0615 ロナバール守護長官の仕事
ミヒャエルに許可を貰った俺は早速ロナバール新地の治安維持を始めた。
一体俺は何を始めたか?
実はごく単純な事だった。
俺はまず新地街の各所にロナバール守護長官の権限によって取調べをして場合によっては逮捕拘留する場所を作った。
要は奉行所の出先機関のような物だ。
面倒なので名称はそのまんま「番所」とした。
そしてもちろん、奉行所に相当する守護長官である俺が勤める屋敷も作った。
いわゆる役宅って奴だ。
そこにはもちろん裁き所や牢屋もある。
そしてそれが出来上がると、ザジバたち顔役の部下たちに指示を出す。
「いいか、まずは新地街での小さな犯罪を見逃すな!
スリ、万引き、食い逃げ、ちょっとした犯罪でもすぐに番所にしょっ引くんだ!
遠慮はするな!
但し、もちろん現行犯で証拠のあるものだけだぞ!」
俺の命令を聞いたザジバたちは少々驚いて聞き返す。
「何と!そんな事で良いのですかな?」
「ああ、とにかく小さい犯罪を見たら全部、しょっ引くんだ!」
「わかりました!」
ザジバたちは不思議がったが、俺はある目算があって、これを指示した。
顔役の部下たちは一斉に新地に散らばり、俺の言う通りにほんのわずかな犯罪でも検挙し、番所に連行した。
その行動には護衛を兼任して、オリオンやセイメイたちを同行させた。
捕まった連中は一様に罰金を取られるか、それが出来ない者は一時奴隷となって働かされた。
すると驚いた事に見る見るうちに犯罪が減っていったのだ!
これは「割れ窓理論」もしくは「ブロークンウインドウズ」と言われる物で、実際にアメリカの犯罪学者が考案した物だ。
人は整然としてある場所では犯罪を心理的に犯しにくい。
しかし例えば商店の窓などが割れていれば、その中に入って盗品をしたりして犯罪を犯すものが増える。
そんな心理を応用して犯罪を防ごうという方法の一つだ。
つまり簡単に言えば、小さな犯罪を潰していけば、犯罪規模自体が縮小されていくという物だ。
そしてニューヨークは実際にこの理論を実践して犯罪を大幅に無くしているのだ。
しかし一方で一概にこれが正しいとも言えない部分があるとも指摘されているので、これはある種の賭けだったが、どうやら成功したようだ。
新地街は見る見る軽犯罪が無くなり、それに連れて他の犯罪も減少し、治安が良くなって行った。
そして小さな犯罪が目に見えて無くなり、一般的な犯罪が少なくなれば、大物が炙り出されて来る。
他の犯罪が少なくなれば、反比例するように残る犯罪が目だって来るわけだが、それもわからず、貴族に庇護されている思っていた連中の行動がわかり易くなって来たのだ。
ここでいよいよ俺たち隠密部隊の出撃だ!
軽犯罪が無くなっていた結果、全ての犯罪が減少していった。
しかしその反面一部の凶悪な事件が浮き上がって来た。
普通の感覚ならば、取締りが強化されていって危機感を感じる状況で、それを何とも思わない連中がいたのだ。
ザジバの手の者が俺に報告に来る。
「守護長官様!
やはりゴーダッツ侯爵配下の者が依然と凶悪犯罪に手を染めているようです!」
「これほど我々が動いているにも関わらずか?」
「はい、そうです」
それを俺と一緒に聞いた男爵仮面が呟く。
「ふむ、そう言えばゴーダッツ侯爵と言えば、確かルードヴィッヒ殿下と仲が良いと聞いているな」
さらにジョルジュもうなずいて話す。
「うむ、奴はルードヴィッヒ殿下の御学友として初等魔法学校の時から一緒で、色々と悪行を二人で重ねていたと聞く。
二人ともかろうじて初等魔法学校は卒業して魔法士にはなったが、素行に問題がありすぎて中等魔法学校へは行かなかったと聞いている。
しかしその後も侯爵はルードヴィッヒ殿下の友人である事を傘に着て、やりたい放題だと聞いている」
ルードヴィッヒ殿下と言うのはローレンツの年の離れた兄で、つまりは現在皇位継承順位第1位の皇太孫だ。
なるほど、自分の後ろに皇太孫がいるので、それを利用してゴーダッツ侯爵とやらはやり放題という事か?
「わかった、ちょっとミヒャエルにも話を聞きに行ってみる」
俺がミヒャエルに話を聞きに行くと、総督閣下はため息をつきながら話し始める。
「そうか・・・ゴーダッツ侯爵がのう・・・
確かに奴は最近、以前にも増してやりたい放題のようじゃ・・・
父である先代の侯爵が亡くなって侯爵位を継いで以来、ひどくなったと聞いておる。
それもルードヴィッヒの威光を笠にしてか・・」
「現在、我々で証拠を集めつつあります。
嫌疑が固まり次第、明日にでも検挙しようかと・・・」
俺がそう言うと、ミヒャエルは慌てて話し始める。
「ならん、ならん!
ゴーダッツ侯爵は幼少の頃よりのルードヴィッヒの友、それを害してはルードヴィッヒの機嫌も損ねよう」
「では、ルードヴィッヒ殿下の手前、目を瞑れと?」
「そうは言わぬが・・・
それに奴のロナバール本宅はかなりの警備がおる!
御主が守護長官として切り込めば、町中大騒ぎになるであろう!
だから絶対にならんぞ!」
「しかしそのような事でこのような犯罪を見逃す訳には参りません」
「ならん!ならんぞ!
ホウジョウ子爵!
おう!そう言えばゴーダッツ侯爵と言えば、確かあさっては別宅で何やら秘密めいた集まりをすると余の手の者が言っておったな?
あ、いや、今のはほんの余の戯言じゃ。
気にせんで良いぞ?」
「御意!」
俺は総督官邸を辞去すると、早速デフォードやザジバの配下を使ってゴーダッツ侯爵の動向を探らせた。
次の日に一番に報告してきたのはやはりデフォードだった。
「聞いた通り、ゴーダッツ侯爵は明日別邸で商人どもと密会をするようだぜ!」
「そうか」
俺は男爵仮面やジョルジュを呼び出すと、強襲の準備をした。
「相手は大物だが、容赦はしない。
皆も覚悟はいいな?」
「大丈夫だ!」
「ああ、任せてくれ!」
翌日の夜に俺たちはゴーダッツ侯爵の別宅を急襲した!
今回の面々は俺にエレノア、ミルキィ、豪雷、疾風、男爵仮面、ドラスタ・ジャスティス、バロン、伯爵仮面、伯爵仮面2号の10人だ!
いずれも一騎当千の兵たちだ!
俺たちが屋敷の中へ突入すると、侯爵の部下たちが向かって来る。
「何者だ!ここをゴーダッツ侯爵様の屋敷と知っての狼藉か!」
「ロナバール守護長官のシノブ・ホウジョウだ!
役目により推参した!
侯爵はどこだ!」
「なっ!ロナバール守護長官?」
驚く部下たちを無視して俺たちは屋敷の奥へと進む!
そして密談している侯爵を見つける!
乱暴に突入した俺たちを見て侯爵が驚き、猛り狂う!
「何者だ!貴様ら!」
俺とゴーダッツ侯爵はこれが初対面なので、御互いに初顔合わせだ。
「ロナバール守護長官のシノブ・ホウジョウだ!
役目により推参した!」
「なにっ?
ロナバール守護長官だと?」
「その通り!
ゴーダッツ侯爵!調べはついている!
貴様の悪行三昧!今日までと知れ!」
しかし侯爵は余裕だ!
「はっ!何の事だ!
そもそも私が何をしようとも貴様には関係のない事!
ましてやいかにロナバール守護長官と言えども、子爵風情が侯爵である私を裁こうなど、片腹痛いわ!」
「では罪を認めないと?」
「言っただろう!
守護長官だか何だか知らぬが、貴様のような小僧が私の相手になるか!
ええい!出会え!出会え!
この小僧どもを切り捨てろ!」
ゴーダッツ侯爵の命令一下、配下の者たちがわらわらと出てきて俺たちを取り囲む。
「ではこちらも容赦はせん!」
「かかれ!こやつらをさっさと始末しろ!」
侯爵の命令により部下たちが俺たちに切りかかって来るが、当然の事ながら俺たちの相手ではない。
俺たちはその連中を次々と切って捨てて、侯爵に迫る!
慌てた侯爵が俺に叫ぶ!
「貴様!たかが子爵の分際で侯爵である私を裁く気か!
しかも私の後ろにはルードヴィッヒ殿下がいらっしゃるのだぞ!
貴様、正気か!」
「それがどうした!」
「馬鹿な!侯爵である私を子爵である貴様が裁けば問題になるのがわからんのか!」
ここで俺は持っていた剣をバッ!と侯爵の面前に押し出す!
「ええ~い!頭が高い!」
その剣を見た侯爵が愕然とする!
「そ、それは皇帝陛下の紋章!」
「皇帝陛下より拝領したこの剣!
それを汚した者は全てぶった切る!」
「ま、待てっ!」
「問答無用!」
俺はそのままゴーダッツ侯爵に迫り、その首を刎ねる!
こうして俺はロナバール守護長官として、初めての荒仕事を終えたのだった。
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