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13.謁見!王宮と舞踏会⑤

「せっかく色々案を出しても、人に手柄を譲ってしまうんですのね。カイ様は、各所に貴方の功労だと説明したがっていましたわ」

「いや……オレは思いつきを言うだけで、実行したのは皆さんでしたし。ちょっとした雑用しか出来てないです」

「まったく……相変わらず無欲ですこと。あるいは、この程度の賞賛では満足しない、という欲深さなのかしら」

「まさか」

「今日この場で、彼女達から選べとは言いませんけど、王子の側近見習いとなった貴方に興味のある子は大勢いますわ」

「なんなんですか、それ」

「早い話しが、出世を見込まれているということ。貴族の中でも、婚約者が定まっていない令嬢も居ますし、平民の子にも貴方は眩しく映っているはず」

「パプリカ村出身で、平民のオレが?」

「いいえ。カイ王子の側近見習いとなり、シズル様にも信頼を得ている優等生、でしょう?」

 優等生、という言葉に苦笑いする。先日の試験の結果が数日前に出ていたが、わざわざ人の順位まで見るものなのか。

 オレは確かに、歴史以外の科目ではなんとか一桁の順位へ入っており、総合でもピタリと十位になっていた。

これは、生徒会室での勉強のお陰としか言いようがない。

あとは、前世も含めると相当数の試験を受けてきたことによる、経験値からの効率的な勉強法とか、そんな感じの所謂ズルのようなもの。

「――――まあ、嫌われるよりはいいですが」

 複雑な気持ちで、思わず目を逸らす。素直に喜ばないのもネリィにはお見通しだったようで、クスクスと笑われた。

 

 ラストダンスを終え、閉会の挨拶は生徒会長であるシズルが締めた。

多忙なはずの国王も、退席の挨拶をする参加者達に応えながら、最後まで会場で過ごしていた。

 やがて招待客が全て捌けた頃、カイに呼ばれた。

「国王陛下――――いえ、父上。俺の側近見習いとなった、ハヤテです」

 前触れもなく呼ばれたせいで、片付け用のチェックリストを片手に、タキシードの上を脱いで腕まくりまでした格好だった。

シズルが冷たい目で見ているのがわかる。

カイは、オレに言われたくはないだろうが、身なりに無頓着過ぎる。自分にも他人にも。

 ヨレた姿だが引くに引けず、仕方なくオレはヴォイドに課外授業で習った礼をする。

「ハヤテと申します。ご挨拶が遅れ、誠に申し訳ございません。現在、カイ様のもとでお世話になっております」

「なるほど、噂通り肝が据わっている。側近の仕事はどうだ?」

どこでどんな噂がされているのか、めちゃくちゃ気にはなるが、問いかけられる訳もない。

「学内で、ヴォイド=グランド先生に師事して学んでおります。浅学非才の身ではありますが、カイ様のお力になれるよう精進しております」

「そうか、ヴォイド家の末息子か。今日も参加しているのを見掛けたが、物を教える立場になっているとはな」

「セラ王子の側近候補であったと伺っています」

「ああ。優秀だったが、結局側近にはならなかった。……そうだな。王子にはそれぞれ側近が付くが、居なくても国政はできる。何故だと思う?」

試すような物言いだが、怯んではいけないと、国王の目を見据えて返す。

「国務大臣をはじめ、他にも優秀な臣下がいらっしゃるから、でしょうか」

 素直に出てきた、当たり障りのない言葉のつもりだった。

しかし、国王の目が見開かれる。横に居るカイが、息を呑んだのが分かった。

何か失言をしたのなら撤回したいが、しかしその理由も分からない。

冷や汗が背中を伝った。

「――――ふむ。その見方もある」

 飲み込むように頷くと、国王は静かに目を伏せる。そして横の護衛に声を掛けると、オレを見た。

「側近試験では、私との面接もある。年が明ければカイにも公務が増えるし、年内には試験を受けると良いだろう。学業も大変だろうが、畑違いのことでもない。励みなさい」

「は……ハイ。光栄です」

そして国王は、ゆるりと王宮の奥へと戻って行った。

 何かまずい事を言ったのだろうか。国王の最後の言葉は激励のように聞こえたが、どうなのだろうか。

カイは、表情を固くして黙ったままだ。

 最後となったオレとカイは、エリク達と共に馬車へと乗り込む。

こういう日でも、カイは王宮に泊まらずに屋敷へ帰るんだなと、ぼんやり思ってしまった。

「カイ様……オレ、」

「――――子供の頃。俺が未だ一番年下だった頃に、父との会食があった。二歳か三歳の俺は、当然その場で話を理解することなどできなかったが、折に触れてその時の話が出てくるから印象には残っていてな。王は孤独なものだ、と話していた」

「孤独……」

「父上には側近も居るし、兄弟が臣下として仕えてもいる。後宮には妻達もいて、俺達は息子のはずだが、それでも父上はそう言った」

 側近が必要ないと言ったあの言葉は、王業とは一人で為すものだから、というのが答えだったのだろうか。

 王にとっての、側近の価値。オレには見当もつかなかった。

けれどあの場の雰囲気から察するに、その孤独を理解することが第一に求められていたのかも知れない。

 キリシュやフィデリオなら、ヴォイドなら、正解をスラスラと言えたんじゃないだろうか。オレと違って。

 国王との面接までになんとかしておけ、という意味の激励だと思えば理解出来る。

 大きなトラブルがなかった事自体は良かったが、無駄に気張って寝不足から休んだり、国王陛下との挨拶でポカしたり、オレ個人としてはなかなかに最悪な気分だった。

 何より、カイの期待に応えられていないことが、胸に来る。

せめて、カイの評価を下げてしまってないだろうか。元々上手くできると思っていた訳でもないが、それでも積んできた努力はあるわけで、そのギャップに落ち込まないほど強くもない。

 カイはそれ以上は黙ってしまい、窓の外を見ているようだった。エリク達が、こちらを心配している雰囲気は伝わってくるが、雰囲気を変えるような言葉も思い浮かばない。

 

 その夜は、目を閉じると王宮のシャンデリアや宝飾品のギラギラとした輝きが瞼に浮かぶようで、体の疲れの割になかなか寝付けなかった。

次話、舞踏会を終えたハヤテは『夏休み』をカイと離れて過ごすことに。


『転章.登場人物まとめ-第3回-』と続けて、引き続きお楽しみください。

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