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23.学園祭準備④




「いい考えね。最初は利益より広めることを優先させるべきだと思う」

「……売れ行き次第では赤字になるわよ」

「最初に投資は必要でしょう。私の財布から出すわ」


さらさらとコレットの右手が売上を計算していく。どの程度売れるか全く予測がつかない以上、利益が出ないことも視野に入れておかなければ。


「4割渡すつもりではいますが、貴族籍の役員との取り分は個別に交渉しましょう。来期や将来に向けて顔を売りたいメンバーもいるはずなのですし、取り分自体に拘らない方も多いはず」


コレットは自分の手帳を開いて、今年度の学生会役をノートに写していく。いくら身分差がないことを謳っているとはいえ、割合としては明らかに貴族籍の人間の方が多い。目の前の彼女は、抜け目なく利益を上げる術を考えている。


「いいわね、頼りになるわ。さすがコレット」

「褒めてもこれ以上働かないわよ」


売上の試算を相棒に任せ、新しくペンを取り出し学園祭の出店申し込み用紙の要項を埋めていく。この様子なら添付する書類は彼女に任せてしまって問題ないだろう。


「写真自体を宣材に使いたいから、写真の端に商会の名前を入れようと思うの」

「名前はもう決まりました? 決まっていれば、ロゴを特急で知り合いのデザイナーに頼みますけど」

「まだ思いついてないのよねぇ、なにがいいかしら」


書類に走らせるペンを緩ませることなく、雑談のように、これから始めるビジネスの名前を決めようとしている。名前自体には対してこだわりはない。家から独立するつもりだから、家名は使わずに行こうと思っているくらいだ。


「貴女の商会なのだから、貴女の名前にしたらどう?」

「リリアーヌ?」

「リリィでもいいかも?」

「ああ……それなら、『リリア』にしようかしら」


アルノルト様だけが唯一、私をそう呼ぶように。

彼のために私が唯一できることを、やるための第一歩だ。


「リリア……いい響きね。デザイン頼んでおくわ」


赤毛の友人が笑顔で肯定してくれたのを見て、あらかた埋め終わった申し込み用紙の右上に、『リリア』と団体名を記載する。少しの不安と、少しのドキドキ。


「さて、お兄さまのところに直談判に行きましょう」



◇ ◇ ◇



「なるほどな。……これが、リリィが考える独立への一歩か」


提出した書類を、苦虫を潰したような顔をしながら捲っていく。少しだけ隣に立つコレットが緊張しているのが伝わってくる。一般的に見て見目が麗しいお兄さまだからか、負の感情が顔に浮かぶと一層近寄り難くなる。


「個人的には、却下したいが」

「お兄様が、学園祭やお兄様自身にメリットのある案を潰すとは思ってませんので」


心底嫌そうな声と表情とは、裏腹にページを捲る手のスピードは落ちない。目線を書類から離さないまま、お兄様がコレットへと話しかけた。


「迷惑をかけてすまないね、ハイネン男爵令嬢。リリアーヌは無茶ばかり言うだろう」

「いえ、……いや、確かに無茶は言われておりますね」


反射で否定の言葉を出しかけたタイミングで、私と目が合って赤毛の相棒まで苦虫を潰したような顔をした。そのまま、素直にお兄様の言葉を肯定した彼女の言葉に、先ほどまで書類しか見ていなかったお兄様が少しだけ驚いたように顔を上げる。


「あら、コレット。そんな顔をしたら可愛いお顔が勿体無いわ」

「……貴女がさせているのよ」

「妹が迷惑をかけていることが十分伝わって来た。無理をしない程度に仲良くしてやってくれ」


父には伝えておくからベヒトルスハイム家宛に商談を持って来なさい、と書類に目を通し終わってサインを書きながらコレットに話しかけた。迷惑料のつもりだろう。


そのとき、お兄様の部屋にノックの音が響いた。



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