が付いていた。
市場。
路地。
宿屋。
倉庫街。
広場。
それぞれ離れている。
だが。
「線で繋ぐと中心がある」
ヴェルドが指差した。
町外れだった。
森へ続く古い街道。
その周辺へ自然と集まっている。
「偶然か?」
レイガが聞く。
ゼクトは首を振った。
「五十件以上で偶然はない」
「つまり犯人は」
エルフィスが呟く。
「この辺りを拠点にしている可能性がありますね」
◇
さらに。
ゼクトも調べていた情報を出す。
「ネットの書き込みだ」
画面を見せる。
失踪事件の噂。
目撃談。
都市掲示板。
その中で一つだけ気になる内容があった。
『夜中に森の方で変な人影を見た』
『気付いたら消えた』
『霧みたいだった』
『気味が悪かった』
信憑性は低い。
だが。
他に手掛かりもない。
「森か」
レイガが笑う。
「行くか!」
「待て」
ゼクトが止めた。
◇
夜。
宿の部屋。
四人は円卓を囲む。
沈黙。
考える。
そして。
エルフィスが静かに言った。
「正直」
「ここまで調べて成果が少ないなら」
「次の段階へ進むべきです」
ゼクトも頷いた。
認めたくはない。
だが。
その通りだった。
犯人は痕跡を残さない。
なら。
出てきてもらうしかない。
◇
レイガが身を乗り出す。
「つまり?」
「囮作戦だ」
ゼクトが答える。
「おお!」
レイガが喜ぶ。
「喜ぶな」
◇
誰が囮になるか。
その話になる。
そして。
全員の視線が一人へ向いた。
「なんだ?」
レイガが首を傾げる。
「お前以外にいるか?」
ゼクトが言う。
「目立つ」
「強い」
「単独行動しそう」
「犯人が狙いそう」
エルフィスも頷く。
「適任ですね」
「適任だね」
ヴェルドまで頷いた。
◇
レイガは数秒考えた。
そして。
にっと笑う。
「面白そうだな!」
「だから喜ぶな」
ゼクトが即座にツッコんだ。
◇
こうして。
翌日の夜。
レイガを囮にした作戦が決定する。




