187,気づかれてはいけない会議
前回、間違えて下書きを掲載してしまいました。
ぜひ、186話から読み進めてください。
とうとうアメリカ史にのこる大きな決断キューバ危機が始まります。
一九六二年十月十六日、火曜日。
一枚の航空写真が、遊説日程と中間選挙の情勢表の上に置かれた。
ケネディは椅子へ深く座ったまま、写真を見下ろした。
畑を横切る道路。切り開かれた地面。細長い車両と、その近くに並ぶいくつかの影。
上空から撮られたキューバの大地は平らで、静かだった。人間の姿は見えず、風の向きも分からない。
それでもCIAの分析官は、その影が何を意味するか知っていた。
「ソ連製の中距離弾道ミサイルです。」
分析官が写真の一角へ細い指示棒を置いた。
「こちらが輸送車両。ここが発射位置になると考えられます。サン・クリストバル周辺で、複数の施設が建設されています。」
国家安全保障担当補佐官のマクジョージ・バンディは、ケネディの表情を見ていた。
写真には、まだ完成したミサイル基地は写っていない。
だが、未完成であることは安心の材料ではなかった。工事が進んでいるということは、時間がアメリカの側にだけあるわけではないという意味だった。
ケネディは、写真に重ねられた透明な板を持ち上げた。円がいくつも描かれ、ミサイルの推定射程が示されている。
ワシントン。
ニューヨーク。
ダラス。
セントルイス。
地図の中の都市が、一本の円の内側へ入っていた。
「核弾頭は。」
分析官はすぐには答えなかった。
「写真では確認されていません。」
「ないということか。」
「確認されていないということです。」
ミサイルを運ぶ車両は見えている。発射設備も見えている。
しかし、その先端へ取りつける弾頭がどこにあるのか、そもそも島へ届いているのかは分からない。
ケネディは写真を机へ戻した。
「発射可能になるまで、どれくらいある。」
「正確には判断できません。急げば、短期間で運用可能になる施設もあります。」
「短期間とは。」
「数週間ではなく、数日で考えるべきです。」
遊説日程表には、十一月六日の中間選挙までに訪れる州が並んでいた。
その紙の上へ置かれたキューバの写真は、まるで別の世界から届いたように見えた。
ケネディは、指示棒が示していた道路を目で追った。
「ここにあることは分かった。」
誰も口を開かなかった。
「なぜ、ここに置いた。」
分析官には答えられない。
バンディにも断定はできなかった。
ソ連がキューバを守るためかもしれない。アメリカの核戦力に対抗するためかもしれない。トルコに置かれたジュピター・ミサイルへの返答かもしれず、ベルリンをめぐる取引材料かもしれない。
あるいは、ピックス湾で傷ついた若い大統領が、どこまで耐えられるかを試しているのかもしれなかった。
ケネディは受話器を取った。
「必要な人間を集めろ。ただし、理由は伝えるな。」
バンディがうなずいた。
「報道機関には。」
「何もない。」
ケネディは写真を裏返した。
「我々が知ったことを、向こうに知らせるな。」
※※※※※※※※※※
集められた者たちは、同じ扉から一度に入らなかった。
国務長官ディーン・ラスク、国防長官ロバート・マクナマラ、司法長官ロバート・ケネディ、CIA長官ジョン・マコーン、統合参謀本部議長マクスウェル・テイラー、国家安全保障担当補佐官バンディ。
ソ連大使を務めた経験を持つルウェリン・トンプソンも呼ばれた。
秘書にさえ、会議の全容は知らされていない。配布された写真には番号が振られ、退出時にすべて回収された。
窓の外では、いつもの火曜日が進んでいた。
観光客がホワイトハウスの柵の向こうから建物を眺め、記者たちは中間選挙と議会対策について質問を用意している。
扉の内側では、アメリカ本土を核攻撃できる兵器が話し合われていた。
最初に口を開いたのは、軍事的な対処を求める側だった。
「完成前に破壊するべきです。」
テイラーが、航空攻撃の対象を記した資料を机へ置いた。
「限定攻撃で発射基地を叩く案があります。ただし、対空ミサイル基地と戦闘機基地が残れば、攻撃隊の損害は増えます。」
「発射基地だけで済まないのか。」
ケネディが尋ねた。
「確実性を求めるなら、済みません。」
対象は増えていった。
ミサイル基地。
対空ミサイル施設。
航空基地。
爆撃機。
通信施設。
指揮所。
一つの危険を取り除こうとするたびに、その攻撃を成功させるための別の攻撃が必要になる。
マクナマラは、一覧へ目を落とした。
「すべてを攻撃すれば、基地を除去できるのですか。」
テイラーは慎重に答えた。
「高い確率で破壊できます。」
「すべてではない。」
「写真に写っていない施設がある可能性は残ります。」
ラスクが、ヨーロッパの地図を開いた。
「キューバへの奇襲攻撃でソ連兵が死亡すれば、モスクワはキューバだけで応じるとは限りません。」
指が西ベルリンへ置かれた。
「こちらがソ連の同盟国を攻撃したという形になれば、ソ連はベルリンで同じことをする理由を得ます。」
ロバートが腕を組んだ。
「理由なら、向こうが先に作った。攻撃兵器を置かないと言いながら、秘密に持ち込んだんだ。」
「その通りです。」
ラスクは否定しなかった。
「問題は、我々が正しいかどうかだけではありません。正しさを証明する前に爆弾を落とせば、同盟国がどう受け取るかということです。」
国連へ持ち込む案も出た。
ソ連へ最後通告を出す案もあった。
カストロへ秘密裏に接触し、ソ連との関係を断つよう迫るべきだという意見も出た。
だが警告を先に出せば、ソ連に基地を完成させる時間を与える。
奇襲すれば時間は与えずに済むが、アメリカは宣戦布告のない攻撃を始めることになる。
一つの案を検討するたび、その背後から別の危険が姿を現した。
ケネディはしばらく発言せず、意見が出尽くすのを待った。
ピックス湾でも、会議には多くの専門家がいた。
彼らの説明は整っていた。成功する理由も、失敗しないための条件も、数字と地図で示されていた。
それでも、実際に始まった作戦は計画どおりには進まなかった。
専門家が間違っていたのかもしれない。
だが、もっと恐ろしい可能性もあった。
一人ひとりは自分の担当について正しく、その正しい判断をつなぎ合わせた結果だけが間違っていたのかもしれない。
ケネディは、机に広がった複数の作戦案を見た。
「今日は決めない。」
軍側の席で、わずかに身体が動いた。
「基地は建設中です。」
テイラーが言った。
「分かっている。だから急ぐ。」
ケネディは写真を閉じた。
「急いで間違えることと、考えることは同じではない。」
そして全員を見回した。
「この会議があること自体を伏せる。家族にも話すな。大使館にも探りを入れるな。こちらが知っていると悟らせれば、相手も動く。」
ロバートが聞いた。
「記者に勘づかれたら。」
「勘づかせるな。」
ケネディは、机の端に置かれた遊説日程へ視線を移した。
「何も起きていないように見せる。」
※※※※※※※※※※
翌朝、ケネディは予定どおりミサへ出た。
その後、外国の賓客と昼食を取り、午後にはコネティカットへ向かう準備をした。
ホワイトハウスの廊下にはカメラが並んでいた。
記者たちは中間選挙について尋ね、ケネディは民主党候補の名前を挙げた。高齢者医療保険、教育、雇用、景気回復について話し、キューバには触れなかった。
ケネス・オドネルが、移動前の控室で日程表を見せた。
「コネティカットは中止できます。」
「なぜ中止したかと聞かれる。」
「体調でも、急な公務でも理由は作れます。」
「理由を作れば、理由を調べる者が出る。」
ケネディは上着のボタンを留めた。
「いま欲しいのは、考える時間だ。その時間を得るには、何も知らない大統領でいなければならない。」
外へ出ると歓声が上がった。
ケネディは笑い、差し出された手を握った。
写真を見たために足を止めたのではない。
写真を見たと知られないために、歩き続けていた。
※※※※※※※※※※
その頃、ワシントンでは、大統領のいない会議が続いていた。
机の上には、前日より多くの紙が並んでいた。
限定空爆。
大規模空爆。
空爆後の侵攻。
事前警告。
国連提訴。
海上での武器搬入阻止。
一つの案を検討するたび、その案は二つか三つに分かれた。
ミサイル基地だけを攻撃するなら、攻撃隊の安全を保証できない。
対空施設まで攻撃すれば、限定攻撃とは呼びにくくなる。
航空基地と指揮所も加えれば、キューバ全土への戦争に近づく。
空爆後にミサイルが残れば、地上侵攻が必要になる。
侵攻すれば、カストロ政権を倒したあとに誰が島を治めるのかという問題まで生まれる。
議論が長引くにつれ、軍事作戦の後ろに政治が現れ、政治の後ろに新しい軍事作戦が現れた。
マクナマラは黒板に書かれた案を見ていた。
「まだ立場を決めないでください。」
空爆を支持する者が、不満を隠さずに言った。
「決めなければ、敵が先に決めます。」
「だからこそです。」
マクナマラは振り返った。
「我々は初日に破壊する目標を話している。その翌日を、まだ話していません。」
ロバートが机へ肘をついた。
「翌日の前に、ミサイルが発射可能になるかもしれない。」
「その可能性はあります。」
「なら、何を待つ。」
マクナマラは少し間を置いた。
「大統領が選べる形にすることです。」
「選択肢なら、もう十分にある。」
「数が多いことと、選べることは同じではありません。」
会議は夕方になっても終わらなかった。
ケネディが群衆の前で候補者の名を繰り返している間、ワシントンでは、彼が選ばなければならない危険の種類が増え続けていた。
※※※※※※※※※※
夜、ケネディはマクナマラから報告を受けた。
遊説を終えて戻った大統領の机には、朝より厚いファイルが置かれている。
ケネディは上着を椅子の背へ掛け、葉巻箱を開いた。一本を選びかけたが、手を止めて蓋を閉じた。
「結論は。」
マクナマラは向かいの席へ座った。
「ありません。」
「一日話していたのだろう。」
「はい。一日話して、簡単には決められないことが分かりました。」
ケネディは眉を寄せた。
マクナマラは、机へ三枚の紙を並べた。
「空爆は一つの案ではありません。限定攻撃、大規模攻撃、その後の侵攻まで含む攻撃。それぞれ、最初に必要な兵力も、その後に起きることも違います。」
「軍事的に最も強いのは。」
「大規模空爆と侵攻です。」
「最も戻れるのは。」
「海上で、これ以上の武器搬入を止める案です。」
「最も安全なのは。」
マクナマラは答える前に、三枚の紙を見た。
「安全な案はありません。」
ケネディは椅子の背へ身体を預けた。
「ピックス湾でも、専門家は成功する確率を説明した。」
「今回は、成功の意味を先に決める必要があります。」
「ミサイルを破壊することではないのか。」
「ミサイルを破壊した結果、ベルリンが攻撃されても成功でしょうか。キューバへ侵攻し、ソ連との全面戦争になっても、最初の基地を破壊できれば成功と呼べるでしょうか。」
「軍人たちは間違っているのか。」
「いいえ。」
マクナマラの答えは早かった。
「軍人としては正しいのでしょう。脅威を最も有利な条件で除去しようとしています。」
「では、何が足りない。」
「大統領が何を達成したいのかです。」
ケネディは机の上の写真を見た。
「相手が何を達成したいのかも分からない。」
「そうです。」
「政治というものは、いつもこうなのか。」
マクナマラは少しだけ表情を緩めた。
「軍事計画ほど単純ではありません。」
※※※※※※※※※※
十月十八日。
ソ連外相アンドレイ・グロムイコは、予定どおりホワイトハウスへやって来た。
駐米大使アナトリー・ドブルイニンも同行していた。
会談の部屋には、通常の外交儀礼が整えられていた。国旗、通訳、茶器、あらかじめ用意された議題。
机の近くには、キューバ上空から撮られた写真を収めたファイルが置かれていた。
グロムイコからは見えない場所だった。
グロムイコは、キューバに対するアメリカの圧力を批判した。
ソ連による援助は、キューバの防衛を目的としたものだと説明する。アメリカを脅かす意図はなく、キューバへの侵攻を防ぐために必要な支援にすぎない。
発音の整った通訳の英語が、部屋へ流れた。
ケネディは相手の顔を見ていた。
グロムイコが写真の存在を知っているのかは分からない。
フルシチョフから秘密配備を知らされ、そのうえで防御兵器だと話しているのかもしれない。
あるいは、ソ連外相でありながら、本当に知らされていない可能性もあった。
ケネディは、ソ連がキューバへ攻撃兵器を持ち込んだ場合には重大な問題になるという、以前からのアメリカ政府の立場を繰り返した。
写真は見せなかった。
声も荒らげなかった。
グロムイコが話し終えるまで、知らない大統領の顔を崩さなかった。
会談が終わると、グロムイコとドブルイニンは儀礼的な挨拶を交わし、部屋を出ていった。
扉が閉じたあと、ケネディは窓の外を見た。
黒い車が、ソ連大使館の方角へ走り去っていく。
トンプソンが残っていた。
ケネディは振り向かずに聞いた。
「彼は、知っていて嘘をついたのか。」
「分かりません。」
「知らされていない可能性もあるのか。」
「あります。」
ケネディはようやく振り返った。
「どちらが安全だ。」
トンプソンは、グロムイコが座っていた空席を見た。
「どちらも安全ではありません。」
知っていたなら、ソ連政府は意図的にアメリカを欺いている。
知らなかったなら、フルシチョフの政府内部でも情報が共有されず、外相さえ自国の軍事行動を把握していない。
ケネディは机の近くに置かれたファイルを開いた。
そこには、グロムイコの説明を否定する写真が入っている。
「大使館へ探りを入れるか。」
ロバートが尋ねた。
トンプソンは首を横に振った。
「何を尋ねても、こちらが何かを知っていると伝えることになります。」
「では、黙って嘘を聞くしかないのか。」
「いまは。」
外交とは、言葉を交わすことだとケネディは考えていた。
だが、この会談では、口にしなかった事実の方が、交わされた言葉より大きかった。
※※※※※※※※※※
翌朝、軍高官たちが集められた。
空軍参謀総長カーティス・ルメイは、回りくどい説明をしなかった。
「基地が完成する前に破壊するべきです。」
太い葉巻を指の間に挟み、キューバの地図を示す。
「敵は、我々の都市を攻撃できる兵器を設置しています。完成を待つ理由はありません。」
ケネディは尋ねた。
「海上で、これ以上の搬入を止める案は。」
ルメイは、ほとんど間を置かなかった。
「島にあるミサイルは一基も壊せません。」
「時間は得られる。」
「敵にも時間を与えます。」
「警告なしの空爆になる。」
「相手は警告なしにミサイルを持ち込んだ。」
ルメイの論理は簡潔だった。
ソ連は約束を破った。
基地は完成へ近づいている。
戦う可能性があるなら、アメリカが圧倒的に有利な今こそ行動すべきである。
海上で船を止めても、すでに島へ入った兵器は残る。外交交渉を始めれば、ソ連は基地を完成させ、核弾頭を分散させる時間を得る。
ルメイは地図から目を上げた。
「ピックス湾の失敗は、軍事力を使ったことではありません。使うと決めながら、必要な力を与えなかったことです。」
部屋の空気が変わった。
ケネディは葉巻の煙越しにルメイを見た。
ピックス湾という言葉を使わずとも、誰もがその記憶を持っていた。
だが、ルメイはあえて傷口を開いた。
今度も軍を途中で止めれば、同じ失敗を繰り返す。
そう言っている。
別の将官が、空爆から侵攻へ移る作戦を説明した。
ソ連がヨーロッパで報復した場合の対応も用意されている。戦争が拡大すれば、核兵器を使う可能性を計画から外すことはできないという発言まで出た。
ケネディの視線が、その将官へ向いた。
「キューバへの核攻撃を提案しているのか。」
「現段階の第一案ではありません。しかし、核兵器を使用しないと決めてから全面戦争の計画を立てることはできません。」
通常兵器による空爆の先に、核戦争が小さな文字で書き加えられていた。
マクナマラが資料を閉じた。
「初日の作戦は分かりました。」
将官たちが彼を見る。
「二日目はどうなりますか。」
「残存目標を再攻撃します。」
「その次は。」
「必要なら、侵攻へ移ります。」
「ソ連がベルリンへ動けば。」
「欧州軍が対応します。」
「そこで核兵器が使用された場合は。」
将官が、次の計画を説明しようとした。
マクナマラは静かに遮った。
「戦争計画があるかどうかを聞いているのではありません。」
マクナマラの声は低く、いつもの丁寧さを失っていなかった。
「どこで止めるのかを聞いています。」
ルメイが葉巻の灰を落とした。
「敵が止まれば、こちらも止まれます。」
「最初に空爆すれば、敵へ伝えるのは基地を撤去せよという要求ではありません。」
マクナマラは地図に手を置かなかった。
「話し合う時間は終わったという通告になります。」
「戦争を始めたのはソ連です。」
「それを世界が同じように見るとは限りません。」
「世界の見方でミサイルは消えない。」
「爆撃でも、すべて消える保証はありません。」
ルメイとマクナマラの間に沈黙が落ちた。
二人とも、軍事力の必要性を否定してはいない。
違っているのは、軍事力をどこまで先へ進めるものとして考えるかだった。
ルメイは、勝つために必要な力を求めている。
マクナマラは、その力を使ったあとにも大統領が選べる道を残そうとしていた。
「将軍。」
マクナマラは、机に置かれた作戦書へ視線を落とした。
「あなた方は敵を破壊する方法を説明しています。大統領が必要としているのは、破壊したあとに何を選べるかです。」
ケネディは二人の言葉を聞いていた。
どちらにも正しさがある。
その正しさが、同じ結論へつながっていなかった。
※※※※※※※※※※
軍高官との会議を終えると、ケネディは予定どおり選挙遊説へ出発した。
オハイオからイリノイへ向かう機内で、二種類の原稿が膝の上に重なっていた。
一つは、民主党候補を応援するための演説原稿。
もう一つは、空爆案と海上隔離案を比較した機密資料だった。
ケネディは演説原稿へ鉛筆を入れようとした。
高齢者医療保険。
雇用。
教育。
議会の保守連合。
何度も語ってきた言葉なのに、その日は文章が頭へ入らなかった。
紙をめくるたび、航空写真に写っていた細長い影が浮かんだ。
会場へ着くと、群衆はいつもと変わらず大統領を迎えた。
紙吹雪が舞い、候補者がケネディの腕を取る。何千もの手が伸び、照明の熱が演壇へ集まった。
ケネディは笑い、議会に新しい力が必要だと訴えた。
誰も、ワシントンで戦争の方法が検討されているとは知らない。
演説が終わると、控室にオドネルが待っていた。
「ロバートから電話です。」
ケネディは受話器を取った。
ワシントンでは、大統領のいない会議が続いていた。
空爆を支持する者と、海上隔離を支持する者は、もはや同じ案へ近づこうとしていなかった。
二つの案が、それぞれ具体的な作戦として形を持ち始めている。
「まとまったのか。」
ケネディが聞いた。
電話の向こうで、ロバートは短く息を吐いた。
「二つに割れた。」
「空爆と、隔離か。」
「そうだ。会議だけでは決められない。」
「私がいない方が、自由に話せたはずだ。」
「話すことはできた。選ぶことはできない。」
受話器の向こうで紙が動く音がした。
「戻ってきてくれ。」
ケネディは、閉じた扉の向こうにいる候補者や記者たちを見た。
ここで遊説を打ち切れば、理由を聞かれる。
大統領が予定を捨ててワシントンへ戻れば、何かが起きていると世界へ知らせることになる。
「明日も日程がある。」
「分かっている。」
「理由なしには切れない。」
「それも分かっている。」
しばらく、どちらも話さなかった。
会議は、軍事的な選択肢を作った。
外交官は、ソ連の意図を推測した。
情報機関は、写真から分かることを並べた。
だが、どの危険を引き受けるかを選べるのは、一人しかいなかった。
ケネディは受話器を持ったまま、オドネルへ目を向けた。
「明日の予定を切る。」
オドネルは何も聞かず、手帳を開いた。
「理由は。」
ケネディは窓の外を見た。
シカゴの夜空には、選挙集会の照明が白く浮かんでいた。
ワシントンでは今も、彼のいない会議が続いている。
「考えろ。」
「何でもいいのですか。」
「誰も戦争を疑わない理由なら、何でもいい。」
オドネルは手帳を閉じた。
ケネディは電話へ戻った。
「明日、戻る。」
会議は選択肢を作ることができた。
しかし、選択肢に意味を与えることまではできなかった。
それを決めるために、大統領はワシントンへ帰らなければならなかった。
今回のキューバ危機はケネディの目線で描きます。
更新は、水・金・日の夜です。
次回は日曜日の夜更新予定です。
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