13.謁見!王宮と舞踏会④
「諸君――――」
国王は、朗らかな調子で挨拶を始めた。
平民の生徒は元より、貴族でも階級によってはなかなか直接言葉を聞くことがない存在。
「――――今後、我が国を動かしていくのは、多彩な能力を持つ君達のように優秀な人材だ。ありきたりな言葉ではあるが、どうか国の発展のため、学園の中でも外でも様々なことを吸収して活躍して欲しい」
来賓の貴族に向かってそれを見守ってほしいと言う挨拶で締めると、拍手が湧き起こる。
楽団が演奏を始め、あちこちでダンスのペアが組まれた。
一曲目が始まった。
国王が現れてカイと会話する状況は予想外だったものの、舞踏会は順調に進んで行った。
カイの周りにも、生徒達や来賓客が次々と挨拶に訪れている。
本当は横に控えておくべきと思ったが、代わりにエリクがすぐ近くに居るのが見えた。
今日は休んでおけと言うカイからのメッセージを感じ、オレは控え室へと下がった。
喧騒から離れてソファに腰を下ろすと、あっという間に眠気に襲われる。
「――――まさか、あの予算で開催してしまうとは驚きましたね」
「国王陛下があんなに機嫌良くされているのは、初めて見た」
「サラサ嬢も凄いですが――――カイ様は、ハヤテの案を素直に取り入れすぎじゃないですか?」
「結果うまく行ったから良いが、大胆な判断だ。元々の器なのかどうか……」
話し声が聞こえて、瞼を持ち上げる。
反射的にアクビも出ると、話していた二人がこちらを見た。
キリシュとフィデリオだ。
「えーっと?」
「ああ、目が覚めたか。もうすぐ最後のダンスだから、声を掛けに来た」
「お二人で?」
「――――まあ、私達も休憩がてらな。シズル様とカイ様は、陛下とご歓談中だ」
蝶ネクタイとスカーフタイプのタイをしている二人は、首元をそれぞれ緩めていた。やはり、半日以上盛装のままシズルの横に付くのは気苦労も多いのだろう。
「お二人が此処にいるということは、特にトラブルもなかったんですね」
時計を見ると、一時間以上が過ぎていた。
寝起きの感じはあるものの、頭はスッキリしている。
「そうだな、大きなことはなかった。飲み物が溢れてドレスが汚れたとか、歓談中にヒートアップして言い争いをする令嬢なんかはいたが」
「あと、サラサ嬢へダンスを申し込む順番争いとか」
「……結構、色々あったんですね」
オシャレをして優雅にダンスを踊り立食パーティーで歓談するだけと思っていたが、小さないざこざは起きていたらしい。
両腕を組んで頭上に伸ばし、首を左右に捻って体を起こしていく。いい加減、仕事に戻らなくては。
ダンスホールに戻ると、カイとネリィが踊り終わった所のようだった。順番待ちが発生していたというサラサは、ヴォイドと踊っていたようで、両者とも視線を集めていたのが分かる。
これでラストダンスだったのかと思ったが、キリシュから次で最後だと耳打ちされた。
中央から戻ってくるカイと、目が合った。オレは反射的に、お辞儀をする。今日は側近として、なかなかの失態を演じてしまった自覚がある。
「カイ様、申し訳ありませんでした」
「休まったか?」
「お陰様で」
「うん……顔色は良いみたいだな」
ホッとした表情が伝わって来て、申し訳ない気持ちの中に、少し温かな気持ちにもなった。カイの言う通り、独りよがりな行動でキャパオーバーしていた情け無いオレに、カイは心配と安堵を真っ直ぐに見せてくれる。
そんな風に話していると、周りからの視線を感じた。
やはりどの令嬢も、王子衣装のカイのギャップにテンションが上がっているのだろう。
そんなつもりで見ていたが、カイからは視線が返される。
「気付いてないのか?彼女達はお前を待っていたようだ」
「ハ?」
何かオレの仕事で、令嬢達に対して必要なことがあっただろうか。ドレスの返却については周知してあるし、引換券も渡してあるし、と回転が戻ってきた頭で考える。
しかしその思考の間に、カイからは呆れたような溜息が返ってきた。
「そう言えば私も、ハヤテさんの行方を何度か聞かれましたね」
「私もだ。――――随分と人気のようだな」
キリシュとフィデリオが、笑い含みに言う。オレは、間の抜けた表情でしか返せない。
平民のオレに、何を期待していると言うのか。
「あ、あの、ハヤテさん!次のダンス、わたくしと踊ってくださらない?」
「いえ、私と是非」
「あなた達、ハヤテさんとクラスも違うのでしょう?私は何度もお話ししたことがあるのよ」
実際に声を掛けられると、冗談や揶揄でもなさそうで、困惑が一層深くなる。
確かにクラスメイトも多いが、教室とは打って変わってテンションが高い。
「ラストダンスだし、一曲くらい踊った方がいい」
まじか。
ダンスなんてどうでも良いが、此処での立ち振る舞いは重要そうな気がしてしまう。
側近見習いの男がどの令嬢と踊るべきか、なんて当然ゲームのシナリオにはない話だ。
喧騒が少し大きくなった時、
「失礼しますわ」
凛とした声が聞こえると、人だかりが一筋、左右に割れた。
「ハヤテさん、わたくしと一曲如何です?」
豪奢なドレスと、それに負けない美貌を湛えた、ネリィがそこに居た。
婚約者であるカイの目の前で、平民の男を誘って良いのだろうか。
そう思ったが、ネリィのこれは助け舟だとすぐに分かった。
突然のモテ期に困っている同級生に、文字通り救いの手を差し伸べてくれたのだろう。
ネリィの指先を手に取り、軽く足を折って応える。
「是非、ワタシと踊ってください」
「ええ」
周りからは本当にガッカリしたような溜息と、納得したような声が聞こえて来て、オレ自身への注目に驚かざるを得ない。
すぐに曲が始まり、オレは居た堪れない気分でネリィと組む。
「スミマセン、正直オレ、ダンスは殆どやってなくて……」
「でしょうね。足運びだけで十分ですわ。ホールドだけは崩さずに」
「ハイ」
どの令嬢の手を取っても顰蹙だったところを、圧倒的に上位貴族であるネリィの誘いによって断れないテイにしてくれたのは、助かった。しかもネリィは、オレのどうしようもないダンスのフォローまで完璧にこなしてくれる。
あれだけ注目を浴びた後だけに、目立たない程度には踊れているように見えることが有り難かった。




