21.学園祭準備②
「今日が5月20日、学園祭が6月17日ですよ」
我が家に向かう馬車の向かいには、心底呆れた様子でこめかみを揉むコレット。頭痛の種になってるであろう事実に申し訳なさを感じつつ、良き友に出会えたことに感謝する。
侯爵令嬢として、生きてきて13年。大人どころか、貴族社会に生きる人間は子どもまで、貼り付けたような笑顔でこちらを窺ってくるような人たちばかりだ。
「出会ってもうすぐ二月ですが、貴女という人物は全く読めません。きちんと考えてはいるのに、思い切りが良すぎません?」
でも付いてきてくれるでしょう、と、長年染みついた笑顔で微笑めば、言葉を詰まらせこちらを睨んでくる。
「リリィはずるいわ」
「よく言われる」
「さすが、……ベルストハイム家の令嬢ね」
祖父や、父が、どう噂されてきたかは知っている。懐に入ったものに対しての情に厚く、家族や領民に対して愛を惜しまない。その愛の深さ故か、長年王国を支えてきた貴族らしく、敵対すれば冷徹無慈悲で一切の容赦は与えられない。慕えば庇護を、少しでも敵意を向けたら完膚なきまで叩きのめされる。
私やお兄様も、同じ血を引いている。
身内に甘く、他人には一切の隙を見せない兄もいずれ同じように言われることになるだろう。おそらく私も。
「ベルストハイムは、王国設立から続く古い家だから、幼い頃から権力によって来る人間ばかり見るのよ。だから、信用できる人間は自然と分かるようになるし、自分のもとにいる限り信頼したいの。恐らく、お父様もお祖父様も同じ気持ちでしょうね」
少しだけ同情的な表情を浮かべたコレットに対して、不幸なことばかりじゃないから、心配しないでね、と声をかける。貴族というのは重い責任がある立場だが、領地の住民に慕われ、感謝されれば、一入嬉しいものなのだ。
「コレットは、自分の力で勝負する人だから好きよ。それに貴女の家は、誰に対してもとても誠実だわ。信用できる」
「きちんと私のことを調べたんですね」
隠れて彼女のことを探ったことに少しだけ後ろめたさを感じて、そう言葉を選べば、賢い彼女は正しくその意味を受け取った。コレット本人に家のことを尋ねたことは一切ない。そして、彼女が入学初日に私に縁を求めてきたように、家同士の繋がりもない。そんな彼女の家の評価を噂ではなく把握するためには、私が彼女の家を調べるしかない。
「安心しました」
「気分を悪くするかと思ったのだけれど」
陰で自分のことを調べられれば、なぜ信用してくれないのかと気分を害したりするものだ。政治的な立場にいない貴族社会の女性は特に。
「貴女の家柄を考えたら、身辺を探るのは当然でしょう。好き嫌いだけで、人を信用できないもの。リリィがただのお人好しじゃなくて、ほっとしました」
「……私にそんなこと言ってくれるのは、貴女くらいよ」
思わずベルストハイム家の仮面が外れて、笑みが溢れる。コレットは、『お褒めに預かり光栄ですわ、リリアーヌ様』と貴族令嬢のお手本のようにトレードマークの赤毛を揺らした。いつもは貴族らしくない彼女の軽口に、2人で顔を見合わせて笑った。
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