0587 雲の旅団の事
俺は深呼吸をすると二人に話し始める。
「わかりました、御二人を信じます。
全てをお話ししましょう」
「はい、お願いいたします」
「まずその謎の集団の名前ですが「雲の旅団」というのです」
謎の集団の名称・・・
たったこれだけの情報で二人は騒ぎ始めた!
「何と!「雲の旅団」ですか!」
「あの集団を御存知なのですか?シノブさん?」
「はい、あの・・・お二人も御存知なのですか?」
俺が質問をすると二人は興奮して話し始める!
「御存知どころではありません!
ここ数年、それは私たちの頭を悩ませていた謎の集団なのですよ!」
「ええ、突然2年ほど前にある辺境の村で降って湧いたように現れたかと思うと、その村を武装強化して、ほとんど攻略不可能なまでに要塞化した上に、隣にあったアドレイユ王国の伯爵領を事実上殲滅して、物資や金品を全て持ち去ったという信じがたい集団なのです!」
何だかえらい言われようだが確かに間違ってはいない。
興奮した二人は話を続ける。
「しかもその戦術、戦闘能力の異常なまでの高さ!
とてもただの戦団ではありえませんし、もちろん素人の訳もありません。
事実、組合としてはその事件の後で綿密な調査をして、あれはどこかの国家基準の軍隊の仕業だと断定いたしました。
しかしそれに相当する国家の軍隊や集団は思い当たる物が無かったのです」
「ええ、何しろ一伯爵領が名も無い村に殲滅されるなど、普通ではありえませんからね。
当時、アドレイユ王国は独自でも調査をしましたし、うちにも調査を依頼されました。
さらにはあまりの事に重大さを考慮して、組合独自としても、その後1年間も調査をしたのです」
「しかし、全く正体不明でした。
何しろ人数も規模もわからないのです。
わかったのは最低限人間が一人は関与しているという事だけです。
それ以外は人間かどうかもわからないのです。
その「雲の旅団」がどこから来たのか全くわからず、事が終わった後も、馬車で近くの町や村を何箇所か通った後で、忽然と姿を消してしまったのです。
その後の足取りは全く掴めません。
うちへもあちこちから問い合わせがあったのですが、もちろんそれに該当する戦団は登録されていませんでした。
そして当事者である村人たちに聞いても、やはり突然現れて困っているなら助けてやろうと言って実際に村を助けてくれて、その後、報酬を支払うとどこかへ行ってしまったと言うだけなのです」
うん、大体あらましは俺が作った話と一致している。
ハーベイ村の人たちも、ちゃんと知らないふりをしてくれたみたいだ。
あの人たち、ずいぶんと義理堅い人たちみたいだったからね。
「その謎の集団を・・・知っているというのですか?」
「はい、存じております」
「どこのどういった人々なのかも?」
「はい、全て知っています」
「それを我々に教えていただけるのですね?」
「はい、そうです」
「では教えていただきましょう」
ここが勝負どころだ!
俺は少々戸惑いながらもはっきりと答えた。
「はい、その・・・実は我々がその「雲の旅団」なのです」
「なっ!」
「は?」
俺の一言に二人は絶句した。
まるで部屋の中の時間が止まったかのように誰も話さず、身じろぎもしなかった。
まあ、今の話を聞いた後だとそれもわかるなぁ・・・
しばらくしてグレゴールさんが搾り出すように俺に質問をする。
「シノブさんたち・・・青き薔薇が「雲の旅団」なのですか?」
「はい、そうです。
正確にはあと二人ほど、加わっていますが」
「誰ですか?」
「シャルルとポリーナです」
俺の答えにあきれ返ったようにグレゴールさんが答える。
「あの御二人は青き薔薇の団員も同然でしょう!」
「あの「雲の旅団」が「青き薔薇」だったとは・・・」
そう言って二人はガックリと肩を落とした。
しばらくすると、グレゴールさんが独り言のように呟く。
「これは組合の審査を根本から考え直さなければならないな」
しかしアレクシアさんは首を横に振って答える。
「いえ、この方たちは例外でしょう。
単に私たちがこの方々の力を見誤っていただけだと思います。
他の戦団では、まずこんな事は起こらないと思います」
「むう、確かにそうかも知れないな」
「え?どういう事ですか?」
俺が不思議そうに尋ねると、グレゴールさんが説明をする。
「実はこれも内密にしていただきたいのですが、我が組合では各戦団の戦闘力数という物を設定してあるのですよ。
そしてもちろんシノブさんたちの青き薔薇は組合で登録されている全戦団中、上位5位に入るほどの数値で登録されているのですが、シノブさんの卒業を機会に1位に修正される予定でした」
「そうなんですか?」
うちが組合中で戦闘力が1位の戦団認定とは驚きだ!
「ええ、何しろ天賢者が3人も含まれる戦団など他にありませんからね。
いえ、一人ですら他には存在しません。
ちなみにうちの評価が10位以内の戦団ならば、小国かアムダール帝国の伯爵領を滅ぼせる水準と認定されています。
3位以内ならば中規模の国ですね。
ですから戦闘力数的には可能でしょうが、それでも今回の件には関係がないとされていました。
あまりにも今回の件が異質だったからです」
「と言うと?」
「それは当組合の綿密な調査の結果、その「雲の旅団」の目的が非常に特殊な事と判断せざるを得なかったからです」
「目的が?」
「はい、我々やアドレイユ王国の調査機関も、最初は「雲の旅団」の事を強力ではあるが、単なる傭兵崩れの集団か、義賊のような盗賊集団の一種と考えていたのです。
そう言った者たちが偽善的にハーベイ村を助けると言って、それを大義名分として相手を攻撃して物資を強奪したのではないかと」
「はあ、そうでしょうね」
それは妥当な判断だと俺は思った。
事実、俺もそのように装った部分もあるからだ。
「しかしよくよく調べるとそうではありませんでした。
もし仮にそういった集団であれば、金品や食料の強奪はともかく、鋳造鉄や銅塊まで持ち去るのは考えにくいです。
そんな物を盗賊集団や傭兵が使うとも思えないし、武器防具まで持ち去っているのですから、自分たちで武器を製造するのでもない限り、そんな物まで持ち去るとは考えられません。
売りさばくのにも面倒ですしね。
つまりこの集団は金品を持ち去ったのは別の目的があったと考える方が辻褄があいます。
おそらく金品を持ち去ったのは、むしろその真の目的を隠すための偽装だったのではないかと推察しました」
おおっ!中々鋭い!
俺が感心しているとグレゴールさんは話を続ける。
「それに金品が目的ならばどこかでそれを使うはずですからね。
しかし事件のあったハーベイ村やラーガン伯爵領近辺でそのような動きはありませんでした。
いえ、かなり我々が広範囲に調査してもそのような動きはありませんでした。
少々動きがあったのはラーガン伯爵領の宝物や武器防具などが、アドレイユ王国で売りさばかれた程度です。
後はせいぜい村人たちが町で工具や贅沢品を買った程度で、それ以外の動きは全くありません。
つまり犯人はせっかく自分たちが奪い取った大金を全く使わずにどこかへしまいこんでいるとしか考えられません。
これも考えにくい事です。
しかもそんな大仕事をすれば世間に派手に宣伝をしそうな物ですが、そんな動きも全くありません。
そうすると、この集団の真の目的は一体なんだったのか?
単に金品を強奪するのが目的だったとは思えません。
我々はそれをラーガン伯爵の力を弱体化し、動きを制限する事だったのではないかと考えたのです。
しかも極力領民には迷惑をかけずに、純粋に伯爵の力のみを削いでいるとしか思えません。
そうすれば辻褄が合いますからね」
「ははあ・・・」
確かにその通りだ。
グレゴールさんの説明は核心に迫ってきている。
「例えばラーガン伯爵家の宝物にしても投売りに近い形でした。
もちろん二束三文ではなく、それなりの金額で売りさばかれたのですが、やろうと思えばもっと高くも売りさばく事が出来たでしょうに、とりあえずそこそこの金額であれば良いという感じで売りさばき、むしろその事を宣伝しているかのような印象を受けました。
これは組合としてはラーガン家の宝物を売った事を派手に宣伝して、ラーガン伯爵家に買い戻させて、その事によってさらにラーガン伯爵家を困窮させようとしているのではないかと判断しました。
事実、ラーガン伯爵家はいくつかの家宝であった宝物を買い戻そうとして、購入者に数倍の金額を支払って買い戻しました。
この事によりラーガン伯爵領はますます衰退し、結局はラーガン伯爵は領主を罷免されるに至りました。
これを「雲の旅団」が最初から目的としていたとすれば、驚くべき事です。
もしそうとなれば、これは国単位の行動基準となります。
ですから「青き薔薇」は容疑者から外れたのです。
いくら副団長にエレノアさんがいると言っても、そこまで国家間の事を考えて積極的な行動をするとは思えませんでした。
何しろその時はシノブさんたちは学生でしたからね。
それにこれは伯爵領を相手にしたれっきとした戦争です。
まさか学生がそんな事をするはずもないでしょう。
そんな時間もないでしょうし」
そのグレゴールさんの説明に対して俺はのんびりと答える。
「はあ、あの時は夏休みだったので時間はありましたが・・・」
俺がそう言うとグレゴールさんは頭を抱えながら話す。
「学生が夏休みの片手間に一王国の伯爵領を相手に戦争ですか・・・」
「本当にこの方たちは行動の桁が外れすぎですわ。
私たちが考え違いをしたのも当然です。
想像の上の上を行き過ぎています」
アレクシアさんも途方にくれたように話す。
「全くだ!
そしてもしその考察が正しいとなれば、恐ろしい結果となります。
それは明らかにどこかの国がアドレイユ王国に対する戦いを仕掛ける前哨戦で、布石にしている可能性が高いからです。
我々はハーベイ村を橋頭堡として、獣人たちをその尖兵として送り込むつもりなのではないかと考えました」
もっともな話だ。
「しかしその考えは間違っていました。
なぜならば我々が調査中もハーベイ村の人々は何の野心も持たず、平和に暮らし、それどころか自分たちの家を改装するのに熱を上げるだけで、それが終わると美食に耽るだけでした。
とてもこれから戦争を考えているとは思えません。
それで1年ほど調査を続けた結果、我々はそれ以上の調査をあきらめて打ち切りました」
ここで話を聞いていたミルキィは少々うなだれた。
きっと、あのコロンコロンとした丸い村人たちを思い出したのだろう。
そう言えば、あれから村の人たちを見ていないが、まだあのままなのだろうか?
「一年近くに渡る調査の結果、我々はこの集団「雲の旅団」の目的が「平和」なのではないかとようやく気づきました。
事実、あの村の周辺は複数の国家の接する緩衝地帯で、かなり緊張があった場所だったのですが、この事件以来、各国や町がハーベイ村と平和協定を結んだ結果、ずいぶんと平穏になりました」
どうやら組合の調査結果も俺が考えた通りになったようなので、安心した。
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