↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
185/214

184,工作の尻拭い

ピックス湾はアメリカの工作であることは明らかでしたがケネディは立場上それを認めることはできない状況でした。

否定すれば否定するほど工作の証拠は明らかになり国際社会に汚点を残します。

一九六一年四月十九日夜 ハバナ


ピックス湾から最後の通信が途絶えたころ、ハバナのラジオは音楽を止めた。


短いファンファーレのあと、男性アナウンサーが原稿を読み始める。侵攻部隊の組織的抵抗は終わり、革命軍と民兵は海岸を制圧した。多数の侵略者を捕らえ、船舶、戦車、火砲、弾薬を鹵獲したという発表だった。


侵略軍は壊滅した。


革命は勝利した。


言葉が電波に乗って島を走った。


窓辺に置かれたラジオの音量が上げられ、食堂では皿を持ったまま人々が立ち止まった。港湾労働者は荷役の手を休め、路面電車の車掌は乗客に聞こえるよう受信機を窓へ寄せた。病院では包帯を巻かれた兵士が上体を起こし、廊下にいた看護師が病室へ知らせて回った。


海岸へ送った息子や夫が戻るかどうか分からない家でも、勝利という言葉だけは先に届いた。


やがて、自動車の警笛が鳴り始めた。


誰かが国旗を持って通りへ出ると、周囲の家々からも人が集まった。革命軍の車両が通過するたびに、群衆は拳を上げた。民兵服の若者は、数日前までアメリカの飛行機に怯えていた同じ通りで、銃を肩に掛けて笑っていた。


勝利は、戦死者の数より早く広がった。


捕虜となった第2506旅団の兵士たちは、濡れた軍服のまま列を作らされていた。砂と泥が靴にこびりつき、顔には疲労と空腹が浮かんでいる。彼らが身につけていた装備、海岸に残された弾薬箱、アメリカ製の銃、無線機、上陸用舟艇が、次々と撮影された。


アメリカ政府は、正規軍を派遣していないと説明していた。


画面に映る兵士たちも、確かにアメリカ軍人ではなかった。


だが、彼らがどこで訓練され、誰から武器を受け取り、どの国の船と飛行機によって海岸まで運ばれたのかを、キューバ側は隠す必要がなかった。


カストロは、まだ戦闘服を着ていた。


海岸から戻ったばかりのように髭には埃が残り、軍服の袖には汗が乾いた跡があった。彼は短い勝利声明を出すと、国民に警戒を解かないよう求めた。


今回の侵攻を退けても、アメリカが諦めたとは限らない。


次は亡命者だけではなく、正規軍が来るかもしれない。


だから銃を置くな。


勝利を祝いながら、塹壕へ戻る準備をせよ。


その言葉に、群衆は再び叫んだ。


侵攻は革命を倒さなかった。


革命に、アメリカへ勝ったという新しい物語を与えた。


※※※※※※※※※※


同夜、ワシントン


ダレスは、翻訳されたハバナ放送の記録を最後まで読まなかった。


侵攻軍壊滅。


完全勝利。


多数の捕虜。


鹵獲されたアメリカ製兵器。


同じ語句が、何度も目に入った。


ビッセルは向かいの椅子に座り、海岸から届いた最終報告を整理していた。死者、行方不明者、捕虜。沖合へ逃れた船に収容された者の数は、まだ確定していない。


ダレスは放送記録を机へ置いた。


「勝てた。」


ビッセルは顔を上げたが、すぐには答えなかった。


「最初の空爆で残存機をすべて破壊するか、輸送船が攻撃された時点で海軍機を出していれば、橋頭堡を維持できた。数日持てば、別の状況を作れた。」


「国内蜂起は起きませんでした。」


「橋頭堡が崩れれば、誰も敗者の側には立たない。」


ダレスは椅子の背へ身体を預けた。


「勝利しているように見せる時間が必要だった。その時間を作る力は、沖合にあった。」


「大統領は、アメリカ軍を戦闘へ投入しないと最初から明言していました。」


「戦争を始めることは認めて、勝つための力を使うことだけを拒んだ。」


「大統領には、別の戦争になるように見えたのでしょう。」


「戦場では、別の戦争も同じ戦争もない。勝つか、負けるかだ。」


ダレスは机上の写真を一枚取った。


カストロが群衆に囲まれ、腕を上げている。背後には、捕獲された武器を積んだ車両が見えた。


ケネディは、卑怯者にならずに勝つことを望んだ。


アメリカの関与を隠し、アメリカ軍を出さず、国際法に触れず、それでもカストロだけを倒せる作戦を求めた。


国家が汚れる瞬間を見ずに、国家の利益だけを手に入れようとした。


ダレスは写真を伏せた。


「お坊ちゃんだ。」


ビッセルは何も言わなかった。


ダレスの声には嘲笑よりも、勝てる戦いを奪われた者の疲労が滲んでいた。


※※※※※※※※※※


一九六一年四月二十日 ワシントン


朝刊は、同じ事件にいくつもの名前をつけていた。


キューバ亡命者による反乱。


反カストロ部隊の侵攻。


アメリカが支援した上陸作戦。


カストロ政権は、アメリカ帝国主義による直接侵略と呼んだ。


ホワイトハウスは、アメリカ正規軍が戦闘へ参加した事実はないと説明した。


どの見出しにも、事実の一部が含まれていた。


亡命者はキューバ人だった。


アメリカ正規軍は海岸へ上陸していなかった。


そして、部隊を作り、訓練し、武器を与え、船と爆撃機を用意したのはアメリカだった。


記事を重ねて読めば、政府が語らなかった部分が浮かび上がった。


ニューヨークの地下鉄では、乗客が大きく折った新聞の向こうから隣の紙面をのぞいた。


中西部の食堂では、第二次世界大戦の従軍記章をつけた老人が、コーヒーを冷ましたまま記事を読み続けた。


南部の教会では、牧師が説教の原稿を書き直した。


自由な国は、独裁に苦しむ人々を助ける。


小さな国が大国に脅かされれば、アメリカはその側へ立つ。


学校でも教会でも、戦争を経験した家庭でも、そのように語られてきた。


だが今度は、アメリカが小さな隣国の政府を倒すため、国旗を隠して武装部隊を送り込んだらしい。


共産主義者を倒すためなら、正義に反したことにはならないと考える者もいた。


侵攻するなら、なぜ最後まで戦わなかったのかと怒る者もいた。


アメリカは、そのようなことをする国ではないと信じた者ほど、どちらの説明を選べばよいか分からなかった。


ホワイトハウスには、電話と手紙が押し寄せた。


ある海兵隊経験者は、送り込んだ兵士を見捨てた大統領を非難した。


ある牧師は、他国の標識を塗った爆撃機を飛ばしておきながら、自由世界の指導者を名乗れるのかと問うた。


フロリダのキューバ人女性は、息子が第2506旅団に参加したまま戻っていないと書いた。


息子は、最後にはアメリカが助けてくれると信じていた。


その一文だけが、便箋の中央で二度下線を引かれていた。


ケネディは、その手紙をしばらく机から離せなかった。


※※※※※※※※※※


同日午後、アメリカ新聞編集者協会


演壇の前には、全米の新聞社から集まった編集者たちが座っていた。


彼らの多くは、侵攻準備について何らかの情報を得ていた。


中米で亡命キューバ人が訓練されている。


武器と資金はアメリカから出ている。


船が集められ、キューバへ向けた放送が始まっている。


そうした記事を掲載した新聞もあれば、国家安全保障への配慮から内容を削った新聞もあった。情報が十分に確認できないとして、政府の説明を待った者もいる。


その政府がいま、作戦の全体を語ろうとしない。


ケネディは演壇に立つと、原稿へ目を落とした。


アメリカが反カストロ派へ同情していたことは否定しなかった。


しかし、アメリカ軍をキューバへ投入することはできなかったと説明した。一方的な軍事介入は、アメリカが掲げてきた原則と国際的な義務に反する。


編集者たちは黙って聞いていた。


大統領の言葉には、数日前までの選挙演説と同じ響きがあった。


自由。


義務。


法。


世界に対する責任。


しかし、その言葉の後ろには、キューバの印を描いたアメリカ製爆撃機と、海岸に置き去りにされた亡命者たちがいた。


ケネディは、民主国家の大統領と新聞編集者には共通の義務があると語った。


事実を率直に示し、正しい位置づけを与える義務である。


客席の一人が、膝の上の原稿から顔を上げた。


事実を率直に示す。


その言葉を、いま最も求められている人物が口にしていた。


演説が終わると拍手が起きた。


長くは続かなかった。


編集者たちは会場を出ると、すぐに公衆電話と記者室へ向かった。大統領の言葉を称賛する社説を書く者もいた。軍事介入を拒んだ判断を評価する者もいた。


同時に、誰が侵攻部隊を作ったのかを問い続ける記事も準備された。


正規軍を出さなかったことと、侵攻へ関与しなかったことは同じではない。


新聞は、その違いを埋め始めていた。


※※※※※※※※※※


ニューヨーク、国際連合本部


アドレー・スティーヴンソンは、机の上に二枚の写真を並べていた。


一枚は、マイアミへ着陸したB-26爆撃機。


もう一枚は、キューバ空軍が保有していた同型機。


新聞記者たちは、機首の形や武装の配置が異なることを指摘し始めていた。カストロ軍から離反した機体だという説明は、写真を詳しく見るほど不自然になった。


スティーヴンソンは、最初の写真を証拠として国連へ示していた。


アメリカがキューバを爆撃したという非難は虚偽であり、キューバ軍内部で反乱が起きたのだと主張した。


彼自身が、その説明を信じていた。


電話がつながると、スティーヴンソンは挨拶を省いた。


「誰がこの写真を私に渡したのです。」


ワシントン側では、ラスクが受話器を持っていた。


「国務省を通じて提供された情報です。」


「それは分かっています。私は、その情報を誰が作ったのかと聞いています。」


ラスクは言葉を選んだ。


「作戦上の詳細について、電話でお話しすることはできません。」


「私は国連で、アメリカ政府を代表して話しました。キューバ代表の目を見て、彼らの主張は虚偽だと言ったのです。」


スティーヴンソンの声は大きくなかった。


その静けさが、かえって怒りを際立たせた。


「私は事実を渡されたのですか。それとも、否定するための文章だけを渡されたのですか。」


「あなたを欺く意図はありませんでした。」


「意図がなければ、欺いたことにはならないのですか。」


ラスクは答えられなかった。


スティーヴンソンは、写真へ目を落とした。


自分は、アメリカの正義を疑ったことがないわけではない。政治の中で、理想と現実が食い違うことも知っていた。


それでも、国際連合という場所では、アメリカの言葉が少なくとも検証に耐えるものでなければならないと信じていた。


ソ連が嘘をつく。


独裁国家が事実を隠す。


だから自由な国は、事実を語ることで勝つ。


その前提がなければ、国連大使は外交官ではなく、知らされていない筋書きを読む俳優になる。


「私はアメリカを弁護するためにここにいます。」


スティーヴンソンは言った。


「しかし、真実を知らされなければ、弁護ではなく欺瞞の代読です。」


電話を切ったあとも、二枚の写真は机に残った。


キューバ側の告発と、アメリカ側の否定。


見比べるほど、敵の言葉の方が事実に近づいていた。


※※※※※※※※※※


一九六一年四月二十一日 国務省講堂


記者会見場には、いつもより早く人が集まった。


椅子の間を記者が行き交い、カメラの脚が通路を塞いでいる。前方では照明が熱を持ち始め、速記者が鉛筆を整えていた。


記者たちは、すでに具体的な情報を持っていた。


大統領が亡命キューバ人の訓練継続を承認した。


武器、船舶、燃料をアメリカ政府が提供した。


国務省内部には反対意見があった。


CIAが作戦を計画した。


どこまで正確なのかは分からない。


しかし、政府が何も知らなかったという説明だけは、もう成立しなかった。


ケネディは壇上へ出る直前、用意された原稿を閉じた。


ロバートが隣に立っていた。


「細部は話せない。」


ケネディが言った。


「話せば、まだキューバにいる人間や、その家族を危険にする。中米の政府も巻き込む。」


「では、何を話す。」


「誰の責任かだ。」


ロバートは兄の横顔を見た。


「CIAに押しつけることもできる。」


「承認したのは私だ。」


「前の政権から来た計画だ。」


「実行した時には、私の政権だった。」


会場から、人の動く音が聞こえた。


ケネディは扉へ手をかけた。


海岸で救援を拒否した時、結果を引き受けるとダレスに答えた。


その言葉を、閉ざされた会議室の中だけに残すことはできなかった。


※※※※※※※※※※


会見が始まると、ケネディはキューバについて詳細な説明を避けた。


救出を必要とする者がおり、米州諸国との協議も続いている。現時点で、それ以上語ることは国益にならないと述べた。


すぐに質問が飛んだ。


記者の一人が、報道されている具体的な内容を読み上げた。


大統領が亡命者の訓練継続を決め、政府が武器、船、燃料を提供したという記事は事実か。ラスクらの反対を押し切ったという報道は正しいのか。


ケネディは、事実はいずれ明らかになると答えた。


その場で肯定も否定もしなかった。


別の質問が続き、やがて一人の記者が、情報が閉ざされていることを正面から問うた。


ワシントンでは、以前なら話した関係者まで口を閉ざしている。


世界ではアメリカが激しい非難を浴びているのに、なぜ政府は記者へ事実と動機を説明しないのか。


ケネディは演壇の端へ両手を置いた。


会場の後方でカメラが回っている。


この言葉は、その日の夕方には家庭のテレビへ届く。


ダレス。


ビッセル。


バンディ。


ラスク。


軍人たち。


失敗した作戦には、いくらでも父親を探すことができた。


ただし、それを自分以外の誰かだけの失敗にすることはできなかった。


「勝利には百人の父親がいるが、敗北は孤児だという古い言葉があります。」


記者たちの鉛筆が動き始めた。


「私が詳細を語らないのは、責任を隠すためではありません。政府の責任者は私です。それは明らかなことです。」


会場が一瞬、静まった。


ケネディは、作戦の内容を告白しなかった。


CIAが爆撃機の標識を塗り替えたことも、グアテマラで部隊を訓練したことも、海軍が沖合で待機していたことも語らなかった。


国家の秘密は残した。


その代わり、失敗を部下へ渡す道を閉じた。


政府の責任者は私だ。


その一文が、会場を出て電信線を走った。


夕刊は大きな見出しで掲げた。


ラジオは肉声を繰り返した。


テレビでは、疲労を隠せない若い大統領の顔とともに放送された。


数日前まで、経験のない富豪の息子だと考えていた者も、その言葉には耳を止めた。


侵攻を承認した責任は消えない。


政府の嘘が真実に変わるわけでもない。


それでも、失敗を知った瞬間に部下を差し出す政治家とは違った。


海岸へ送った人間の責任を、公開の場で自分の名へ戻した。


その夜、ホワイトハウスへ届く電話の調子が少し変わった。


失敗を非難する声は続いた。


なぜ侵攻を承認したのかという問いも消えなかった。


しかし、逃げなかったことを評価する言葉も増えた。


正義を信じていた人々の傷は、説明一つで塞がらない。


それでも、大統領が国家の過ちから身を引かなかったことに、アメリカはまだ自分たちの国であり得ると感じた者もいた。


※※※※※※※※※※


ラングレー


ダレスは、記者会見の速記録を読んだ。


勝利には百人の父親がいる。


敗北は孤児だ。


政府の責任者は私だ。


紙の上では、よくできた言葉だった。


政治家としては正しい。


責任を取ると宣言すれば、部下の失敗を背負う指導者に見える。事実を明らかにしないまま、道徳的な位置を取り戻すこともできる。


お坊ちゃんは、演説がうまい。


そう切り捨てることもできた。


だがダレスは、速記録をすぐには机へ置かなかった。


ケネディは、CIAのせいだとは言わなかった。


前政権から押しつけられた計画だとも言わなかった。


航空支援を求めた軍人を責めず、亡命者たちの判断へ責任を転嫁することもしなかった。


海岸で作戦を止めた決定も、侵攻を始めた決定も、同じ大統領の名で引き受けた。


甘いが、逃げてはいない。


ダレスには、その違いが分かった。


分かるからこそ、なおさら腹立たしかった。


責任を引き受ける勇気があるなら、なぜ勝つための命令を出さなかったのか。


彼は速記録を折り、引き出しへ入れた。


その紙の上に、「お坊ちゃん」という言葉を書くことはしなかった。


※※※※※※※※※※


一九六一年四月二十三日 ハバナ


カストロの戦勝報告は、短い声明では終わらなかった。


ラジオとテレビの前に、再び国民が集められた。


カストロは地図を掲げ、上陸地点、輸送船の位置、キューバ軍の進撃路を指しながら、侵攻作戦を一つずつ説明した。


アメリカが用意した部隊は、ノルマンディー上陸のような作戦を試みた。


だが、海岸から出ることもできなかった。


キューバ軍は輸送船を沈め、侵略者を海へ追い戻した。


捕虜になった兵士、鹵獲した武器、撃墜した航空機の話を重ねるたびに、聴衆から歓声と笑いが起きた。


カストロはケネディの名を挙げた。


新しい大統領ならアイゼンハワー政権とは違う政策を取るかもしれないと、キューバは待っていた。しかしケネディは古い政策を引き継いだだけでなく、さらに攻撃的になったと非難した。


そして、アレン・ダレスを解任すべきだと言った。


CIAがアメリカ政府を世界の前で滑稽な立場に置いた以上、長官を辞めさせるのが最低限の仕事だと続けた。


会場に笑いが広がった。


世界最大の情報機関の長が、カリブ海の小国の演壇から、失敗した作戦の責任者として名指しされている。


カストロは、ケネディとダレスを喜ばせるために、キューバが傭兵へ負けてやることはできなかったと言い、侵攻軍を海へ投げ返したと胸を張った。


それは戦闘報告であると同時に、公開裁判だった。


被告席には、アメリカ政府が置かれていた。


※※※※※※※※※※


カストロの演説は、翌日には各国の新聞へ載った。


言葉には誇張があった。


侵攻部隊をすべて傭兵と呼び、アメリカ政府を一枚岩の侵略者として描き、キューバ国内に存在した反革命勢力や不満を小さく扱った。


それでも、出来事の骨格は崩れなかった。


部隊は国外で訓練されていた。


武器はアメリカから与えられていた。


爆撃機には偽装が施されていた。


侵攻は自然発生的な国内蜂起ではなかった。


アメリカ政府が曖昧にした事実を、カストロは勝者の側から具体的に並べた。


捕虜がいる。


兵器がある。


船の残骸がある。


写真がある。


カストロの演説を嫌う新聞でさえ、その核心を否定することは難しかった。


一方、ホワイトハウスの公式発表は、アメリカ正規軍が介入していないという線から動かなかった。


それは厳密には嘘ではない。


だが、国際社会が知りたいことへの答えでもなかった。


誰が計画したのか。


誰が訓練したのか。


誰が武器を与えたのか。


誰が爆撃機を飛ばしたのか。


アメリカ政府の文章は、その問いを避けた。


カストロは答えた。


そのため、共産主義者の長い演説の方が、自由世界の政府声明より事実に近いという逆転が起きた。


ラテンアメリカの新聞には、革命を支持しない論説委員からも、アメリカの説明は信用を損なったという批判が出た。


友好国の外交官は、公式会談では言葉を慎みながら、廊下へ出ると同じ質問をした。


なぜ、最初から認められないことを行ったのか。


そして、隠すこともできないほど大きな作戦を、なぜ秘密工作と呼んだのか。


ケネディは、各国大使館から届いた報告を読んだ。


作戦に失敗したことだけが問題ではなかった。


アメリカの力が敗れた。


アメリカの能力が疑われた。


さらに、アメリカの言葉まで信用を失った。


カストロは軍事的な勝利に加え、誰の説明が真実に近いかという争いでも優位に立っていた。


ケネディは、カストロの演説記録を閉じた。


「彼の話には、どれだけ嘘がある。」


バンディが答えた。


「宣伝上の誇張は多くあります。亡命者を単純な傭兵として扱い、国内の反対勢力についてはほとんど触れていません。」


「作戦へのアメリカの関与については。」


バンディは少し間を置いた。


「核心部分は否定できません。」


ケネディは椅子へ背を預けた。


敵が真実を語るとは限らない。


だが、味方が真実を隠している時には、敵の言葉の方が信用される。


それは宣伝技術の敗北ではなかった。


自分たちが作った事実による敗北だった。


※※※※※※※※※※


五月、国防総省


マクスウェル・テイラーは、長い机の中央に座っていた。


第二次世界大戦で空挺部隊を率い、陸軍参謀総長を務めた退役大将である。ケネディは彼をワシントンへ呼び戻し、ピックス湾作戦がなぜ失敗したのかを調べる委員会の責任者に据えた。


委員にはロバート・ケネディ、海軍作戦部長アーレイ・バーク、そしてダレス自身が入った。


失敗した組織の長を調査側へ置くことには矛盾があった。


しかし、秘密作戦の経緯を知る者なしには、質問すら作れなかった。


机には、作戦計画書、地図、通信記録、航空攻撃命令、各組織の報告書が積み上げられていた。


テイラーは証言を一つずつ聞いた。


CIAは、上陸後に国内蜂起と軍の離反が起きる可能性を見込んでいた。


軍は、CIAが政治的条件を整えているという前提で、軍事面の評価を行った。


国務省は、アメリカの関与を否定できる範囲で作戦が実施されると考えた。


ケネディは、アメリカ正規軍を使わずに成立する作戦だと理解していた。


亡命者部隊の指導者たちは、危機になればアメリカが見捨てるはずはないと信じていた。


同じ会議に参加し、同じ地図を見ていた者たちが、それぞれ違う作戦へ同意していた。


テイラーは、ピックス湾からエスカンブライ山地までの地図を広げた。


「上陸に失敗した場合、部隊は山地へ退却し、ゲリラ戦へ移れると説明されていました。」


CIAの担当者が頷いた。


「その可能性を想定していました。」


テイラーは湿地帯を指した。


「この沼地と道路を越えてですか。」


「小部隊に分散できれば――」


「千人を超える部隊が、戦車と重火器を捨て、包囲を抜けて山まで到達する計画はありましたか。」


答えはなかった。


ロバートが、別の証言記録を開いた。


「大統領には、失敗した場合に部隊がゲリラ化できると説明したのですか。」


「可能性としてお伝えしました。」


「可能性とは、計画があったという意味ですか。それとも、起きるかもしれないという意味ですか。」


担当者は、口を閉じた。


作戦会議で便利だった言葉が、調査の場では逃げ道を失っていた。


可能性。


十分な見込み。


大きな打撃。


橋頭堡確保。


一つずつ問い直すと、どの言葉にも、責任を引き受ける主語がなかった。


※※※※※※※※※※


調査が進むにつれ、ケネディは一つの結論へ近づいていった。


ダレスが単純な嘘をついたわけではない。


軍人たちが意図して敗北へ導いたわけでもない。


国務省が作戦を妨害するために空爆を止めたというだけでもない。


問題は、各組織が自分に必要な前提だけを信じたことだった。


CIAは、外から小さな衝撃を与えれば、カストロ政権の内部が崩れると信じた。


軍は、政治的に承認された以上、必要になれば軍事的制限も緩められると考えた。


国務省は、秘密工作である以上、アメリカの手が見えない規模に収まると思った。


大統領は、それらを一つの作戦として受け取った。


誰も、互いの前提が両立するかを最後まで確かめなかった。


ケネディは、カストロの演説記録と調査資料を机の左右へ置いた。


一方は敵の宣伝である。


もう一方は、自国政府の最高機密だった。


敵の演説は、自分たちが何をしたかを単純化していたが、誰が攻めたのかは明瞭だった。


自国の資料は、詳細で正確だった。


しかし、誰がどの責任を負うのかをたどるほど、文章は分岐し、意味が薄れていった。


「われわれは、カストロが何を考えているか知っているのか。」


ケネディが尋ねた。


バンディは、質問の範囲を測った。


「情報機関は、政権内部の構成とソ連との関係を分析しています。」


「分析ではない。本人たちが、何を望んでいるかだ。」


「革命の維持。アメリカからの独立。ソ連との関係――」


「それは、われわれが作った項目だ。」


ケネディはカストロの演説記録へ手を置いた。


「彼らはアメリカと永久に戦うつもりなのか。ソ連の基地になることを望んでいるのか。それとも、われわれが再び攻めてくると思うからソ連へ近づいているのか。」


バンディは即答しなかった。


その問いに答える資料は、机の上になかった。


CIAは、カストロ政権を倒す方法を調べていた。


国務省は、孤立させる方法を検討していた。


軍は、侵攻した場合に必要な兵力を計算していた。


カストロと話した場合に何を言うかという文書は、まだ作られていない。


「正式な交渉を始めるおつもりですか。」


バンディが尋ねた。


「そこまで決めていない。」


ケネディは窓の外を見た。


ピックス湾で、敵の強さを知らないまま作戦を始めた。


同じ失敗を繰り返すなら、次は偶然ではない。


「まず、彼らが何を譲らず、何なら話せるのかを知りたい。」


「誰を通じて。」


「記者でも、外交官でも、米州会議に出る者でもいい。公式である必要はない。」


ケネディは、左右に置いた二つの資料を見た。


「今度は、こちらが用意した説明ではなく、相手の言葉を聞く。」


バンディは新しい用紙を取り出した。


その紙には、まだ作戦名も、上陸地点も書かれていなかった。


最初に記されたのは、接触可能な人物という見出しだった。

ケネディの迷いからの決断は歴史をどう動かすのか。

次回キューバとの接触が行われます。


更新は、水・金・日の夜です。

次回は日曜日の夜更新予定です。


よろしければ、ブックマーク/感想/★で応援してもらえると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。