14話 キューバ革命~村へ(ゲバラ医師と少年たち)~
ゲバラとカストロのキューバ革命編です。
キューバに12人のみの生存で革命を起こすことになったカストロ。カストロは葉巻タバコ。ゲバラも喘息もちなのに葉巻。
かなり今回はかなりフィクション入ってます。
朝になってもジャングルは明るくならない。
ただ色が増える。増えた分だけ、目が疲れる。
ラウルは歩く。膝をかばう歩き方で。見てるこっちの膝が痛くなる。
ゲバラは横につかない。少し前を歩く。振り返らない。振り返ったらラウルが患者になるからだ。たぶん。
「膝、固めるな。」
ゲバラが言った。
「腫れる」
「分かってる」
ラウルが言う。
分かってる顔じゃない。分かってても、止められない顔だ。
ゲバラは俺を呼ぶ。
「水」
俺は水袋を投げるみたいに渡した。
受け取る指が一瞬触れた。偶然だ。気にしない。気にしたら負けだ。
ゲバラは飲まずにラウルへ回す。
ラウルが慎重に飲む。慎重なのに必死だ。
「……村は、まだあるのか」
ラウルが言った。
「ある」
俺は即答した。即答したかっただけかもしれない。
「あるはずだ」
歩いているうちに、匂いが変わった。
焼けた油。古い汗。腹の空いた匂い。
村が近い匂いだ。
木が開けて、道が見えた。
裸足の足跡がある。小さい。子どもの足だ。
俺たちが踏み込んだ瞬間、視線だけが集まった。
子どもの視線が多い。大人は少ない。いるのに奥に隠れてる。
「……兵隊?」
小さな声。言ったのは少年だった。十二、十三くらい。
目は強いのに、頬が痩せてる。強い目は、ここでは生き残る目だ。
俺は両手を見せた。
武器を捨てるつもりはない。だが、ここで威嚇しても意味がない。
「味方だ。」
俺は短く言った。
「腹が減ってるなら、俺たちも同じだ。」
少年は笑わない。笑えるほど余裕がない。
ゲバラが一歩前へ出た。
銃じゃなく目で距離を測る歩き方をする。医者の歩き方だ。
「怪我は?」
ゲバラが問う。
少年たちが互いを見る。
嘘をついたら損、って顔をしてる。損得で生きてる子どもの顔は、胸にくる。
「……母ちゃんが」
少年が言って、家の影を指した。
女が横たわっていた。顔が青い。唇が乾いてる。
虫に刺された跡が腕にいくつもある。熱がある。呼吸が浅い。
ゲバラは躊躇せず膝をついた。
怖がる間がない。怖がる間がない強さは、見ていて腹が立つ。救われるからだ。
ゲバラが女の手首に触れる。
「水は?」
誰も動かない。
動けない。水が貴重すぎる。
俺は水袋を外して置いた。置いた瞬間、空気が少し動く。
ゲバラは女の顎を持ち上げ、ほんの少しだけ水を含ませた。荒い。優しくない。だが救う手つきだ。
「葉は?」
ゲバラが言う。
「煎じる。飲ませる」
少年が走った。すぐ戻ってきて乾いた葉の束を差し出す。
ゲバラは歯で噛んで匂いを確かめた。
「……これでいい」
鍋は小さい。火は弱い。
俺が薪を足す。ラウルが手伝う。膝が痛いのに手は動く。弟はそういう意地の張り方をする。
少年たちは固まって見ている。
見ているだけで、腹が減るのが分かる。
薬湯ができる。
ゲバラは女に飲ませる。強引だ。女がむせる。
「息を合わせろ」
ゲバラが言う。
「吐け。吐いたら吸え」
女が咳をして、吐いて、吸う。
吸った瞬間、目が少しだけ開いた。
村の空気が、ほんの少しだけ戻る。
「……すげえ」
少年が声を押し殺して言った。
ゲバラは笑わない。
「すごくない。遅いだけだ。もっと早くやれてれば死ぬ奴は減る」
その言い方が刺さる。
刺さるのに、ここでは正しい。
俺は少年に聞いた。
「名前は」
「ミゲル」
「ミゲル。腹は減ってるか?」
ミゲルはすぐ頷かない。誇りがある。
誇りが折れると、戻らない。
「……減ってる」
「食えるようにしよう。」
俺は言った。
「食えるようにするには、取られないようにしなきゃならない。」
少年たちの目が揺れた。
“取られる”が日常の目だ。日常を疑う目だ。
ゲバラが立ち上がる。
女のほうを一度だけ見る。死にかけの呼吸じゃない。まだ戻れる呼吸だ。
ゲバラが言った。
「カストロ。……ここは逃げ場所じゃない。
ここが最初の砦になる」
俺は頷いた。
線を引くなら、ここだ。
ミゲルが言う。
「……俺たちも、やれる?」
ラウルがミゲルを見る。膝は痛いのに、目だけ真っ直ぐだ。
その目が、少年の背中を押す。
俺は言った。
「やれるかどうかは、お前が決める。」
「決めたら、戻れない。」
ミゲルは唾を飲み込み、頷いた。
その頷きで、村の空気がまた少し変わった。
ゲバラが小さく咳を飲み込む。
俺は水袋を、彼の手元に置いた。置いただけだ。触れない距離で。
ゲバラは礼を言わずに水を飲んだ。
飲んで呼吸を整える。
俺は思った。
ここで人は兵士になるんじゃない。
ここで人は“生きる側”に回る。
そして俺たちは、村の少年たちに――
生き方の順番を教えることになる。
ほぼフィクションです。
でも、実際のキューバ革命の話をネットで調べて書いてみました。
ゲバラとカストロの個性の違い、同じ革命家なのにその信念の違い表現できれたら嬉しいです。
次回、小さなクライマックスがあります。




