0613 切り捨て御免!
俺は昇降機設置と囮捜査の要請ミッションをしながら、その合間を縫ってミヒャエルに頼まれた事を始めていた。
そのためにまずはロナバールの新地街である旧街壁と新街壁の間に出来た新しい街を視察してみる事にした。
具体的に言えば要請ミッションの合間に、護衛隊長であるミルキィと豪雷、疾風、アンジュ、ライラを連れて、案内として顔役であるザジバを伴い、ロナバールの新しく出来た地域、暫定的に「新地街」とか「新市街」と言われている場所を見回ってみたのだ。
新しい街を案内しながらザジバが俺に説明をする。
「いやはや、正直言ってとんでもないの一言ですよ」
「そんなにひどいのかい?」
「ええ、まだ新地街には魔法協会や我々顔役の目が届かないのを良い事にやりたい放題という感じですな。
表通りはまだしも、裏通りに入るとどうしようもないです」
「何でそんな事になったんだい?」
「もちろん一番の理由は町が広がって、我々の眼が届かなくなったというのがありますが、最近は街が拡張したせいで、迷宮への道が短くなり、盗賊共が潜伏する場所が少なくなって、町の中で暴れているというのもございますね。
それも旧市街で動くとすぐに我々顔役衆にも見つかるので、新地街でという事らしいです」
「なるほど」
確かに俺たちがマジェストンへ行っているここ3年でロナバールの街は大きく広がり、その分、森などの場所が切り開かれて、盗賊が出にくくなったのは確かだ。
しかも最近は俺が組合に頼まれて囮捜査までやっているものだから、余計に町の中へ引っ込んでしまった事もあるようだ。
そして俺がザジバに案内されてこっそりと見回った部分は確かにひどい状態だった。
ちょっと町の裏に行けば、強盗、空き巣、殺人と何でもありの状況だったのだ!
実際の所、俺は盗賊が老商人を刃物で襲っているような場面に出くわしていた。
俺は驚いてその盗賊のような男に叫ぶ!
「おい!そこのお前!何をしている!」
「へっ!てめえの知った事か!」
そう言いながら盗賊はその商人をなおも刃物で刺して荷物を奪おうとしている!
俺に強盗場面を見られた上に咎められても、気にもせずにお構い無しだ!
「やめろと言ってるんだ!」
「けっ!やめろと言われてやめる馬鹿がいるか!」
「疾風!あいつを捕まえろ!」
「承知!」
俺の命令に従って、疾風はあっという間にその盗賊を捕まえる。
「てめえ!何しやがる!」
「うるさい!お前はちょっとだまっていろ!疾風!」
「はっ!」
俺が命令すると、疾風はその盗賊に当身を食らわせて気絶させる。
「やれやれ・・・じいさん、ちょっと待ってな、デュアル・クラーチ!」
俺の治療魔法によって老商人は回復し、礼を述べる。
「へい、ありがとうございます。
盗賊から救っていただいた上に、治療までしていただいて感謝の言葉もございません」
「それは構わないが、じいさん、何でこんな場所にいたんだい?
危険なのはわかっていたんだろう?」
「へえ、確かにその通りなのですが、私の商売相手がこの先におりますもんで、ちょいと近道をしようとしたらこのざまでして・・」
「そうか、この辺は危険だからこれからは気をつけな」
「へい、ありがとうございます」
そう言って老商人は去っていった。
他にも通りすがりにザジバの懐から財布をすろうとしたり、ミルキィを誘拐して売りさばこうとする奴などにも出くわした!
俺たちは次々とそんな奴らを捕まえていった。
しかしその中には貴族の名前を出して、即座に自分を解放しなければ俺たちの命に関わると言い出す奴までいる始末だった!
ザジバにそいつの事を聞いてみると、確かに貴族でこの新地街で悪事を働く者もいるらしく、貴族相手ではザジバたちだけでなく、魔法協会でも手を出しにくく、かなり困っているようだ。
まさにここロナバール新地街は無法地帯だ!
俺たちはそれを見てこれはよほどの荒療治をしないと、ここの治安を保つのは無理だと感じていた。
「これはひどいな」
「確かにそうですね」
「いくら何でも無法にすぎます」
「ええ、拙者もそう思います。
しかも日に日にひどくなっている気がします」
一緒にいたミルキィやアンジュ、ザジバもこの状況には呆れているようだ。
そんな視察を日を置いて何日かしてみたが、いつも結果は似たり寄ったりだった。
そんなある日、俺はミヒャエルに呼び出されて総督府へと向かった。
用件はわかっている。
俺を目の前にしたミヒャエル、いや、ロナバール総督閣下は話し始める。
「どうじゃシノブ、いや、ホウジョウ子爵、例の件は考えてくれたか?」
「実はその件に関してロナバール新地を部下たちと一緒に見回ってきました」
「うむ、どうだった?」
ミヒャエルの質問に俺は呆れながら答える。
「ひどい物です。
まさにロナバールの掃き溜めとでも申しましょうか。
表通りはまだしも、少々町の裏に行けば強盗、誘拐が当たり前、殺人さえ横行しております」
「だからそこを御主に頼むのではないか!」
だが俺はそのミヒャエルの要請を断った!
「お断りいたします」
「なんじゃと!」
ミヒャエルは驚くが、俺はある条件をミヒャエルが飲んでくれない限りはこの要請を断るつもりだった。
「今の状況ではあの掃き溜めを掃除する力がございません」
「だから御主に頼んでいるのではないか!
ええい!さっさと申せ!」
流石に総督閣下は察しが良い。
どうやらミヒャエルは俺が引き受ける条件を言うのを待っているようだ。
「ではお言葉に甘えまして・・・
二つお願いしたき事がございます」
「ふむ、それは?」
「一つ目はまず、新地街に対する私の権限、つまり事、新地街に関する限りは私に絶対的な法的権限を与えていただき、その場で起こる事は私とその部下に任せていただきたいです」
「うむ、それに関しては問題ない。
元より御主にはその役目を引き受けてもらうつもりで呼び出したのだからな。
もちろん、その権限はロナバール総督の名において余が授けよう。
して二つ目は?」
ここで俺はミヒャエルも驚く事を話し始める。
「はい、あの掃き溜めを掃除するにはよほど強力な力が必要です。
それはすなわち、切り捨て御免!」
「なっ!」
ミヒャエルが驚くのも無理は無い。
この場合の「切り捨て御免」というのは、それこそ殺人許可証のような物だ。
要は俺の気分次第で誰でも勝手に切り捨てて良いという事を許可して欲しいと言っているも同然だからだ。
しかもその範囲は一般人だけにあらず、役人や貴族にも範囲は及ぶ!
驚くミヒャエルを尻目に俺は話を続ける。
「相手が役人であろうと貴族であろうと悪と見極めれば斬る!
すなわち悪・即・斬!
その権限を私にくださるよう、陛下に・・・」
しかしそれを聞いた途端にミヒャエルが叫ぶ!
「ならん!法を守る立場の者がそれではならんぞ!」
「非常の場合でありますゆえに」
「ならん!ならん!ならん!」
「では私は御辞退させていただきます」
俺がそう言ってその場を去ろうとすると、ミヒャエルは慌てて俺を止める。
「ま、待て!
無法に過ぎるが、一応余が陛下に申し上げてみる!
それまで待っておれ」
「では10日後に」
「わかったわい」
そして10日が経った。
俺は再び総督府へと向かった。
「お約束の返答をいただきに、ホウジョウ子爵参りました」
しかし俺を前にした総督閣下は憮然として座ったままで即答だ。
「ならん!
陛下のお言葉じゃ。
そのような事は絶対にならん!」
「それでは約束が違います」
しかしミヒャエルはその俺の言葉を無視して立ち上がると、そばにあった剣を手に取る。
「それより陛下より御主に拝領の品がある。
ありがたく頂戴しろ」
そう言ってミヒャエルは見事な装飾の鞘に収まった剣を俺に差し出す。
その剣自体も相当な品物なのがわかる。
しかし俺はそれを受け取らない。
「御辞退いたします」
そんな俺に対して少々切れ気味になったミヒャエルが持っていた剣を押し付けるようにして俺に渡す。
「いいから!黙っていただけ!
いただいたらわずかばかりこの場で抜いてみろ!」
「わずかに?」
俺の言葉にミヒャエルはつっけんどんに叫ぶ。
「当たり前じゃ!
総督府で剣を全部引き抜いてみろ!
たちまち反逆罪じゃ!
ほれ!」
そう言いながらミヒャエルは俺に再びその剣を押し付ける。
俺はミヒャエルから剣を押し頂くと、その柄を少しばかり抜いてみた。
その鍔元には何と皇帝陛下の赤い鷹の紋章が入っていた!
何と!これは皇帝陛下の剣だ!
「これは・・・!」
驚く俺にミヒャエルがにやりと笑って話す。
「良いか、ホウジョウ子爵よ。
切り捨て御免はならぬぞ。
だが、その陛下からの拝領した剣を汚す者があらば・・・
わかるな?」
そう言ってミヒャエルは俺をジッと見つめる。
俺はミヒャエルに一礼をすると答える。
「ではホウジョウ子爵、ロナバール新地の治安維持の件、承りました」
「うむ、部下や人員の選定などはそちに任せる。
ロナバールの悪を根絶するために御主の好きなようにするが良い。
本日より、そなたにロナバール新地街の守護長官の任を与える!
これは魔法協会が新地街で状況が整うまでの一時的な措置で臨時職ではあるが、心して責務に励むように!」
「はっ、承知しました。
シノブ・ホウジョウ子爵、謹んでロナバール守護長官の任を承ります!」
俺はそう言って総督府を出た。
さあ、これから大掃除の始まりだ!
俺はミヒャエルに頼まれたロナバール新地の秩序を保つための人員、すなわち秘密裏に捜査をして仕事を遂行する隠密同心のような面々を決めるために考え込んだ。
要はロナバール守護長官である俺の個人的な審判の騎士のような存在だ。
俺が昔で言う「町奉行」や「火付盗賊改長官」のような者だとすれば、「与力」や「同心」、「岡っ引き」や「下っ引き」に相当する者が必要になってくる。
単なる聞き込みや情報収集などはザジバなどの顔役たちに任せるとしても、それは言うなれば岡っ引きや下っ引きの役目だ。
それ以外に実際に俺と共に相手に殴り込みをかけるような実戦部隊、つまりは与力や同心のような者が必要だ。
当然の事ながらその人員は腕が立ち、賄賂などの鼻薬が効かない人物でなければならない。
そんな人間がこのロナバールにどれほどいようか?
その人選はもちろん慎重に行わなければならない。
基本はうちの青き薔薇の人員ではあるが、それだけではとても足りない。
一応俺も数人は考えた候補があったが、念を入れるために、ペロンとコロンに相談をしてみた。
「ねえ、ペロン、コロン、うちの青き薔薇以外で君たちが知っているロナバールの人たちで正義の心が揺るがない人って誰がいるかな?」
「正義の心ですかニャ?」
「ああ、それでいて魔法や剣の腕も立つ人でないと困るんだが」
「それならば、一番最初に思いつくのは男爵仮面とバロンですニャ」
「そうですニャ」
ペロンの意見にコロンも賛同する。
もちろん、あの二人は頼りになる。
俺が考えていた候補でもある。
「他には?」
俺が促すとペロンが話す。
「後は今まで会った審判の騎士の人たちは全員信用できますニャ」
そりゃ、そうだ!
しかしその人たちは別の事で忙しいだろうから、こちらの事に引き込む訳にもいかないだろう。
「その人たち以外には?」
「マギアマッスルさんがいますニャ。
後はまだいると思いますけど、今すぐパッとは思い出せませんニャ」
「コロンはボロネッソさんやカリーナさんとイルーゼさんも良いと思いますニャ」
なるほど、確かにマギアマッスルさんも頼りになる。
確かあの人もこの3年で白銀等級になっている。
ボロネッソさんたちは正義の心はともかく、審判の騎士たちと同じで魔法協会の職員だからこちらの仕事は無理だろう。
それにこの仕事の最低線として、レベル100は超えている方が良い。
ではまずは最初は青き薔薇とその3人でやってみるか?
そう言えば男爵仮面にはそろそろ「例の物」を渡す件もある。
俺がそんな事を考えているとペロンが一人追加をする。
「そう言えば、伯爵仮面もお勧めですニャ」
「えっ、ジョルジュが?」
「はい、あの人も正義の心が揺るがない人ですニャ」
「そうなの・・?」
「はい、そうですニャ」
「コロンも賛成なのですニャ」
ううむ、あれほど好き勝手やっていたグレイモンがケット・シーであるペロンやコロンにここまで信用されるほどになるとは・・・
人間変われば変わるもんだなぁ・・・
「わかった、では伯爵仮面もメンバーに入れよう」
これでグレイモンも俺たちの仲間となる。
俺は早速、候補の人たちに話をするために会いに行った。
まずは男爵仮面とバロンだ。
その前に俺はまずはバッカンさんの所へ行った。
「こんにちは、バッカンさん」
「よお!シノブ!久しぶりだな!」
「例の物は出来ていますか?」
「ああ、後はお前さんが最後の仕上げをするだけだ」
「わかりました。
ではその後で男爵仮面の所へ行きましょう。
一緒に行きますか?」
「ああ、色々と説明する事があるからな」
俺とバッカンさんは二人で「ある物」を作り上げ、男爵仮面の屋敷へ向かった。
幸いな事に男爵仮面は在宅で俺たちは会う事となった。
今回の話はまたもや作者の好きな時代劇をいくつか混ぜて作ってみました。
話の一部はそのまんまの部分もありますね。
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