0607 エトワールの復職
エトワールさんがロナバールの魔法協会に復帰した。
俺たちが卒業してロナバールに帰って来ると同時に、休職していたエトワールさんも職員として復職したのだ。
しかしその配置に相当揉めたらしい。
何しろ今やエトワールさんはシルビアと同じく「魔法修士」だ。
しかもレベルは250以上と言う凄まじさだ!
これは魔法修士のレベルとしても普通ではない!
レベルだけなら賢者か天魔道士級だ!
本人や魔法協会では魔法学士になって戻ってくれば上々と思っていたのだが、魔道士の中でも稀な魔法学士よりも、さらに階級としては上になってしまったのだ。
しかもレベルは賢者級だ!
本人は以前と同じく受付兼戦闘法務官としての勤務を望んだが、当然そうはならなかった。
魔法協会としては貴重な戦力である魔法修士を受付にするのは持ってのほかだったし、単なる戦闘法務官としても考え物だった。
何しろ魔法協会でも上級機関である管区支部たるロナバール本部ですら魔法修士など数えるほどしかいないのだ。
それを受付にするなど、地球の軍隊で言えば大佐か、下手をすれば少将閣下を受付にするような物で、とても魔法協会としては受け入れられるような話ではなかった。
ましてやエトワールさんは、魔法業界でも幻とも言える存在の天賢者と四人も懇意なのだ!
しかもかの高名な賢者ガンダルフや伝説の魔道士ユーリウスとも懇意・・・と言うか兄妹弟子の関係だ!
この世界での魔道士間の師弟関係の絆は強い。
何かの時に助けを求められるのは間違いない!
なおかつ彼女の親友は天賢者で子爵自治領主閣下である俺に命令?出来る、次席秘書監様をしているのだ!
この恐ろしく太いパイプを持つ貴重な人材をロナバール魔法協会としては見逃す手は無かった。
それでもロナバールに戻ってから、俺たちと一緒に昇降機や美少女ジャベックを作っている時は組合に出向として保留になっていたが、それが終わっていよいよ所属を正式に決める事となった。
魔法協会としては上層部の役職や警備隊長などを頼みたかったようだが、本人がそれを拒否した。
受付はまだしも戦闘法務官としての職務は捨てられないと言って、断固上級職を拒否したのだ。
一時期は他の支部の支部長すら打診されたそうだが、本人がそれを拒否して、少なくとも70歳くらいまでの若いうちは、ロナバール支部で戦闘法務官を続けられないのであれば、魔法協会自体を辞めるとまで言ったので、その話もお流れとなった。
そしてロナバール魔法協会本部長たるゼルバトロスさんが、直々にエトワールさんを呼んで相談をした。
「ではメッソン君、審判の騎士ではどうかね?」
「え?審判の騎士?」
その意外な人事にエトワールさんもキョトンとした。
「そうだ。
それならば戦闘法務官も兼ねるし、うちとしても色々な仕事も頼みやすい。
君の現在の戦闘力ならば、何も問題はないしね。
その辺で納得してもらえぬかな?
ここの本部長としてだけでなく、個人的に君の兄弟子としても頼むよ」
「そうですね・・・わかりました」
「うむ、良かった!うちとしても助かるよ」
こうしてエトワールさんは審判の騎士になる事となった。
エトワールさんとしても、殊更コールドウェル本部長に逆らいたい訳でもない。
それにかつてシルビアを助けてもらう手伝いをしてもらった恩義もある。
しかも今やゼルさんは自分の兄弟子なのだ!
恩と義理も絡まり、流石に断る訳にもいかなかったようだ。
結局、本人と魔法協会上層部の思惑をすり合わせた結果、エトワールさんはロナバール所属の「審判の騎士」の一人として登録される事となった。
審判の騎士とは戦闘法務官の上級職で一支部に関わらず、魔法協会に加盟している国の全てで犯罪捜査権を持つ上に、裁判権や処刑執行権も所持する役職だ。
地球で言えば国際警察の刑事に裁判官や死刑執行官まで兼ねる事になる。
少々時代は古いが、日本で言えば一人一人が「火付け盗賊改長官」のような存在だ。
つまりは悪・即・斬!
審判の騎士が「悪」と見極めた者は、平民ならば有無を言わさずに死刑執行だし、爵位を持つ貴族とても無事ではすまないのだ。
その権限は極めて広いし重い。
これならば戦闘法務官を兼ねているし、かなり仕事の自由度が高いうえに、魔法協会も難しい仕事を頼むことも出来るので、双方が納得した結果だった。
そこで形だけでも「審判の騎士」としての資格審査となった。
「審判の騎士」になるには、まず相当の戦闘力を求められる。
「審判の騎士」一人で数百人を相手に戦闘になる事も珍しくないので、まずはその戦闘力を有しているかの資格審査をするのだ。
今やレベルも250を超えているエトワールさんに戦闘力の問題はないのだが、一応審査をする事になったのだ。
そのためにエトワールさんは総合組合に行き、魔物と戦う事となった。
俺たち青き薔薇の面々も見届け人として呼ばれて、見学する事となった。
そしてその戦いの前に審査の一環として「コルプト・ユージャント」が義務付けられている。
「審判の騎士」となれば、極めて広範で大きな権力を与えられるので、それを悪用されるのを防ぐための処置だ。
もっともエトワールさんはすでに魔法修士でケット・シー審査も受かっているので、それは形だけの物だった。
組合からの要請で、バロンとペロンとコロンが召集されてその審査を受ける。
「何も問題はありませんニャ」
「うむ、良い匂いニャ」
「コロンもそう思いますニャ」
無事にコルプト・ユージャントを終えると、いよいよ組合の闘技場で戦闘試験が始まる。
「ではよろしいですかな?」
「審判の騎士」の審査は滅多にない事なので、組合長たるグレゴールさんが立ち会う。
もちろん、魔法協会の上層部であるゼルバトロスさんやブルーノさんたちも一緒だ。
そして現役の「審判の騎士」たちも、緊急の仕事がある者以外はその全員が立ち会う。
現在ロナバール本部には審判の騎士が12人いるらしいが、そのうちの10人ほどが集まった。
特に六席以下は全員が集まったようだ。
「はい、いつでもどうぞ」
ちょっと見には、そのへんの少々良い所のお嬢さんにしか見えない平服のエトワールさんがにっこりと微笑んで返事をする。
これから始まる戦いでは、一切の戦闘装備は禁止で、あくまで特殊装備無しの平服で戦う事が前提だからだ。
「では、始め!」
グレゴールさんの合図で魔物が放たれる。
しかも一級から四級までの昇級試験魔物である、キマイラ、マーダードール、トロルを全て3匹同時にだ!
さらに傀儡の騎士などは5体もだ!
これだけの魔物を装備なしの平服で全滅させる!
それが「審判の騎士」の「最低戦闘能力条件」なのだ!
普通の組合員ならば一級はおろか、戦闘装備がなければ白銀等級ですら危ういだろう。
しかし今や魔法修士で、レベルも250を越えているエトワールさんは、難なくそれをあしらう。
「アニーミ・ミル・エスト・フロサード!」
呪文と共にエトワールさんは一気に1千本もの短剣型タロスを空中に出現させる!
「シュート!」
そしてその1千本の短剣型タロスが魔物の群れを襲い、まずはキマイラ以下の全ての魔物を全滅させる。
その時間には10秒もかからない。
残ったキマイラ3匹も全身を剣で貫かれて、すでに虫の息だ。
そしてその残ったキマイラに対して、魔法を放つ。
「グランダ・フルモバート!」
エトワールさんの上級雷撃呪文で一気に勝負はつく。
キマイラ3匹も含めて全ての魔物が30秒も持たずに全滅した!
全く容赦がない!
グレゴールさんが感心して話す。
「さすがですね?
かのエレノアさんの御弟子さんだけの事はあります」
「どういたしまして!」
エトワールさんがにっこりと笑って返事をする。
その姿は戦闘前と同じで、服は塵一つ汚れていない。
その様子を見て呆れたようにゼルさんが呟く。
「やれやれ、わかってはいても、あの若さで、こうも簡単にあれほどの魔物を全滅させるとは参りましたな・・・」
「ええ、私があれほどの魔法を操れるようになったのは、70歳を越えておりましたよ。
しかもまだあれほど余裕とはね・・・」
副本部長のブルーノさんも笑いながら応じる。
他の集まった審判の騎士たちも一様に驚いている。
「凄いな!」
「ああ、以前の彼女とは段違いだ!」
「一体この3年間で何があったんだ?」
「無理!見ただけで私ではもう勝てないのがよくわかったわ!」
「こりゃ俺も危なさそうだな」
「おいおい!マックスの時もそうだったけど、こりゃいきなり上位席に行きそうだな?」
「ええ、久々の大型新人ね」
その審判の騎士たちの会話を聞きながらゼルさんが話し始める。
「さて、次はいよいよ席次を決める「審判の騎士」同士での戦いとなるが・・・」
現状下でロナバールに審判の騎士は12人いる。
審判の騎士の席次は基本、戦闘力で決まるので、エトワールさんの暫定席次は現在13席だが、これから戦う相手によって席次が決まる。
いよいよその勝負を始めるようだ。
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