第十九話 神隠しの街
「じゃあさ」
喫茶店を出た直後だった。
レイガがエルフィスを見る。
「エルフィスも一緒に来ればいいじゃねぇか」
「ん?」
エルフィスが首を傾げる。
「試験会場までだよ」
「どうせ同じ場所に向かうんだろ?」
レイガは当然のように言った。
ヴェルドも頷く。
「僕も賛成」
「友達の友達だしね」
「その理論よく分かりませんね」
エルフィスが少し苦笑する。
だが。
しばらく考えた後。
「まぁ」
「目的地が同じなら同行する理由としては十分でしょう」
そう答えた。
「おお!」
レイガが嬉しそうに笑う。
「これで四人だな!」
「勝手に仲間を増やすな」
ゼクトが即座にツッコんだ。
◇
その後。
四人は再び街道へ出た。
夕方の風が吹く。
宿場町を背にしながら試験会場への道を進む。
自然と雑談も始まった。
「そういえば」
エルフィスが横を歩くゼクトを見る。
「あなたは随分常識的ですね」
「褒めてるのか?」
「褒めています」
即答だった。
そして。
ちらりと前を見る。
先頭ではレイガが露店で買った串焼きを食べながら歩いていた。
危ない。
後ろではヴェルドが鼻歌を歌っている。
もっと危ない。
エルフィスは静かに言った。
「むしろ何故その二人と一緒にいるんです?」
「俺も知りたい」
ゼクトは遠い目をした。
◇
「元々は二人じゃなかったんだ」
ゼクトが語り始める。
「俺は一人で試験へ向かってた」
「はい」
「そしたら森でレイガと出会った」
「なるほど」
「野生児だった」
「野生児?」
エルフィスが聞き返す。
「街を知らない」
「常識を知らない」
「地図を読めない」
「お金の価値を知らない」
エルフィスが黙った。
「……本当に試験受験者ですか?」
「俺も最初そう思った」
ゼクトは真顔だった。
◇
「そこから都市へ着いた」
「はい」
「そして赤首の死神に遭遇した」
エルフィスの足が止まる。
「待ってください」
「なんです?」
「赤首の死神?」
「赤首の死神」
「裏社会の危険人物ですよね?」
「そうだ」
ゼクトが後ろを指差す。
エルフィスが振り向く。
そこには。
楽しそうに鼻歌を歌うヴェルド。
エルフィス。
沈黙。
数秒。
「……あの方ですか?」
「そうだ」
「なるほど」
エルフィスは額を押さえた。
◇
ゼクトはさらに続ける。
「その後戦った」
「はい」
「途中で犯罪組織が増援に来た」
「はい」
「何故か共闘した」
「はい?」
「気付いたら犯罪組織壊滅」
「はい??」
「そして友達認定された」
「……」
エルフィスは空を見上げた。
理解が追いつかなかった。
◇
しばらくして。
エルフィスは小さく呟く。
「あなた」
「大変なんですね」
「だろ?」
ゼクトが即答した。
今までで一番早い返事だった。
エルフィスは真剣に頷く。
「心から同情します」
「ありがとう」
「初めて会った気がしません」
「それは何故だ」
「苦労人の気配がします」
「やっぱりか」
ゼクトは肩を落とした。
◇
前方では。
レイガが大声を上げる。
「おーい!」
「早く来いよー!」
その隣では。
ヴェルドが笑顔で手を振っていた。
「友達ー!」
「やめろ」
ゼクトが即答する。
エルフィスも即答した。
「品がありませんね」
「だよな」
「ええ」
二人の意見が初めて一致した。
その瞬間だった。
レイガとヴェルドが同時に振り返る。
「仲良くなってる!」
「仲良くなってるね!」
「違う」
「違います」
また同時だった。
◇
四人が宿場町の通りを歩いていた時だった。
「ん?」
レイガが足を止める。
広場の方が妙に騒がしい。
人だかりが出来ていた。
老人。
商人。
主婦。
旅人。
子供までいる。
老若男女が集まり、何かを呼びかけているのだ。
「この人を見ませんでしたか!」
「娘を探しているんです!」
「何か知っている方はいませんか!」
切羽詰まった声が飛び交う。
そして通行人へ次々と紙が配られていた。
「なんだこれ?」
レイガが一枚受け取る。
そこには顔写真が載っていた。
若い女性。
中年男性。
少年。
老人。
共通点のない様々な人物。
だが全員の写真の上には大きく書かれている。
『行方不明』
「失踪者か?」
ゼクトが眉をひそめた。
近くにいた女性へ声をかける。
「何かあったんですか?」
女性は疲れた顔で振り向いた。
目の下には隈がある。
眠れていないのだろう。
「この町で失踪事件が続いているんです……」
「失踪事件?」
エルフィスが聞き返す。
女性は頷いた。
「もう何ヶ月も前からです」
「最初は一人だけでした」
「でも次の日には二人」
「さらに三人」
「今では何十人も行方不明になっています」
四人の表情が変わる。
何十人。
それは異常だった。
「警察は?」
ゼクトが尋ねる。
「もちろん捜査しています」
「でも……」
女性は俯いた。
「何も分からないんです」
「何も?」
「はい」
困惑したように続ける。
「目撃者がいないんです」
「誰一人として」
「突然消えるんです」
レイガが首を傾げる。
「突然?」
「昨日まで普通にいた人が」
「次の日にはいなくなっているんです」
「足跡もない」
「争った跡もない」
「血もない」
「証拠もない」
まるで。
神隠し。
その言葉が全員の頭に浮かんだ。
「不気味ですね」
エルフィスが静かに呟く。
女性はさらに続ける。
「年齢もバラバラです」
「職業も関係ない」
「男女も関係ない」
「共通点が全く見つからないんです」
ゼクトはビラを見る。
確かにそうだった。
老人もいる。
若者もいる。
商人もいる。
旅人もいる。
繋がりが見えない。
「……」
ヴェルドだけが黙っていた。
赤い瞳で写真を見つめている。
その表情は珍しく真面目だった。
「何か気になるのか?」
ゼクトが聞く。
ヴェルドは少し考えてから答えた。
「いや」
「ただ」
「何十人も消えているのに死体が一つも見つからないのは変だなって」
その一言に。
全員が黙る。
確かにそうだった。
殺人なら死体が出る。
誘拐なら身代金要求がある。
だが今回はどちらもない。
本当に。
人だけが消えている。
レイガがビラを見る。
そして。
「なぁ」
「なんだ」
「試験会場って急ぐか?」
嫌な予感がした。
ゼクトとエルフィスが同時に顔を向ける。
レイガは真面目な顔だった。
「困ってる人がいるんだろ?」
その言葉に。
ゼクトは思わず額を押さえた。
エルフィスは小さく目を見開く。
そして。
ヴェルドだけが。
楽しそうに微笑んでいた。
「いいねぇ」
死神はそう呟いた。
どうやらまた厄介事へ首を突っ込むことになりそうだった。




