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16話 明日死ぬとしたら、生き方が変るのか?お前らの生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なのか?

連載を初めて、20日ほど。

最近急にこの作品の舞台の中南米がニュースになってきました。

あくまでも政治的な意図はございません。

砦は、思ったより小さかった。

小さいのに、でかい。

小さい箱の中に、村の命が詰め込まれてるみたいな感じだ。


俺たちは砦を落とす。

戦術なんて美しく言わない。腹を空かせた者が、腹を空かせたまま走るだけだ。


銃声。

叫び。

木の破片。

石の粉。

血。


音が多すぎて、逆に静かになる瞬間がある。

鼓膜が疲れると、心が勝手に遠くへ逃げる。逃げた心の代わりに、体だけが動く。


「右!」

ラウルが叫ぶ。


俺が頷く。

頷いた瞬間、火薬の匂いが喉に貼りついた。


ゲバラが走る。

走り方が綺麗じゃない。

喘息の体で走ると、綺麗に走れない。

それでも走る。あいつはいつもそうだ。


砦の門が倒れた。

倒れる音は、意外と軽い。

軽いのに、胸が重くなる。


中にいた連中が逃げる。

逃げる背中に撃つな、とゲバラが言った。

俺は歯を食いしばって従った。従うだけで腹が立つ。腹が立つほど、ゲバラの判断が正しいのが分かる。


砦の奥から、袋が出てくる。

豆。粉。薬。靴。

村の腹になるもの。


ミゲルが袋を抱えて笑う。

笑って、叫ぶ。


「やった!」


その声は勝利の声だった。

少年の勝利の声。

その声だけで、俺はこの夜を許してしまいそうになる。


許してはいけないのに。


俺はミゲルの肩を叩いた。

強く叩きすぎて、ミゲルがよろけた。


「痛っ」

ミゲルが笑う。


笑える。

今は笑える。


ゲバラが近づいてきて、ミゲルの頬を指で拭った。

泥か血か分からないものを拭う。

その手つきが、医者の手つきで、兵士の手つきじゃなくて、胸が熱くなった。


「良かったな」

俺が言うと、ゲバラは短く返す。


「良くない」

「……だが、必要だ」


必要。

その言葉は祝福じゃない。現実だ。



砦を落として、夜明け前に引いた。

勝っても、長居すると死ぬ。

勝利は、いつも長居を許さない。


村へ戻る途中、俺たちは少しだけ立ち止まった。

焚き火を小さくして、息を整える。


そのときだ。

後ろから、足音が来た。


速い。焦ってる。

嫌な足音。


俺は銃を上げかける。

だが来たのは、村の男だった。

顔が青い。息が切れてる。言葉が追いついてない。


男は俺たちの前で膝をついた。

膝をつくってのは、報告じゃない。祈りだ。


「……フィデル」

男が俺の名を呼ぶ。

名を呼ぶまでが長い。長いときは、良い報告じゃない。


俺の腹の奥が冷えた。


「何だ」

俺は言った。声が自分のものじゃない。


男は口を開く。

開いて、閉じる。

開いて、閉じる。


言えない。

言うと終わるからだ。


「……ミゲルが」

男が言った。


ミゲルが、と言った瞬間、ミゲルが笑って俺の横にいるのが見えた。

見えたのに、いない。

そのズレで頭が変になる。


「……帰り道で。」

男が続けた。

「……撃たれた。遠くから。誰か分からん。」


誰か分からん。

その言葉が一番残酷だ。

敵の顔がない。憎む場所がない。憎めないまま残る。


ラウルが息を吸って、吐けなかった。

吐けない息は泣きに似てる。


ゲバラは、その場で動かなかった。

動かない。固まらない。

ただ、目の焦点だけが少し遠くなる。


「……どこだ」

ゲバラが言った。低い声。怒鳴らない声。


男が指を差した。

村のほう。

夜のほう。


ミゲルは、もう村にいる。

俺たちの勝利の袋と一緒に、ミゲルは冷たくなってる。


俺は一歩、前に出た。

前に出た理由は分からない。

出ないと倒れそうだったからかもしれない。


「命だ!」

俺は言った。

喉が痛い。言葉が引っかかる。


「命だ。……17だぞ!それも、俺たちが巻き込んだ」


言ってしまった瞬間、胸の奥が破れる感じがした。

破れたのに、涙は出ない。

涙が出ると、俺は指揮官じゃなくなる。


「巻き込んだんじゃない。」

ゲバラが言った。

否定じゃない。直しだ。


「……選んだ。そう、ミゲルは、選んだ。」


俺はゲバラを見る。

腹が立つ。

その正しさが、腹が立つ。


「選ばせたのは誰だ?」

俺は言った。

声が低くなる。低い声は、怒りだ。


ゲバラは逃げない。

逃げないから、余計に腹が立つ。


「俺たちだ」

ゲバラが言う。

「……だから、俺たちは絶対に止まれない。」


止まれない。

その言葉は、剣だ。

正しい剣は、味方も切る。


ラウルが口を開いた。

開いて、閉じた。

弟はここで言葉を出すと壊れるタイプだ。壊れると戻れない。


俺は空を見た。

空は黒い。

星がある。星があるのが腹が立つ。こんな夜に、星がある。


俺は言った。


「ひとりの死に構っていられないって言うのか?」


ゲバラは一拍置いた。

嘘を混ぜないための一拍。


「言わない」

ゲバラ言った。

「……構う」


俺の喉が詰まった。

ゲバラが続ける。


「構う。構って、それでも進む。進まないと、次は十人死ぬ。次は百人死ぬ。」


数字が出た。

数字が出ると、現実が冷たくなる。

冷たさが、救いになるときがある。嫌な救いだ。


「たとえば、明日死ぬとしたら、生き方が変るのか?お前らの生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なのか?」


俺は葉巻を取り出した。

手が少し震えて、火がうまくつかない。


それっきり、ゲバラが何も言わず、火を近づけてくれた。

その手つきが、優しいのに乱暴だった。


煙が上がる。

煙が上がると、虫が離れる。

虫が離れても、ミゲルは戻らない。


ゲバラが煙を吸う。

一口だけ。

咳を飲み込む。

飲み込み方が、いつもより荒い。


俺は言った。

自分に言った。ゲバラに言った。ミゲルに言った。


「革命は命がけだ!……当たり前だ。分かってる。」


分かってるのに、分かってないみたいに痛い。

痛いのに、進まないともっと痛い。


チがゲバラ、俺を見た。

目が冷たい。冷たいのに、俺の中の熱を見ている目だ。


「フィデル」

ゲバラが俺の名を呼んだ。呼び捨てじゃない。だが距離は近い。


「お前が命を抱えるなら、俺は、その命の数を抱える。」


数。


命を数にする言い方が嫌で、俺は殴りたくなる。

だが殴れない。殴ったら、俺たちはここで終わる。


俺は息を吸って、吐いた。

吐いた息が白い。寒い。


「……俺は国を作る。」

俺は言った。

「そのために、命を抱える。」


ゲバラが頷く。

そして言った。


「俺達は、進む。

進まないと、死が無駄になる」


無駄。

その言葉を、ミゲルに使ってほしくない。

だがゲバラは、ミゲルを“無駄”にしないために言っている。


俺は分かった。

こいつは冷酷じゃない。

こいつは、優しさを切り刻んで、武器にしている。


武器にしないと、生き残れないから。


焚き火の匂いが遠くなった。

村の匂いが近づく。

豆の匂いじゃない。

死の匂いが、近づいてくる。


俺たちは歩き出した。

葉巻の煙が、夜に薄く残った。


その煙の向こうで、ミゲルの笑い声だけが――

まだ、耳に残っていた。

タイトルはゲバラの言葉とされるもより引用。


ミゲルに対してのカストロとゲバラの違いが明確になってきました。本人たちはつながってるんだろうけど二人も役割という鎖につながれているんですね。


キューバ革命では多くの兵士が日本で言う社会人以下の年齢だったそうです。

日本でも、戦争の末期はそうでしたよね。

キューバ革命『祖国か、死か!』というスローガン。

言葉の力って言いも悪いもいえませんね。


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