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186/214

185,モンテビデオの夜

ピックス湾事件後、アメリカとキューバはモンテビデオで非公式な接触をとります。


久しぶりのゲバラ登場です。

一九六一年八月十七日未明 ウルグアイ、モンテビデオ


米州経済社会会議の会場から人が引き始めても、モンテビデオの夜は終わらなかった。


各国代表団の宿舎では、会議室で言えなかった話が酒と煙草の間を行き交っていた。アメリカが掲げた「進歩のための同盟」は、貧困と社会不安を改革によって抑え、キューバ革命の拡大を防ぐための構想だった。学校、住宅、土地改革、産業投資。演壇では、民主主義と成長が共産主義への最良の回答になると語られていた。


その夜、ブラジル代表団の一人が開いた誕生日の集まりにも、各国の外交官と随員が出入りしていた。


テーブルには飲み残されたグラスが並び、灰皿から煙草の煙が細く上がっている。午前二時を回り、疲れた通訳たちが壁際の椅子へ身体を沈め始めたころ、入口の近くで人の動きが変わった。


緑色の戦闘服を着た男が入ってきた。


ゲバラだった。


壇上でアメリカの経済構想を批判した時と同じ軍服を着ていたが、周囲に護衛を目立たせることもなく、集まりの主催者と短く言葉を交わした。やがてアルゼンチン代表団とブラジル代表団の関係者を介し、一人のアメリカ人と話したいと伝えた。


リチャード・グッドウィン。


三十歳になったばかりの大統領特別補佐官で、ラテンアメリカ政策に関わり、「進歩のための同盟」の演説草稿にも携わっていた。彼はホワイトハウスの若い世代の一人として会議へ派遣され、各国の反応をケネディへ報告する役目を負っていた。


グッドウィンは、遠くからゲバラの姿を見た。


髭、戦闘服、黒いベレー帽。


新聞写真では、革命そのものを人の形にしたように見える男だった。


仲介役が近づき、ゲバラが非公式に話したがっていると告げた。


「何についてです。」


グッドウィンが尋ねると、仲介役は肩をすくめた。


「それを知るために、話すのでしょう。」


別室には、小さな卓と四脚の椅子しかなかった。壁際には飲み物を置く棚があり、片づけられていない皿にパンの欠片が残っている。


ゲバラが先に座り、グッドウィンへ椅子を勧めた。


「最初に確認しておきます。」


グッドウィンは、通訳が訳すのを待ってから続けた。


「私はアメリカ政府を代表して交渉する権限を持っていません。あなたの話を聞き、ワシントンへ報告することしかできない。」


ゲバラは頷いた。


「それで十分です。私も、今夜ここで条約へ署名するつもりはありません。」


返答には笑みが混じっていたが、声は低かった。


「むしろ、その方が話しやすい。権限を持つ者は、何を言えば問題になるかを先に考える。権限のない者は、何が問題なのかを聞くことができる。」


グッドウィンは胸ポケットから小さな手帳を出した。


「では、何が問題なのです。」


ゲバラはすぐには答えず、卓上の煙草を一本取った。火をつけると、煙を天井へ吐いた。


「先に、話しても無駄なことを決めておきましょう。」


彼は煙草を指の間に挟み、グッドウィンを正面から見た。


「革命以前のキューバへ戻る話なら、ここで終わりです。接収した土地や工場を、そのまま以前の所有者へ返すこともない。アメリカの企業が島の経済を決め、ハバナの政府がワシントンの顔色を見て生き残る時代へ戻ることもない。われわれが社会主義国家を作ることも、あなた方の勢力圏から離れたことも、すでに起きた事実です。」


通訳の声が止まった。


グッドウィンは手帳へ書き込んだ。


「その二つを、アメリカが承認することが交渉の前提ですか。」


「少なくとも、交渉の目的がそれを覆すことでないと認める必要があります。あなた方は、カストロを取り除けば、革命が以前の場所へ戻ると考えている。しかし革命は一人の男ではありません。フィデルを穏健派として私や共産主義者から切り離す話も、私を排除すればフィデルがワシントンと和解するという話も、どちらも時間の無駄です。」


ゲバラは、燃えた灰を皿の端へ落とした。


「われわれの間には意見の違いがある。革命の中に議論もある。だが、あなた方が期待したような亀裂ではない。」


グッドウィンは顔を上げた。


「ピックス湾では、それを証明したと。」


「あなた方が証明してくれました。」


ゲバラは静かに答えた。


その言葉には勝者の余裕があったが、カストロが大衆の前で見せた嘲笑とは違っていた。相手を怒らせるためではなく、事実を机上へ置くような言い方だった。


「外から侵攻が来れば、革命に不満を持つ者が一斉に立ち上がる。軍は離反し、民衆は侵攻部隊を解放者として迎える。あなた方はそう考えた。実際には、侵攻がわれわれを一つにした。」


「キューバ国内に反対勢力がいないとは言わないのですね。」


「いる。」


ゲバラはためらわなかった。


「山中には武装した反革命勢力がいる。都市では破壊活動も続いている。革命の速度を恐れる者も、財産を失って憎む者も、宗教への攻撃だと受け取る者もいる。中小の商人、専門職、カトリック教会との間にも問題がある。」


グッドウィンの鉛筆が止まった。


CIAの報告なら、そこから政権崩壊の可能性へ話を進める。


ゲバラは違った。


「経済も苦しい。」


彼は自分から続けた。


「工場の多くはアメリカ製の機械で動いていた。交換部品が入らなければ、生産は落ちる。技術者は国外へ出ていき、外貨は足りない。店に並ぶ消費物資も減っている。われわれは、革命をした翌日から、砂糖を売る相手と機械を直す方法を同時に探さなければならなくなった。」


「それでも倒れないと。」


「苦しいことと、倒れることは同じではありません。」


ゲバラは煙草を灰皿へ押しつけた。


「あなた方の報告書には、われわれの不足が一つ増えるたび、崩壊が近づいたと書かれるのでしょう。しかし不足が増えれば、人は必ず政府を捨てるわけではない。誰のせいで不足したと考えるかによって、反応は変わる。」


「アメリカのせいだと説明する。」


「説明する必要がないものもあります。機械の部品が届かない。砂糖を買っていた市場が閉じる。爆撃機が飛んでくる。それを見た人間は、自分で理由を作ります。」


グッドウィンは、手帳の余白へ一本の線を引いた。


キューバの弱点は、政権を倒す材料になり得る。


同時に、アメリカの圧力を証明する材料にもなり得る。


同じ不足が、二つの反対の政治を生む。


「では、あなた方は何を求めているのです。」


ゲバラは椅子へ深く座り直した。


「友好を求めている、と言えば信じますか。」


「おそらく信じません。」


「正直でよろしい。」


ゲバラは笑った。


「われわれも、明日からアメリカと友人になれるとは考えていない。あなた方は革命を危険だと考え、われわれはあなた方が再び攻めてくると考えている。その間で、友好という言葉を使っても意味がない。」


「なら、何を。」


「共存です。暫定的なものでよい。互いを好きになる必要はない。少なくとも、相手を消さなければ安全になれないという考えを止めることはできる。」


通訳が「共存」と訳したあと、ゲバラは補足した。


「何年も先の理想ではありません。次の侵攻を避けるための取り決めです。」


グッドウィンは質問を重ねた。


「接収されたアメリカ資産については。」


「返還はしない。しかし補償の話はできる。」


「現金で。」


「われわれに、あなた方が要求する額のドルがあると思いますか。」


ゲバラは苦笑した。


「砂糖や貿易を通じた長期的な補償なら、話す余地はある。問題は、補償を交渉することと、革命以前の所有関係を復活させることを混同しないことです。」


「ソ連との関係は。」


今度は、ゲバラがわずかに身を起こした。


「われわれは、誰と貿易し、誰と外交関係を結ぶかを自分で決める。それをアメリカが許可する形にはできない。」


「軍事的な関係も含めてですか。」


「あなた方がキューバを攻撃する準備を続けるなら、われわれも自分たちを守る相手を探す。」


「それは答えになっていません。」


「答えています。関係は、あなた方の行動と無関係には決まらない。」


ゲバラは一度言葉を切った。


「ただし、政治的、軍事的な結びつきの形について話す余地がまったくないとは言っていない。われわれがアメリカの従属国になることを求めず、ソ連との関係をすべて断つことを最初の条件にしないなら、どこまでが安全保障で、どこからが同盟なのかを議論できる。」


「中南米での革命活動は。」


グッドウィンの問いに、ゲバラの目が細くなった。


「あなた方は、中南米の革命をキューバが輸出していると考えている。」


「武器、資金、訓練を提供しているという報告があります。」


「革命は葉巻ではありません。箱に詰めて港から送ることはできない。」


ゲバラはそう言ったあと、表情を戻した。


「しかし、われわれの存在が他国へ影響を与えていることは否定しない。キューバがアメリカへ逆らい、生き残り、さらに侵攻軍を破った。土地を持たない農民や、軍政に抑えつけられた学生がそれを見れば、自分たちにもできると考える。それを止めるために、われわれの革命を消すというなら、共存はできない。」


「他国の武装運動を支援しないという約束は。」


「議題にはできる。」


ゲバラは答えた。


「ただし、あなた方も他国の軍部、秘密警察、反革命部隊を支援しないという話をする必要がある。」


「アメリカとキューバを同じものとして扱えと。」


「同じ大きさだとは言っていない。同じ言葉を使えと言っている。干渉という言葉を、キューバがした時だけ使うのは交渉ではない。」


グッドウィンは、しばらく手帳へ何も書かなかった。


ホワイトハウスの会議では、味方同士が同じ語句へ違う意味を入れていた。


支援。


介入。


実行可能。


成功。


それぞれが、自分に必要な意味を持たせたまま話を進めた。


目の前の敵は、最初に何を譲らず、何を議題にできるかを区別している。


同意できる話ではなかった。


それでも、何を拒否しているのかは分かった。


「グアンタナモについては。」


グッドウィンが尋ねると、ゲバラは初めて声を立てて笑った。


「われわれが明日の朝、グアンタナモ基地を攻撃するとでも思っているのですか。」


「キューバ政府は返還を要求しています。」


「要求はする。あれはキューバの領土です。しかし、アメリカと戦争を始めるために基地へ突撃するほど、われわれは愚かではない。」


笑いが消えると、ゲバラは言葉を継いだ。


「あなた方は、自分たちが恐れるキューバと、実際のキューバを区別した方がよい。われわれは革命家です。だが、自殺志願者ではない。」


部屋の外では、誰かが椅子を動かしていた。誕生日会はほとんど終わり、廊下を通る足音も少なくなっている。


グッドウィンは時計を見た。


話し始めてから、かなりの時間が過ぎていた。


「あなたの話を大統領へ報告します。」


「そうしてください。」


ゲバラは立ち上がらなかった。


「ただし、提案としてではなく、弱さの告白としてだけ報告しないでいただきたい。」


「経済的な困難を話したのは、あなたです。」


「困難を隠せば、信じられないでしょう。」


「話したからといって、信じるとは限りません。」


「それでよい。交渉は信仰ではない。」


ゲバラは新しい煙草へ火をつけた。


「最後に、あなたの政府へ礼を言っておいてください。」


グッドウィンは通訳の顔を見た。聞き違いではなかった。


「何についてです。」


「侵攻です。」


ゲバラは、煙の向こうで笑った。


「あれが革命を一つにした。われわれを、援助を求めている貧しい小国から、アメリカの侵攻を破った国へ変えた。ピックス湾以前、あなた方はわれわれが生き残れるかどうかを考えていた。今夜は、どう共存するかという話を聞いている。」


グッドウィンは答えなかった。


「だから、ケネディ大統領へ伝えてください。」


ゲバラは言った。


「侵攻には感謝しています。ただし、二度目は同じ結果になるとは限らないので、互いに試さない方がよいでしょう。」


※※※※※※※※※※


八月二十二日 ワシントン


グッドウィンの報告書は、通常の外交電報より長くなった。


ゲバラの言葉だけでなく、表情、沈黙、冗談の使い方まで記した。どの発言が正式な提案で、どこからが探りなのかは分からない。そのため、意味を整えすぎず、できる限り会話の順序を残した。


キューバの社会主義体制は不可逆である。


アメリカの勢力圏へ戻る意思はない。


国内には反対勢力と経済的な困難がある。


接収資産について、貿易を通じた補償を協議する余地はある。


東側との関係や、他国での革命活動についても、キューバの主権を前提にするなら話し合える。


グアンタナモ基地を直ちに攻撃する意図はない。


全面的な友好ではなく、暫定的な共存を求めている。


そして、ピックス湾侵攻への感謝。


ケネディは、最後の部分を二度読んだ。


大統領執務室には、グッドウィンとバンディが呼ばれていた。机の端には、ピックス湾調査の資料がまだ残っている。


「本当に、感謝すると言ったのか。」


ケネディが尋ねた。


「言いました。」


グッドウィンは答えた。


「嘲笑でしたか。」


「半分は。しかし、宣伝のためだけに言ったようには見えませんでした。侵攻が革命を結束させたという認識は、本気です。」


ケネディは報告書を置いた。


「われわれは、彼らを弱くするために攻めた。」


「結果として、彼らが自分たちを勝者と定義する材料を与えました。」


バンディが、報告書の別の箇所を指した。


「同時に、経済的には相当苦しい。部品、外貨、消費財。圧力が効いていないわけではありません。」


「効いていることと、望んだ結果になることは別だ。」


ケネディは言った。


「ピックス湾で、それを学んだばかりだ。」


グッドウィンは椅子へ座ったまま、膝の上で両手を組んだ。


ケネディが報告書を読む速度は遅かった。自分に都合のよい部分だけを拾うのではなく、相反する言葉を同時に残そうとしている。


「彼らは、話したいのか。」


大統領が尋ねた。


「われわれに戻るためではありません。」


グッドウィンは答えた。


「戻らないことを認めさせるために話したいのだと思います。」


「変わらないまま、共存したい。」


「はい。」


「それを和平と呼べるのか。」


「和平ではないでしょう。敵対を管理する取り決めです。」


ケネディは窓の外へ視線を移した。


キューバを倒さず、危険だけを制限する。


接収資産の補償を交渉し、ソ連との軍事的関係に歯止めをかけ、中南米での武装活動について相互の条件を作る。


紙の上では、合理的な道に見えた。


しかし、その道はキューバ革命が生き残ることを認める。


アメリカの海岸から九十マイルの場所に、社会主義国家が定着することを認める。


さらに、その国家が中南米の貧困層と学生へ、アメリカに逆らっても生き残れるという実例を与え続ける。


「ゲバラは、他国の革命について何と。」


「影響を与えていることは否定しませんでした。直接支援については、アメリカ側の干渉も含めるなら議題にできると。」


「つまり、やめるとは言っていない。」


「はい。」


バンディが口を挟んだ。


「また、ソ連との関係を切るとも言っていません。話し合えるとは言っていますが、アメリカの圧力が続く限り、安全保障上の結びつきは必要だという論理です。」


ケネディは報告書へ目を戻した。


敵の言葉は明瞭だった。


だから、困難も明瞭になった。


ゲバラは、交渉できる部分を示した。


同時に、アメリカが最も変えたい部分は変わらないと伝えていた。


「彼は信じられるか。」


ケネディが尋ねた。


グッドウィンは少し考えた。


「約束を守るかどうかは分かりません。」


「では、何が分かった。」


「何を約束する気がないかは分かりました。」


ケネディの口元がわずかに動いた。


「味方より親切だな。」


冗談には聞こえなかった。


グッドウィンも笑わなかった。


「話せる相手ではあります。」


「話せることと、受け入れられることは違う。」


「はい。」


ケネディは報告書を閉じなかった。


そのまま机の上に置き、もう一方へピックス湾調査の資料を寄せた。


同じ机の上に、二つの道が並んだ。


一方には、敵対したままの共存がある。


もう一方には、侵攻とは別の方法でキューバを弱らせる計画がある。


どちらにも、汚れのない答えはなかった。


※※※※※※※※※※


翌日、ホワイトハウス報道室


記者たちは、モンテビデオでグッドウィンとゲバラが話したという情報をつかんでいた。


会談は政府の命令によるものか。


キューバとの秘密交渉が始まったのか。


ケネディ政権はカストロ政権を承認し、関係改善へ進むのか。


報道官の前へ質問が続いた。


用意された説明は短かった。


会話は社交の場で偶然に生じた。


グッドウィンには交渉権限がなく、ゲバラの話を聞いただけである。


アメリカ政府の対キューバ政策に変更はない。


いずれも、形式上は間違っていなかった。


誕生日の集まりで会った。


正式な交渉権限はなかった。


政策変更も、まだ決定されていない。


だが、会話が偶然の雑談だけだったわけではない。ゲバラは条件を示し、グッドウィンは詳細な報告書を書き、大統領は共存の可能性を検討した。


ピックス湾の前、ケネディは、作戦の全体を知らされないまま、政府の曖昧な説明の中へ立っていた。


今度は違った。


自分が何を知り、公にどこまで語らないかを理解している。


その違いが、公式声明を真実にするわけではない。


ただ、言葉と事実の距離を誰が管理しているかは変わった。


ケネディは報道官から説明を受けると、原稿へ一か所だけ線を引いた。


「『偶然の会話』は削ってください。」


報道官が顔を上げた。


「実際、予定された公式会談ではありません。」


「偶然会ったことと、偶然話したことは同じではない。」


ケネディは原稿を返した。


「『非公式の会話』で十分です。」


報道官は書き直した。


小さな違いだった。


しかしケネディは、言葉で事実を消すことと、外交上の余地を残すことを、同じには扱わなくなっていた。


※※※※※※※※※※


一九六一年十一月三日 ホワイトハウス


大統領執務室の机には、再びキューバの地図が置かれていた。


前回の地図には、上陸地点と飛行場が記されていた。


今度の地図には、港湾、放送施設、貿易経路、在外公館、反カストロ組織の拠点が書き込まれている。軍事目標だけでなく、経済、外交、宣伝、情報活動を一つの計画へまとめるための地図だった。


会議には、ロバート、ラスク、マクナマラ、バンディ、CIAと軍の担当者が出席していた。


ダレスは長官の職を離れることが決まり、後任には原子力委員長や空軍次官を務めた実業家ジョン・マコーンが選ばれている。正式な交代まではまだ時間があったが、次の対キューバ政策は、すでにダレスの手を離れ始めていた。


担当者は、新計画の目的を説明した。


キューバを外交的に孤立させる。


貿易と金融を制限し、経済的な圧力を強める。


ラジオ放送と宣伝活動によって、革命政権への不満を広げる。


国内外の反対勢力を支援し、情報収集と秘密工作を統合する。


必要になれば、破壊活動も検討する。


正規軍による再侵攻ではない。


しかし、共存でもなかった。


ケネディは、説明を最後まで聞いた。


机の横には、グッドウィンの報告書が置かれている。


ゲバラは、キューバが社会主義体制を捨てないと明言した。アメリカの勢力圏へ戻らず、革命の影響が国境を越えることも否定しなかった。


同時に、接収資産、東側との関係、国外活動について、条件次第で話し合えるとも言った。


話し合いの道は存在していた。


その道を選べば、キューバ革命の存続を認めることになる。


圧力の道を選べば、キューバをさらにソ連へ押す可能性がある。


どちらも、結果を保証しない。


「この計画の最終目的は何です。」


ケネディが尋ねた。


CIAの担当者が答えた。


「カストロ政権を弱体化させ、最終的には、キューバ国民がより受け入れやすい政府へ移行できる状況を作ることです。」


「移行とは、政権転覆ですか。」


担当者は慎重に言葉を選んだ。


「その可能性を含みます。」


「含むのか、目指すのか。」


部屋の空気が少し硬くなった。


ピックス湾以前なら、そこで「状況に応じて」という言葉が続いたかもしれない。


ケネディは待った。


担当者は答え直した。


「最終的には、カストロ政権の除去を目指します。」


「そのために、何を許可してほしいのです。」


外交、経済、心理、秘密工作。


説明が続いた。


部門ごとに別々の言葉が使われていたが、ケネディは一つずつ意味を確かめた。


反対勢力への支援とは、資金だけか。武器も含むのか。


破壊活動とは、人命を避けた施設への妨害か。軍事施設への攻撃か。


経済的圧力は、政府を困らせるためか。国民生活の悪化も手段として受け入れるのか。


宣伝とは、事実を伝えることか。虚偽の情報も使うのか。


質問が続くほど、計画書に並んだ抽象語は具体的な行為へ変わっていった。


港で船が止まる。


工場へ部品が届かない。


反政府放送が家庭へ入る。


山中へ武器が運ばれる。


誰かが橋を壊す。


紙の上では一行だった政策が、人間の生活へ戻っていく。


マクナマラが、資料を見ながら丁寧に言った。


「大統領、各活動を統合する責任者と、承認の段階を明確にする必要があります。ピックス湾では、軍事上の前提と政治上の制限が、最後まで一つの指揮系統に入りませんでした。」


「今度は、どこで決定するのです。」


「国家安全保障会議の特別な管理機構を設け、大統領と司法長官へ定期的に報告する形が考えられます。」


ロバートが頷いた。


「作戦が自分で目的を広げないようにする。」


CIAの担当者が口を開いた。


「秘密活動では、実行段階で大統領から一定の距離を置くことも必要です。否認可能性を保つために――」


「距離を置くのは、公の説明だけだ。」


ケネディは遮った。


声を荒らげたわけではなかった。


しかし、担当者は言葉を止めた。


「私に何をしているか知らせないという意味ではない。」


ケネディは地図へ目を落とした。


「ピックス湾では、私はアメリカ軍を使わずに成立する作戦だと説明された。CIAは、危機になれば支援が拡大されると期待していた。亡命者は、最後にはわれわれが助けると信じていた。全員が、別の作戦を実行していた。」


彼は計画書の表紙を閉じた。


「今度は、目的を成功するまで隠す計画にはしない。何を目指すのか、何を許すのか、どこで止めるのかを、先に書いてください。」


「大統領。」


ラスクが慎重に尋ねた。


「グッドウィンの報告にあった、キューバとの暫定的な共存については。」


ケネディは、机の端にある報告書を見た。


「あれを捨てるつもりはない。」


「では、接触を続けますか。」


「相手が何を考えているか知るための経路は残す。」


「一方で、政権の弱体化を進める。」


バンディが確認した。


「矛盾しています。」


「分かっている。」


ケネディは答えた。


「だが、彼らが話せる相手だと分かったことと、彼らがわれわれにとって安全な政府だということは同じではない。ゲバラは、社会主義体制を変えないと言った。中南米への影響を止めるとも言わなかった。ソ連との関係も、われわれの圧力次第だと答えた。」


彼は椅子へ背を預けた。


「共存できる可能性はある。だが、可能性だけで、西半球にソ連の足場が固まるのを待つこともできない。」


「では、新計画を承認されますか。」


ロバートが尋ねた。


ケネディはすぐには答えなかった。


ピックス湾では、ダレスが用意した選択肢の中から条件を選んだ。


失敗したあと、自分が政府の責任者だと公言した。


今度は、誰かから引き継いだ計画ではない。


ゲバラの言葉を読み、対話の可能性も知ったうえで、それでも圧力を選ぶ。


結果を、前政権にもCIAにも渡すことはできない。


「承認する。」


ケネディは言った。


「ただし、すべての活動は定期的にここへ報告する。目的と手段を勝手に広げない。軍事侵攻へつながる行動は、改めて私の承認を取る。」


担当者が書き留めた。


「そして、外交的な接触経路は閉じない。」


ケネディは続けた。


「話せる時に話せなくする必要はない。」


「圧力と対話を同時に行うのですか。」


「敵対している時ほど、両方が必要だ。」


計画書が差し出された。


ケネディは承認欄へ署名した。


正規軍を海岸へ送る戦争ではない。


港、銀行、放送、外交、情報機関を使う戦いだった。


ピックス湾より静かで、長く続く戦いになる。


その選択は、ダレスが大統領へ残したものではなかった。


ケネディ自身が、知ったうえで選んだ。


※※※※※※※※※※


一九六一年十一月二十八日 バージニア州ラングレー


新しいCIA本部の玄関には、星条旗と大統領旗が掲げられていた。


講堂には情報機関の職員、軍人、政府高官、その家族が集まり、前方には演壇が設けられている。


アレン・ダレスの退任を記念する式典だった。


表向きは、長年にわたり国家へ尽くした情報機関長を称える日である。アイゼンハワー政権から八年にわたってCIAを率い、冷戦の最前線で働いた功績が読み上げられた。


ピックス湾という言葉は、祝辞の中では短くしか触れられなかった。


ケネディは演壇に立ち、ダレスの献身と経験を称えた。


拍手が起こる。


ダレスは穏やかな表情で受けた。


二人の間に何があったかを知らない職員から見れば、若い大統領が老練な長官を敬意とともに送り出す式典だった。


前列には、後任となるジョン・マコーンが座っていた。


式典の前、ケネディとダレスは控室で二人きりになった。


窓の外には、まだ新しい本部建物の白い壁と、冬を前に葉を落とした木々が見えた。


ダレスは胸元のネクタイを整えた。


「立派な建物です。」


ケネディが言った。


「情報機関は、建物より前から存在しています。」


ダレスは窓の外を見たまま答えた。


「これからも、大統領が望まれるより長く存在するでしょう。」


机の上には、式典の進行表が置かれていた。


ケネディは、その横へ手袋を置いた。


「新しいキューバ計画を承認しました。」


ダレスはゆっくり振り返った。


「伺っています。」


「正規軍は使わない。外交、経済、宣伝、秘密活動を統合する。」


「以前より上品な戦争ですな。」


ダレスの声には、かつてのような露骨な苛立ちはなかった。


「船を海岸へ送らず、港と銀行で締めつける。爆撃機の標識を塗り替えず、別の国の人間に仕事をさせる。大統領も、結局は卑怯者を必要とされた。」


前編の会議室でケネディが口にした言葉が、形を変えて戻ってきた。


勝ったとしても卑怯者ではないか。


ケネディは否定しなかった。


「必要としたのではありません。」


「では、何と呼ばれますか。」


「私が命じた政策です。」


ダレスは、わずかに眉を上げた。


ケネディは続けた。


「違いは、私が何を命じたか知っていることです。あなたは、危機になれば私が条件を変えると考えた。亡命者にも、最後には助けると思わせた。計画が大統領の判断を作るように仕組んだ。」


「国家の安全保障では、決断を可能にする状況を作ることも必要です。」


「大統領の決断を、既成事実で代行することとは違う。」


ダレスは黙った。


ピックス湾の直後なら、その言葉を世間を知らない若者の道徳として切り捨てたかもしれない。


だが、目の前の男は今、自分で秘密工作を承認している。


キューバとの対話の可能性を知りながら、圧力を選んだ。


それでも、自分が何を命じたかを知ることに意味があると考えている。


青臭さは消えていない。


ただし、何も知らずに清潔でいようとするお坊ちゃんではなくなっていた。


「いつか。」


ダレスは言った。


「知っていることの方が、知らないことより重くなる日が来ます。」


「そのために、ここへ座っています。」


「大統領は、すべての汚れを自分の名前で引き受けられるとお考えですか。」


ケネディは、控室の扉へ目を向けた。


向こうでは式典の開始を待つ人々がいる。


「少なくとも、誰の名前で行われたか分からない国にはしたくない。」


係員が扉をノックし、準備が整ったと告げた。


ダレスは上着の襟を直した。


「では、行きましょう。今日くらいは、国家が美しい言葉を必要としている。」


二人は並んで講堂へ入った。


※※※※※※※※※※


ケネディは、国家安全保障勲章をダレスの胸へ留めた。


金属が布へ触れ、留め金が小さな音を立てた。


会場から拍手が起こる。


ダレスは大統領と握手し、職員たちへ向き直った。長年仕えてきた組織へ感謝し、情報活動の任務は個人より長く続くと語った。


前列では、マコーンが立ち上がって拍手している。


式典が終わると、ケネディの軍事補佐官が黒い鞄を持って近づいた。


中には、承認された新しい対キューバ計画の写しが入っていた。


外交的孤立。


経済的圧力。


宣伝。


秘密工作。


そして、閉じないまま残された非公式の接触経路。


計画書の最後には、ケネディ自身の署名があった。


ダレスの胸では、勲章が照明を受けて光っていた。


その前を、次の戦いを入れた鞄が静かに通り過ぎた。

若い二人の指導者と、去りゆく老人の勲章。

次回は、ケネディの過去と決断を描きます。


更新は、水・金・日の夜です。

次回は日曜日の夜更新予定です。


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