0602 囮捜査の問題点
俺は昇降機の作成をしながら並行作業でミルキィともう一つのミッション、すなわち囮捜査による盗賊捕獲の秘密ミッションを行っていた。
昇降機の方は人員も十分足りていたので、昇降機ジャベックを作った後は、俺とミルキィはそちらの作業には参加せず、二人で盗賊退治をしていたのだ。
ミルキィも俺も3年前とほとんど見かけは変わってなかったので、盗賊たちは面白いように捕まった!
しかしそれ自体は良かったのだが、今回の問題はもう一つの点だった。
この方法を組合や魔法協会に教えたくとも、その人材に困ったのだ。
なにしろこの囮捜査を行うのには見た目が重要だ。
正直な話、こればっかりは生まれつきのもので、本人の努力ではどうしようもない。
この仕事にはいかにも盗賊たちが襲いたくなるような金目の物をちらつかせた弱そうな見た目の者が必要なのだ。
そしてその見た目に見合う雰囲気を醸し出す演技力もだ。
いくら見た目が弱々しくても、眼光鋭く動きが剣の達人のような所作では話にならない。
あくまでも見た目は弱そうな上で、その動きも素人丸出しのような動きをしなければならないのだ。
しかもそれでいて、盗賊の集団など物ともしない圧倒的な強さを持った、言わば矛盾した人材が不可欠なのだ。
しかしこれは難しい問題だった!
たまたま俺とミルキィはその全ての資質を持っていたが、こんな事は稀だという事が良くわかった。
実際、俺が聞いた限りではそんな人材は協会にも組合にもいなかった。
事実、俺たちの仲間でもこの条件を満たしているのは、俺とミルキィ、そしてアンジュとキャロルの4人しかいない。
普通は見かけが弱々しそうであればその通りだし、かと言って見た目が強面の人間を襲おうとする盗賊などいる訳がない。
しかしこの捜査には、どうしても一見弱々しそうに見える二人組が必要なのだ。
しかもこの「二人」というのが重要らしく、一人ではさすがに盗賊たちも逆に違和感を持って用心するようで、3人以上だと人数が多いので、襲う率がこれまた激減するらしい。
俺が組合や魔法協会から聞いた限りでもそのようだ。
実はこの3年間に協会も組合も色々と囮捜査をしたらしいのだ。
その結果、男の強面の捜査員が森をうろついても、当然の事ながらまず盗賊は襲って来なかったらしい。
一番効果があったのが、魔法協会の若い女魔道士二人を普通の格好で組み合わせて森をうろつかせた場合だが、その場合でも盗賊が襲っては来たものの、魔道士の方が慣れてなくて、盗賊たちを取り逃がしてしまった事が多々あるようだ。
そして一旦顔がばれてしまえばもはや盗賊は襲ってこない。
実際に俺が組み合わせを色々と考えて、俺とエレノア、俺とシルビア、俺とミルキィなど様々な組み合わせで囮捜査を行った結果、もっとも効果があったのは俺とアンジュの組み合わせ、それも正確に言えば、俺が女装した「アンジュとシノーラ」の組み合わせだった。
この組み合わせはよほど弱々しく鴨に見えたらしく、盗賊共が入れ食い状態だった。
逆に俺とエレノアの組み合わせだと相手が高位のエルフだと思われて誰も襲って来ないし、シルビアと俺の組み合わせにいたっては、間違って俺たちを襲ってきた盗賊が、相手が「悪魔のシルビア」と判明するやいなや、泣き叫んでその場で土下座をして許しを乞うたほどだった。
う~む、シルビア恐るべし!
やはり見た目が10代の少女が二人という組み合わせが最も盗賊にとっても襲い易い組み合わせのようだ。
マジェストンでもアンジュとキャロルが迷宮近辺をうろついたら随分と盗賊が引っかかったと聞いているしね。
試しに「シノーラとミルキィとアンジュ」という3人の組み合わせで囮捜査もしてみたが、それなりに盗賊が引っかかる物の、やはり3人組では2人組よりもはるかに効率が悪かった。
どうすれば盗賊たちを誘き寄せる事が出来るかははっきりとわかったが、それを組合や魔法協会に教えるのは難しい。
俺は少々考え込みながらその日はミルキィと一緒に囮捜査の姿で組合のデパーチャーで食事をしていた。
無言で考え込んでいた俺にミルキィが話しかける。
「どうしましたか?シノブ君?」
「いや、やり方はわかったけど、これをどうやって組合や協会に伝えようかと思ってね。
それで悩んでいるのさ」
「確かにこの方法を一般的にするのは難しいですね。
どう考えても普通ではありえませんから」
「ああ、だからこそ我々がやると盗賊共が引っかかるんだからね」
「そうですね」
そう、普通ではあり得ない事、だからこそ盗賊たちも引っかかるのだ。
それを一般的にして、なおかつ盗賊も引っかかるような仕組みにしなければならない。
これは矛盾した問題をはらんでいるだけに中々難しい問題だ。
俺たちが考え込んでいると、そこへいきなり挨拶をしてくる者がいた。
「お帰りなさい!お久しぶりです!
お会いしたかったです!」
それはあのギルバートたちだった!
不意を突かれた俺は少々驚きながらも返事をした。
「え?ああ、君たちは・・・」
「はい、ギルバートです。
その節はお世話になりました!」
「え、いや大した事はありませんよ」
「とんでもありません!
あなたがいらっしゃらなければ、今の我々はありません!」
「ええ、全くその通りです」
どうやら俺がこの連中にあげたタロスとグラーノはずいぶんと役に立ったようだ。
ファンサービスのつもりでしただけだが、それほど役に立ったのならば良かった。
「いえ、あなた方の御役に立てたのなら嬉しいです」
「御役になんて、それどころではありませんよ!
あなたからいただいたタロスのおかげで我々は大変助かりました!」
「それに実は私たちはあなたにどうしても確認したい事があるのです」
「何でしょう?」
訝しがる俺にウォルターが質問をしてくる。
「ええ、実は私の切り落とされた腕を治していただいたのはあなたなのではないかと」
確かにそうだけど、あれ?何でこの連中がその事を知っているんだ?
あの時の俺は姿を隠していたし、それを話した事はないはずだけど・・・?
「え?あなたの腕を?」
「はい、そうです!
私たちが迷宮で腕を切られて困っている時に、その腕を森で治してくれたのはあなたなのではないでしょうか?
そして我々に魔法の才能がある事を教えていただいたのも・・・」
あれ?何でそこまで知っているんだ?
どうしようかな・・・
多分、それを言っても問題はないと思うけど・・・
俺が迷っていると、それを察したのか、ギルバートがさらに話し始める。
「大丈夫です。
我々はあなた方の立場も存じ上げているつもりです。
ですから決して御迷惑になる事をするつもりはございません。
ただ、私たちはあなた様に御礼を言いたいだけなのです。
その点はどうか御安心をしてください」
「え?我々の立場って?」
ひょっとしてこの連中は今の俺たちが囮捜査中だという事を知っているのだろうか?
まさかそこまで知っているとは思えないのだが・・・
「はい、我々は今あなたたちが自分の現状をペラペラと話せない立場である事を存じております」
「存じておりますって・・・う~ん・・・どういう風に知っているのかな?」
この連中は何か勘違いをしているのではないだろうか?
そう思った俺は質問をしてみた。
その俺の質問にギルバートは少々困ったようだが、やがて話し始める。
「はい、その・・・我々はあなた方が奇跡を起こす、ある青い花の集団だと言う事を存じ上げております。
あなたがその集団の長だという事も・・・
そして今は3年ぶりに御二人で秘密の仕事をしていらっしゃる事も・・・」
それを聞いて俺は驚いた!
奇跡を起こす青い花の集団・・・・確かにこれは俺たち「青き薔薇」の事を知っていると考えて間違いないだろう。
そして俺をその団長だと指摘している!
それも3年ぶりに俺とミルキィが囮捜査をしている事も知っているようだ。
しかし俺と2回しか会った事のないこの連中がなぜそこまで知っているのだろうか?
しかも最初は正体を隠して会っているのだ!
これは逆に怪しい!
俺は驚きながらも質問をしてみた。
「なるほど、でも仮にそうだとして、どうしてそれを知ったのかな?」
「はい、半分は偶然と憶測で、そしてもう半分は伯爵仮面様に伺いました」
「え、伯爵仮面に・・・・」
この連中はジョルジュと絡んでいたのか?
「はい、伯爵仮面様はあなた様とは懇意との事、その伯爵仮面様が我々を信用していただいて、内密にあなた様の事を教えてくださいました。
特にその・・・あなた様が現在していらっしゃる内密のお仕事に関して」
内密の仕事か・・・どうやらこの連中はジョルジュから聞いて囮捜査の事まで知っているようだ。
それならば話しても良いだろう。
「そうか、そこまで知っているなら話しても良いだろう。
確かに私は君たちが推測している人物で、今はおおっぴらに人には言えない仕事をしている最中だ。
そしてウォルター君の腕を治したのも確かに私だよ」
俺がそう説明するとたちまちこの6人は色めき立った!
「やはり!その節は本当にありがとうございました!」
「ええ、何としてでもあなた様には御礼を言いたかったのです!」
俺が彼らの推測を認めると、この連中は感激して俺に頭を下げてきた。
するとそこへまた別の3人組がやって来た。
その3人組はギルバートたちを見て声をかけてくる。
「おや、君たちは・・・」
その3人組の顔を見てギルバートたちも反応する。
「あなたたちは・・・」
俺もこの3人組には見覚えがあった。
それはあの「双闘士」の三馬鹿だった。
明日から久しぶりに外伝の方を更新する予定です。
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