26.決着!第四王子の側近④
「……なるほど、全て善意と受け取りますか……」
ミュジカが、呆れたような口調で呟いた。
オレも内心でおや、と引っ掛かっていた。
カイはノリスの言い分に乗っかって煽っている訳ではなく、言い分を純粋に信じた上で抗議しているようだった。
相変わらずな悪意への鈍感さは、危ういけれど眩しく感じる。
「もう良い、カイ。ノリスは、ハヤテの力を借りて変わって行くお主のことが恐ろしかったんだろう」
「なんだと?」
「違うとは言わせん。侮っていた筈が思った通りに進まぬことに焦って、ケラールトに声を掛けたんだろう」
ノリスは国王を睨んだ後、カイを見て、そしてオレと目を合わせた。『お前さえいなければ』とでも罵られるだろうか。
そんな覚悟をしてみたが、ノリスはなぜかオレに、皮肉のない笑みを浮かべた。
「……そーゆーことで、構わない。で、おれはどうしたら良いデスカ?国王サマ。法律は軽くしか勉強してないけど、死刑?拷問?」
腰に手を当てて斜に構えたノリスの開き直りに、しかし国王は煽られたりはしなかった。
表情を崩さず、暫く思案するように目を閉じる。
「確かに、お主の“弟思い”を罰する法はない。よって、国王としての私が責を負って判じよう」
スッと息を吸い、言葉が続く。
「カイ、ノリスの処遇はお主が決めて良い。――――側近ハヤテと一緒に、考えなさい」
「俺達が決めて良いんですか?」
「ああ。結論が出るまでは、ノリスは王宮に謹慎とする。今の状態で他国に置く訳には行かないからな」
自然と、カイと目を見合わせる。
ノリスは面倒臭そうな表情ではいるが、落ち着いた表情を崩さない。恐らく何処かからは、予測の範囲内だったんだろう。
「――――以上で、解散とする。ハヤテ、カイのことを宜しく頼む」
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その後国王は、そそくさと応接間から去ってしまった。恐らくスケジュールが押してるんだろうな、と何となく察してしまう。
ノリスとミュジカには、エンゲンが声を掛けて連れ出して行くのが見えた。ケラールトもまた、別の執事に促されて退室していく。
「ハヤテ」
カイに呼ばれて振り返る。
「色々とあるが……まずは、試験合格おめでとう」
「ありがとうございます」
お互いに少し、複雑な表情をしていて笑えてしまう。
「ハヤテ、お疲れ様。これで君は、王立学園の奨学生ではなくなるね。王子の側近である以上、平民生徒と同じ扱いにはできないし」
横からセラが、祝いの言葉に続けてくる。
「――――その代わり、という訳じゃないが。ケラールトのことは、私が少し心に留めておこう。寮暮らしでも彼自身が頑張れるなら、試験次第で来年から編入できるようにとかね」
「ありがとうございます。俺はもう、ケラールトには何も出来ない……するべきではないと思ったので」
「そうだね。今回のことは王宮内でのことだが、貴族達の耳にも入るだろう。暫くは騒がしいかもしれないけど……お前の側近が何とかしてくれるかな」
ウィンクして見せるセラには、苦笑いで返しておく。王立学園を騒がせてくれるな、というプレッシャーを掛けられているようだ。
「ハヤテ、顔に出ているぞ。……学内のことは、生徒会長として私も力になるつもりだ」
「シズル様……ありがとうございます」
王子達に囲まれて、顔面の圧がすごい。
見慣れたつもりでいても、テーブル越しですらない至近距離では腰が引けてしまう。
「……あ。ネリィ様」
輪から視線を泳がせると、困ったような表情でネリィがこちらを見ていることに気付く。少し珍しい表情だ。
「一緒に話……せませんね、これじゃ」
オレは腰が引けた序でに体を輪の外に逃がすと、ネリィに向き合う。この状況で令嬢がズイズイと話に加わる訳には行かないんだろう。
「あの、ハヤテさん……おめでとうございます。きっと貴方のことだから、喜ぶよりも次のことばかり考えているんでしょうけど」
「ハハ……図星です。実感がないような、ただただ今までの日常が続いて行くような気分で」
「貴方は、カイ様の側近になることを目的にはしていませんでしたものね」
「まあ――――ハイ。そうですね。権限がやっと備わっただけ、というか。責任もですけど」
「相変わらず、可愛げのないこと。もう少し素直に喜んだり、ホッとしたり、しても良いのではなくて?」
「スミマセン。でも、ホッとはしてます。その……」
「え、あの……っ?」
流石にこの距離では口に出せず、かと言って肩や背中に触れる訳にも行かず、指先だけでネリィの袖を引く。
王子達を背に少し距離を取り、声を顰めた。
「……これで、ネリィ様は望まぬ婚約をせずに済みますか?」
「!」
「側近であってもオレが平民なのは変わりませんし、急に大変身できる訳じゃないですけど。もし側近としてのオレが力になれるなら、何でも言ってください」
「…………それは、わたくしがカイ様の婚約者候補だから……?」
「いえ。貴方がオレの、大切な学友だからです」
不敬と言われそうだが、学内平等なのだから許されたい。それなりに勇気を出して伝えたオレの言葉に、ネリィは少し頬を染め、笑顔を見せてくれた。
「お友達でも……言い切ってくださって、嬉しいです。わたくしも貴方のように、やるべきことを成していきますわ」
差し出された手に、握手を返す。昨日とは違い、華奢な手なのに力強さを感じる。
真っ直ぐ射抜くような視線はどこか挑戦的にも思えて、押し負けないように見つめ返すのが精一杯だった。
「っと、なんだ?」
後ろからバサバサと音がして、ネリィと揃って振り返る。
「あ、俺の物です」
床には紙が散らばっていた。反射的にオレも体が動いて、しゃがんでそれを拾い集める。
「カイ様、これ……」
「ああ、“準備”をしていた。使わずに済んだけどな」
メモ書きには、矢印や囲み、表が含まれているのが見えた。
「フフ……なるほど」
「“ハヤテの成果”に、“今後の予測”……シズル、これの意味が分かるのか?」
「ええ。この二人のお家芸です」
セラの不思議そうな表情と、シズルの呆れたような笑い顔。カイははにかむだけで、隠すようにメモ書きを上着にしまい直す。
オレは不覚にも、グッと来てしまった。
とにかく実力を示さなくてはと、側近試験に挑んで来たものの、自己責任でなんとかするしかないと思い込んでいた。
しかしカイも、いざという時にはプレゼンするつもりで備えてくれていたらしい。
「ハヤテ、すまない。ハヤテなら大丈夫だ、と思ってはいたけどな。万が一の時、自分に出来ることもせずに後悔するのは嫌だったから」
「いえ……スミマセン、ショックとかじゃないです。嬉しいだけです」
感情の処理が追い付かず固まったオレを見て誤解させてしまったようで、慌てて首を振る。気が緩んだ顔を見せたく無くて、顔が上げられなかった。
「……それ、貰ってもいいですか?」
「これを?ただのメモ書きだぞ?」
「ください」
オレとカイの、これまでとこれからが綴られたメモだ。これ以上の褒賞品などないと思った。
「俺の側近になってくれて、ありがとう。また力を貸してくれ」
「勿論です」
次話、エピローグ




