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195,インタビューと駆け引き

アメリカの記者からのオファー。

カストロを暴くための取材なのか。知るための取材なのか?

一九六三年四月。


ハバナの日射しは十二月よりも強くなり、海から吹き込む風にも、冬の乾いた軽さではなく、これから長い夏へ向かう湿気が少しずつ混じり始めていた。


キューバ危機から半年が過ぎていた。


海上封鎖の艦隊は遠ざかり、ソ連のミサイルも爆撃機も島から姿を消した。明日の朝には世界そのものがなくなっているかもしれないという種類の恐怖は市民の日常からようやく薄れ、港では軍需物資ばかりではなく機械や食料が荷揚げされ、学校へ通う子どもたちは、頭上を飛ぶ飛行機の音を聞くたびに防空壕の場所を確かめる必要もなくなっていた。


それでも、危機が終わったからといって、キューバの置かれた場所まで変わったわけではない。


北へ九十マイルの海を越えれば、世界最大級の経済力と軍事力を持つアメリカがあり、その国はほんの二年前、亡命キューバ人を武装させてピックス湾へ送り込んだ。国交はなく、禁輸も続き、グアンタナモにはアメリカ軍が残っている。


だからキューバにはソ連が必要だった。


石油も、機械も、武器も、砂糖を買う市場も必要であり、それ以上に、アメリカがもう一度この島へ軍隊を送ろうとした時、その行為をキューバ一国だけの問題では済ませないための後ろ盾が必要だった。


必要だから結ぶ同盟というものを、カストロもゲバラも理解していた。理解していることと、それを心地よく感じることは、もちろん別の話だった。


その春になると、カストロの執務室にはロシア語の文書が目に見えて増えていた。訪問日程、歓迎行事、視察候補地、工場、農場、発電所、軍事施設。モスクワだけではなく、ソ連という国そのものを見せようとしていることが、紙の枚数だけでも分かるほどだった。


ゲバラはその一枚を手に取り、しばらく眺めてから机へ戻した。


「ずいぶん見せたいものがあるらしいな。工場、ダム、発電所、農場、それに北の方まで連れていく。帰ってくる頃には、ソ連の産業統計を俺より詳しく覚えていそうだ。」


カストロは別の書類へ署名しながら、顔を上げずに答えた。


「自慢したいんだろう。俺だって、あれだけの国を作ったなら自慢する。」


「お前は工場とダムを見るのが好きだから、向こうもよく調べている。」


「好きだ。だから行く。」


返事は軽かったが、その言葉の下にある事情を、二人とも説明する必要はなかった。


危機の最後、モスクワはキューバに相談せず、ワシントンとの間でミサイル撤去を決めた。その屈辱は、時間が経ったからといって消えるものではないし、カストロ自身、ミコヤンを前にしてそれを隠そうともしなかった。


それでもソ連へ行く。


むしろ、あの屈辱があったからこそ行かなければならなかった。


世界には、キューバとソ連の同盟が壊れていないことを見せる必要があり、モスクワには、キューバがただ命令を待つ小国ではないと分からせなければならない。石油と砂糖の契約を一つ増やすだけなら官僚でもできるが、大国の指導者と小国の革命家がどのような顔で並ぶかは、それ自体が外交だった。


ゲバラは椅子へ深く腰を下ろし、机に散らばった訪問計画を眺めた。


「英雄として迎えるつもりらしいな。」


カストロがようやく顔を上げた。


「歓迎されるのは嫌いじゃない。」


「知っている。だから心配なんだ。」


「何がだ。」


ゲバラは窓の外へ一度目をやった。白い壁に反射した午後の光が、執務室の中まで薄く差し込んでいる。


「ソ連は味方だ。俺もそう思っているし、この島を守るために必要な国だということにも異論はない。ただ、味方になったからといって、大国であることまでやめるわけじゃない。こちらが必要としている以上に、向こうには向こうの理由があって、お前を英雄として迎えるのも、その理由の中に入っている。」


「そんなことは分かっている。」


「なら聞き方を変える。お前はフルシチョフに友情を求めているのか。」


カストロは火のついていない葉巻を指先で転がしながら、少し考えた。


「国家にか。」


「そうだ。」


「求めていない。」


ゲバラは小さく頷いた。


「だったらいい。向こうも求めていないだろうからな。必要だから抱くし、必要がなくなれば腕を緩める。こっちも必要だから抱かれていればいい。ただ、その抱擁を友情だと思った瞬間から、こちらの方が弱くなる。」


カストロは葉巻へ火をつけ、煙を吐きながら笑った。


「最近のお前は随分ロマンがないな。山にいた頃は、もう少し人間を信じていた気がする。」


「国家にロマンを求めるくらいなら、人間に求めた方がいい。」


そう言ってゲバラは、椅子の横に置いていた一枚の紙を取り上げた。


そこにある名前を見て、カストロが眉を上げる。


「まだ、その女か。」


「まだ来たがっている。」


「お前まで調べたのか。」


「少しな。」


カストロは面白そうに目を細めた。


「女に対する執着だけは相変わらずだな。」


ゲバラは露骨に嫌そうな顔をした。


「お前にだけは言われたくない。それに、これは女の話じゃない。少なくとも途中からはな。」


「最初は女の話だったのか。」


「話を進める気があるなら、そこで喜ぶな。」


リサ・ハワード。


十一月に届いた最初の取材申し込みは、危機の後始末の中で棚上げされたが、彼女自身は諦めていなかった。ニューヨークからキューバへの道を探し続け、ABCを通じて取材を求め、キューバ側にも何度か名前が上がっている。


元女優で、ラジオ報道へ移り、フルシチョフへのインタビューを取り、その後ABCニュースへ入り、ウィーンではケネディとフルシチョフの首脳会談を取材した。


十二月の会議では、その奇妙な経歴だけで、捕虜交換や石油の話より長く男たちを引き留めた女だった。


「それで、何が分かった。」


カストロが訊いた。


「俺たちが思っていたほど、政府の匂いはしない。もちろん、それだけで安全だと言うつもりはないが、本人はアメリカでは進歩的な記者として見られているらしいし、政治的な質問も避けない。フルシチョフに会えた理由についても少し調べたが、少なくとも、いかにも情報機関が送り込んだ女という感じではない。」


「CIAではないと?」


「そこまでは誰にも分からん。だが、仮にCIAがこちらの放送に関心を持つとしても、カメラの前で何を言うかはこちらの問題だ。それより、俺が気になったのは別のところだ。」


ゲバラは紙を机の中央へ滑らせた。


「俺たちはこれから、ますますモスクワを必要とする。石油も武器も市場も必要だから、それ自体を恥じる必要はない。ただ、必要なものをもらっているうちに、世界中からモスクワの子分だと思われるようになれば、その時は別の問題になる。」


「俺がソ連へ行くから、アメリカのテレビにも出ろというのか。」


「そうだ。むしろ、だからこそだ。」


ゲバラは迷わなかった。


「ワシントンに革命を理解させようと思うな。大統領にも議会にも軍にも企業にも、それぞれ守るものがあって、キューバを一つの理念として眺めてくれるほど暇じゃない。だが、アメリカという国家と、そこに住んでいる人間まで全部同じだとは思わない。」


カストロは黙って聞いていた。


「学生もいる。若い労働者もいる。黒人もいる。自分たちの国が本当に自由なのかと考えている人間だっているだろう。数は多くなくてもいいし、全員を革命家にする必要もない。百万人のうち一万人が、キューバ人にもキューバ人なりの理由があると思えば、それだけで価値がある。」


「随分控えめな革命輸出だな。」


「人間の頭の中まで船に積んで運べないからな。」


ゲバラは笑ったあと、少しだけ声音を落とした。


「アメリカという国家より、自由という考え方の方が古い。ソ連という国家より、平等という考え方の方が古い。帝国なんて、長く続いても何百年かだ。人間が正義とは何かを考え始めたのは、そのずっと前からだろう。俺たちが世界へ出せるものがあるとしたら、石油でもロケットでもない。何のために革命をしたのか、その理由の方だ。」


カストロは煙の向こうからゲバラを見た。


「哲学者みたいなことを言うようになったな。」


「サルトルに会ったせいかもしれない。」


「責任を押しつけるな。」


三年前、ジャン=ポール・サルトルとシモーヌ・ド・ボーヴォワールがキューバへ来た。革命後の社会を見て、工場を歩き、農村へ行き、ゲバラと話し、カストロとも言葉を交わし、帰国すればそれを文章にした。


革命が海を越える方法は、兵士だけではなかった。本も、新聞も、写真もあり、今やテレビもある。


「サルトルはパリへ持ち帰った。」


ゲバラが言った。


「今度はあの女にニューヨークへ持ち帰らせればいい。哲学者よりテレビの方が、見る人間は多い。」


「哲学者が聞いたら怒りそうだな。」


「怒らせておけ。思想家には、それくらいの仕事が必要だ。」


カストロは葉巻の灰を落とした。


「老人は文学で、道徳や思想を語る。」


「サルトルに老人と言ったら、本当に怒るぞ。」


「俺たちはまだ、実践で語れる。」


カストロはゲバラの茶々を気にせず、少し遠いものを見るように続けた。


「山では、正しいと思ったことを紙の上で完成させてから始める余裕なんてなかった。土地を返すべきだと思えば、法律ができるまで待たずにまずやってみた。学校が必要なら、教師が足りないと嘆く前に、教えられる奴を探した。夜に本を読んで、革命が勝ったら何をするか話して、朝になればその考えが本当に人間の腹を満たすのか、農民に受け入れられるのかを試すことになった。」


ゲバラが口元を緩めた。


「間違っていた時も、すぐ分かった。」


「それは便利だった。」


「撃たれる以外はな。」


二人は笑った。


山では、文学や哲学を語ることと、現実に手を入れることの間に、今ほど大きな距離がなかった。誰かが持ってきた本を読み、革命とは何か、勝った後に土地をどうするか、学校をどうするか、アメリカとどう付き合うかを話しても、朝になればまた山を歩き、話したことの一部を実際の選択へ変えなければならなかった。


思想は現実から逃げるための場所ではなく、現実へ踏み込む前の準備でもあった。


少なくとも、彼らはそう信じていた。


「サルトルもカミュも、若い頃は自分たちが世界を変える側だと思っていたのかもしれないな。」


カストロが言った。


「人間は年を取ると、やったことより、なぜやったのかを説明したくなるのかもしれん。俺たちもいつかそうなる。」


「お前は老人になってから本を書くな。」


「なぜだ。」


「長すぎる。」


「お前が編集しろ。」


「断る。」


再び笑いが起きた。


まだ若かった。


カストロは三十六歳、ゲバラは三十四歳で、革命政府そのものも四年しか経っていない。世界はすでに完成していて、人間はその中で与えられた条件を上手に処理するしかないものだとは、二人ともまだ考えていなかった。


現実は存在する。


だが、存在していることと、永遠に従わなければならないことは同じではない。


二人が山から持ち帰った最大の確信は、おそらくそこにあった。


カストロはリサ・ハワードの資料を手に取り、しばらく眺めてから机へ戻した。


「分かった。会おう。」


ゲバラが頷いた。


「ただし、アメリカ政府との交渉じゃない。ABCの取材として入れる。こちらから正式な政治文書も渡さないし、答えの台本も作らない。」


「台本は嫌いだ。」


「知ってる。信用できる女なのか、単に面白い女なのか、それとも危険な女なのかは、実際に会ってから決めればいい。」


カストロは葉巻を持ち直した。


「使えるなら線を残す。」


「駄目なら切ればいい。」


ゲバラは立ち上がり、扉へ向かってから、ふと思い出したように振り返った。


「一つだけ忠告しておく。」


「何だ。」


「面白くなっても、喋りすぎるな。お前は退屈な相手には何も渡さないが、面白い相手だと全部見せたくなる。」


カストロは少し考えたあと、首を横に振った。


「それは約束できない。」


「そう言うと思った。」


ゲバラは諦めたように扉を閉めた。



※※※※※※※※※※



何かを決めるまでに五か月以上かかった話は、決まった途端、妙なほど速く動き始めた。


数日後、秘書のセリアがカストロの執務室へ入り、手にしていた予定表を机へ置いた。


「ビザを出しました。先方にも連絡が行っています。」


カストロは書類から顔を上げる。


「いつ来る。」


「二十一日です。」


「来月か。」


セリアは一度、彼の顔を見た。


「今月です。」


カストロは机の端に置かれたソ連訪問の日程へ目をやった。出発は二十七日だから、ほとんど間がない。


「早いな。」


「十一月から五か月待たせておいて、それを言いますか。」


「決めた後は早い方がいい。」


「その時間感覚で予定を組むのは私なんです。」


セリアはそう言いながら、もう必要な箇所へ印をつけている。


「先方は、できるだけ長く時間がほしいそうです。撮影だけで終わるとは思わない方がいいでしょうね。」


「なら、長く取ればいい。」


セリアは何も言わずにカストロを見た。


「何だ。」


「ゲバラから聞きました。」


「何を。」


「面白くなっても喋りすぎるな、と。」


カストロは葉巻を持ったまま笑った。


「あいつは最近、人の心配ばかりしている。」


「あなたについては、昔からだと思います。」


セリアは予定表を閉じた。


二人とも、その六日後にはカストロがソ連へ向かうことを知っていた。


リサ・ハワードには、まだ教える必要はなかった。



※※※※※※※※※※



四月二十一日、リサ・ハワードがハバナへ入った。


ホテルへ運び込まれた荷物には、衣服より仕事道具の存在感があった。カメラ、照明、録音機材、フィルム、ケーブル、メモ用紙。それらを運ぶABCのスタッフを、キューバ側の人間は表向きは客として迎えながら、当然のように一人ずつ確認した。


危機からまだ半年しか経っていない。


CIAの秘密工作も、亡命者による襲撃も終わってはいない以上、アメリカから機材を抱えてやって来た人間を、ただのテレビ屋だと信じる理由もなかった。


セリアはホテルのロビーで、初めてリサ本人を見た。


十二月から何度も書類で名前を読み、男たちが勝手に人物像を作っていた女だった。元女優という経歴から、もっと華やかな印象を想像していたが、実際に目を引いたのは容姿よりも視線だった。


相手の話を聞いている最中にも、その人間の背後に誰がいるか、どの扉から誰が入ってくるか、誰が決定権を持っているかを同時に見ているような目をしている。質問を考える時にも下を向きすぎず、相手の顔を見ている時間の方が長い。


セリアは、内心で少し納得した。


なるほど、これならフルシチョフのところまで行くかもしれない。


「セニョーラ・ハワード。」


声をかけると、リサがすぐに振り返った。


「リサでいいわ。あなたがセリア・サンチェスね。」


セリアは少し眉を上げる。


「私まで調べたんですか。」


「私だけ調べられているのは不公平でしょう。あなたたちが私について何を調べたのか、聞きたいくらいよ。」


「それは教えられません。」


「やっぱり調べたのね。」


リサが笑ったので、セリアも少しだけ笑った。


「たぶん、カストロと話が合います。」


「それは、いい意味で?」


「会えば分かります。」


リサはそこでロビーの入口へ目を向けた。


「ところで、彼はいつ来るの?」


セリアは腕時計を見る。


予定時刻を少し過ぎている。


「その質問は、私も毎日しています。」


リサは一瞬きょとんとしてから、声を立てて笑った。



※※※※※※※※※※



カストロが姿を見せた時、リサはすぐに立ち上がった。


オリーブ色の軍服、髭、長身。写真やテレビ映像で何度も見た姿ではあるが、実際に部屋へ入ってくると、画面よりも大きく見える。身体そのものより、入ってきた瞬間に周囲の人間が少しずつ彼の方を向くことで、そう見えるのかもしれなかった。


カストロもまた、握手をする前にリサを観察していた。


「やっと会えた。」


先に言ったのはリサだった。


「随分待たせたらしいな。」


「五か月よ。取材の返事としては、かなり長い方ね。」


「その間に国を運営していた。」


「私はニュースを作っていた。」


カストロが笑い、差し出された手を握った。


「フルシチョフに会ったそうだな。」


リサが少し目を細める。


「最初の質問がそれ?」


「俺を取材しに来たんだ。こちらにも、先に君を少し取材する権利くらいあるだろう。」


「いつも取材相手を先に調べるの?」


「必要なら。」


「それなら私も、必要だと思っただけ聞くわ。」


「そのために来たんだろう。」


二人はそこで一度だけ、言葉のないまま相手を見た。


セリアは少し離れたところから、その短い沈黙を眺めていた。


どちらが相手の速度に合わせるのか、どちらが先に本題を握るのか。


まだ何も始まっていないのに、最初の駆け引きだけはすでに始まっていた。



※※※※※※※※※※



撮影が始まると、当然ながら最初に主導権を握ったのはリサだった。


最初の話題はキューバ危機だった。


「なぜソ連のミサイルを受け入れたの?」


カストロはすぐには答えず、椅子に腰掛けたまま少し身体を前へ出した。


「その質問は、十月から始めると答えを間違える。なぜ、と聞くなら、その前に何があったかを考えなければならない。ピックス湾があり、その後も侵攻計画があり、アメリカの飛行機が我々の空を飛び、亡命者の武装集団が海から入ってくる。アメリカ政府が我々を倒したいと考えていることは、秘密でも何でもなかった。」


「だから核兵器を置いた?」


「だから、次に侵攻する時には、簡単な賭けでは済まないと思わせるものが必要だった。」


「世界を核戦争の近くまで連れていっても?」


問い返しは速かった。


部屋の空気が少しだけ張る。


カストロもその速さを感じたらしく、一度リサの顔を見た。


「世界をそこまで近づけたのは、我々だけだと思うか。」


「いいえ。でも、あなたもその一部だった。」


キューバ側のスタッフの何人かが、わずかに動きを止めた。


質問に棘があるのではない。


棘を隠す気がない。


カストロは数秒黙ってから、意外なほど穏やかな声で答えた。


「そうだ。我々もその一部だった。ただ、苦しい国に安全保障の選択肢が十もあると思ってはいけない。大国が小さな国に残す選択肢というものは、たいてい、外から見るより少ない。」


リサはすぐ次の質問へ移らず、ほんの一瞬だけ黙った。


やがて話題はソ連へ移った。


「アメリカでは、あなたはソ連の操り人形だと言われている。」


カストロは思わず笑った。


「随分扱いにくい人形を選んだものだな。」


部屋に笑いが起きたが、リサはそこで止めなかった。


「ミサイルを撤去すると決めたのはモスクワだった。」


カストロの笑みが少し薄くなる。


「そうだ。」


「あなたに相談せずに。」


「そうだ。」


「それでも、操られていないと言える?」


その問いは簡単だったが、十月以来何度も胸の中で繰り返してきた屈辱を、正確に突いていた。


カストロは葉巻を持つ指を少し動かし、しばらくしてから答えた。


「同盟国に頭越しで決められた人間は、その同盟国の所有物になるのか。俺はそうは思わない。モスクワにはモスクワの国益があり、我々には我々のものがある。重なる時には一緒にやるし、重ならない時には争う。キューバが社会主義を選んだからといって、キューバ人であることをやめたわけじゃない。」


そこから話は、革命輸出、亡命者、国有化、補償、選挙、報道、政治的自由へと移っていった。


リサは一つの回答の中から次の矛盾を拾い、それを質問へ変えて返す。カストロも、都合の悪い問いだからといって露骨に避けることはせず、長く説明することもあれば、質問の前提そのものがおかしいと反論することもあった。


時間が経つにつれて、セリアには一つの変化が分かってきた。


最初の一時間、カストロはカメラの向こうにいるアメリカ人へ話していた。


ところが二時間を過ぎる頃には、リサ・ハワードという一人の人間へ答えていることの方が多くなっていた。


その流れを、リサが一度止めた。


「少し違う聞き方をしていい?」


「ここまでだって、好きに聞いていただろう。」


「今度は政府の話じゃない。」


リサはカメラを指した。


「この放送を見るアメリカ人に、あなたは何を言いたいの?」


カストロは少し姿勢を戻した。


「アメリカ政府ではなく?」


「政府ではなく、そこに暮らしている人たちに。」


カストロはすぐには答えなかった。


それまで質問をしていたリサから目を外し、初めて真正面からカメラのレンズを見た。


その黒い円の向こうに誰がいるのかは見えない。


ニューヨークのアパートかもしれない。


大学の寮かもしれない。


南部の小さな町かもしれない。


工場から戻った家族が夕食の後にテレビを見ているのかもしれない。


カストロはしばらくその見えない相手を考えるようにしてから、口を開いた。


「まず、我々を好きになる必要はないと言いたい。」


リサの眉が少し動いた。


「社会主義者になる必要もないし、キューバの革命が何もかも正しかったと思う必要もない。ただ、自分たちの政府が我々を敵だと言ったとしても、なぜ我々が革命をしたのかまで考えるのをやめないでほしい。」


カストロは、演説の時よりもゆっくり話していた。


「事実というものは強い。バティスタが軍隊を持っていたのは事実だったし、アメリカ企業がこの島で大きな力を持っていたことも事実だった。農民が貧しかったことも、黒人が差別されていたことも、アメリカに逆らえば小さなキューバなど潰されると誰もが考えていたことも、全部事実だった。」


そこで一度、言葉を切った。


「だが、事実であることと、それが正しいことは同じじゃない。」


部屋が静かになった。


カストロはレンズから目を逸らさなかった。


「俺たちは現実が存在しないと言ったんじゃない。現実が不道徳なら、それを現実だからという理由だけで受け入れる必要はないと言った。それができることを、俺は本で読んだんじゃなく、自分で経験した。」


リサが静かに聞いた。


「でも、あなたたちは特別だったから成功した、と言う人もいるでしょう。シエラ・マエストラの英雄たちだからできた、と。」


カストロはそこで初めてレンズから目を外し、リサを見た。


「それが一番困る。」


「なぜ?」


「神話にした瞬間、普通の人間にはできないことになるからだ。」


カストロは少し笑った。


「俺たちは最初から英雄だったわけじゃない。怖がったし、間違えたし、逃げた奴もいた。腹も減った。道も間違えた。それでも続けたから、後から見る人間には、最初から何か特別なものを持っていたように見える。」


「誰でも革命家になれる、と?」


「同じ革命をする必要はない。」


カストロは首を振った。


「銃を持つ必要もない。革命という言葉を使う必要さえないかもしれない。ただ、自分を縛っているものが本当に外にだけあるのか、一度考えてみることは誰にでもできる。」


リサが少し身を乗り出した。


「外にだけ?」


「人間を縛る一番大きなものは、軍隊とは限らない。『これは変えられない』『自分にはどうにもできない』『大きな国がそう決めたのだから仕方がない』と、自分で信じてしまうことの方が強い時がある。その考えが心の中に根を張れば、兵士を置かなくても人間は自分で檻を守るようになる。」


カストロはその言葉を選ぶように、少し間を取った。


「革命は銃を持った時に始まるんじゃない。たぶん、その檻が本当に必要なのかと疑った時に始まる。」


リサは何かを書こうとして、やめた。


カストロは続けた。


「ピックス湾のあと、捕虜の中に黒人の男がいた。俺はその男に聞いたことがある。革命前には、肌の色だけで入れない場所があり、同じキューバ人なのに扱いが違っていた。それを変えようとしている革命を倒すために、なぜお前が銃を持って戻ってきたんだ、と。」


リサが訊いた。


「彼は何と?」


「俺が期待していたような答えはしなかった。」


カストロは苦笑した。


「その時は、少し腹が立った。俺たちは差別をなくそうとしたのだから、黒人なら当然こちらを支持するはずだ、と、どこかで思っていたんだろうな。でも、人間は政府から何かを与えられたというだけで、その政府と同じ考えになるわけじゃない。そんなに簡単なら、政治はずっと楽だ。」


リサはその言葉を注意深く聞いていた。


「それでも、革命は誰にでも可能だと?」


「可能性はあると思う。人間には、自分が置かれた場所を当然だと思わない能力がある。それは黒人にも、農民にも、金持ちにもあるし、アメリカ人にもある。」


「アメリカ人にも?」


「もちろん。」


カストロは再びカメラの方を見た。


「君たちの国だって革命から生まれたんだろう。遠くの王に、自分たちの税金や政治を決められたくないと言った人間がいた。我々がやったことの全部が、アメリカ独立革命と同じだとは言わない。時代も国も違う。ただ、自分たちの土地で、自分たちのことを、自分たちで決めたいと思ったことまで、そんなに理解できないとは思わない。」


「若い人たちに、政府へ逆らえと言っているの?」


リサが聞くと、カストロは笑った。


「違う。自分で考えろと言っている。」


「その結果、あなたが間違っていると思っても?」


「それでいい。」


リサが少し驚いた顔をする。


「ずいぶん寛大ね。」


「その代わり、ワシントンが間違っている時も同じように言えばいい。」


スタッフの何人かが笑った。


カストロはそこから、少し表情を変えた。


「いまアメリカでは、黒人が、自分たちの憲法に書いてある権利を本当に自分たちのものにしようとしている。俺たちと同じ革命だとは言わないし、同じ方法を使うべきだとも思わない。ただ、自分よりずっと大きなものから『お前の場所はここだ』と言われ、それを拒否するところには、俺には分かるものがある。」


リサはその瞬間、ほんのわずかにカメラから目を逸らした。


公民権をめぐって南部から届く報告を、彼女も知っていた。


そして、もう一人の若い指導者を思い出した。


思想も、育った家も、守っている国家も、何一つ同じではない。それでも、世界には動かせないものがあるという前提から政治を始めていないところだけは、ケネディと目の前の男には奇妙に似たものがあった。


ウィーンで見たケネディには、それがまだ若さに見えた。


目の前のカストロは、その若さを山と銃と革命によって一度現実にしてしまった男だった。


リサはその考えを口には出さず、次の質問へ移った。


「アメリカとの関係改善を望んでいるの?」


カストロは少し考えてから答えた。


「我々が第一に望んでいるのは、アメリカが我々を放っておくことだ。」


「それは私の質問への答えになっていない。」


「十分な答えだと思うが。」


「国交を戻したいのか、と聞いているの。」


カストロが笑った。


「テレビは怖いな。」


「今さら気づいたの?」


「軍隊なら撃ってくる方向が見える。」


「私はずっと正面から聞いているでしょう。」


部屋に笑いが起きたが、カストロは今度は質問そのものから逃げなかった。


「緊張が減るなら歓迎する。ただし、我々が革命を捨てることや、アメリカの許可を得て政府を作り直すことを意味するなら、そんな関係改善はいらない。」


「最初に動くのはアメリカ?」


「当然だろう。攻撃されたのはこちらだ。」


「アメリカ側にも、同じように言う人はいると思うわ。」


「何を根拠に。」


「ミサイルよ。アメリカから見れば、九十マイル先にソ連の核兵器を置いたのはキューバでしょう。」


カストロはそこで一度、言葉を止めた。


セリアはゲバラが出発前に言っていたことを思い出した。


面白くなっても、喋りすぎるな。


あれは、おそらく無理だった。



※※※※※※※※※※



時間は予定を大きく越え、照明の熱で部屋の空気は重くなっていた。スタッフは何度も水を飲み、フィルムを交換するたびに肩や首をほぐしている。


それでもリサは質問をやめず、カストロも終わらせようとはしなかった。


セリアが一度廊下へ出ると、壁にもたれながら別の書類を読んでいたゲバラと目が合った。


「まだやっているのか。」


「見れば分かるでしょう。」


ゲバラは扉の方を見る。


「フィデルはまだ喋ってる?」


「喋っていますけど、もう半分くらいは質問しています。」


ゲバラが紙から顔を上げた。


「もう?」


「もう、とは?」


「最初は向こうがフィデルを調べる。そのうちフィデルが相手を調べ始めると思っていた。」


「始めています。」


ゲバラの口元に、少しだけ笑みが浮かんだ。


「なら、第一ラウンドは終わったな。」


セリアは呆れたように彼を見る。


「格闘技じゃありません。」


「似たようなものだ。殴らないだけで、相手の重心を探している。」


「あなた、ずっとここにいるつもりですか。」


「帰ってほしいのか。」


「あなたまで待たせていると、また私の仕事が増えます。」


ゲバラは答えず、もう一度書類へ目を落とした。


それだけで、帰るつもりがないことは分かった。


セリアは扉を開けながら、小さく首を振った。



※※※※※※※※※※



撮影が再開すると、話は次第にアメリカ社会そのものへ移っていった。


最初は質問の前提を説明するためだった。


なぜアメリカ人の多くがキューバ革命を恐れるのか。なぜ共産主義という言葉が、それだけで自由の反対語のように聞こえるのか。なぜソ連と関係を持った国を、アメリカ社会がほとんど自動的に敵として分類してしまうのか。


カストロは途中で、話の流れを止めるように尋ねた。


「君自身もそう思うのか。共産主義という言葉を聞いたら、自由の反対だと考える?」


リサは首を振った。


「そんなに簡単なら、私はここまで来ていないわ。私はアメリカ人だし、自分の国が嫌いなわけでもない。」


「それなら、なぜさっきからアメリカの悪口ばかり言う。」


冗談めいた言い方だった。


リサは少し考え、それから、ほとんど当たり前のことを説明するように答えた。


「自分の国だからよ。嫌いな国なら、間違っていても放っておけるでしょう。」


カストロは黙った。


ほんの短い沈黙だったが、セリアにも、その言葉が思いがけないところへ届いたことが分かった。


キューバが嫌いなら、カストロはこの島の貧困にも、外国企業が土地を持つことにも、腐敗した政治にも、あれほど怒る必要はなかった。


自分の国だからこそ、許せなかった。


海の向こうにも、自分の国を愛しているからこそ、その国に腹を立てる人間がいる。


そのことを理解した時、カストロの中で、リサ・ハワードは単なるアメリカ人記者から、少し違う場所へ移ったようだった。


「あなたたちは、アメリカを一枚の紙みたいに見すぎている。」


リサは続けた。


「政府、軍、企業、新聞、南部、ニューヨーク、学生、黒人。全部が同じ方向を向いているわけじゃない。あなたたちの政府を見て、キューバ人全員が同じ考えだと思われたら腹が立つでしょう。」


「それは腹が立つ。」


「だったら、同じことよ。」


「分かっているつもりだった。」


「つもり?」


カストロが笑う。


「君は質問が多いな。」


「仕事だから。」


「俺も聞きたいことがある。」


「あとで。」


「いつだ。」


「私が終わったら。」


「それは長そうだ。」


「あなたの答えが長いからよ。」


今度はスタッフも含めて、部屋の空気が少し緩んだ。


信用が成立したわけではない。


ラウルの部下が警戒を解いたわけでも、セリアがこの女の目的を完全に理解したわけでもなかった。


ただ、人間同士の距離には国家同士にはない測り方がある。何を言えば相手が笑い、何を言えば黙り、どこまで踏み込めば本気で怒るのか。それが少しずつ分かってくると、相手を好きになる必要はなくても、話を続ける方法だけは見えてくる。


時間はさらに過ぎた。


セリアは途中でコーヒーを追加させたが、一杯目はカストロがほとんど手をつけず、二杯目はリサが質問に夢中になって冷まし、三杯目になる頃には、どちらのために運ばれたものなのか本人たちにも分からなくなっていた。


窓の外はいつの間にか暗くなり、カメラの照明だけが二人の顔を昼間のように白く照らしている。


最後にリサが手元の紙を確認し、ようやくメモ帳を閉じた。


「これで、カメラの前で聞きたかったことは終わり。」


カストロが腕時計を見る。


「やっとか。」


「あなたが長いのよ。質問はそんなに多くない。」


「大事なことを短く言う方が危険だ。」


「テレビでは逆よ。長ければ切られる。」


「だから俺はテレビ記者には向かないな。」


スタッフが笑いながら機材へ手を伸ばし、カメラの回転音が止まった。


照明が一つ落ちると、それまで背景に押し込められていた部屋の影が急に濃くなり、誰かが窓を少し開けたことで、夜のハバナの湿った空気が静かに流れ込んできた。


リサは椅子の背へ身体を預け、閉じたメモ帳の上へ両手を置いた。


「終わったわ。」


セリアもようやく息を吐いた。


ところが、カストロは立ち上がらなかった。


むしろ葉巻を灰皿へ置き、少し姿勢を変えると、いかにもこれから本題へ入るような顔をした。


「では、今度は俺の番だ。」


リサが眉を上げる。


「本気だったの?」


「俺はずっと本気だ。」


「何を聞きたいの。」


少し前まで、カストロはカメラの向こうにいるアメリカ人へ向けて話していた。


今はもうカメラが回っていない。


スタッフも機材を片づけ始め、これから交わされる言葉は、少なくともそのままテレビで放送されるためのものではなかった。


カストロは数秒だけリサを見てから、最初の名前を口にした。


「フルシチョフ。」


リサの指が、閉じたメモ帳の上でわずかに止まった。


「君は本人に会っている。」


「ええ。」


カストロは、数日後には自分もその男に会うことを言わなかった。


モスクワ行きの日程はすでに決まっていたが、それはまだ、この女に渡す必要のない情報だった。


「写真や演説の話じゃない。実際に目の前で話した男として聞きたい。」


カストロは少し身を乗り出した。


取材を受けている間には一度も見せなかった種類の好奇心が、その目にはあった。


「フルシチョフは、どんな男だった?」

カストロからでたフルシュチョフの名前。


カストロのモスクワ訪問の直前であることはアメリカはまだ知りません。


更新は、水・金・日の夜です。

次回は日曜日の夜更新予定です。


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