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ゲバラとカストロ(仮)  作者: 相馬ゆう
モータサイクル・ダイアリーズ
4/11

三話 炭坑

「空気が黒かった」


チェの最初の言葉は、それだけだった。

詩にしたいわけじゃない、という顔をしている。だから彼は続ける。続けないと、自分の中で美化が始まるのを知っているのだろう。


「朝でも黒い。粉が先に刺さる。目にも、喉にも。痛いのに、みんな瞬きを我慢してた。

……我慢っていうか、暇がない」


つるはしの金属音。荷車の軋み。咳。

咳の合間に聞こえる短い笑い声。笑いが出るのは楽しいからじゃない。息を繋ぐためだ。チェの説明は短いが、そういうところが的確で、腹の底が冷える。


「手を見た。節が歪んでて、爪が黒い。洗っても取れない黒だ」


「汚れじゃないのか」


俺が聞くと、チェは首を横に振った。


「刺さってる。仕事が皮膚に刺さってる。……取れない」


取れない、という語尾が少しだけ低い。

医者の観察と、医者であることへの苛立ちが混ざっている。


「食事の時間が短い。短いから急いで噛む。急ぐから喉に詰まらせる奴が出る」


「監督は?」


「見てるだけだ。助けるのは仲間」


チェはそこで黙った。

黙って、グラスを触る。冷たさを確かめる動き。怒りを言葉にしないための動き。


「賃金袋を見せてもらった。軽かった。……軽すぎた」


命の重さに釣り合わない。そう言わないところが、かえってきつい。

言わないまま、伝わる。


「炭は燃える。燃えれば金になる。誰の金になるか、見れば分かる」


チェは言葉を選んでいる。怒鳴りたいのを抑えている。

抑えているのが分かるから、聞く側の胸も勝手に張る。


「出るとき、男が俺の肩を叩いた」


チェはその仕草を真似した。軽い。冗談みたいに軽い。

軽いのに、重い。頼みごとの重さだ。


『先生、外の世界を見てるなら、外の世界が俺たちを見てくれ』


チェは、その声色だけ少し変えた。

記憶の中の他人の声を、まだ自分の喉に残している。


「“見てくれ”って言われたのは初めてじゃない。……でも、あの言い方は違った」


「どう違う」


「お願いじゃない。確認だ」


チェは言う。


「俺が見たなら、逃げるなっていう確認」


俺は頷いた。頷いたあと、言葉が出ない。

出ないのが、いまは正しい。


チェは、次の話に移る前に小さく咳を畳んだ。

俺は水差しを寄せた。さっきより少しだけ早い。早さが出てしまうのが嫌で、テーブルの上で止める。彼が気づくか気づかないかの場所で。


チェは礼を言わない。

かわりに、水差しを一度だけ見た。それだけで十分だと思った。


なんな、朝見ると、アクセスすごい。。

あんなに夜遅く勢いで投稿したのに…

リアクションもありがとうございます。


本当に歴史公証とかはwikiとかなんで、

突っ込みあればぜひ簡単でいいのでコメントお願いします。


メイン作品は、連載中のゲームチェンジャーです。これは宣伝と自分への戒めです


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