表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/22

第十四話 VS赤首の死神戦

工業地帯。


夕陽は沈みかけていた。


赤く染まる空の下。


三人だけが立っている。


大量の死体に囲まれながら。


異様な空間だった。


「君たち二人で来てよ」


ヴェルドが笑う。


「本気で」


「殺すつもりでね」


レイガは鉈を肩へ担いだ。


「望むところだ」


むしろ嬉しそうだった。


ゼクトは額を押さえる。


本当に始める気らしい。


だが。


目の前の男から目を離せない。


逃げる選択肢もあった。


しかし。


このまま見逃しても良い相手には思えなかった。


ゼクトは静かに息を吐く。


「……分かった」


レイガが振り返る。


「おっ」


「ゼクトもやるのか?」


「勘違いするな」


ゼクトは前へ出る。


青灰色の瞳がヴェルドを見据える。


「お前を信用していないだけだ」


「ははっ」


ヴェルドは楽しそうだった。


「いいねぇ」


「そういう顔」


ゼクトは右手を前へ出した。


衝気が集まる。


淡い光。


幾何学模様。


空中へ浮かぶ設計図。


複数の線が重なり合う。


構造式。


部品図。


寸法。


設計図が完成する。


そして。


カシャン。


黒い拳銃が出現した。


レイガが目を輝かせる。


「おおっ!」


「また出た!」


「静かにしろ」


ゼクトは拳銃を構える。


ヴェルドはその様子を見ていた。


赤い瞳が細くなる。


(へぇ……)


内心で呟く。


(衝気で武器を構築する能力)


(構築系か)


(しかも精度が高い)


一目で分かる。


実戦経験もある。


ただの受験生ではない。


(面白いね)


ヴェルドは笑みを深めた。


「いいよ」


「それも使って」


「ありがとう」


ゼクトは短く返す。


レイガは鉈を構え直した。


「じゃあ始めるか!」


「うん」


ヴェルドは帽子を被り直す。


赤いマフラーが風になびく。


静寂。


数秒。


誰も動かない。


風だけが吹く。


そして。


次の瞬間だった。


地面が爆ぜる。


ドォンッ!!


「なっ!?」


レイガの目が見開かれる。


速い。


あまりにも速い。


ヴェルドの姿が消えたように見えた。


違う。


動いたのだ。


一瞬で。


人間離れした踏み込み。


一直線。


狙いは――


レイガ。


「来た!!」


レイガは叫ぶ。


鉈を握る。


全身の筋肉が反応する。


目の前には。


笑顔のまま突っ込んでくる死神。


ヴェルドだった。


「いい顔だ――!!」


嬉しそうな声が響く。


二本の鋏が夕陽を反射する。


ガキィィィン!!


金属音が響く。


鉈と鋏。


本来ならあり得ない組み合わせ。


だが今。


工業地帯の真ん中で激しくぶつかり合っていた。


「おおおっ!!」


レイガが鉈を振り抜く。


横薙ぎ。


鋭い一撃。


しかし。


ヴェルドは身体をひねる。


紙一重。


刃が鼻先を掠める。


「惜しいなぁ!」


笑いながら鋏が走る。


キィン!!


レイガは咄嗟に鉈を立てる。


火花が散る。


「危ねぇ!」


「反応良いねぇ!」


ヴェルドの笑みが深まる。


二人は距離を取らない。


至近距離。


一歩も引かない。


鉈が振られる。


鋏が弾く。


鋏が突く。


鉈が受ける。


ガン!!


ギィン!!


ガキィッ!!


連続する金属音。


互いの攻撃は確実に届く軌道へある。


だが。


届かない。


防がれる。


躱される。


また防がれる。


「ははっ!」


ヴェルドが笑う。


「いいねぇ!」


「お前もな!」


レイガも笑う。


まるで子供の喧嘩のような顔。


だがやっていることは殺し合いだった。


どちらも相手の急所を狙っている。


喉。


心臓。


脇腹。


首。


狙いは正確。


なのに当たらない。


技術が拮抗していた。


そして。


ヴェルドが一歩踏み込む。


「っ!」


レイガの目が見開く。


速い。


先ほどよりさらに。


鋏が閃く。


レイガは反射で鉈を振る。


ギィィィン!!


防いだ。


だが。


押し負ける。


ヴェルドの連撃が始まった。


右。


左。


下。


上。


斜め。


鋏が暴風のように襲い掛かる。


「おおおっ!?」


レイガは必死に受ける。


防ぐ。


弾く。


逸らす。


なんとか対応する。


だが徐々に押されていた。


(速ぇ!!)


レイガは思う。


単純な身体能力ではない。


長年積み重ねた技術。


戦闘経験。


殺し合いの経験。


それが差になって現れていた。


その時だった。


パンッ!!


銃声。


ヴェルドの横顔を弾丸が掠める。


「おっと」


ヴェルドが首を傾ける。


弾丸が後方へ飛んでいく。


さらに。


パンッ!


パンッ!


パンッ!


連続射撃。


ゼクトだった。


「レイガ!」


「下がれ!」


「おう!」


レイガが飛び退く。


その隙にゼクトが射撃を続ける。


だが。


当たらない。


ヴェルドは歩くように避けていた。


身体を少し傾ける。


半歩動く。


首をずらす。


それだけ。


それだけで全ての弾丸が外れる。


「嘘だろ……」


ゼクトの眉がひそめられる。


さらに撃つ。


パンッ!!


パンッ!!


パンッ!!


それでも当たらない。


ヴェルドは笑っていた。


「射撃上手いねぇ」


「褒められても嬉しくない」


ゼクトは舌打ちする。しかし内心では驚いていた。


(衝気を使ってないんだぞ……)


今の条件は双方同じ。


能力の使用は無し。


衝気による強化も無し。


純粋な肉体と技術のみ。


それなのに。


(拳銃を回避できるのかよ)


普通の界徒でも難しい。


至近距離からの弾丸。


それを読んでいる。


避けている。


技術だけで。


経験だけで。


(なんなんだこいつは……)


ゼクトの背中に冷たい汗が流れる。


一方。


ヴェルドは心底楽しそうだった。


「最高だなぁ」


赤い瞳が輝く。


レイガを見る。


ゼクトを見る。


そして笑う。


「二人ともちゃんと殺す気で来てる」


その笑顔は、今まで見たどんな敵よりも恐ろしかった。


第十四話 死線の美学(その六)


「まだまだぁ!!」


レイガが地面を蹴る。


一直線。


迷いのない突撃。


鉈を握る手に力が入る。


ヴェルドへ向かって駆ける。


「元気だなぁ」


ヴェルドは笑う。


だが目は笑っていない。


赤い瞳だけが獲物を見据えていた。


ガキィィン!!


再び金属音。


鉈と鋏がぶつかる。


レイガはそのまま押し込む。


力勝負。


純粋な筋力なら自信があった。


「おおおっ!!」


全力で押す。


ヴェルドの足がわずかに滑る。


「へぇ」


ヴェルドが感心したように呟く。


「力は君の方が上か」


「だろ!」


レイガが笑う。


そのまま蹴りを放つ。


ヴェルドは後方へ飛ぶ。


距離が空く。


その瞬間。


パンッ!!


銃声。


ヴェルドが首を傾ける。


弾丸が横を通過する。


さらに。


パンッ!!


パンッ!!


連続射撃。


ゼクトだった。


後方支援に徹している。


冷静に狙う。


視線。


重心。


動き。


全てを観察していた。


だが。


やはり当たらない。


ヴェルドは避ける。


半歩。


一歩。


身体を捻る。


それだけ。


まるで弾道が見えているようだった。


「本当に面倒だな」


ゼクトが呟く。


拳銃を確認する。


残弾ゼロ。


だが慌てない。


左手を添える。


淡い光。


小さな設計図。


複雑な構造式。


衝気が収束する。


カシャン。


新しい弾丸が構築される。


金属音。


マガジンへ装填。


リロード完了。


レイガが戦う。


その隙にゼクトが支援する。


それが二人の形だった。


「便利だなそれ!」


レイガが叫ぶ。


「今言うことか!?」


ゼクトが即座に返す。


「だって便利じゃねぇか!」


「戦闘中だぞ!」


「そうだった!」


「集中しろ!」


レイガは笑う。


その直後。


ヴェルドが鋏を振る。


キィン!!


鉈で受ける。


ギリギリだった。


「危なっ!」


「余所見は駄目だよ」


ヴェルドが微笑む。


次の瞬間。


連撃。


鋏が踊る。


右。


左。


右。


下。


上。


斜め。


速度がさらに増す。


レイガは必死に防ぐ。


しかし。


今までと違った。


(速い……!)


少しずつ。


少しずつ。


押されている。


技術の差が出始めていた。


後方から見ていたゼクトも気付く。


(まずいな)


レイガは強い。


だが経験不足だ。


対してヴェルドは違う。


殺し合いそのものを生業にしてきた人間。


積み重ねが違う。


その時。


ヴェルドの鋏が一瞬だけ軌道を変えた。


「っ!」


レイガが反応する。


だが遅い。


ザッ…!


頬に一本の赤い線が走る。


血が飛ぶ。


初めてだった。


まともな傷。


レイガは目を見開く。


ヴェルドも動きを止めた。


赤い瞳が細くなる。


そして。


心底嬉しそうに笑った。


「いいねぇ」


血を流すレイガを見ながら。


「その顔だよ」


「その顔が見たかった」


ゾクリ――。


ゼクトの背筋に寒気が走る。


傷を付けたことが嬉しいのではない。


相手が死を意識した瞬間。


その表情を見て喜んでいる。


この男は。


やはりどこか壊れていた。


「レイガ!」


ゼクトが叫ぶ。


「大丈夫か!?」


レイガは頬の血を拭う。


そして。


ニヤッと笑った。


「おう!」


「面白くなってきた!」


ザァ――。


風が吹く。


工業地帯に静寂が落ちた。


レイガは鉈を構えたまま立っている。


ゼクトも拳銃を下ろさない。


だが。


二人とも気付いていた。


「……?」


「なんだ?」


ヴェルドの様子がおかしい。


先ほどまで激しく動いていた男が。


急に動きを止めていた。


笑顔はそのまま。


だが何かが違う。


赤い瞳がレイガから離れない。


じっと見ている。


観察するように。


理解しようとするように。


そして。


内心で考えていた。


(なんだろうね……)


(その顔)


レイガを見る。


傷付いている。


血も流れている。


殺し合いの最中だ。


普通なら。


恐怖。


焦り。


緊張。


そういう感情が見える。


だが。


レイガには無かった。


代わりにあったのは。


笑顔。


太陽みたいな。


真っ直ぐな。


キラキラした笑顔。


なのに。


その目は。


確かに自分を倒そうとしている。


殺そうとしている。


(おかしいな……)


ヴェルドは思う。


(殺意がある)


(敵意もある)


(なのに)


(なんでそんなに楽しそうなんだろう)


矛盾していた。


命のやり取り。


死線。


殺し合い。


その中心にいるのに。


レイガはどこまでも明るい。


まるで友達と遊んでいるかのような顔で。


自分へ鉈を向けている。


その異質さが。


理解できない。


だからこそ。


目が離せない。


「おい」


レイガが首を傾げた。


「どうした?」


「急に止まって」


ゼクトも警戒している。


「レイガ」


「近付くな」


「なんか様子がおかしい」


その時だった。


ヴェルドが一歩後ろへ下がる。


そして。


近くの壁へ手を付いた。


ドンッ。


身体を支えるように。


呼吸が少し乱れている。


「……?」


レイガが目を瞬く。


ゼクトの眉がひそめられる。


ヴェルドは笑っていた。


だが。


頬が赤い。


呼吸も荒い。


肩が上下している。


「はぁ……」


「はぁ……」


まるで。


何かを必死に堪えているようだった。


(落ち着け)


ヴェルドは思う。


(落ち着け)


(落ち着け)


胸を押さえる。


鼓動が速い。


異常なほど。


(まずいなぁ)


(すごく)


(すごく好きだ)


レイガを見る。


その笑顔。


その目。


その矛盾。


理解できない。


だから気になる。


もっと見たい。


もっと知りたい。


もっと――。


「ははっ」


小さく笑う。


「ははは……」


そして。


ゆっくりと顔を上げた。


赤い瞳がレイガを映す。


頬は赤いまま。


笑顔も消えない。


まるで恋をした人間のような表情だった。


だが。


その中身は違う。


根本から。


決定的に。


「レイガ」


優しい声。


レイガが反応する。


「ん?」


ヴェルドは笑った。


心から。


嬉しそうに。


「僕は君を――」


言葉が途切れる。


次の瞬間。


地面が爆ぜた。


ドォンッ!!


「っ!?」


レイガの目が見開かれる。


ヴェルドが消えた。


いや。


突っ込んできたのだ。


今まで以上の速度で。


一直線に。


レイガへ向かって。


赤い瞳を輝かせながら。


笑顔のまま。


まるで獲物へ飛び掛かる猛獣のように。


「もっと知りたい!!」


叫びながら。


死神は再びレイガに牙を剥いた。


そのまま再び、鉈と鋏の連撃が始まる。


だが少しずつ。


少しずつだった。


レイガの身体に傷が増えていく。


シュッ――!!


ヴェルドの鋏が閃く。


肩を掠める。


血が飛ぶ。


さらに。


ザッ!!


脇腹へ浅い切り傷。


「っ!」


レイガが後ろへ飛ぶ。


だが。


ヴェルドは止まらない。


まるで獲物へ飛び掛かる猛獣だった。


「ははっ!」


「いい!」


「いいよレイガくん!」


ガキィン!!


鉈と鋏がぶつかる。


だが次の瞬間には。


ヴェルドの身体が消えている。


横。


後ろ。


斜め。


あり得ない速度で移動する。


完全に先程より速い。


興奮している。


明らかに。


「くそっ!」


パンッ!!


ゼクトの銃弾が飛ぶ。


ヴェルドの頭部を狙う。


だが。


ヒュッ。


紙一重で回避。


さらに。


レイガへ接近。


ザシュッ!!


太腿へ傷。


「っ!」


「レイガ!」


ゼクトが叫ぶ。


再び弾丸を生成する。


《兵装設計図》。


空中へ展開される設計図。


弾丸が構築される。


即座にリロード。


パンッ!!


パンッ!!


パンッ!!


三連射。


しかし。


ヴェルドは踊るように避ける。


「はははっ!」


「最高だ!」


「最高だよ君たち!」


まるで遊んでいる。


いや。


本気で楽しんでいる。


それが余計に不気味だった。


レイガは息を吐く。


肩で呼吸する。


傷は増えた。


だが。


その琥珀色の瞳は死んでいなかった。


むしろ。


鋭くなっている。


「……なるほどな」


小さく呟く。


「ん?」


ヴェルドが笑う。


レイガは鉈を構える。


もう何度目か分からない打ち合い。


だが。


今回は違った。


ガキィン!!


鋏を受ける。


離れる。


ガキィン!!


再び受ける。


離れる。


また受ける。


また離れる。


その度に。


レイガの視線が動く。


足。


肩。


肘。


腰。


呼吸。


目線。


全部見ていた。


ただ戦っていたわけではない。


観察していた。


ひたすら。


ひたすら。


ひたすら。


そして。


ヴェルドが再び飛び込む。


「どうしたレイガくん!」


「遅れてるよ!」


鋏が振られる。


その瞬間。


レイガの口元が上がった。


「…分かってきたぜ」


ヴェルドの目が僅かに見開く。


「お前の動き」


次の瞬間。


レイガは。


鉈を手放した。


ガランッ!!


地面へ落ちる。


「!?」


ゼクトの顔色が変わる。


「レイガ!?」


だが。


レイガは止まらない。


ヴェルドへ突っ込む。


素手で。


真正面から。


「ははっ!!」


ヴェルドも笑う。


鋏が迫る。


だが。


レイガは避けた。


今までで一番小さな動き。


最小限。


紙一重。


そして。


ガシッ!!


ヴェルドの腕を掴む。


「っ!」


初めてだった。


戦闘開始から。


初めて。


レイガがヴェルドへ触れた。


ヴェルドの笑みが深くなる。


レイガも笑う。


獰猛に。


楽しそうに。


「捕まえたぜ」


二人の距離が。


一気にゼロになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ