11話 十二人も残った 【キューバ革命M- 7-26 編】
キューバ革命。当時800万人のキューバ傀儡政府に82人で上陸を狙う。しかし待ち伏せ作戦によりほぼ全滅・・・そこに残ったのは12人の革命だけ。その中にはカストロや軍医チェゲバラもいた。
最悪だ。
波が胃をひっくり返す。吐きたいのに吐けない。吐いたら音になる。音は撃たれる。
砂浜に落ちた瞬間から、もう上陸じゃなかった。投げ捨てだ。
銃声が雨を割る。砂が跳ねる。人が倒れる。倒れたやつの声が――出かけて、そこで切れる。
俺は腹ばいになって這った。泥が靴を奪って、荷物が背中を沈める。
銃が冷たい。手の感覚が薄れていく。なのに離せない。
「動け!」
怒鳴ったつもりはない。喉が勝手に鳴っただけだ。
声が割れると怖さが移る。だから短くする。合図だけ。
波が足首をさらう。口に砂が入ってじゃりっと歯に当たる。
咳が上がる。俺は飲み込む。胸が熱くなる。熱いのに寒い。雨のせいだ。たぶん。
背後で、靴を引きずる音がした。
引きずる音は嫌だ。怪我の音だ。
「兄貴!」
弟の声。ラウル。
俺は振り向きたくなって、半分だけ振り向いた。全部振り向いたら数えてしまう。数えたら折れる。
暗がりにラウルがいた。額に濡れた髪が貼りついて、膝を押さえてる。
くそ。こんなときに“弟”に見えるな。
「伏せろ!」
「……動ける。けど」
膝がやられてる。歩き方が遅い。遅いと狙われる。
俺が外套を掴んで引こうとした瞬間、横から手が伸びた。
「止まれ」
低い声。咳を飲み込んだあとみたいな声。
ゲバラだ。
ゲバラは俺の腕を掴んで止めた。強い。乱暴なくらい。なのに揺れない。
次の瞬間、弟の膝に手を置く。
「外れてない」
俺が何か言う前に、ゲバラが言った。
「……でも、このままじゃ歩けない」
ゲバラは弟の膝を挟んで、ぐっとねじった。
ラウルが声を殺す。殺せたのが奇跡だ。
「今だ。立て」
ゲバラが言う。医者の言い方じゃない。戦場の言い方だ。
ラウルが歯を食いしばって立つ。ふらつく。俺は手を伸ばしかけて止めた。ここで支えたら、弟は“守られる側”になる。
代わりに、背中を押した。
押して、前へ出させた。
俺たちは木の影へ転がり込んだ。
銃声が少し遠のく。代わりに聞こえるのが、息だ。自分の息と、他人の息。
……数えたくなる。
だめだ。数えたら壊れる。
でも、止まった瞬間に数字が落ちてきた。
十二。
八十二が、十二。
誰かが膝をつく。誰かが笑いそうになって失敗する。
ラウルは座り込んで膝を押さえる。ゲバラは吸い口を出しかけて、出さない。こいつ、弱さを見せない。だから俺も見ないふりをする。
水袋を探して渡す。ゲバラじゃなく、まずラウルに。
ゲバラが短く頷く。礼じゃない。確認だ。
俺は立った。足が震える。怒りなのか疲れなのか、よく分からない。
言わなきゃ散る。
散ったら終わる。
俺は言った。
「十二に人も生き残ればバティスタの野郎もおしまいだ!」
誰かが鼻で笑った。いい。笑えるなら、まだ生きる。
ラウルが掠れた声で言う。
「合言葉は……」
俺は頷いて、あえて低く言った。
「――祖国か、死か」
残ったやつらが、喉の奥から声を絞る。
「祖国か、死か!」
叫ぶな。叫ぶと軽い。
でもこの夜は、軽くなるのが怖かった。
俺は息を吸って、南へ歩き出した。
村へ。ここから先を、現実にするために。
82人の革命軍が上陸時すでに12人。
ここからどうやって大国を責めるのか。
だいたい、青梅市が関東から独立するみたいなきぼですね。。




