26.決着!第四王子の側近③
「諸君。……思わぬ顔も揃っているな。まさかカイの側近一人を選ぶだけのことに、皆が揃うとは思ってなかった」
いや、本当に。
仰々しいイベントのようだが、最下位王子が、逃げられていた側近を一人取り戻すだけの話に過ぎない。随分大仰なことになってしまって、オレは肩身が狭いような気持ちになる。
でも一方で、誇らしいような気持ちもあった。
カイの存在を、各王子達が意識している。それだけでも、一緒に動いてきたことが報われたような気持ちになっていた。
「結論から言おう。――――カイの側近は、ハヤテとする」
国王の声は明快だった。
先ほどあれだけ怒らせてしまったが、間違いないのだろうか。
思考が追い付かずに固まっていると、横からネリィの息を呑むような声が聞こえた。
「……よ、かった……っ」
彼女の横顔に視線を向けようとしたが、被るように大きな声が聞こえて、反射的に体ごとそちらを見る。
「ふざけないでください!何故ですか、ノリス様!?」
立ち上がったのはケラールトで、凄い形相でノリスを見ていた。
ケラールトがノリスの名を呼んだことの違和感に、セラとカイが怪訝な表情を見せる。国王は意外にも、淡々とした表情を崩さない。
「あ――――やっぱりダメか」
「言われた通りにしたんだ!だってそうすれば、僕は元の生活に戻れるって……なんで……ッ!」
「残念だったナ」
ノリスが冷たく言い放つと、ケラールトはパクパクと口を開き掛けては、言葉に詰まって閉じるのを繰り返した。地団駄を踏む仕草と、握り締めた拳が痛々しい。
しかしここで、オレがケラールトを庇ったり慰めることは出来ない。それ以外に何か、出来ることはないだろうか。
「ノリス。お主、何をした?」
国王が静かに、ノリスに問う。
「ケラールトの出した作文も、私との面接で話したことも、以前お主から聞いたような話しばかりだった」
「おれの話したことを、アナタが覚えてるんですか?」
「ああ、勿論だ」
落ち着いた声と厳しい表情に威厳を感じる一方、オレは国王から、緊張を感じていた。
やはり、第一王妃と第二王妃の確執から来ているものなのだろうか。国王には、ノリスの傍若無人を受け入れないといけないような、負い目があるのではと邪推したくもなる。
「別にそんな、メクジラ立てなくても。ちょーっとだけ、情報が早めに耳に入ったんでアドバイスしただけデス。セラお兄様やシズルお兄様と同じように、弟が心配で」
演技めいた言い方が癪に障るが、その真意を聞き出すためにどうしたらいいのか。
オレがこれまでに聞いたのは、いずれも確証のない、事実が分からないことばかりだ。しかもオレは、カイの側近だ。他の王子のことを簡単に口にする訳にはいかない。
事実を知る者。王子と対等に話せる者。
この場でノリスと話すための条件は……。
ジリジリとした気持ちで半分無意識で視線を向けた先には、カイがいた。ケラールトと国王、そしてノリスの三者を見た後、視線が合う。
カイはオレに頷いて見せると、席を立って歩み出た。
――――此処に、いた。
「ケラールトは何故、戻って来てくれたんだ?」
カイはまず、ケラールトに向き合った。国王とノリスの意識もそちらに向いたのが分かる。
「……カイ様に側近がいなくなって、平民のハヤテくんを頼るしかない状況で、大変だと聞いて……」
「俺を心配してくれたのか」
「そ、そうです!もちろん!」
「いつから?そして、それはノリス兄様から聞いたのか?」
「あ、あの…………ミュジカさんから……たまに」
「ミュジカと連絡を取っていたのか」
「…………ハイ」
ケラールトの声が小さくなる。
彼は漸く、過ちに気付いたようだった。
「なるほど……一つだけ、聞きたかった。何故ノリスから話を聞いた時、俺の元には相談してくれなかったんだ?」
「えぇと……その、ノ、ノリス様が言うなって……!だってほら、カイ様も驚いてしまうでしょ?側近たるもの、主を煩わせず、一人でなんでも片付けないと!」
「俺は、そうは思わない」
落ち着いた声色で、真っ直ぐに言い切る。
“ひと言遅い”と言われていた頃が嘘のようだ。
「ハヤテは俺に纏わることは報告して、共に考える機会をくれる。俺の思考や判断力が未熟で頼りないと思ったのかも知れないが……それでも俺は、ケラールト自身から話して欲しかった」
ケラールトはそこでやっと、カイの表情を見つめ返したようだった。
「カイ様……ご立派になられましたね。以前とこんなに変わられたのに気付かず……僕は、自分が仕えようとしていた方を、正面から見ることすら出来ていなかったのか……」
「“心配”や“カイ様のため”を口にした時点で、ケラールトの行動は矛盾してるね。そう“思い込まされてしまった”のかな?」
横から口を出したセラの視線は、ミュジカではなくノリスに向いている。
自嘲するように力無く笑った後、ケラールトは肩を落とし、握り締めていた拳が解かれる。
カイはその肩を慰めるように軽く叩くと、体ごとノリスの正面に向き直った。
「ノリス兄様は、何故ケラールトにそのままを伝えなかったんですか?」
「そのまま?」
「ノリス兄様が身分を偽って近付いたことも、ゼントラントの商会に“スカウト”したことも、ハヤテからちゃんと聞いています」
国王が、眉を顰めたのが分かる。
自然と厳しくなった場の視線が、ノリスに向かう。
「ノリス兄様がハヤテと一緒に働きたいと思った気持ちは、理解できます。側近の席にはケラールトを、と考えてくれたんでしょう。しかし貴方も、俺には何も聞かず、話さず、物事を進めようとした。ケラールト自身から相談する機会も遠ざけた」
「お前に話す必要はない、と判断した。側近は国王が決めるもんだし、ハヤテはただの平民だ。身の振り方くらい、自分で決めりゃいいだろう」
「それなら、その判断が間違ってます。俺を気に掛けてくれているなら、父上や本人と話す時に俺も含めてください」




