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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
二人の英雄の友情と別れ(前編)
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156/214

155,アンタッチャブル

カミロがいなくなった後キューバ革命政権のバランスが変わっていきます。

国家の体裁は保ちつつ離脱者もでる中、アメリカ帝国主義の影がキューバにも忍び寄ってきます。他の中南米の国々のように―

しか子敵の存在ががキューバの革命政権を皮肉にも結束させていきます。

カミロが消えたあと、島の上には二つの影が残った。


カストロとゲバラ。


だが、その二つの影だけを見ていては、キューバという島の危うさは分からない。


地図を広げれば、それはすぐに見えてくる。


北米大陸の南には、巨大なメキシコ湾がある。湾と呼ぶにはあまりに広く、海そのものに近い。だが、その出口は、湾の大きさに比べれば狭い。


北からは、フロリダ半島が南へ長く突き出している。西には、メキシコのユカタン半島がある。そのあいだに、カリブ海と大西洋へ抜ける海の道が開いている。


その出口の前に横たわる大きな島が、キューバだった。


首都ハバナからフロリダ南端のキーウェストまでは、直線でおよそ百七十キロ。国家と国家の距離としては、あまりにも近い。周囲には、バハマ諸島、ジャマイカ、ハイチとドミニカ共和国のあるイスパニョーラ島など、カリブ海の島々が連なっている。


その中でも、キューバは特別だった。


メキシコ湾の出口に横たわり、フロリダのすぐ南にある。アメリカ南部の港から船を出す者にとって、その島は遠い異国ではない。海路の前に置かれた島であり、喉元にある島だった。


だからアメリカにとって、キューバは思想の問題である前に、安全保障の問題だった。


民主主義か。独裁か。選挙があるか。新聞が自由か。


そうした言葉は、もちろん表では語られる。だが、帝国の地図は別の問いを先に置く。


親米か。


反米か。


港を守り、海路を守り、企業の利益を守り、反共の防波堤を並べる。その論理の前では、軍事政権でもよかった。腐敗した政権でもよかった。海の向こうの大国に従い、秩序を乱さず、港と資本を脅かさない政権ならば、緩衝地としては扱いやすかった。


中南米では、そうやっていくつもの政権が扱われてきた。


ある政権は取り込まれた。ある政権は孤立させられた。別の政権は、軍や地主や企業や情報機関の手を通じて、別の形へ作り替えられた。ワシントンの言葉は、いつも自由や安定や反共を語った。だが現地の人々から見れば、それはしばしば、自分たちの土地と主権を海の向こうの都合に合わせて折り曲げられることだった。


その代表が、グアテマラだった。


中米のグアテマラで、土地と主権を語る政権が生まれたとき、アメリカはすでに一度、力を見せていた。アレン・ダレスのCIAは、秘密工作、心理戦、亡命者、飛行機、ラジオを組み合わせ、アルベンス政権を追い詰めた。選挙で生まれた政権であっても、アメリカの安全保障と企業の利益に触れれば、倒されることがある。


グアテマラで、それは起きた。


ならば、キューバで起きないはずがなかった。


しかも今回は、グアテマラの比ではない場所だった。


フロリダのすぐ南。


メキシコ湾の出口。


アメリカの喉元。


そこにあった親米政権が倒れた。


ハバナは、リゾートとカジノとホテルと砂糖と土地と歓楽を通じて、長く海の向こうの金と結びついていた。マフィアの影も伸び、バチスタ政権は、キューバ人のための国家というより、アメリカから見て都合のよい秩序を守る政権でもあった。


カストロたちが倒したのは、ただの独裁者ではない。


アメリカの喉元に置かれていた、親米秩序の一角だった。


新しい革命政権は、最初から反米を旗にしていたわけではない。少なくとも、勝利の瞬間に、アメリカとの全面対決だけを目指していたわけではなかった。彼らが語ったのは、まずキューバの土地であり、砂糖であり、学校であり、病院であり、主権だった。


だが、帝国の地図はそれを別の言葉で読んだ。


親米ではない。


ならば、危険である。


新聞を読むアメリカ人なら、その気配を感じただろう。バチスタ政権の背後にあったものを知るキューバ人なら、なおさら分かっていた。海の向こうは遠くない。亡命者たちはそこにいる。資金も、訓練も、情報機関も、ラジオの声も、すべて届く距離にある。


介入は、可能性ではなかった。


時間の問題だった。


革命は勝った。


だが、勝った革命は、地図の上でアメリカの喉元に立っていた。


その島を守るために、カストロはますます国家の声にならなければならなかった。


その革命を腐らせないために、ゲバラはますます革命の倫理にならなければならなかった。


そして、その二人のあいだで笑うはずだったカミロの椅子は、もうそこになかった。


※※※※※※※※※※


カミロの椅子は、会議室に残っていなかった。


誰かが正式に片づけたわけではない。椅子そのものは、別の者が使ったかもしれない。だが、そこに座るはずだった男の気配は、もう戻らなかった。


会議室の空気は、以前より乾いていた。


カストロは、長く話すようになった。言葉は熱を帯び、部屋の外にいる群衆まで届くように広がっていく。彼が話し始めると、異論は言葉になる前に小さくなる。誰もが、彼の声が島をつないでいることを知っていた。


ゲバラは、以前より厳しくなった。


資料の数字を見逃さない。報告の曖昧さを許さない。革命という言葉で怠慢をごまかす者を嫌った。喘息を抱えた身体で、誰よりも早く現場へ行き、誰よりも遅くまで残った。


二人は必要だった。


だから、危うかった。


カミロがいれば、誰かの緊張を冗談でほどいたかもしれない。カストロの長い演説のあとで、わざと的外れなことを言って部屋を笑わせたかもしれない。ゲバラの厳しさに、兵士の靴底を見せながら、理論より先に足が壊れるぞと言ったかもしれない。


だが、その声はなかった。


革命は静かになった。


その静けさは、平和ではなかった。


※※※※※※※※※※


革命政府の内側には、まだ違いがあった。


最初から共産主義や社会主義による社会改造を革命の芯に置いていた者たちがいた。ゲバラやラウル・カストロがその側にいた。彼らにとって、革命は独裁者を追い出すだけでは終わらない。土地、学校、病院だけでも足りない。人間の働き方、富の分配、国家と民衆の関係そのものを変えなければ、革命は中途半端に止まる。


一方で、民族自立と反独裁を出発点にした者たちもいた。


彼らはキューバを取り戻したかった。外国資本に握られた土地と砂糖、海の向こうの都合に従わされてきた主権、バチスタの暴力で黙らされた政治。それらをキューバ人自身の手に戻すことが、彼らの革命だった。


その違いは、山ではひとまず後ろへ退いていた。


同じ敵がいたからである。


勝利後も、最初はまだ話せた。ウルティアのように法の言葉で異議を唱える者がいた。ディアス・ランスのように空の椅子を空けて去る者がいた。マトスのように辞表を書く者がいた。


対立は見えていた。


だから処理できた。


だが、カミロが消えたあと、見える対立は少なくなっていく。


誰もが学んだからである。


言葉は紙になる。紙は旗になる。旗は銃を呼ぶ。


そのことを、マトスの辞表が教えた。カミロの飛行計画が、もっと重い形で教えた。


会議室で、ある中堅幹部が口を開きかけたことがあった。彼はシエラで戦った男だった。胸には誇りがあり、目には疲れがあった。ゲバラの報告に異論があった。作業計画が厳しすぎる。兵士も労働者も、人間だ。そう言いたかった。


だが、彼は言葉を飲み込んだ。


窓の外では、海からの風が書類を揺らしていた。百七十キロ先にはフロリダがある。そこには亡命者がいる。反革命を語る声がある。ラジオがあり、資金があり、訓練がある。


今ここで反論すれば、どの言葉で読まれるのか。


不満か。


異論か。


それとも反革命か。


彼には分からなかった。


だから黙った。


その沈黙は、彼一人のものではなかった。


※※※※※※※※※※


ハバナの街には、勝利の名残がまだあった。


壁には革命の標語があり、広場には演説を聞いた人々の記憶が残っている。学校へ通い始めた子どもがいた。診療所の前で順番を待つ農民がいた。地主のものだった土地を耕しながら、初めて自分の名で未来を語る者がいた。


革命は、生活を変えていた。


だから人々は守りたかった。


カストロが演説すれば、彼らは耳を傾けた。長すぎると言いながら、最後まで聞いた。彼の声には、島全体がまだ折れていないことを確認させる力があった。


ゲバラが現場へ来れば、彼らは背筋を伸ばした。怖かった。だが、同時に誇らしくもあった。司令官が本当に来る。喘息を押して、自分たちと同じ泥の上に立つ。その事実は、人々の不満を黙らせる力を持っていた。


二人は遠い神話ではなかった。


生活を守る顔だった。


カストロがいるから、島は折れない。


ゲバラがいるから、革命は腐らない。


人々はそう信じた。


その信頼は、本物だった。


だが、本物であるほど、触れにくくなる。


カストロに疑問を向けることは、島の結束に疑問を向けることに見えた。ゲバラの厳しさを批判することは、革命の倫理そのものを弱めることに見えた。


誰も命令しなくても、二人は高い場所へ上がっていく。


外からの圧力が強まるほど、二人は必要になる。必要になるほど、誰も触れられなくなる。


アンタッチャブル。


その言葉は、まだ誰の口にもなかった。


だが、空気はすでにそうなっていた。


※※※※※※※※※※


海の向こうから届くものが増えていった。


ラジオの声。


亡命者の噂。


沿岸で見つかる不審な動き。


港の労働者が耳にする船の話。


農村に流れる、近いうちに戻ってくる者たちがいるという囁き。


それらは一つ一つなら曖昧だった。誰が言ったのか分からない噂も多い。大げさな話もあった。だが、全部が嘘ではなかった。


フロリダは遠くない。


カストロは、その近さを知っていた。


カミロの不在を埋めるために、彼はさらに言葉を必要とした。島を一つにする言葉。敵が来るときに、誰も後ろを向かないための言葉。迷いを恥じさせるのではなく、迷いより先に祖国を置かせる言葉。


演説の準備をしているとき、セリア・サンチェスが書類を持って入ってきた。


セリアは、革命の表舞台で声を張る人物ではなかった。だが、グランマ号上陸の準備からシエラの連絡網、補給、記録までを支え、カストロのそばで革命の実務と沈黙を見てきた女だった。


彼女は、カストロが机の上に置いた葉巻に火をつけていないことに気づいた。手に取っては戻す。その繰り返しだった。


セリアは、亡命者の動き、沿岸警備の報告、港の警戒をまとめた紙を机の端に置いた。


「海からの報告です。確かなものと、まだ噂に近いものを分けておきました。港の方は落ち着いていますが、落ち着いているから安全とは言えません。」


カストロは報告書を一枚めくった。紙の端が指に引っかかり、彼は同じ箇所をもう一度読み直した。


「海が近すぎる。報告書の中身が噂でも、噂そのものは本物だ。人々が何かを感じている。外から何かが来ると分かっているから、まだ形のないものまで見ようとしている。」


セリアは黙って彼を見ていた。


カストロは、火のついていない葉巻を机に置いた。


「カミロがいれば、今ごろ何か馬鹿なことを言っていたはずだ。俺がこの紙を睨みすぎているとか、敵が来る前に葉巻の方が先に干からびるとか。そういう無駄な言葉が、部屋にいる人間を少しだけ普通に戻してくれた。」


セリアは、返事の代わりに、ずれた書類を整えた。


カストロは続けた。


「今は、その無駄を俺の演説で埋めなければならない。長くて、暑苦しくて、逃げ場のない言葉だ。みんなを立たせるための言葉であり、同時に、黙らせるための言葉にもなる。外が来る以上、内を割らせるわけにはいかない。だが、そのために飲み込まれる声があることも、もう知らないふりはできない。」


セリアは、カストロの手元を見た。葉巻はまだ火を待っている。灰皿は空だった。


「あなたがそれを忘れないなら、まだ記録する意味があります。」


カストロは彼女を見た。


セリアは、机の上の報告書に目を落とした。


「忘れた指導者のそばでは、記録は飾りになります。忘れない指導者のそばでは、記録は重荷になります。私は、重い方を残します。」


カストロは少しだけ息を吐いた。


その言葉は慰めではなかった。だから効いた。


国家を守る声は、人々を守る。


同時に、人々の声を小さくする。


その矛盾を、彼はもう知らないふりはできなかった。


※※※※※※※※※※


ゲバラは、別の場所で同じ圧力を見ていた。


工場、兵舎、港、農地。


どこへ行っても、革命は人手を必要としていた。機械は足りない。燃料は足りない。熟練工は足りない。だが、敵が来る気配だけは十分にあった。


彼は、報告書の数字を見ながら、現場の男たちの手を見た。


油で黒くなった指。


サトウキビで切れた掌。


古い銃を分解する若い兵士の震える手。


その震えを、彼は臆病とは呼ばなかった。


人間は震える。


それでも立つから革命になる。


カミロなら、ここで冗談を言ったかもしれない。震える手を見て、銃より先に飯を持たせろと言ったかもしれない。兵士を笑わせ、その笑いの中で立たせたかもしれない。


ゲバラには、それがうまくできなかった。


だから彼は、別のやり方を選ぶ。


規律。


労働。


訓練。


自分がまず前に立つこと。


喘息で息が鳴っても、彼は歩いた。誰よりも早く現場へ行き、誰よりも強く働く。人々はそれを見た。怖さと尊敬は、しばしば同じ顔をしていた。


ある若い兵士が、銃の点検で手間取っていた。ゲバラは近づき、無言で銃を受け取った。分解し、汚れを指で示し、組み直して返す。


兵士は顔を赤くした。


「すみません、司令官。」


ゲバラは、銃を兵士の手に戻したあと、分解した部品の一つを指で叩いた。


「謝罪で汚れは落ちない。君が覚えるべきなのは、申し訳なさではなく、次に同じ失敗をしない手順だ。敵は、君が反省している間にも撃ってくる。だが、君が覚えれば生き残る。君が生き残れば、君の家族も、この島も、少しだけ強くなる。革命は大きな言葉でできているように見えるが、最後はこういう手元で決まる。」


兵士は黙って頷いた。


ゲバラは、その手から銃を取り上げなかった。もう一度、自分で組み直すよう視線で促した。


彼の厳しさは、人を追い詰める。


だが、人間への愛がなければ、そこまで厳しくはなれない。


カミロが笑いで人を立たせたなら、ゲバラは要求で人を立たせる。


そのどちらも、革命には必要だった。


だが、片方はもういなかった。


※※※※※※※※※※


夜、カストロとゲバラは短く会った。


窓の外には、ハバナの灯りがあった。遠くから、車の音と人の声が混じって聞こえる。街は眠りきっていなかった。革命後のハバナは、いつもどこかで誰かが起きていた。


机の上には、沿岸警備の報告と、民兵の配置図があった。


カストロは、地図の一点を指で押さえていた。海岸線に、小さな印がいくつもついている。確かな情報だけではない。噂も混じっている。だが、噂が増えること自体が、島の緊張を示していた。


ゲバラは椅子に座らず、壁際に立っていた。火のついていない煙草を指先で転がしている。彼はしばらく地図を見ていた。カストロが何を恐れているのかは分かっていた。外から来る敵より先に、内側の沈黙が深くなることを恐れている。だが、それを言葉にしすぎれば、国家を守るための演説は少し弱くなる。


「外が来る以上、内側を割らせるわけにはいかない。そこは俺も同じだ。だが、君がこれから使う言葉は、味方を立たせるだけでは済まない。誰かに黙る理由も与える。島を守るためには必要だとしても、その沈黙が消えたわけではないことは覚えておくべきだ。」


カストロは、地図から目を離さなかった。


「忘れるつもりはない。だが、今は島を残すことが先だ。港が落ち、空港が使われ、亡命者が戻れば、沈黙どころでは済まない。革命そのものが、彼らの言葉で書き換えられる。」


ゲバラは煙草を唇に挟んだが、まだ火をつけなかった。


「その判断は正しい。正しすぎるほどだ。だから危ない。正しさは、ときどき人間を配置図に変える。兵士、労働者、農民、官僚。名前を失った瞬間、革命は守るべき人間を忘れる。」


カストロは、そこでようやくゲバラを見た。


二人の間に、短い沈黙が落ちた。


カミロがいれば、ここで何かを言ったかもしれない。二人の顔を見比べて、真面目な男が二人いると部屋の温度が上がりすぎる、とでも言ったかもしれない。そうすれば、二人は一度笑い、また話し始められたかもしれない。


だが、今は誰も笑わせなかった。


カストロは、指で押さえていた地図から手を離した。紙には、指の跡がわずかに残った。


「怖くないと言えば嘘になる。外から来る敵より、内側に沈むものの方が見えにくい。だが、怖いから止まれるほど、この島は遠くにない。フロリダは近い。亡命者も近い。俺たちの迷いまで、海の向こうは読みに来る。」


ゲバラは、そこでようやく煙草に火をつけた。煙は細く上がり、地図の上を流れた。


「なら、その怖さだけは捨てるな。怖さを失えば、国家は人間をただの配置に変える。君がそれを覚えている限り、俺は君の隣に立つ。外が来るなら、ここで割れるわけにはいかない。」


カストロは何も言わなかった。


返事の代わりに、彼は沿岸警備の報告書をゲバラの方へ押した。ゲバラはそれを受け取り、紙面に目を落とした。


残された二人は、残されたやり方で互いを支えるしかなかった。


※※※※※※※※※※


島は固くなっていった。


港では、労働者が積み荷を見ながら海を気にした。漁師は沖の影を以前より長く見るようになった。農村では、ラジオの音量が少し上がった。学校では、教師が子どもたちに革命の意味を語りながら、窓の外の空を見た。


民兵が集められた。


古い銃が整備された。


若者たちは、ぎこちない手つきで銃を構えた。


母親たちは、それを誇りに思いながら、夜には心配した。


勝った革命は、暮らしを変えた。だが、その暮らしを守るために、また銃が必要になっていた。


この矛盾を、誰も笑えなかった。


それでも、人々は集まった。


カストロの声を聞くために。


ゲバラの姿を見るために。


二人は、革命の二つの顔になっていった。


カストロは、島を折れさせない声だった。


ゲバラは、革命を腐らせない倫理だった。


二人のどちらかを疑うことは、今や革命の防衛そのものを疑うことに近くなっていた。


だから、誰も簡単には触れられない。


触れれば、島の結束に触れることになる。


触れれば、外敵の前で裂け目を作ることになる。


外敵は、革命を壊そうとしていた。


だが、その圧力は同時に、カストロとゲバラを誰も触れられない場所へ押し上げていった。


アンタッチャブル。


その言葉は、まだ誰の口にもない。


けれど、島はすでにその意味を知っていた。


※※※※※※※※※※


一九六一年四月が近づいていた。


海の向こうでは、戻る日を待つ者たちがいた。革命に奪われたものを取り戻すと信じる者。自分たちこそキューバを救うのだと信じる者。海の向こうの力を借りれば、島はすぐにひっくり返ると思う者。


キューバ側にも、その気配は届いていた。


船の噂。


訓練の噂。


上陸の噂。


誰も全体を見ていたわけではない。だが、島は感じていた。何かが来る。海の向こうで組み上がったものが、やがてこちらへ向かってくる。


カミロは、もういない。


マトスは、もう外にはいない。


ウルティアの椅子も、ディアス・ランスの空も、過去のファイルの中にある。


残ったのは、カストロとゲバラだった。


二人は、強くなった。


必要になった。


代わりがきかなくなった。


そして、代わりがきかないものは、いつか誰も触れられなくなる。


夜明け前の海は、まだ静かだった。


だが、その静けさの向こうで、ピックス湾の事件の影が近づいていた。

次回から、四話に分けてキューバからみたビックス湾事件を描いていきます。

資料が多いことから、ピックス湾事件とキューバ危機はアメリカ編から描きましたが、資料の中から推測できるキューバ側からのアメリカとの対立を描いていきます。


※更新は、月・木・土曜日(朝・夜)二回の週4話です。


次回は、月曜日の夜、投稿予定です。


【お知らせ】長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しました。


改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)


改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿です!)


ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


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