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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
二人の英雄の友情と別れ(前編)
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178,英雄としての訪問

当時はソ連とアメリカは拮抗していました。

初めての有人宇宙飛行の成功などアフガニスタン進行の失敗まではソ連がむしろ優位だった部分もあります。

アメリカは、貿易赤字やキューバ危機・ベトナム戦争など独自の問題で社会に鬱屈が生まれ始めてきます。

後に一九九一年、ソビエト社会主義共和国連邦は崩壊する。


連邦を構成していた十五の共和国はそれぞれ別の国となり、七十年近くクレムリンの上に掲げられていた赤旗は降ろされた。計画経済は停滞を、共産党は官僚主義を、社会主義は秘密警察や粛清や収容所、そして品物の乏しい商店を連想させる言葉になっていった。


後世の人間がソ連について思い浮かべる光景の多くは、その終わりから逆算して作られている。


灰色の空の下に並ぶ同じ形の集合住宅、感情を表に出さない人々、命令された通りに働く労働者、赤の広場を機械のような足取りで進む兵士たち。西側の映画に登場するロシア人は、笑わず、冗談を理解せず、国家から与えられた役割だけを遂行する冷たい人間として描かれることが多かった。


その像には、スターリン時代の現実から生まれた部分もあった。だが、世界の多くの人々がソ連の市民と話したことも、その街を歩いたこともないまま、映画館の暗闇でソ連人の顔を覚えたという意味では、冷戦期の宣伝に最も成功していた国は、ソ連ではなくアメリカだったのかもしれない。


スクリーンの中でアメリカ人は恋をし、失敗し、笑い、規則を破った。ロシア人は暗い部屋で地図を囲み、感情のない声で世界征服を相談していた。


けれども、一九六三年の春、現実の世界で冷戦の勝者はまだ決まっていなかった。資本主義が人間社会の最終的な形になるとも、社会主義が歴史の袋小路へ入り込むとも、誰も確信してはいなかった。


十九世紀以来の近代は、人間に科学と移動の自由を与えた一方で、資本を持つ者には国家の境界を越えて他者の土地と労働を支配する力を与えていた。植民地に敷かれた鉄道の多くは、農民の村を学校や病院へ結ぶためではなく、鉱山や大農園から港へ資源を運び出すために造られた。現地の人々は、自分たちが食べる穀物より、遠い国で売られる砂糖、綿花、珈琲、ゴムを作らされ、その利益は海の向こうにある企業と銀行へ流れていった。


国旗が替わり、植民地総督が去った後にも、鉱山や鉄道や港湾を旧宗主国の資本が握り、大地主と外国企業だけが富を持ち続ける国は少なくなかった。独立したはずの政府が、自国で採れた資源の値段さえ決められないのであれば、それを本当の独立と呼べるのかという疑問が、新しい国々の若者や労働者や農民の間に広がっていた。


社会主義は、そこへ別の近代を提示した。


土地を、実際に耕す者の手へ返す。鉱山や鉄道や港を、利益を国外へ持ち去る企業から取り戻す。工場を資本家の財産ではなく、そこで働く者と国家全体のために動かし、文字を学べなかった子供に学校を、医師のいない村には診療所を置く。


それは単なる所有制度の変更ではなかった。資本と帝国が作った近代を否定するのではなく、その近代が約束しながら一部の人間にしか与えなかった教育、医療、科学、文化を、すべての人間へ広げようとする思想だった。


アジア、アフリカ、中東、ラテンアメリカで植民地支配や外国資本に抵抗した者たちにとって、社会主義は必ずしもモスクワから押しつけられた外国の言葉ではなかった。自分たちの土地、自分たちの資源、自分たちの労働を取り戻し、政治的な独立を経済的な独立へ進めるための言葉として受け入れられていた。


西側の社会にも、その思想へ心を動かされる者は多かった。


若者たちはアメリカ映画を見て、ジャズやロックンロールを聴き、新しい自動車や電化製品に憧れながら、その同じアメリカに残る人種隔離を批判していた。パリやロンドンの大学では、自由と人権を掲げる国々がアジアやアフリカに植民地を持ち続けてきた矛盾が論じられ、労働者の集会では、先進国の豊かさが誰の安い労働と奪われた資源の上に築かれているのかが問われていた。


アメリカの文化を愛することと、資本主義を批判することは矛盾しなかった。西側の国に暮らしながら、社会主義の中に人間社会が次へ進むための可能性を見ることも、まだ特別な態度ではなかった。


ソ連には、粛清も強制もあった。農村には飢餓があり、スターリンの名の下で無数の人間が連行され、家族さえ理由を知らないまま消えていった。それでも、その国がナチス・ドイツの侵攻を退け、破壊された都市を建て直し、帝政時代には教育から遠ざけられていた膨大な人々へ学校を広げ、農業国だったロシアをアメリカと並ぶ工業国へ変えた事実まで消えるわけではなかった。


一九六一年、ユーリ・ガガーリンが人類で初めて宇宙へ出た時、世界が見たのは、一人の若い飛行士が地球を一周したという出来事だけではない。


企業の競争と個人の利益を原動力にしなくても、人間を最先端の科学へ到達させることはできる。土地と工場を国家が所有し、教育と研究を計画的に結びつける社会でも、アメリカを追い越す瞬間を作ることができる。


ソ連は、その証明に見えた。


スターリンの死後、ニキータ・フルシチョフは、長く口にすることさえ許されなかった粛清の犯罪を批判し、西側との平和共存を掲げ、凍りついていた社会の扉を少しずつ開こうとしていた。ハンガリーへ戦車を入れた国家の指導者であることに変わりはなかったが、スターリンの肖像のように黙ったまま人間を見下ろす男ではない。


よく笑い、冗談を好み、外国の指導者の肩を親しげに叩いた。その丸い顔と農民のような手の中に、世界を焼き尽くすだけの核兵器と、東ヨーロッパから極東までを動かす巨大な国家の権力が収まっていた。


一九六三年のソ連は、失敗した理想の残骸ではなかった。


アメリカとは異なる方法で近代を作り上げ、植民地から独立した国々へ、もう一つの未来を示すことのできる大国だった。


その国へ、カストロは初めて向かおうとしていた。


※※※※※※※※※※


ハバナの革命宮殿には、モスクワから届いた招待状と、何枚にもわたる訪問予定表が置かれていた。


キューバ危機から数か月が過ぎ、戦略ミサイルは昼の海を渡り、戦術核弾頭も夜の港から秘密裏に運び出されていた。ソ連軍の撤収は段階的に進み、島に残された通常兵器をキューバ兵が扱うための訓練が続いている。


アメリカは侵攻しなかったが、経済封鎖は解かれていない。マングース作戦による破壊工作も、亡命者組織の襲撃も終わらず、低空を飛ぶ偵察機はキューバの上空から軍事施設と道路を覗き込み、島の東端にあるグアンタナモ基地には、アメリカ軍が以前と変わらず駐留していた。


危機は去ったのではなく、世界が核戦争として認識する形を失い、キューバの日常へ戻っただけだった。


フルシチョフの招待状には、ミサイルを置いた理由、撤去を急いだ理由、アメリカから不侵攻の約束を引き出したことが、なぜキューバと社会主義陣営の勝利であるのかが長く説明されていた。今後もソ連はキューバの防衛と経済建設を支え、両国の友好をさらに深めたいという言葉も添えられている。


文章は率直だった。ところどころには、謝罪と呼んでもよいほど慎重な響きがあったものの、謝罪という言葉そのものは、最後まで使われていなかった。


フィデルは窓際に立ったまま読み終えると、招待状を机へ戻し、すでにソ連を訪れた経験のある二人へ目を向けた。


ラウルは軍事使節としてモスクワへ入り、ソ連の指導者や将校たちと会っていた。ゲバラも貿易使節団を率い、砂糖、石油、機械、融資をめぐって官僚たちと交渉し、危機の前にも再びソ連を訪れている。


三人の中で、まだ一度もその国の土を踏んでいないのはフィデルだけだった。


「おまえたちは、私より先にあの国を見ている。」


フィデルは招待状から手を離し、椅子に座る二人を順に見た。


「演説や報告書の中にあるソ連ではなく、実際に歩き、人間と話して見えた国について聞きたい。どんな国だった。」


ラウルは日程表の端を指で押さえながら、少し考えた。その目には、兄からこの質問を受けるのを待っていたような明るさがあり、言葉を選ぶ慎重さの奥に、隠しきれない憧れが見えていた。


「大きいよ。」


最初に出たのは、あまりに単純な答えだった。


フィデルは眉を上げたが、ラウルはそのまま続けた。


「国土だけじゃない。軍隊も工場も学校も鉄道も、すべてが一つの国家の中でつながっている。兵器を一つ作って終わるんじゃない。誰が使い、誰が整備し、部品をどの工場で作り、弾薬をどの鉄道で運び、技師をどこで育てるかまで、最初から同じ仕組みの中に入っているんだ。」


ラウルの声には、軍人としての評価だけではなく、一人の共産主義者が革命の先輩を見る時の敬意があった。


ロシア革命は、内戦にも、外国からの包囲にも、ナチス・ドイツの侵攻にも耐えた。革命軍の隊列から始まったものが、巨大な軍隊と工場と大学を持つ国家となり、人間を宇宙へ送り、アメリカと正面から向き合えるところまで到達している。


「われわれは、まだ人間の力で制度の穴を埋めている。誰かが走り、誰かが徹夜し、書類が間に合わなければ別の誰かが口頭で話を通す。向こうには、人が替わっても動く仕組みがある。革命を勝利の日で終わらせず、国家へ変えたんだ。」


フィデルは頷き、今度はゲバラを見た。


「おまえはどう思った。」


ゲバラは、指に挟んだ葉巻から上がる煙を見ながら、少し間を置いた。


「大きいさ。」


フィデルは椅子の背へ身体を預けた。


「おまえもか。」


ゲバラの口元に、わずかな笑いが浮かんだ。


「ラウルとは、同じ言葉を別の意味で使っている。」


ラウルが不満そうに眉を寄せたが、ゲバラは気にせず続けた。


「工場も鉄道も技師の数も、われわれとは比べものにならない。アメリカと違う仕組みで、アメリカと競争できる工業国を作った。その成果を疑うつもりはないし、社会主義が空想ではなく、現実に国家を動かせることを証明した国でもある。」


そこまで語ってから、ゲバラは灰皿へ葉巻を置いた。


「ただ、国家が大きくなりすぎている。革命は、人間が国家と社会を変えるために始まったはずなのに、向こうでは、ときどき国家に合う人間を作ることが革命だと思っているように見えた。」


ラウルはすぐに口を挟んだ。


「二億を超える人間を動かす国だ。山の中の部隊のように、全員を集めて相談するわけにはいかない。」


「分かっている。だから、あの国の成果を否定しているんじゃない。」


ゲバラは、反論ではなく補足をするように声を落とした。


「教育も、科学も、工業化も本物だ。だが、成功した国家は、自分が成功した方法を世界のどこでも正しいと思い始める。土地も、歴史も、人間の気質も違う国へ、同じ設計図を当てはめたくなるんだ。」


「キューバには合わないと言いたいのか。」


「合うものもあるし、合わないものもある。問題は、こちらが選べるかどうかだ。向こうが、自分たちの計画の中でキューバへ与えた役割まで、社会主義の正解だと思い始めれば話は変わる。」


ラウルはしばらく黙り、机の上の珈琲へ手を伸ばした。


「おまえは、向こうで世話になった人間の悪いところばかりよく覚えている。」


「世話になったからこそ覚えている。砂糖を買ってもらい、石油も機械も融通してもらったし、優秀な技師にも会った。だからこそ、書類一枚を動かすために三つの省庁を回り、最後の役人が最初の役人と同じ説明をした時のことも忘れない。」


「おまえが交渉の途中で要求を増やしたからだろう。」


「話を聞いているうちに、必要なものが増えた。」


「普通は、それを要求を変えたと言う。」


フィデルは、二人のやり取りを聞きながら笑った。


ミコヤンとの会談以来、ソ連という国名が部屋に出るたび、核、撤去、頭越しの合意、存在しない法律が一緒についてきた。ラウルとゲバラの言い合いは、その重さを少しだけ部屋の外へ押し戻した。


秘書のセリアが、新しい珈琲を三人の前に置いた。


「つまり、ゲバラはソ連を信用していないのか。」


フィデルが尋ねると、ゲバラは首を振った。


「資本主義の国より信用できないと言っているんじゃない。私は共産主義者だからこそ、ソ連について何も疑うなと言われる方がおかしいと思っている。社会主義は国家を巨大にするための思想ではなく、人間を金と土地を持つ者の支配から自由にするための思想だ。」


ラウルが珈琲を置いた。


「強い国家がなければ、その自由はアメリカに潰される。」


「その通りだ。」


ゲバラは即座に認めた。


「だから難しい。国家は必要だ。軍も工場も計画も要る。だが、それを守ること自体が目的になれば、何のために革命をしたのか分からなくなる。」


フィデルは、二人の間に置かれた日程表へ視線を落とした。


ラウルが見たのは、革命を国家として守るために必要な強さだった。


ゲバラが見たのは、その国家が強くなる過程で、革命が見失いかねない人間だった。


どちらか一方が正しいのではない。


キューバには、その両方が必要だった。


「向こうの人間は、どんな人たちだった。」


フィデルが訊くと、ラウルは少し表情を緩めた。


「われわれが映画で見ていたロシア人とは違う。よく笑うし、酒も飲む。軍人は真面目だが、宴会が始まれば歌う。」


「冷たい機械のような人間ばかりではなかったか。」


「少なくとも、ウォッカを飲んだ後は機械ではない。」


ゲバラが横から言った。


「その前から機械じゃない。官僚の机が機械みたいなだけだ。」


ラウルが呆れたように息を吐いた。


「おまえはロシア語を覚えたのか。」


「革命に必要な単語は覚えた。」


「いくつだ。」


「同志、砂糖、機械、もっと寄越せ。」


フィデルが声を立てて笑い、秘書のセリアも書類へ目を落としたまま肩を揺らした。


「ラウルは何を覚えた。」


兄に向けられた質問に、ラウルはしばらく真面目な顔で考えた。


「戦車。」


ゲバラは天井を仰いだ。


「やはりな。」


「地下鉄も見た。」


「地下を走る戦車だと思ったんだろう。」


ラウルは反論しかけたが、兄が笑っているのを見ると、珈琲を飲んで諦めた。


「二人の話を聞いても、同じ国のことを話しているようには思えない。」


フィデルが言うと、ラウルは少し考えてから答えた。


「同じ国だから、両方あるんだよ。」


ゲバラは、その言葉には反論しなかった。


「だから、自分の目で見る価値がある。」


※※※※※※※※※※


秘書のセリアが訪問予定を読み上げ始めると、地名は一枚目の紙だけでは終わらなかった。


ムルマンスク、北方艦隊、モスクワ、ヴォルゴグラード、タシケント、サマルカンド、イルクーツク、ブラーツク、スヴェルドロフスク、レニングラード、キエフ。その先にも共和国と都市と視察先が並び、外交訪問というより、広大な連邦を横断する巡回旅行に近かった。


フィデルは途中で手を上げた。


「私は、帰してもらえるのか。」


秘書のセリアは紙から目を離さないまま答えた。


「予定では、六月初めに。」


「予定では、か。」


「四十日近くあります。」


ラウルは日程表を覗き込みながら、少し嬉しそうに言った。


「国を全部見せたいんだろう。」


ゲバラは一枚目を持ち上げ、その下にまだ二枚あるのを確かめた。


「国だけじゃない。体制を見せたいんだ。」


フィデルは、地名の列をもう一度眺めた。


工場、艦隊、集団農場、発電所、研究施設、共和国、首都、戦争で破壊されて再建された都市。ソ連側は一度の握手と会談だけで関係を修復するつもりではなく、自分たちが作り上げた国家を端から端まで見せ、キューバがどれほど強い相手と同盟を結んでいるのか、身体で理解させようとしている。


歓待であり、教育であり、ソ連の腕の中へキューバをもう一度深く抱き込むための旅でもあった。


「向こうは、私に何を見せたいと思う。」


フィデルが尋ねると、ラウルは迷わず答えた。


「革命が国家として成功した姿だ。」


ゲバラは、日程表を元の位置へ戻した。


「それから、成功した国家には教師になる権利がある、ということだろう。」


「学ぶことはある。」


ラウルが言った。


「あるさ。」


ゲバラも、そこは否定しなかった。


フィデルは招待状を折り直し、封筒へ戻した。


アメリカの封鎖に耐えるためには、ソ連の石油と市場が必要だった。島の防衛には武器と軍事的な後ろ盾が要り、工業化を進めるには機械、技師、融資、教育の協力が欠かせない。


頭越しに危機の出口を決められた怒りを理由に招待を断れば、誇りは守れても国民の生活を危険へさらす。反対に、英雄としての歓待へ酔えば、ミサイルを持ち込んだ時も撤去した時も、キューバの意思が後回しにされた事実を忘れることになる。


「行く。」


フィデルは、二人と秘書のセリアへ向けて言った。


「強さがどこから来るのか、何を代価に作られているのか、自分の目で見てくる。われわれが学ぶべきものも、向こうがキューバを何だと思っているのかも、書類ではなく人間を見て確かめたい。」


ラウルの顔に明るさが戻り、ゲバラは静かに頷いた。


秘書のセリアが予定表へ印をつける横で、ゲバラは長い日程をもう一度眺めた。


「帰国するころには、ロシア語を覚えているかもしれない。」


フィデルは、先ほどの四語を思い出して答えた。


「同志、砂糖、機械、もっと寄越せ。」


ラウルが笑った。


「それだけあれば、ほとんどの会談は始められる。」


※※※※※※※※※※


一九六三年四月二十七日、ソビエト連邦北西部、ムルマンスク近郊。


窓の外には、白と灰色の大地が広がっていた。


雲の切れ間に雪原が現れ、その向こうには凍りついた海と、低い建物、軍用施設、まっすぐに延びる滑走路が見える。キューバを発った航空機は北大西洋を越え、春になっても冬の残る土地へ降りようとしていた。


機体が大きく揺れ、車輪が滑走路へ近づいたものの、地面がはっきり見えた瞬間、エンジン音が強まり、機首は再び雲へ向いた。


最初の着陸は断念された。


二度目も、白い滑走路が窓の下を斜めに流れたところで、機体は上昇へ転じた。同行者たちの表情が硬くなるなか、フィデルは窓へ顔を寄せ、雪に覆われた土地を見下ろしていた。


「歓迎にしては、ずいぶん手荒いな。」


誰かが笑い、客室に張りつめていた空気がわずかに緩んだ。


三度目に、車輪が地面を強く叩いた。機体は左右へ揺れ、逆噴射の音が客室を満たしたが、長い減速の末にようやく速度を落とした。


扉が開くと、ハバナの湿った暑さとはまるで違う冷気が機内へ流れ込み、肺へ吸い込んだ空気が内側まで冷やすように感じられた。


フィデルはオリーブ色の軍服の上に外套を着込み、タラップへ出た。


雪の残る滑走路には、ソ連軍の将校、政府関係者、北方艦隊の士官たちが並び、その先頭にミコヤンが立っていた。


人なつこい笑顔は、ハバナで別れた時とほとんど変わらなかった。


帽子を押さえながら近づいてきたミコヤンは、寒さの中でもゆっくりと手を差し出した。


「ソビエト連邦へようこそ。」


「着陸を許してもらえないのかと思いました。」


フィデルが答えると、ミコヤンは声を立てて笑った。


「われわれの国は、最初の入口から簡単ではありません。」


二人は握手した。


存在しない法律について、どちらも口にしなかった。


ミコヤンは妻を失いながらハバナへ残り、核兵器を持ち帰り、米ソの合意とキューバとの同盟を同時に壊さず任務を終えた。フィデルはその嘘を暴かず、代わりに通常兵器、訓練、段階的な撤収、軍事と経済の支援を引き出した。


互いに、相手が何をしたのかを理解している。


それでも、握手の中にあった親しみまで嘘ではなかった。


政治の計算と人間の好意は、同じ手の中に入り、そのどちらか一方だけを取り出すことはできなかった。


空港から市街地へ向かう道路には、厚い外套や毛皮の帽子を身につけた人々が並び、ソ連とキューバの小旗を振っていた。雪の残る歩道で何時間待っていたのか分からない者も多く、車列が近づくと、凍えた手を上げてフィデルの名を叫んだ。


国家によって組織された歓迎であることは分かっていた。


だが、人間の表情まで命令だけで作ることはできない。


アメリカのすぐそばで革命を成功させ、ピックス湾の侵攻を退けた男を、自分の目で見たいと思っている者もいた。西側の映画が作った、笑わないロシア人の姿とは違い、沿道の人々は声を張り上げ、子供たちは車列を追い、大人たちは互いに押し合いながら笑っていた。


フィデルは車の窓を開けた。


冷たい風が車内へ流れ込み、同乗者が慌てて外套の襟を立てたが、彼は窓から身を乗り出すようにして手を振り続けた。


一人の少年が、片方の手袋を落としたことにも気づかず車列を追いかけている。


その姿を見ながら、フィデルは、自分がソ連の市民にとって何を意味しているのかを初めて知った。


キューバの指導者であるだけではない。


アメリカの目の前で社会主義革命を守り抜いた、遠い国の証明だった。


※※※※※※※※※※


翌日、フィデルは北方艦隊と原子力砕氷船レーニン号を案内された。


港には雪空と同じ灰色の艦艇が並び、甲板では水兵たちが正確な間隔を保って整列していた。巨大な船体、砲塔、通信設備、潜水艦の黒い影が、ソ連という国家の軍事的な奥行きを言葉より雄弁に示していた。


砕氷船の内部へ入ると、若い技師が原子炉と蒸気機関の仕組みを説明した。


石炭も大量の重油も積まず、原子の力で北極海の氷を割り、長期間にわたって航路を開き続ける。計器盤には無数の針と灯りが並び、太い配管が壁と天井を走り、複数の工場と研究施設で作られた部品が、一隻の船の内部で結びついている。


フィデルは説明が専門的になっても急かさず、通訳に意味を確認し、計器や配管を別の角度から眺めながら質問を重ねた。


「この船は、どこで作られた。」


「船体はレニングラードです。原子炉と機器は、複数の都市にある工場と研究所が分担しています。」


一隻の船を造るために、いくつもの都市、大学、工場、鉄道、技師たちが国家の計画によって結ばれている。


ラウルの言葉通りだった。


兵器も船も、それだけで存在するのではなく、国家全体が一つの大きな機械となり、それぞれを自分の一部として動かしている。


フィデルは、一九五九年に訪れたアメリカを思い出した。


ニューヨークの高層建築、夜になっても消えない広告、何車線もある道路を埋める自動車、ホテルの部屋に置かれたテレビ、店の窓を埋める電化製品と衣服。アメリカの技術は、これを買えば生活が便利になり、これを持てば他人より豊かになれると、個人の欲望へ直接語りかけていた。


欲望が市場を動かし、市場が工場と研究所を動かす。


ソ連の技術は、それとは違う言葉を使っていた。


国家が必要としている。


社会全体が前へ進む。


一人の所有ではなく、人民全体の力になる。


広告の代わりに計画表があり、商品の売上ではなく、生産量と航続距離と国家目標が語られていた。


アメリカでは商品が人間を動かし、ソ連では国家の計画が人間を動かしている。


違う仕組みでありながら、どちらも驚くほど大きな力を生み出していた。


案内役は、原子炉の前で働く一人の若い技師を紹介した。


ウクライナの農村に生まれ、学校で優秀な成績を収め、国費で大学へ進み、原子力工学を学んだ後、北方艦隊へ配置されたという。


「自分で、この船を希望したのか。」


フィデルが尋ねると、技師は通訳の言葉を聞いた後、少し考えてから答えた。


「国家が、私を必要とする場所へ送りました。」


その声に不満はなく、むしろ、自分が大きな仕事の一部であることへの誇りがあった。


「寒くないか。」


「寒いです。」


若い技師は、その時になって初めて笑った。


「ですが、この船がなければ北の航路は開きません。自分の仕事が何のために使われるか分かるのは、よいことです。」


フィデルは頷いた。


強制されている人間の顔ではない。


国家の目的を自分自身の目的として受け入れ、教育を与えられた代わりに、その能力を社会へ返すことを当然だと考えている。


そこには美しさがあった。


同時に、国家が誤った方向へ進んだ時、この青年がどこで自分の意思を取り戻せるのかという疑問も残った。


「家族は。」


「妻と娘がレニングラードにいます。年に二度、帰ります。」


技師はそれ以上を語らず、案内役は原子炉の説明へ話を戻した。


フィデルは、若い男の油に汚れた手を見た。


アメリカなら、この能力は高い給与や大きな家や企業の利益へ結びつくのかもしれない。ソ連では、国家が教育を与え、必要な場所を決め、本人も自分を社会全体の一部として受け入れている。


人間と国家を結ぶ枠組みそのものが違っていた。


どちらが優れているかという一つの物差しでは測れない。


キューバにも技師が必要だった。発電所、農業機械、防空設備、工場、医療機器を、自分たちの手で作り、修理できる人間が要る。アメリカの資本と企業に従わなくても、そこへ到達できる道があることを、この船は確かに証明していた。


しかし、キューバ革命は国家の設計図から始まったのではない。


土地を失った農民、安い賃金で砂糖を作る労働者、学校へ通えない子供、医師に診てもらえない家族、自分たちの国でありながら外国資本の利益のために働かされてきた人々の生活から始まり、その生活を変えるために国家を作ろうとしていた。


ソ連では、すでに完成した国家が、人間へ必要な役割を与えているように見える。


キューバでは、人間の暮らしから国家の役割を決めなければならない。


その違いを、砕氷船の巨大さとともに受け入れてしまってはならなかった。


歓迎の宴で、北方艦隊の司令官はソ連海軍の力と、必要であればキューバを守るために戦う覚悟を語った。


フィデルは礼を述べ、水兵たちの規律、技師たちの能力、氷を割って進む船の技術を称えた。その言葉には一つも嘘がなかった。


砕氷船は見事だった。


艦隊は強く、水兵たちの誇りも本物だった。


ただ、見事であることと、キューバがそのまま目指す未来であることは同じではない。


その違いを、フィデルはまだ言葉にはしなかった。


※※※※※※※※※※


四月末、フィデルを乗せた航空機はモスクワへ向かった。


北方の雪原が遠ざかり、窓の下に道路、工場、集合住宅、鉄道が増えていくにつれて、地上に引かれた線は規則正しくなり、巨大な国家が土地へ自分の形を刻んでいるように見えた。


モスクワの空港には、ムルマンスクを上回る群衆と、赤い旗、キューバ国旗、軍楽隊、党と政府の幹部、報道用のカメラが待ち構えていた。


タラップの下には、フルシチョフが立っていた。


写真で見るより小柄で、禿げ上がった頭と丸い顔、分厚い外套の袖から伸びた太い指には、スターリンの肖像にあった冷たい威圧感がない。フィデルがタラップを降り始めると、待ちきれないように数歩前へ出た。


「ようこそ、フィデル。」


その声と笑顔には、本物の喜びがあった。


フルシチョフは、近づいてくる男の若さを改めて見ていた。


三十六歳。


髭と軍服のために写真では年長に見えるが、ソ連指導部の誰より若い。その男が山から下り、バティスタ政権を倒し、アメリカの目の前で革命を宣言し、ピックス湾の侵攻を退けた。


核危機の最中にも、モスクワの判断を待つだけではなく、自分の情報から侵攻までの時間を数え、大国へ要求を突きつけた。


若いが、扱いやすい若者ではない。


フルシチョフの笑顔が、さらに深くなった。


フィデルは、その変化を見逃さなかった。


好意、安心、好奇心、そして値踏みが、同じ表情の中に混ざっている。


差し出された手を握ると、掌は厚く、温かかった。


フィデルは、アメリカの大統領と握手をしたことはなかったが、アメリカという国の力は知っている。富、商品、企業、映画、広告、軍隊によって人間の欲望を動力へ変え、世界中へ自分の仕組みを広げていく力だった。


目の前の男が率いる国には、別の力がある。


計画、工場、鉄道、軍隊、教育、研究所を一つの国家目標へ結びつけ、人間を同じ方向へ進ませる力。


二つの大国は、まったく異なる方法を使いながら、どちらも世界を自分の腕の中へ抱こうとしていた。


「長い旅になります。」


フルシチョフが言った。


「あなたには、われわれの国をできる限り見てもらいたい。」


「すべてですか。」


「見終わるころには、もう少し滞在したくなりますよ。」


フルシチョフは笑いながら、フィデルの肩へ腕を回した。


カメラのシャッターが一斉に鳴り、群衆の歓声が強くなる。


フィデルも笑顔を返した。


親しみやすい男だった。


だからこそ、注意しなければならない。


キューバの安全を保証し、石油、機械、武器を送ることのできる同盟国の指導者でありながら、キューバの土へ核兵器を置き、キューバへ相談しないまま撤去を決めた大国の指導者でもある。


フルシチョフは、そのままフィデルを強く抱き寄せた。


フィデルも抱擁を返したが、右足だけは、相手の身体に引かれないよう半歩後ろへ残していた。

フルシチョフは、強権的なレーニン時代を生き抜いたしたたかな政治家でした。


若い英雄がフルシチョフに英雄として迎えられます。


8月以降週三回投稿に変更予定。

初週は不規則で

8月1日の土曜日夜

8月2日の日曜日夜

に投稿予定です。


次回は明日夜投稿です。


その後は水・金・日の夜に投稿していく予定です。

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