表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/39

18話 300の喉、6000の「いいね(シェア)」

今日はキューバ革命最後の戦いです。



(1958-1959)

舞台は1958年、キューバ革命クライマックス

たった300人の反乱軍が、6000人の政府軍に挑んだ「サンタ・クララの戦い」

武器は銃ではなく「ラジオの声」。


現代のSNS戦争を先取りしたような情報戦の果てに、ふたりの英雄カストロとゲバラが見たものとは。


そして、アメリカという巨大な飼い主に対して、彼らが牙を剥く瞬間を描く、男たちの友情と別れの物語。

【1958年12月 サンタ・クララ攻略戦】

ザザザ……というノイズが、湿った空気を支配していた。


銃声はない。だが、目に見えない「弾丸」が、街中を飛び交っている。


政府軍の塹壕の中。一人の若い兵士が、隠し持っていた携帯ラジオに耳を押し付けていた。


『……繰り返す。我々は、君たちを殺しに来たのではない。君たちを縛る鎖を断ち切りに来たのだ』


ノイズ混じりのその声は、隣の兵士へ、そのまた隣の兵士へと、囁き声で伝播シェアされていく。


「聞いたか? 反乱軍は捕虜を殺さないらしい」


「俺たちの給料を搾取してるのは、将軍たちだってよ……」


疑心暗鬼という名のウイルスが、6000人の軍隊の規律を内側から食い破っていく。


指揮官が「撃て!」と叫んでも、引き金に指がかからない。

彼らの意識はすでに、ハッキングされていた。


物理的な戦力差は20倍。

だが、情報の拡散力インプレッションは、我々が圧倒していた。


一方、瓦礫の陰。

 

革命軍の仮設テントでは、重苦しい沈黙が流れていた。


簡易ベッドの上で、キャットとみんなから呼ばれた、一人の少年兵が冷たくなっている。


背中には、自分の体ほどもある巨大な通信機。


彼は、ネコのように、銃弾の中を駆け回り、最前線から我々の「言葉」を拡散し続けたルーター(中継点)だった。


私は、“キャット”の泥だらけの手を握り、静かに目を閉じた 。


「……まだ16歳だぞ。ゲバラ」


「ああ」


ゲバラは、キャットの顔に白い布をかけながら、短く答えた。その手つきは医師のものだが、表情は凍りついたように動かない。


「出血性ショックだ。私の腕でも、どうにもならなかった」


私は葉巻を取り出したが、火をつける気になれず、指でへし折った。


「俺たちは勝っている。こいつが命がけで繋いだ『声』ひとつで、敵の一個大隊が投降したそうだ。……だが、こいつは死んだ」


「それが革命だ、カストロ」


ゲバラは淡々と言ったが、握りしめた拳が微かに震えているのを私は見逃さなかった。


彼は、私の折れた葉巻を取り上げ、自分のポケットから新しい葉巻を差し出した。


無言の慰め。

 

火をつけてやると、煙の向こうでゲバラの瞳が揺れていた。


「 キャットが背負っていた送信機が、今、敵の兵士たちの脳を書き換えている。あいつの命が、数千人の敵を無力化したんだ」


私はテントを出て、広がる戦場を見下ろした。

敵は6000人。装甲列車に戦車。

だが、我々には300人の「拡散者インフルエンサー」がいる。

 

「おい、ゲバラ」

 

「なんだ」


「300の喉があれば、国一つくらいひっくり返せると思うか?」



ゲバラは愛銃のM1カービンを肩にかけ、少年の眠るテントを一度だけ振り返ってから、私の隣に立った。


その瞳には、医者とも兵士ともつかない、冷たく燃える火が灯っていた。


「ひっくり返せるさ。……キャットの分も叫ぶならな」


私はニヤリと笑い、送信機に向かって歩き出した。


さあ、最後の放送の時間だ。


現代の戦争は、撃ち合いではない。どちらがより強く、人間の感情を支配するか――それだけのゲームだ。

よろしければ、ブックマーク/感想/★で応援してもらえると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ