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22.学園祭準備③



従者が押し開けた扉をくぐると、そこは見慣れた玄関ホールだ。古い木の香りが漂う。母の趣味であるシンプルだけれども品のいい調度類を背に並ぶのは、壮年の執事と数人のメイド。おかえりなさいませ、と寸分違わず重なる声に身体を向ける。


「友人のコレットよ。今日と明日、我が家に泊まるわ」


近づいてきた執事のハンスにそう告げ、一歩後ろを付いてきた友人を紹介する。かしこまりした、といつも通り頭を下げる身のこなしは洗練されていて、流石ベルストハイム家の執事というべきか。


「……珍しいわね、顔がにやけているのが隠せてないわ」

「ふふ、大変申し訳ございません。お嬢様が生まれる前から仕えていた爺としては、ご学友とお会いできてとても嬉しいのですよ」


代々ベルストハイム家に仕えるハンスは、お祖父様が現役の頃から執事として働いている。私が特殊能力に目覚めたときも近くにいた。誘拐事件があった時にはいつも整えられた白い手袋には爪が食い込み、眉間に深く皺が刻み込まれていた。


「お嬢様はお力故に、ご苦労もたくさんなされましたから」


良かったですね、と目尻を下げるハンスに、素直に肯定の返事を返す。後ろに並ぶ古株のメイドたちも似たような顔をしていて、心がじんわりと温かくなった。


「私は貴方達や家族に恵まれたから、それだけでも十分幸せだと思っているわ。……ニナ、客間に彼女を案内してちょうだい」


並んだから顔から、私つきのメイドを呼び寄せると、小柄なお下げ頭の少女がスカートをふわりとなびかせた。


「荷物を置いたら私の部屋まで連れてきて」

「かしこまりました、お嬢様」


客間へ向かうニナとコレットを見送って、自室へ向かうため、階段へ足をかける。歴史を感じさせる床板が、ギシリときしんで悲鳴をあげた。



◇ ◇ ◇



パチパチとコレットが算盤を弾きながら、こちらに視線を向けてくる。私の手元には、数多くの数字が並んだノートが。


「この値段だと売り上げ次第ですけど、私たちはただ働きになりそうですね」


1枚、1ゴールド。

コレットから平民の子たちに聞き込んでもらって決めた値段だ。おやつを少しだけ我慢すれば、お小遣いから捻出できる。いくら憧れの人の写真だろうと、そのくらいの価格帯でないと買わないだろうという判断だった。


「魔力を使わせるのだから、1日2時間のティアナさんの手伝いに対して、20ゴールドほど手当を渡しましょう」

「私たちは一旦タダ働き前提にしますね。学内の売り上げはある程度予測できそうですが、学外の方がどの程度興味を持ってくれるか掴めない……」


うーんとうなる声と、算盤を弾く音だけが室内に響く。


「学園祭に向けてのお写真は、ジルベール様おひとりですか?」

「最低限。目標は学生会活動の一環として認めさせるために、学生会役員のメンバー全員分用意したいわ」

「ああ、そうすると確かに女学生も入るし、人気の傾向も掴めそう。……肖像者の売上の取り分は多めの方がいいかなぁ」


隣から手を伸ばしてきたコレットが、私からペンを取り上げてさらさらとノートの数字を書き換える。


「学生会と肖像者への謝礼として、販売価格の4割は渡しましょう。残りの6割で経費とティアナさんへの謝礼をやりくりしたいです」

「その割合にしたのはお兄様以外を入れたから?」

「ええ、こちらからお願いする立場ですし、平民の役員もいます。単純にお金がもらえるならと協力してくれる方も増えるはずです」


たしかに彼女の言うとおり、貴族であればお金はあまり気にしないだろう。所詮まだ学園内での活動だ。売り上げはたかが知れてる。ただ、平民なら話は変わってくる。




ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

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